第12話 別れの挨拶?
最近モンハンばかりやってて、久々の投稿です。
m(__)m
俺は目を覚ました。
どうやら、旅館の部屋の隅に敷かれた布団で寝かされていたらしい。
首だけ横に動かすと、テーブルに肘をついてお菓子を摘まみながら、テレビを見ている恭介がいた。
俺は上半身を起こし、周りを見回してみるが朱美の姿が見えない。
トイレだろうかと思いつつ、視線を戻すと。
ふいに振り返った恭介と目が合う。
そして、彼は優しく笑ってから手招きしてきた。
俺はいそいそと布団から抜け出すと、恭介の向かいに腰を下ろす。
「腹減ってるだろ。取っておいたから。少し冷めてるけど、旨いぞ」
名前のよくわからない魚料理に、これはすきやきか?牛肉煮込みのようなものがある。
それから、山菜に白米等がラップに掛かって置いてあった。
「いただきます」
俺はそれをパクパク食べながら、柱に架かっている時計を見た。
針は、10時を示していた。
なるほど。俺は4時間近く寝ていたのか。
それほどに、雅の体が心地よかったのかと不思議に思う。
俺にしては、少し情けない気がして思わず苦笑を溢した。
冷めていてもあまりに旨いため、もくもくと食べていると、恭介がテレビを切り替えた。
見ていた番組が終わって、面白いのがないかと探しているのだろう。
俺は、そのテレビの画面に映り込んできた人物を見て、口に含んだばかりの味噌汁を吹き出しそうになった。
『今日、なんとサイクルヒットを達成し、なおかつ土壇場で逆転サヨナラホームランを打たれた芦原選手に来て頂いております!いや~凄かったですねぇ。率直に今のお気持ちをお聞かせ下さい。………あー、今日は色々ツイてました。皆さんの声援があったからこそ、それに応えることができたと思っています────』
…………あっしーじゃねぇか!
何、あいつ野球選手だったの?
「おぉ、凄いな。またヒーローインタビュー受けてるのか。さすがは令和最初の巨神のスターだな」
「え?パパ、あっしーのこと知ってるの?」
「あっしー?あぁ、芦原風李ならもちろん知ってるぞ。もう結構有名だからな。プロ2年目にもかかわらず、開幕スタメンに選ばれてしっかり結果を残してるし、おまけにこのルックスだ。よくスポーツニュースでも取り上げられてるからな」
まじですか。べた褒めじゃねぇか。
……俺、ただの今時の大学生かと思ってたわ。
すまん、あっしー。
あっしー繋がりで4人の顔を思い出すと、雅としていた約束を思い出した。
俺としたことが、うっかりしていた。
俺はご飯を完食すると、テレビに夢中な恭介を尻目に部屋を出た。
「たしか201だったよな」
階段を降りて201号室の前までくると、丁度扉が開いて中から朱美が出て来た。
彼女は軽くお辞儀をしてから扉を閉め、振り替えって俺に気付いた。
「あら、祐也。きたの。ずっと寝ていたから、代わりにお土産持ってきたのよ」
「あっ、忘れてた。ありがとう」
クッキーとぬいぐるみを買ったんだったな。
わざわざ持ってきてくれたらしい。
「ふふ。あの子たち、明日の朝早いみたいだから、あんまり遅くならないようにね」
そう言って笑いながら、朱美は自分たちの部屋に戻っていった。
なんていうか……もう夜10時だし、普通こういうとき連れて帰るものじゃないだろうか。
俺、一応3歳だよ?
ほったらかしすぎじゃね?
「まぁ、このまま別れるってのも変な感じだったからいいんだけどね」
俺はそう呟いて、目の前の扉を開けた。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
部屋の中は酒臭かった。
どれだけ呑んだのかは、机の上に置かれているビールの缶の数が証明している。
「うわっ、くっさっ。いや、臭いのはこのふたりか」
視線の先には、酔い潰れて幸せそうな顔で突っ伏しているあっしーと雅がいた。
雅の方は、大事そうにパンダのぬいぐるみを抱えている。
たぶん俺が選んだやつだな。
だらしない大人の仲間入りかと呆れながら、部屋に入っていく。
すると、テレビを見ながらクッキーを摘まんでいる和一と、椅子に座って優雅に本を読んでいる才花のふたりが同時に視線を向けてきた。
「おう。やっぱ来たのか。これサンキューな」
和一が、クッキーを手でひらひらさせながら軽い感じで話しかけてきた。
俺もいくつか食べたからわかるが、それめっちゃ旨いよな。
パタンッ。
程ほどに大きな──本が閉じた音がして視線をずらすと、才花が立ち上がったところだった。
そして、彼女はそのまま近寄ってきて俺の手を取ると、一緒に床に座る。
「みやび。さっきまで待ってたんだけど、ゆうやくんのお母さんが来てすぐ寝ちゃってね。誘ったのはこいつなのに、ごめんね」
才花は優しい口調で謝ると、俺の頭をこちらも優しい感じで撫でてくる。
なんだか、少しくすぐったい気分だな。
俺も酒呑みたくなってきちゃった。
俺の様子に何を勘違いしたのか、才花は自分の膝を軽く叩いて言った。
「はい。お姉さんが膝枕してあげる」
なんで?
俺さっきまで寝てたから別にいいのだが……。
とか呑気に思っているうちに、有無を言わせず横に倒されてしまった。
あーダメだ。これはまた寝ちまう。
頭にダイレクトに伝わる柔らかい感触に、即行でウトウトしてきた。
「おーおー。マセてんなぁ」
和一のからかうような声に、少し頭が覚醒する。
「そういえば、あっしーって野球選手だったのか?」
「おう、気付いたのか。まぁ、こいつもかなり忙しいんだよ。プライベートで旅行なんて久々だったらしいし、許してやってくれないか」
「別に、気にしてないぞ。俺だって風呂ん中で不覚にも寝ちゃったし」
「ハハ。お前は、本当に子供らしくねぇようなこと言うよな。ま、興味はつきないが」
「そんな変な目で、俺を見るのはやめろ」
頭がめっちゃ良いらしいふたりと話してると、ボロが出そうなので、そろそろお暇しようと立ち上がる。
「あっ……………」
才花さん、なんですかその切なそうな声と目は。
あと、さっきから撫ですぎ。
「じゃあ、俺は戻るよ。あっしーと雅にもよろしく言っといてくれ。明日の朝にまた会えるかもしれないけど、一応な。あと、なんか色々楽しかったよ。ありがとう」
俺は最後にそう言葉を残し、スタスタとその部屋を後にした。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
祐也が部屋を出ていったあと、ふたりはおもむろに視線を交わせてお互いに苦笑いした。
「なんか、もう最後みたいな"ありがとう"だったな」
気安い感じで、和一から話しかけた。
「雅にロックオンされて……ゆうやくんも大変そうだ」
「そういや、連絡先どころか住所も聞いたんだろ?」
「あぁ。そう遠くないみたいだったし。仕事が休みのときにでも行く気満々の顔だった」
「そうか。まぁ、最近雅も珍しく仕事のことで悩んでたらしいし、良い気分転換になるかもな」
「ゆうやくんなら解決までしちゃうかも」
「それは言えてる」
ふたりの天才は、あの小生意気な3歳児の将来を想像して、これからも仲良くしていこうと思っていた。