第18話 雅の悩み相談[後編]
「えっ!?な、悩みって?」
彼女にとって痛いところを突かれたのか、雅の目が急にキョロキョロし出した。
図星の反応である。
「惚けるの下手だな。ドアを開けた瞬間の雅の表情の変化ときたら、恋人に一方的に別れを告げられた時と恋しくて忘れられない相手から復縁を申し込まれた時ぐらいの差があったぞ」
「例えが子供の発想を凌駕してるんだけど!?」
ふむ。さすがはアイドルと言えど芸能人。
ツッコミのキレが良い。
まぁ、それは置いといて。
「じゃあ、俺の勘違い?」
「いや、えっと……」
「まぁ、別に言わなくてもいいけどな。ただ、癒しを求めてそんなにくっつかれると暑苦しいから解決して欲しいってだけで」
「ご、ごめん」
なぜか俺の手を握っている雅は、途端に俯いた。
そんなに言いにくいことなのだろうかと思っていると、彼女はその重い口を開いた。
「実は私、女優になりたいの」
「……………ん?」
「女優になりたいの」
「いや聞こえてるから。女優だったらなればいいんじゃないか?ていうか、あれだけバラエティー番組にも出てたらそっちからも声が掛かってそうだけど」
「もちろんあったわ。去年、連ドラでヒロインの親友役に抜擢されたの」
「へぇー、それは凄いな。じゃあ、もう女優の卵ってことじゃないのか?」
なんとも妙な悩みだと俺が思っていると。
「それからは、一切演技のオファーはないの。どうしてだと思う?」
そこで質問タイムになるのか。
どうしてと聞かれてもな。
何かの陰謀でも働いていたのか?
事務所の圧力とかか?
「私、演技の才能ないみたいなの」
「……………」
それは、うん。御愁傷様としか言えないな。
普通に解決できるような悩みではなかった。
「1クールやっても、あまり上達しなかった。最後の方なんか監督の諦観の感情が透けて見えてたわ!こんなのって………私は女優になるために事務所に入ったのに、才能があったのはアイドルの方だったなんてっ」
雅の目にはうっすらと涙が溜まっている。
女優になる夢……か。
それを懐いて本当に叶えられる人間はほんの一握りだろう。
本来なら、一回メインキャストとして出れただけで幸せだと思うことなんだろうが、ここまで来たらそう割り切れないものでもあるんだろうな。
「雅は、努力を続けているのか?演技のレッスンでもなんでも」
「もちろん。でも、今年入ってきたばかりの子にも追い抜かれて……」
それは確かに才能がないってことなんだろう。
雅は肩が触れるほどに密着しながら、感情が溢れ出てきたのか涙を流し始めてしまった。
よっぽど努力してこなければ、悔し泣きなんて早々できない。
一定以上強くなってからは一切使ってこなかったが、雅のために少し覗いてみるか。
俺はそう思い、隣で俯いて拳を力一杯握り締めている雅に眼を向けた。
鑑定・スキル表示
───
八代雅
T=4
〈笑顔〉〈歌唱+〉〈ダンス〉〈美容+〉
───
やはり俺が普通にスキルを使えたから、この世界にもその概念はあったようだ。
雅の所持スキルが、右上に表示された。
もちろん文字が浮いているわけではなく、俺の脳内で見ている。
それにしても、このスキル構成は本当にアイドルの才能が図抜けているようだ。
〈笑顔〉なんてスキル初めて見たな。
効果は、人よりも自然に笑顔を作り易いという……俺は全くいらないな。
「…………えっと、ごめんね。ゆうやくんにこんなこと言って。でも、話したら少しスッキリしてきたかも」
そう言って顔を上げた雅は、俺に見られていることに気付く。
それも、割りと真剣な目で。
「え、えっと。ゆうやくん、どうかした?」
分かりやすく困惑顔の雅に構わず、俺は改めて聞く。
「雅は、女優になりたいか?」
「え?そ、そりゃなりたいけど………」
「わかった。じゃあ、俺がおまじないを掛けてやる。これで演技力が上がるはずだ」
俺が自信満々にそう言うと、雅はポカーンとしてからクスッと笑い出した。
どうやら子供の遊びか何かだと思って、全く信じていないらしい。
「フフッ。ゆうやくんもそういうこと言うんだねー。これ意外とギャップが………」
雅の話の途中で、俺は彼女の眼前で掌を強く叩いた。
所謂、猫だましである。
「──ッ」
ビクッと肩を震わせた雅が意外と可愛かったが、今はそれよりも言うことがあった。
「今、おまじないを掛けた。明日からまた練習に勤しめば、きっと効果が実感できると思う」
「……うん。ありがとね、ゆうやくん。ゆうやくんみたいな小さな子に気を使わせちゃって。私は大丈夫よ」
優しげな表情で俺の頭を撫でてくる雅は、やはり全く信じていない。
まぁ、百聞は一見にしかずという言葉があることだし、今後の雅を楽しみに見ておこうかな。
俺はそう思いながら、右上の文字に視線を動かした。
───
八代雅
T=5
〈笑顔〉〈歌唱+〉〈ダンス〉〈美容+〉〈演技-〉
───
この一週間後に、雅が興奮した様子でまた押し掛けてきたのは言うまでもなかった。
俺がdisable状態にして持っていたスキルをあげただけでこんなにも喜んでくれるのかと、俺も自然と笑みを浮かべていた。




