第3話 入園式
おまたせしました。
超不定期ですが、よろしくお願いします。
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「ゆうや。今日から幼稚園よ。起きてー」
朱美の優しい声を目覚ましに、俺は目を覚ました。
そっか。今日は入園式か。
じゃあ、支度もあるし起きるかね。
俺はいそいそと布団から抜け出すと、寝室を出た。
「ママ、おはよう」
俺は眠い目を擦りながら、キッチンにいる朱美に声をかける。
「おはよう、ゆうや。今、朝ごはんできるから顔洗ってきて」
「うん!」
俺は洗面台でバシャバシャと顔を洗い、最近伸びてきた前髪を上手く切る。
「よし!良い感じだ。この顔は、将来まぁまぁだな」
リビングに戻ると、食卓には朝食が並んでいた。
とろとろチーズの乗った食パンに、ベーコン入りの目玉焼き。
それから、野菜スープに牛乳。
うん。やっぱ日本の朝食は良い。
「あら。また勝手に髪切ったの?危ないからひとりでやんないでって言ったよね?」
「ごめんなさい。次からはちゃんと言うね」
ここはしょんぼりしながらしおらしく謝るのが正解だ。
なぜなら……。
「約束よ。怪我でもしたらママびっくりしちゃうからね」
そう言いながら、朱美は俺を抱き締めてくる。
頬擦りして、しまいには俺の頬にキスをしてくる。
朱美の親バカモード発動である。
素直にしてれば簡単に発動するので、ご機嫌とりはお手のものだ。
「さっ。冷めないうちに食べましょ」
ふたりで朝食を食べた後、寝室に戻った俺は、着替えようとして、ハンガーに掛かっている制服を見つける。
あ、そっか。これ着るのか。
今の幼稚園の制服ってこんなに可愛いのかよ。
ちょっと着るのが恥ずかしい……。
「あら?ゆうや、どうしたの?うふふ、そうよね。まだ甘えん坊さんよね」
「え?」
朱美がやって来てそう言うや否や、強引に制服を着させてくる。
「ちょっと、ママ。自分でできるよ」
「なに恥ずかしがってんのよ。はい、バンザイ!」
くっ。し、仕方ない。
子供になりきるって決めたからな。
あの名探偵のように。
「ただいまー。ふぅ、なんとか間に合ったか」
支度を終えて待っていると、ようやく恭介が帰宅した。
恭介は大手IT企業に勤めており、残業で朝帰りしたのだ。
その為かどうかはわからないけど、今は庭やプールまで完備している超高級マンションで家族3人暮らしている。
そのうち、広い一軒家を建てると聞いたことがあるし、まだ20代のはずなのに稼ぎが良いんだろうな。
第一印象アホそうだったのに、人は見かけによらない。
「おかえりなさい、あなた」
「パパ、おかえりー」
「おう、祐也。制服着てると可愛さ二倍増しだな」
そう言って、恭介は俺を抱き上げ、頬擦りしてくる。
子供の演技にもすっかり慣れた俺は、転生直後のような嫌悪感はない。
いや、演技というかもう素になりつつあるかもしれないが。
「さぁ、あなた。すぐ出るから支度して」
「お、おう。祐也の晴れ舞台だからな。パパ、気合い入れるぞ」
そう言って、鼻息荒く自分の部屋へ行く我が父。
まぁ、なんだ。
お察しの通り、親バカがすぎる両親だ。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
大きな講堂に入ると、そこにはたくさんの椅子が並べられ、100人近くの子供たちが座っていた。
騒がしく話しているヤツや、オロオロしているヤツ。
大泣きしているヤツや、意味不明な行動をとっているヤツと様々だった。
この光景を見た瞬間、俺の額を冷や汗が流れた気がした。
やべぇ。幼児って、こんなにめちゃくちゃなのか!?
「こりゃ、周りに合わせた方がいいな」
少し焦った俺は、斜め前に座っているヤツの真似をして、無邪気な笑顔で、足をブルンブルン振って楽しそうにする。
これが幼児か。
まったくもって勉強不足だったぜ。
一方、その頃。
後方の席に座った祐也の両親は──。
「ほら言ったじゃない。やっぱり、ゆうやは天才なのよ」
「た、たしかに。祐也は、ハイハイするようになってから泣かなくなったし、よく3歳児だと忘れるくらいスムーズに会話してるときあるな」
そう言いつつ、恭介は前にいる親子に視線を向けた。
「ママ。こりぇ、かわい!」
「あら、可愛いバラね」
「バリャ?お花さんりゃよー!」
「バ・ラ。っていうお花さんよ」
「バリャ!」
………。
恭介はその親子の会話を聞いていて、少なからず衝撃を受けた。
そう言えば俺、祐也に言葉教えたことあったっけか?。
仕事で忙しくしていたとはいえ、それなりに家族の時間も大切にしてきた。
それでも、あの親子のような微笑ましいやり取りしたことあったっけ?
祐也はいつの間にか、普通に話せるようになっていた?
「あ、朱美。やっぱり、あいつは天才かも?」
「なんで疑問系よ。絶対天才よ。だってあの子、この間食い入るように2時間ドラマ見てたのよ」
「まじか……」
親バカとは、往々にして子供の才能を簡単に信じるものだ。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「新入園児の皆さん、本日はご入園おめでとうございます。お天気も、暖かな陽気に包まれ、皆さんを祝福してくれていることでしょう。今日から皆さんは、この"わかば幼稚園"で新しい生活が始まります。幼稚園には同い年のお友達がたくさんいます。そして、皆さんを優しく丁寧に教えてくれる先生たちが───」
優しそうなおじさんの園長先生が挨拶を話出した。
あれだけ騒がしかった子供たちが、今はしっかり椅子に座って大人しく聞いている。
さすが幼稚園の先生。プロだな。
俺がひとり先生たちに感心していると、いつの間にか園長先生の挨拶が終わった。
園長先生の挨拶ってこんなにすぐ終わるのか。
中学や高校の校長も見習ったらどうだし。
「うぇーーーーん、ぅえーーーーん」
園長先生が壇上から降りると、突然泣き出す子供が。
それも、俺の隣だ。
だー、うるさーい!鼓膜が破けるわ!
俺は耳を押さえながら、隣の子供にスキルを発動する。
カーミング!
すると、徐々に泣き止み、花が咲いたように笑顔になった。
これは、心を癒して落ち着かせることのできるスキルだ。
自分には使ったことないけど、結構冷静になれるらしい。
そして、寄ってきた先生は何もしていないのに急に笑顔になった子供を見て不思議そうにしている。
俺は先生にもなれるかもな。ならんけど。