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引きこもり少女に幸あれ  作者: motto
違う自分と引きこもり
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1.暗中模索

「とりあえずは現状確認をしよう」


あれから30分ほど経って、すっかり冷めた朝ごはんを食べた私はそう結論付けた。


どうやらまだ確証はないが容姿は変われども、兄の態度を見た限りでは私は私と認識されているようだ。


この状況がよく言う、パラレルワールド的な憑依ものなのか、自分自身の認識がイカレタのかをなんとか確認するしかない。


まずは兄だけだが私をユキと認識してくれていたことは良いことだ。

もしや家族に罵声を浴びせられて家を追い出されることや、警察沙汰になるような事になるのではないかと考えてもいたのでひとまず安心した。


だが、今の私を取り巻く状況が分からない。


平凡に社会的に生きてきた私が、なぜ理不尽に引きこもりのような社会を拒絶した立場に身を置かなければいけないのか・・・・できれば元の生活に戻りたい。


 なんだかよく見ると私の部屋なのに身に覚えのない物や見当たらない物がいくつかある。


「とりあえず、部屋を探索してアルバムに携帯・・・それにパソコンを調べるかな」


 たぶん以前の自分なら見られたくないベスト3だが、私の物だから良しとしよう。


「あった」


 アルバムは自室のクローゼットの所定の場所にあった。

 少し埃が被ったアルバムを開いてみると、家族写真があった。

生まれたばかりに見える赤ちゃんの今の私に父と母、兄が写っている。


「お父さん、お母さん、みんな変わらないか・・・けどなんで私だけがこんなのになってるの?」

 

 もちろん昔の写真だからそれぞれ若いが、私だけ容姿が違うのはどうやら生まれた時からのようだ。

 黒髪黒目の中に銀髪青目を持った赤ん坊がいるのはとても違和感を憶える。


「私って貰い子なのかな?」


次のページには幼稚園位の今の私がカメラに向けて微笑んでいた。

 なにこれカワイイ・・・天使だ!?

 見事なエンジェルスマイルにくらりとさせられつつページをめくる。


「・・・・」


 その後のページは見事になにもない、以前の私のアルバムには小学生で行った遠足や中学校での部活、友達といったテーマパークなど色々な写真があったはずだが、きれいに無くなっている。

 

 「・・・まさかこの頃から引きこもってないわよね」


いやな推理を展開しつつ、クローゼットついでに着替えを物色する。


「・・・・・ない」


中学・高校で着ていた制服や使っていた指定カバンがない。用意すらしてないのか、ここじゃないとこにあるのかわからないが、自分の部屋以外に置く理由がない。


持っている服もまさに最低限、前から衣装持ちする方ではないが、それにしてもアウターが少なく妙にインナーが多い、しかもスウェットやパジャマが使いこまれている感がある。


「それにしてもサイズが違うのね・・・」


前の私でも入らなくはない・・・・ちょこっと断食ダイエットすればだが。

とりあえず適当なスカートとインナーを見繕って着替えてみたが、なかなかに現在の自分の身体に暗澹たる気持ちにさせられる。


「着やせするタイプなのね・・・」


まあ、簡単に言えば前よりほんの少し胸があって、腹がへこんで、尻がシュッとなってただけです。


「よし、探索再開!」


 気合を入れ直し、次に携帯でも・・・と探してはみたが本体はおろか充電の端子すらもみつからず。


「まぁ、年中引きこもっていれば使わないし要らないよね」


次にネット、部屋の私の机の上に乗っているパソコンを起動させる。

ちなみにこれは前の私であれば父に嘆願して譲ってもらったお下がりのデスクトップパソコンで、ネット環境が揃ってからは夜な夜なのネットサーフィンと趣味であるイラスト作成に使っていたものだ。


「ペンタブがない・・・」


正月のお年玉に短期のバイトで稼いだお小遣いでやっとのことで買った愛用のペン型タブレットが見当たらない。

しかたないのかもしれないが、地味に凹む。


「しかも、私のイラストのデータも消えてなくなってるし・・・」


トップレベルのイラストには遠く及ばないけれど、それでも努力と根性、そして長大な時間を割いて描き挙げた愛着のある作品達が無いのは堪えるものがある。

何度目かわからないため息をついて作業を開始する。


「よし、まずはインターネットで日付を確認っと、・・・・平成27年3月20日だから日付はOKと・・・あとは履歴かな・・・まさか自分自身にこんな事をするなんてね」


前の私がされたら、色々な意味で終わる。


履歴を漁ると、どうやらここでの私が見たネットの履歴がある。ニュースやなにかの論文?あとネット小説か・・・ここでの私はイラストよりもネット小説が好きなのかSFやファンタジーの幾つかの小説を読んだ履歴がある。


「ふーむ、私はあんまりSF系読んでないけどファンタジーは趣味が合うかもね・・・・今の私が生活していた跡があるってことは、信じられないことだけどやっぱパラレルワールドの憑依か入れ替え系が今の状況なのかなぁ・・・・・・ん、これって」


なにやら医療系の検索履歴がある。


「『アルビノ』?・・・なになにメラニン色素が欠如、または極少となり頭髪や皮膚が白く、眼は青くなるって・・・今の私か・・・なるほどこの容姿だと外人かと思ったけど日本人でいいみたいね。この美少女ぶりが謎だけど・・・」


パソコン内の検索もしてみるが「アルビノ」の事や自作小説の資料なのかホラーやSF・ヒーローもの等、様々な記事のデータが集められていた。

古いデータでも1年前ほどなのでこのパソコンも前の私のときよりは後に私のところに来たようだ。


「どこかに日記でもあれば嬉しいんだけどね」


 まだまだ探していない場所もあるけど、そろそろ10時半だ。もう兄や父、母も仕事に出ている頃だ。

 前の私の家族であれば両親共働きで父は出版社に勤め、母は看護師で兄はデザイナーとして働いているはずだ。


「あ・・・」


お盆を持って、階段を下り台所のドアをゆっくりと開くと母と目があった。

丁度、私が入ってきた時に、洗濯物をしていたらしい母は手を止めて笑顔で私に近づいて来た。


「おはよう」

「おはよう、これ、ごちそうさま」

「持ってきてくれたの、ありがとうユキちゃん」


この反応をみるに回収も母の仕事だったらしい、自分のことながらなんてだらしない引きこもりだ。

せめて食器ぐらい洗おうよね。


とりあえずスポンジに洗剤をかけてカチャカチャと洗う私。

それをポカーンとした顔でみる母がいた。


「ど、どうしたの?」

「ううん、ごめんね、洗い物ありがとう」

「洗い物ぐらいで感謝されても困るよ、しかもこれ私が食べたやつだし・・・こっちこそごはん持ってきてくれてありがとう」

「・・・どういたしまして」

「・・・・」


なんだか居た堪れない、前の私であれば気兼ねなくお母さんとは話せていたが、今のように一歩引いてまるで腫れ物を扱うかのごとくの態度だと、逆に話しづらい。


「そういえば今日、仕事は大丈夫なの?」

とりあえず、昨日の私時点で病院で日勤のはずの母がここにいる理由を聴くことにした。


「お家の仕事は大丈夫よ、あとは軽く掃除して、夕飯の買い出しかしら。なにか買ってきてほしい物ある?」

「・・・ううん・・・大丈夫」


あれ、仕事の話をしたら普通に家の家事のことに話がいったぞ?まさかこちらの母は働いていないのかな?


「お母さんって、看護師だったよね?」

「そうよ、もう辞めて10年くらいたったから、もう臨床に出てもなにもわからないでしょうけど少しは知識があるわ。なにか身体に不安があるの?」

「えっと、大丈夫・・・ちょっと聴いてみただけです」

「そう」


あのバリバリ仕事をしていた母が、専業主婦にクラスチェンジしとったことに驚愕だけど、これはもしかしなくとも家の引きこもりのせいですか・・・怖くて聴けん。

とりあえず話題を変えよう。


「今日、いい天気ダネ・・・」

「そうね、風も心地よくてそろそろ春到来かしらね」

「そっか、・・・・それなら私ちょっと出てくるよ」

「!?」

「えっと、ちょっと近所を散歩に・・・」


外に出る話題にしたら見事に母が固まっている。


「っ!?・・・・大丈夫?無理しなくてもいいのよ。母さんも一緒に行くわ」

「へっ、え・・・大丈夫だよ、一人で」

「このあたりもいろいろ変わってるし、迷子になるかもしれないわ。お願いよ!」

「ワカリマシタ」


地域の状態が変わるほど家に引きこもっていた自分の事実に驚愕だが、軽い気持ちで一人で外に出ると言ったのを妙に鬼気迫る感じで説得されてしまった。

 

それから母が私のコートに、なぜか帽子、そして日傘を用意してくれていざ玄関に来た。


「うちの玄関ってこんなに鍵あったけ?」


玄関に鍵が4つあり、すべて閉められている。


「そうよ、このほうが安心だしね。それになにかあればこのボタンですぐ警備の人が来てくれるわよ」

「へー」


うちは一般家庭のそれほど大きくもない建売の一戸建てのはずだけど、なにその警戒感。

やや不審がりつつも母が出してくれた靴を履く。

もちろん見覚えのない、一度も履かれた形跡のないピカピカの新しい靴だった。


先に扉を開いて母が待っていてくれる。


 さてと、外はどうなっているかなぁ


・・・・・・

 

 足が動かない。

 立ち上がって、母が開いた扉の隙間から外を見た瞬間に足が竦んで固まった。


・・・・・・

 

なにこれ・・・・どうしたんだ私


・・・・・とりあえず、一歩をと足を出そうとするが、膝がわらってガクガクするだけだ。なにか胸の内から底知れない恐怖感が滲み出てくる。目が回り吐き気がしてくる。


「・・・な、なんで?」


自分の身体が自分の思い通りに動かないことの衝撃と理由のわからない恐怖と気持ち悪さに目尻に涙が浮かぶ。


「ユキちゃん、大丈夫、大丈夫よ・・・お母さん一緒にいるからゆっくりやりましょう」


震えている私を母はやさしく支えるように抱いた。


「ごめ、ごめんなさい・・・お母さん・・・私」

「謝る事ないわ・・・今日はユキちゃん頑張ったわ、また今度試してみればいいのよ」

「・・・うん」

 

 その後、なんだかよくわからなくなり、ひたすら謝る私を落ち着くまで母は私を慰めてくれた。


「なんだかよくわからない理由で、家の外に出られないことはわかった」


お母さんのあの態度だと、こうなるのはわかっていたみたいだし・・・・・・・私の記憶にまったくないけど、あんな体に出るほどのトラウマがここの私にはあったのかな?

てっきりパラレルワールドの私と入れ替わりと思っていたけど、もしかしたら融合みたいな感じなのかな・・・記憶も性格も私だし、あの症状以外は違和感ないんだけど。

部屋に戻った私は、そう結論付けた。

あんな感じでは現状すぐに外に出て探索する事はできないだろう。


「これは、引きこもり生活まっしぐらじゃない」


 天井を見上げて、今日何度目かになるボヤキをこぼした。



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