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第31話 パシリA

いつも誤字報告ありがとうございます。


 

 幼稚園の一日が終わった。

 あとは送迎バスの時間になるまで、一時間くらい自由時間ができる。

 俺は、その時間を利用してトイレの個室に入り、転移した。


 ひみつ基地に戻ってみると、包帯を身体中ぐるぐる巻きにされた俊介が草の上で横たわっていた。

 一応、メタンゴなりの気遣いである。


 俊介を小屋へ運んで、治癒魔法を掛ける。

 疲労は回復しないので、すぐ目覚めるわけではない。

 だが、バスの時間までには起きてほしいものだ。


 あぁ、ついでにこの無防備な背中に手を触れて別の魔法も掛けておくことにした。



 俊介を寝かせたのは、窓や家具がなく倉庫になっている部屋だ。

 倉庫といっても、まだほとんど何も置いてないけど。

 犬小屋でも十分なぐらいだが、生憎そんなものはないので、仕方なくこの部屋に寝かせたのだ。


 ちなみに、この小屋(家?)の内部は空間拡張しており、外観はちょっと大きな小屋だが、中は自宅のマンションよりも広い造りになっている。

 マジックハウスってやつだな。



「なんとなくそろそろ起きそうだが暇だな。よし、メタンゴの耐久テストでもすっかな、漫画読みながら」


 俺は適当に漫画を見繕い、メタルゴーレムに対して様々な遠距離攻撃魔法を繰り出した。

 威力を上げたり下げたりして、どこまで耐えられるかのテストである。

 時には、魔法速度を速くしてメタンゴの反応速度を見たり、逆に遅くして内に秘めている威力に気付いて回避できるか等の実験も並行して行っていた。

 だが、少ししたら漫画が面白くなってきたので、途中からメタンゴ苛めみたいになっていたのはご愛嬌だ。

 一応自己治癒能力もあるので大丈夫なはずである。


 そうして漫画を読み進めながら、魔法を次々に放っていると俊介が起きたのを感じた。

 それから、十分以上も経ってようやく外へ出てきた。


「…………………」


 ぽかんとしたマヌケ面を晒している俊介をこのまま無視してどういう行動に出るのか伺うというのも面白くはあるが、時間に余裕があるわけではないので、発動中の魔法を中断した。

 それから、漫画と木製の椅子を亜空間収納に仕舞うと、俊介に近付いていく。


「やっと起きたか、俊介」

「───っ!」


 俊介と呼び捨てにされたことに腹を立てたのか、かなりの形相で睨んできた。

 しかし、口に出してはこない。

 少しは自分の置かれている状況を察しているのだろう。


「まずは……そうだな。お座りでもしてもらおうか、犬のように」

「………何を言ってるんだ?」


 心底バカにしたような顔で問いかけてきた。

 なるほど。一度では足りない、と。


 俺は無言で俊介に歩み寄り、無造作にローキックをかました。

 相手の警戒を無にするナチュラルな“歩行“だった。


「あぐぅわあああぁぁぁぁぁぉぉぉぉぉ」


 ゴキッという鈍く鋭い音がして、俊介は左足を押さえて絶叫した。

 まずは、左足の粉砕骨折。


 さらに、ローキックを繰り出す。

 左足を押さえていた右手を指先の方向から鋭く蹴りつけた。


 ゴキバギッと嫌な音が立て続けに鳴る。

 当然指が数本折れ曲がり、再び絶叫を上げる俊介。

 涙や鼻水を垂れ流して嗚咽を漏らし、顔は写真加工したかのように蒼白になっていた。


「あ゛あ゛あ゛………ごべんだざぁいぃ、ゆうじでえぇ」


「お座りだ」


 激痛を堪えた歪んだ顔をぐしゃぐしゃにしながら、犬のお座りの体勢を取った。

 普段の仕事ができるオーラを醸し出している俊介、(朱美)を前にしたときの愉悦に満ちた俊介、悪巧みをしているときの不敵に笑う俊介。

 それらの面影は最早無かった。

 あるのは、必死に許しを乞う犬である。


「………キモかったわ。やめていいよ」


 俺は興味を失い、手をヒラヒラさせる。

 これだけ見れば、どっちがクズだかわからなくなってきた。



「あっ、なんかヤバいっ」


 俺が呑気に構えている間に、俊介は限界突破したのか白目になり痙攣していた。

 また意識を失くしたら起きるまで待たなければいけない。

 それはさすがに面倒だった。

 もう十分恐怖を植え付けたはずだから、俺は治癒魔法を唱える。


「ミドルヒール」


 鮮やかな緑色の優しい光に包まれた俊介の傷が、一瞬で回復する。

 反対方向に折れ曲がっていた指も、膨らんで骨が突き出ていた左足も元通りになった。


「あ、あぁぁ」


 身体が完全に治っても、俊介は未だに号泣していた。

 少しやりすぎたかな?


「俊介。とりあえず、風呂入って飯を食え。その小屋には大抵揃ってるから好きに使って構わない」

「……………」

「俺は幼稚園に戻るから。時間があればまた来る」

「……わかりました」


 もう完全に弱りきっているようで、しおらしく返事をすると、ゆっくりとした足取りで小屋へ向かっていく。

 なんだか魂でも抜けたような覚束ない足取りであった。


 俊介が小屋の中へと消えたのを見届けたあと、俺は幼稚園のトイレに戻った。


 え?メタルゴーレム?

 自己治癒に専念してほしいね。













 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~



 そして、暇な時に俊介で遊びながら、五日程経過したその日───



「お前は今日からパシリAだ。これからは、俺の密命を受けて動くことになる。いいな?」

「はい」


 ふかふかのソファに腰掛けて偉そうに言う俺の前には、突っ立ったまま頭を垂れている俊介がいる。


 この一帯からはどう足掻いても出られず、またそういう動きをすればメタンゴからの手痛い折檻が待っている。

 そして、俺に生意気な態度を取れば、また地獄のような”破壊&治癒”をされるのだ。

 俊介の心は、もうポッキリ折れていた。

 今は逆らうなどとおこがましいことは微塵も思ってはいなかった。


「じゃあ、質問だ。今度、朱美に会ったらどうする?」

「土下座してあやま──ガダンッ!」


 ふざけたことをのたまう俊介を蹴り飛ばす。

 後ろの本棚に激突して、漫画本がいくつも落下した。


「夢に置き換わってるって言ったろうがっ!心の中で謝んだよっ」


「いてて」と頭を擦りながら立ち上がった俊介は、深く頭を下げて謝罪してくる。

 わかればいい。だが………。


「漫画。綺麗に本棚に戻せ」

「はいっ」



 俊介が漫画を仕舞い終えたのを待って、早速密命を出す。


「じゃあ、おまえの愛称はこれから”エース”だ。なんか格好良くなっちゃったな。まぁ、いっか。エース、最初の仕事だ。ここに行ってきてくれ」


 俺は、とある場所ととある人物の名前を書いた紙を手渡す。


 そこには、こう書いてある。


 ────────────────

  あずき霊園

        阿田川 恵子・陸

 ────────────────


「これは?」

「俺の知り合いだ。随分と長いこと墓参りに行けてないから、代わりに行ってきてほしいんだ」

「若が行けばいいのでは?」


 どこの極道かと思うが、俊介もといエースは俺のことを”若”と呼ぶ。

 まぁそんなに嫌じゃないので許可したが。


 そして、お気付きかもしれないが(誰が?)、阿田川恵子というのは、前々世のお母さんの名前であり、陸とは俺の名前だった。

 死んだからわからないが、たぶん同じ墓に埋葬されてると思う。

 自分の墓参りというのも中々意味不明だ。



 今まで忘れていたわけではないが、行く機会が全く無かった。

 そうして転がり込んできたパシリA。

 途中までガチで殺そうと思っていた相手だ。

 しっかりここは有効活用しないとな。


「俺には幼稚園がある。もう少し成長して自由になったら自分で行くさ」

「なるほど」

「お前は無職だろ?俺の代わりに墓参りを頼む。もちろん、お花いっぱい買って生けろよ」

「わかりました。でも、全く知らない人の墓参りに行くというのもあれなので、もしよければこの方々がどんな人なのか教えてもらえませんか?」


 俺は俊介の敬った丁寧口調を聞いていて、人間変われば変わるもんだなと思っていた。

 以前の嘘仮面のような不自然さが無いのだ。

 脅しもしっかり掛けておいたし、これにて俊介の更正計画は終了した。



 ちなみに、聞かれたのならば仕方ないとばかりに、俺は前々世のお母さんについて熱く語った。

 それはもう、丸くなった俊介が辟易するほどに。



 ………誰かさんの血を色濃く受け継いでいるのかもしれなかった。ややこしいことに、産まれは阿田川陸の方が先だが。




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― 新着の感想 ―
[一言] こういう展開はあまり好きじゃないので読むのやめます
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