志貴先輩
高校2年生の夏休み。
大きな荷物を背負って学校にやってきた。
タオルで汗を拭いて、それを首に巻いたら、
ちょっとかっこつけながら校舎に入る。
重い荷物を担ぎながら学校までやって来たので、
当然足も重い。
階段を登るのもひと苦労だった。
だるそうに4階まで階段を登る途中だった。
「おい!圭佑」
と、階下から声が聞こえたのは。
「おお、おつかれ、今日はちゃんと来たんやな」
圭佑がそう言った相手は、
同じクラスで同じ部活の山本だった。
「せやね、まぁ、サボると怖いやんか」
「お前が怒らすけんいかんのやぞ」
そう言いながら2人で4階まで来ると、
既にもうちょっとした人だかりが出来ていた。
「うわ〜遅刻?」圭佑がそう山本に目をやると
「いや〜ギリやろ」と目を逸らしながら言った。
そんなやり取りをしながら、
その人だかりの中心にいる人物に
圭佑がおどろおどろしく声をかけた。
「志貴先輩、今日は山本連れてきましたから!」
スラッと背が高く、
細身でショートカットの女の先輩が、
志貴先輩と呼ばれる人物だった。
「いや、お前ら本当に遅いけん!
山本なんか練習さぼりやがってさあ!
ダンスできるん!?」
志貴の優しそうなその顔が、
圭佑と山本を見た瞬間に
どぎつい声でそう言った。
「させます!させますから!」
絶対王政にも近いのではなかろうかという空気感の中、圭佑は必死で頭を下げた。
「そう、ならやってもらうけんね」
志貴がそう言うと
「え?」と声を漏らした山本に、思いっきり背中を叩きながら
「ダンスに決まっとるやろ!?体育祭、もう近いんやけん!間に合わんてや!」と言うと、山本は思いっきりひるんで得意の口答えも出来なかった。
体育祭はあと10日。
2人はその体育祭でダンスを披露するチームに所属していたのだが、他にも合わせて4チームの中でその出来栄えを競うもので、
この高校の名物ともなるプログラムだった。
故にダンスチームに所属する全員が、
その中で一番の賞、金賞を受賞したいがために
夏休みはもちろん、少しだけ受験勉強をも潰して練習するのだ。
ダンスチームに入るかどうかは任意だが、
山本は自らダンスチームに入ったくせに
あまり練習に来なくて、チーム全員に迷惑をかける奴だったのだ。
「志貴先輩」そう圭佑が言うと、
「話しかける暇が合ったら山本と練習せんかい!」
おおらかで楽しくて、優しい先輩も
総指揮を任せられると適当ではいられなくて
勤勉かつ真面目な志貴は一致団結して
金賞を取りたいのがひしひしと伝わってくる。
だから、圭佑も山本も何も口答えせずに
「はい!」とだけ言うとそそくさと練習にとりかかった。