第10話 温泉
駒木町にある観光施設、駒木温泉街。
テレビでも度々取り上げられることのある有名な温泉施設だ。
ここには、タイプの異なる様々な温泉が軒を連ね、それぞれ楽しみ方が違うのが魅力のひとつである。
今日は土曜日ということもあり、人で溢れていた。
俺たちは、そんな駒木温泉街の通りを歩きながら、どこに入ろうか話し合っていた。
この通りの入り口にあった受付で入場料を払うことで、チケットを貰い2時間どこでも入り放題なのだ。
このチケットにもいくつか種類があり、24時間入り放題というのもあった。
まぁ、俺たちは今夜だけなので、最も利用時間の短いやつにした。
「ねぇ、あそこなんてどうかしら?綺麗なお花に囲まれた露天風呂だそうよ」
朱美が立ち止まって、一軒の建物を指差す。
外観は昔ながらの家屋といった感じで、おしゃれな木々が門の前に植えてあった。
たしかに、のぼりには朱美が言ったようなことが書かれている。
「よし。じゃあ、最初はここにするか」
「え?やっぱり何個か入るの?」
「当然だろう。せっかく駒木温泉街に来たんだから、時間一杯まで入らないとな」
「でも、宿での夕食8時からなんでしょ?間に合うの?」
「微妙だが、まぁ大丈夫だろ。子供はそんなこと気にしないで、もっと楽しめ」
「うん、わかった」
お腹空いたから早く帰りたかっただけなんだが。
まぁ、温泉は嫌いじゃないから別にいいけど……。
恭介とそんなことを話しながら、スタスタ入っていく朱美を追って、小さな門をくぐっていった。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
俺は今、女湯の湯船で口まで浸かり、ブクブクブクとさせている。
ある一点を見つめて、なるべく人のシルエットを捉えないようにしている。
しかし、そこら中におっぱいがあり、嫌でも目に入るこの状況だ。
女の体は見慣れているので、恥ずかしいとかではないが、罪悪感が募っていく。
俺の外見は言わずもがな3歳児だ。
実年齢はもうすぐで4歳だが、今はそんなことはどうでもいい。
そして俺の精神年齢は、16歳+26歳+3歳=45歳。
いい感じでおっさんだ。
こんなおっさんが女湯にいたら、普通に犯罪だし、下手したら殺される。
なので、バレることはないとわかっていても、声を大にして言いたい。
これは、不可抗力なのだと。
俺はため息をつき、数分前の出来事を思い出す。
男湯、女湯と書かれた暖簾の前にて──。
「あら、ゆうや。どこに行くの?」
「へ?」
俺が恭介と一緒に男湯の暖簾を潜ろうとしたとき、朱美にそう言われてドキリとした。
ま、まさか………。
「どこって、温泉だけど」
「ゆうやはこっちよ。寂しいじゃない」
いや、そんな本当に寂しそうな目で言われても……。
たしかに、そう言われたらどうしようと思っていたが、恭介もいるから安心していた。
俺が恭介に視線を向けた瞬間に、朱美はヒョイっと俺の体を抱える。
ゆ、油断したーーー!なんだ今の早業は!?
「ゆうやはしっかりと洗ってあげないと」
「……でも、ボク男の子だよ?パパと一緒に」
「うふふ。ゆうやは女の子みたいに可愛いから良いのよ」
「なにその理屈!?」
おぅ、つい勢い余って素でツッコンじゃった。
だが、朱美はそんなの知らんとばかりに、俺を連れ去っていく。
朱美の肩越しから恭介を見ると、寂しそうにしながらも呑気に手なんか振っていやがった。
良い感じで尻に敷かれやがって、あのオヤジめ。
とまぁ、そんなわけで今に至るのだが。
なぜだか、とある女子高生ぐらいの少女グループに捕まってしまった。
できるだけ、はじっこで目立たないようにブクブクしていたというのに。
こんなことなら、認識を阻害するスキルでも使っていればよかったと少し後悔する。
「かわいいーー」
「ねぇねぇ、ボクひとりなの?」
「そんなわけないでしょ。どこかにママがいるんだよ」
「きゃー!さらいたーい!」
「凄い。手ちっちゃい」
「頬がぷっくりしてて……はぁはぁ」
うざい。マジうざい。
俺はのんびりしたいというのに、超やかましい。
有名な温泉施設だから若い奴が結構いるのは仕方ないが、面倒なのに捕まってしまったらしい。
朱美は、俺の体を洗ってから、今は自分の体を洗ってるのでここにはいないし。
まぁ、いたとしても子供自慢が始まるだけだろうが。
そろそろ離れないと、お前らの体にイタズラするぞ?と、少し危ないことを思ったときだった。
後ろから、聞き覚えのある声がしたのは。
「あれ?ゆうやくんじゃーん。凄い偶然だねー」
「本当だ。……やっぱり可愛い」
標準的に育っている胸を除いて、スレンダーできめ細かそうな肢体を、惜しげもなく晒している矢代雅と、出るところは凄く出ていて、引っ込んでいるところは凄く引っ込んでいるグラマラスな肢体を、タオル一枚で巻いている綾瀬才花のふたりが立っていた。
どちらも、この世界では超が付く程の美人だ。
雅の方は少し幼さもあって、美少女って感じだが、あと数年もすれば大人な女性になりそうな予感がする。
それもあってなのか、俺の周りにいた少女グループが退いていった。
「大きい……あれは勝てないよ」とか、「あの人どこかで見たことある」とか呟きながら。
雅はアイドルらしいから、テレビじゃないか?
「助かった。ありがとう」
俺がそうお礼を言うと、雅は直ぐに湯船に入ってきて、ガバッと抱き締めてきた。もちろん素肌で。
あと少し成長してたら、ヤバかったかもしれない。
「素直にお礼言うゆうやくん、めっちゃ可愛いよー」
なんか、さっきの状況とあまり変わってないなぁと思いながらも、雅の体がとても柔らかかったので、大人しく身を預けることにした。
「気持ちいい………」
俺は雅のおっぱいを枕にして、そのあまりの心地よさに体から力が抜けて、徐々に瞼が閉じていった。