第19話 恭介の実家
初めてのランキング掲載で、あれよあれよという間になぜか日間ローファンタジー8位に食い込んでいました。
だいぶびっくりしていますが、多くの方に読んでもらい嬉しいです。
どうもありがとうございます。
※タイトル及び第1話を微修正しました
幼稚園が夏休みに入った。
泉はお勉強や習い事で忙しいらしく、遊ぶことは叶わなかった。
別れ際、物凄く寂しそうな目を向けられたのを覚えている。
あのケバい母親じゃ泉も大変そうだ。
俺の母親が朱美で良かったと思いながらも、明日の支度を続ける。
「どうだ?支度できたか?」
少なからずご機嫌な様子の恭介が寝室に入ってきて、そう声を掛けてくる。
恭介の実家へ明日から何日か泊まりで行くので、洋服や必需品をバックに詰めているところだった。
「うん。後は、歯ブラシとかかな」
「そうか。向こうも暑いからな。これ、パパおすすめの冷却タオルだ。水に濡らすとかなり冷たいのが続くんだ」
「わぁ。ありがとう」
魔法で周囲の温度を変えることぐらいは造作もないが、恭介がドヤ顔で渡してくるので素直に受け取った。
人と一緒にいる場合はあまり魔法を使いたくないので、まぁ普通に嬉しくはあるのだが。
「新潟までは結構掛かるからな。今日は早く寝るためにも、もうお夕飯を作ったみたいだ。今日は祐也の好物、オムライスだ」
「やったー」
俺は恭介を押し退け、リビングに向かった。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
翌日、日の出と同じに起床して車の後部座席に乗った。
隣には朱美が座り、そのお腹が少しだけ膨らんできている。
出産してからでは何かと忙しいだろうとのことで、今のタイミングで行くことにしたのだ。
恭介が運転席に座り、出発した。
都会からどんどん田舎に入っていき、途中で休憩を挟みつつ昼頃に到着した。
恭介の実家は、緑色の綺麗な山々に囲まれた自然の中にあった。
山間部には大きな川が流れており、それを下流に数km進んでいくと海に行きつくという。
「海か……」
「そういえば、祐也はまだ海に行ったことはなかったか。数日いる予定だから行ってみるか?大きな海水浴場もあるしな」
「うん!」
俺はそんなことよりも、魔法訓練に最適な環境だと思っていた。
山に囲まれた深い森林があり、近くには海がある。
これなら、それなりに好き放題できる。
俺はそれをひとつの楽しみにして、恭介に続いて一軒の家屋に入っていく。
もろ田舎に建っている民家だが、ボロいとかいうわけではなく、それなりに綺麗な一軒家だった。
聞けば、恭介が知り合いの建築屋さんに頼んで格安でリフォームしてもらったらしい。
周りの民家よりも綺麗なのは、恭介の親孝行の賜物というわけだ。
「おーい。帰ったぞー」
ドアを開けて開口一番、恭介が呼び掛ける。
すると、奥から恭介の両親と思われる老夫婦が現れる。
腰がほぼ直角に曲がっている畑仕事でもやっていそうなお婆さんと元気そうな………。
「祐也。おじいちゃんの兄、つまり祐也の大伯父さんとその奥さんだ。よくこの家で近所の人たちと井戸端会議をしてるんだ」
お前の両親じゃねんかい!!
じゃあ、特徴なんぞ上げないでいいわ、まったく。
「あきゃあ~。いとしげなこらの。あけみちゃんの子供らのも納得んろ」
「よう来たねぇ」
バリバリ方言だが、なんとか通じるレベルだ。
俺は軽くペコリと会釈しておく。
「祐也です。初めまして」
「………あれ?」
俺の子供らしい挨拶に、恭介が首を傾げた。
なんか変なこと言っただろうか。
「……祐也。大伯父さんでわかるのか?」
「ん?祖父母の兄に当たるから大伯父でしょ?」
「…………じゃあ、井戸端会議は?」
さすがに、これで恭介が何に違和感を抱いているのかがわかった。
つまり、子供にしては難しく聞き慣れないであろう言葉を、俺が知っているから訝しんでいるのだろう。
単に父親として言葉を教えたいだけな気もするが。
「バタバタ会議?」
あえて、すっとぼけてみる。
すると背後から、クスッと朱美の笑い声が聞こえた。
それはどういう意味の吹き出し笑いなのか。
「井戸端会議というのはな───」
誇らしげに説明を始める恭介を横目に、大伯父さんに案内される形で中に入っていく。
畳が敷かれている大きな部屋の中央には、堀り炬燵用の穴が開いていて、その上に長方形のまぁまぁ長いローテーブルが置いてあった。
もちろん炬燵布団は掛かっておらず、周りにいくつか座布団が置いてあるだけだ。
その堀り炬燵の奥に、座椅子に座っているおばさんがいた。
たぶん五、六十代だと思うが妙に若々しい気がする。
「儂の弟の妻である伊代だら。腰が悪うてのぉ、堪忍なぁ」
「大丈夫だよ。気にしないから」
大伯父さんから説明を受けて、この人が恭介のお母さんということがわかった。
やはり、そこまで年は行っていなかった。
「お婆ちゃん。祐也だよ」
「お婆ちゃんですっ、ふふ」
なんだか笑い方というか、雰囲気が朱美に似ているような気がした。
そんなわけで、俺が少しジロジロ見過ぎていたのだろう。
お婆ちゃんは、穏やかに笑いながら口を開いた。
「恭介はマザコンだったからねぇ。お婆ちゃんと朱美さんが似ているのは必然なのよぉ」
「お袋ッ!」
恭介が慌てた様子でお婆ちゃんの言葉を止めに入るが、もう遅い。
マザコンだったと暴露した後なのだから。
「………祐也。マザコンなんて知らないよな?」
「マザーコンプレックスの略でしょ?ボク、全然知らないから大丈夫だよ」
「ぐうっ……」
なぜか手を胸に押さえて膝をつく恭介。
なにやら心的ダメージを追った模様である。
それに深くは突っ込まずにスルーして、お婆ちゃんと朱美の仲良さげな会話に入る。
「お婆ちゃん。お爺ちゃんはいないの?」
「お爺ちゃんは山へ柴刈りに行ってるわよぉ」
なんだか、どっかの童話で聞いたようなことを言っているお婆ちゃん。
ギャグなのかガチなのかどっちだこれは……。
「朱美さん。ゆうちゃんは賢いわねぇ。今ので“桃太郎“を連想してるみたいよ?」
「……ですね。祐也は本当に手が掛からないんですよ」
俺の今の瞬巡を見抜かれたのか?
しかもさらっとあだ名で呼ばれたな。
恭介のお母さんというより、朱美のお母さんとしてならしっくり来るなぁと思いつつも、お爺ちゃんは本当に山で柴刈りをしているのかと、割りとどうでも良いことを考えていた。