第11話 矢代雅
わたし、矢代雅。
"S-カリーナ"というアイドルグループに所属しているアイドルよ。
今日は、事務所から休みを貰って、幼馴染と旅行に来た。
同い年のあっしーとかず。
それと、2こ上のわたしにとってお姉さんみたいな存在のさいかちゃんの3人だ。
皆それなりに忙しかったんだけど、なんとか予定を合わせてこうして集まることができた。
朝早くに出発して旅館に到着すると、男子組がゲーム場へ行こうと言い出した。
わたしは、また明日の夜から仕事があって時間があまりないので、喜んで付いていった。
そこで、めっちゃ可愛い子供──ゆうやくんと出会った。
あと少し経ったら生意気だと感じる話し方だったけど、そんなの気にならないくらい可愛いかった。
だから、わたしや皆の自慢話をずっとしていた。
ゆうやくんは、それに少し驚きながらも、相槌を打ったり、会話の切り返しがあったりして、楽しくおしゃべりした。
時折、さいかちゃんも話に混ざってきて、とっても楽しかった。
いつのまにか夢中であれこれ話していて、さいかちゃんに「この子、凄く頭の回転早い」とか言われるまで、友達と話してるような気安さだったことを自覚した。
たしかに、仕事の大変さを3歳児と共感できていたのは違和感がある。
うちの弟よりも断然頭良いかも。
頭の良さなのかどうかはさておきね。
それから、ゆうやくんとツーショットを撮ってインスラに上げたり、ゆうやくんのことを聞いたりしていると、ゆうやくんのお父さんとお母さんがやって来た。
どちらも美形で、この親にしてこの子ありなんだと妙に納得した。
別れ際、また話がしたくて咄嗟に抱き付いた。
ちっちゃくて凄く可愛いかった。
今夜が楽しみだよ。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
近くのモールでたっぷりショッピングをしたあと、駒木温泉街に入場した。
そこの女湯で、偶然にもゆうやくんと再会した。
高校生くらいの女の子たちに囲まれていて、将来が心配になるモテモテぶりだった。
わたしはそれを見て、なぜかすぐに割って入りたくなった。
「あれ?ゆうやくんじゃーん。凄い偶然だねー」
「本当だ。……やっぱり可愛い」
それで、隣でお湯を掛けていたさいかちゃんも気付いて近寄ってきた。
たしかに……本当に可愛い。
クールで言葉数が少ないさいかちゃんからでも笑顔を引き出すとは、ゆうやくん侮れない。
女の子たちは気を遣ったのか、徐々にゆうやくんから離れていく。
「助かった。ありがとう」
───ッ!!
そのあまりの可愛いさに、一瞬硬直してしまった。
だけど、すぐに近付いて抱き付く。
ゆうやくんの困惑顔がまた可愛くて可愛くて。
「素直にお礼言うゆうやくん、めっちゃ可愛いよー」
わたしは、むぎゅーとゆうやくんを抱き締めて頬ずりする。
お気に入りのぬいぐるみ以上の抱き心地だった。
それからすぐに、ゆうやくんの体から力が抜けてきているのを感じて、その顔を覗くと。
──天使の寝顔があった。
「はうぅぅんッ。胸が苦しい………さいかちゃん、ここに天使がいるよー」
「たしかに、天使。でも、みやび。鼻血まで出すのはどうかと思うぞ」
さいかちゃんの言葉で、鼻血が出ているのに気付いた。
「こ、これは、のぼせたのよ!」
わたしの精一杯の言い訳を、さいかちゃんは呆れ顔で聞いていた。
でもふいに、後ろからクスクスクスと笑い声が聞こえてきた。
そっちに視線を向けると、ゆうやくんのお母さんがいた。
黒髪の美人さんで、あのさいかちゃんと遜色がない抜群のプロポーションを誇っている。
その慈愛に満ちた微笑みは、同性のわたしでもドキリとさせられるほどだった。
「ふふふ。ゆうやと遊んでくれてありがとう。旅館でも遊んでいてくれた子たちよね?」
「あっ、はい。矢代雅といいます。ゆうやくんとはお友達です!」
「綾瀬才花。同じく友達」
「ゆうやの母です。もしよろしければ、これからも仲良くしてあげてね。スマホは持たせてないから難しいけど」
ゆうやくんママの言葉で、明日には会えなくなると気付かされた。
この最高の癒しを手放すなんて……できないわ。
わたしは、ダメ元で聞いてみることにした。
「あ、あの。よければでいいんですけど、連絡先教えていただけませんか?」
「うふふ。家の電話で構わないならいいわよ」
「ぜひ!」
わたしは、天使なゆうやくんを渡して、連絡先を聞いた。
しかし、今のわたしは素っ裸でメモれるものは何も持っていないので。
「さいかちゃん、あとでLINE送って」
「頑張って覚えようという気は」
「ないっ!」
超天才なさいかちゃんを頼ればいいのよ。
わたしは最高の収穫を得て、満足顔で出口を目指す。
「みやび。鳥の行水」
「──あっ。えへっ。もうすっかり堪能した気分だった」
その後、ゆうやくんをお借りして、露天風呂の側にあるガーデンチェアに抱いて座る。
その天使の寝顔を、さいかちゃんに「ゆうやくんのお母さんが困ってるぞ」って言われるまで眺めていた。
雅の溺愛っぷりが凄まじくなってしまった……




