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第30話 一方、その頃……

 

 祐也が消えた後の“ひみつ基地“は、静寂に包まれていた。

 祐也作のメタルゴーレムには会話機能など無く、対して俊介は自身の常識を打ち砕く不可思議な出来事の連続に、ただ呆然としている。


 しかし、それも数分のこと。


 段々と脳ミソが回転してきた俊介は、少しでも刺激を与えないようにと、ゆっくり後退しながらこの場を去ろうと行動を始めた。

 それでも、メタルゴーレムの方は微動だにしない。


 これだけ見れば、かなり大きな彫刻である。

 祐也がいなくなってから全く動きを見せないが、俊介が楽観視することはない。

 むしろ、その不気味さが俊介の足を鈍らせていた。



 そうして、ゆっくり進むこと数分。

 段々メタルゴーレムの姿が小さくなり、百メートルは離れた辺りで、鬱蒼と茂る木々と開けた草原の境目にたどり着いた。

 ここからは、乱立する木々を隠れ蓑にして走り抜ければいい。

 中々深そうな森林なので遭難するというリスクはあるが、この場に留まり続けるよりかは遥かにマシだと俊介は判断した。


 横目で木々を捉えた俊介は、その場で素早く反転しようとして、背中が何かにぶつかった。

 腕もその何かにぶつかってそれ以上後ろには回せず、反転できなかった。

 まるで後ろには壁でもあるかのようだったが、一歩戻って振り向いてもそこには何もない。


「?」


 訝しみながら、そっと右手を前に伸ばすと、トンと何かに触れてそれ以上先に進めなかった。


「………見えない壁?ははは、ほんとにどうなってんだよ、いったい」


 俊介は、自嘲染みた言葉と共に乾いた笑いを浮かべた。

 それを合図にしたのか、いや、ただ単にタイミングが合っただけだろう。

 メタルゴーレムの両目が赤く光出し、ドスンドスンと地響きを立てて歩き出したのである。


「ふっざけんなっ」


 強引に進もうと目一杯力を入れても、その見えない壁から先へ進むことができない。

 そこで、俊介は拳銃を前方へ向けて引き金を引いた。


 ドンドンッ!!


 しかし、拳銃から発射された銃弾は、そこにあるはずの見えない壁を通り抜けて、木々の間の闇へと消えた。

 そこに障害物など存在しなかったのである。


「どうなってんだよっ!」


 声を荒げ、再度銃を構えたその瞬間、俊介のいる場所に巨大な影が差す。

 ロボットのように、ギギギと効果音が付きそうな緩慢な動きで振り返ると、いつの間にか目前にメタルゴーレムが佇んでいた。


「…………………」

「…………………」

「………く、来るなっ!」


 ドンドンドンドンドンッ!!──カチッカチッ。


 無我夢中で全弾をメタルゴーレムに向けて撃ち込んだ。

 しかし、当然のように全てを弾き、無傷な白銅色の輝くボディを晒している。

 無傷だが、それで怒った様子のメタルゴーレムは、右腕を振り上げ真下に落とした。


 それだけで、途轍もない衝撃が俊介の足を襲い、尻餅をついてしまう。

 顔を上げた俊介の目に飛び込んできたのは、数メートルに渡って陥没している目の前の地面だった。

 もし自分に直撃していたら即死は免れないアホみたいな威力に、完全に言葉を失う俊介。


 そして、メタルゴーレムが再度腕を振り上げた時、俊介に出来ることはひとつしかなかった。

 それは、“諦観“。

 目の前の怪物相手に、如何なる抵抗も無意味だと悟った俊介は、黙って死を受け入れようとした。

 しかし、メタルゴーレムの腕が振り下ろされる直前、俊介はその場で土下座を敢行した。

 咄嗟に、少しでも生き残る確率の高い行動を実行したのである。

 そしてそれは、正解だった。


 人間の最上級の降伏の動きだと教えられているメタルゴーレムは、俊介の頭上数センチの所で巨大な腕を停止させたのである。


「助かった………のか?」


 少しだけ安堵してゆっくり顔を上げた俊介の目前には、メタルゴーレムの手があった。

 器用に中指だけ折り曲げて親指の平に置いている。

 “デコピン“

 俊介の脳がその単語を思い浮かべたときには既に、宙を舞い後方に吹き飛んでいた。



「───がはッッ!!」


 見えない壁に背中から、物凄い勢いで叩き付けられた俊介は、思いっきり血反吐を吐いてズルズルと地面に座り込む。

 脳が正常に思考できず、視界はグラグラして定まらない。

 そして、身体の力が一切入らなかった。


(俺は………死ぬのか…………)


 まさに、虫の息である。

 今まで好き勝手に生きてきて、その溜まったツケが精算されようとしている。


「あけ………み。綺麗だっ、た、な」


 朱美の姿を幻視したのを最後に、意識を失った。














 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


 ──どかん、ぎぃん、ずがん、どごんっ!!


「んぅ………」


 鼓膜に直接響いてくるような爆音の連続に、俊介は目を覚ました。

 酷い頭痛がして、とりあえず上半身を起こす。


「ん?ここは……俺はいったい何を………」


 見知らぬ部屋で窓などもないので、必死に記憶を呼び起こす。

 そして、思い出した。

 自分が死にそうになっていたということを。


「──っ!身体が動く、あのときの激痛が引いてる……夢、だったのか?いや、それは願望だな。これが何よりの証拠だよな」


 木材で出来ているこの壁は、自分が連れてこられたときに見た中央に建つ小さな家に酷似していた。

 そして何より、さっきから思考を邪魔するこの爆音。


 ──ぼんっ、がどん、ずどん、どこぉんッ!!



 精神的な頭痛以外は何ともなくなっていることが奇妙だが、ここで寝たふりをしているわけにもいかない。

 俊介はある程度の覚悟をして、ドアを開けた。


「……………は?」


 そこで俊介が見たものは、それはそれは大きな吹き抜けのホールだった。

 中央には螺旋階段があり二階へと続いている。

 部屋数も両手の指で数えなければならないほどあった。

 外から見たあの家のサイズと一致しない。


「ここは、違う場所なのか?もうわけがわからん………」


 悉く頭を混乱させながら、俊介はようやく外へ出た。

 その瞬間、俊介の目の前を何かが通りすぎた。

 直後、また爆音が轟く。


 それを視線で追うと、そこにはあの怪物、メタルゴーレムが佇んでいた。

 また何かが通りすぎ、メタルゴーレムの腹に直撃する。

 轟く爆音、傷だらけのゴーレム。


 そして、何気なく反対側に視線を向けた俊介は、何が目の前を通りすぎていたのかが分かった。


 自分の教え子だった意味不明な子供──白井祐也が、数十メートル先で椅子に腰掛けながら漫画を読んでいる。

 彼の頭上に浮かんでいるのは、いくつもの火の玉。

 それが高速で飛来し、俊介の目の前を通りすぎてメタルゴーレムに直撃していたのだ。

 そしてまた轟く爆音、傷が増えるメタルゴーレム。


「…………………」


 俊介はぽかんと突っ立ってることしかできなかった。

 目の前を通過する火の玉が何度か前髪をかすり、軽く焦げていた。





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