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引きこもり少女に幸あれ  作者: motto
違う自分と引きこもり
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4.三生因果

10年前の事件・・・そのあらましはこうだ。


当時5歳の女の子が誘拐にあった。

それは白昼どうどう、女の子が家の庭先で遊んでいたところを攫われたのだ。

母親がすぐに気づいて急発進する乗用車を見てすぐに通報するも、警察の網には引っかからなかった。

その後も犯人からの身代金等の要求はなく、警察は1000人体制の公開捜査に踏み切った。

誘拐された女の子は「元木 ユキ」、アルビノということもあって、目立つ容姿の子どもだったので、誰もがすぐに犯人は見つかるものと思っていた。


しかし各TV局は毎日のように続報を伝えるが1週間経ち、一か月が経つと「元木 ユキ」の新たな痕跡は見つからず、生存自体も疑問視されてきた。


だが誘拐から2か月ほど経過したその日、事件は急展開する。


「元木 ユキ」が意外な場所で発見されたのだ。


発見されたのは某国の貨物船内であった。

貨物船は操船されずに漂っており、連絡に応じない船を不審に感じた海上保安庁が臨検を行ったのだ。


 誘拐に国家が関与したのではと国際的にも大きな問題になったこの事件だが、最大の謎は、その船は「元木 ユキ」一人を残して船長以下16名が全員死亡していたことだ。

 遺体はどれも他殺によるもので、争った形跡があったという。

 しかし現場には船の乗組員以外の痕跡はなく、争ったはずの犯人はわからずじまい、なぜ女の子は一人だけ無事だったのか、そもそもなぜそこにいたのか、今だに全容の解明には至らず未解決事件となっている。

 そして何があったのかを知るとされ、唯一の目撃者となる「元木 ユキ」は心身喪失状態と医者に診断された。とても証言できるような状況になく、5歳の女の子の心のケアをしっかり行なう必要があると記事は締めくくられている。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アンビリバボー」


なんというか、自分のことながらまったく現実感がわかないよね、これは。

まぁ、妙に警戒心が強い我が家のこともわかったし、誘拐というか殺人の犯人もつかまっていない上に唯一の目撃者で証言者なのが私というのはわかった。

 

これって下手すれば口封じなんて目に合うかも・・・


 しかも、目立つ容姿のうえに公開捜査したもんだから、事件から結構立つとはいえ隣近所含めて、多数の人がこのことを憶えているときたもんだ。


 第三者の勝手な噂や誹謗中傷が目に浮かぶ。


外出すら迂闊にできない・・・そんな引きこもり生活はハードモードすぎて、まじ勘弁です。


 暗澹たる気持ちで心が折れた私は、体調が悪いということにしてその日から部屋から出ずに家事も外出のリハビリも行わなかった。


 母には再び心配されてしまったけど、突然こんなわけのわからない状態の当事者になってしまった上に、そんな大きな事件にあった事実を知らされて心も体も停滞してしまったのだ。



 トントン

『ユキ、いるか?』


そんな沈んだ気持ちの夜に、珍しく兄の方から部屋にやってきた。

 

「体調が悪いんだってな。大丈夫か?」

「うん、まぁちょっと心理的なとこだから、大丈夫だよ」

「それが一番やばいんだろが・・・・まぁ、そこで提案なんだが気分転換にコレなんかどうだ」


と兄がなにやら、後ろ手に持っていた物を差し出す。


「こ、これって・・・最新劇場版の「キュア・レディ エターナル」!!しかも特別編って」

「ふふふふふ!蛇の道は蛇でね、正式な入荷前に手に入れたのだよっ!」

「すごいっ!すごいよ兄さん!!」

「はっはっはっ!尊敬しろ妹よっ!・・・・・・・・・見たいか?」

「見たいですっ!」


ふんぞり返って、どこかテンションがおかしい兄ではあったが、まだ見ぬキュア・レディにつられて即答する。


「ならば、用意をしてあるからついて来い!」

「へ?用意って?」


ずんずんと歩いていく兄について1階の居間に下りる。


「あ・・・」


居間に入って驚く、そこには100インチはある大きなスクリーンとプロジェクターの調整をしている父がいた。


「父さん、準備はいい?」

「ああ、もうこれでOKだ」

「母さん!できた?」

「丁度、出来たわよ。ポップコーンにポテト、ビールにコーラもあるわよ!」

「よしっ!」


 台所からお皿一杯にポップコーンを盛った母が出てくる。


「すごい・・・」

「スクリーンとプロジェクターは俺の会社からの借り物で、音響は父さんの趣味のやつだ。ユキは母さんとソファーな」


 兄に勧められてスクリーンに向けられたソファーにつくと母からポップコーンを渡される。

 父と兄はプロジェクターが置いてある食事テーブルにつまみとビールを置いて鑑賞するらしい。


「それえじゃはじめるぞ、上映開始だ!!」


 兄の掛け声で映画が始まる。

 家族みんなで、わいわいと映画を見ながら思う。


 問題はなにも解決していないけど、この家族に支えてもらっているなら、私は頑張れるかもしれない。


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