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引きこもり少女に幸あれ  作者: motto
山と主
19/35

18.空谷足音

祖母の病院から再び叔父の家に戻ったユキは、帰るまでの空き時間を利用してお堂へと足を運んでいた。

目的は昨日蔵王で助けてもらった白い犬の神様にお礼をする為であった。

昨日はしずちゃんに手を引かれて来たので、あまり周りを見れていなかったが、石段を上りつつ吹き抜ける風に振り返ると延々と続く田んぼと点在する家屋が見える。


「綺麗な景色・・・」


そんな中、少し背の高い建物、しずちゃんの通う小学校が見えた。

ちなみにしずちゃんは今日は学校なので、朝に別れを済ませている。少し涙を溜めて別れを惜しんでくれたしずちゃんを想うと心がキュンとした。


「・・・また来るよ」


今朝、しずちゃんとした約束を口にして再びユキは石段を上りはじめた。

石段を登りきると少し開けた広場があり、その奥には小さく古ぼけたお堂が佇んでいた。


なんとなく・・・昨日の一件以来、ユキにはわかるようになっていた。


「・・・こおり様・・・昨日のお礼に参りました。」


お堂の影から抜き出るようにして白い犬の神様が現れた。


「ヨネに我が名を聴いたか?」


祖母から聴いた白い犬の名前は「こおり」様。冰様はユキと微妙な距離をとって座りユキをみつめてそう聴いてきた。


「はい・・・・昨日は危ない所を助けていただき、本当にありがとうございました。」

「ヨネの縁者である静葉の身を案じ、山入り前の願いを叶えただけのこと・・・礼は見当が違う。」


あくまでも静葉・・・しずちゃんを守っただけと冰様は言う。


「えっ・・・でも」

「そなたの力があればどうとでもなっていた・・・この地を火と岩に沈めてもな」

「・・・・」


あの時、ユキは無意識に山を噴火させようとしてしまった。

もしも冰様があの時に声をかけてくれなければ、きっとそうしていただろう。

そうなればあの場に居た人たちの多く、しずちゃんや叔父さん、それにお母さんも怪我をし、もしかしたら命を失っていたかもしれない。

その事を改めて思い知って恐ろしくなりユキは手を強く握り、身体を震えさせた。

冰はそんなユキから目を逸らすと空を見上げた。


「この地には時折、ヨネのように我等と言葉を交わせる巫女と呼ばれる者が生まれてくる。我等の存在は孤独・・・ながく、長く、永く続く孤独の中で、それを癒す巫女の存在は如何な宝珠よりも貴重なもの、その願いを聴くは当然の事だ・・・ヨネのように願いの代償で巫女の心が砕かれることに繋がろうともな」

「・・・私は、私も巫女なんですか?」

「・・・・・・・・いいや、そなたは違うさ不忘山わすれずのやまよ。」

「不忘山?昨日も貴方達はそう私の事を呼んでいた・・・・いったい何の事なの?」

「それがお前の名だよ、だがその意を我に聴かれても困る。そなたの事はそなたが一番知るのだから・・・・」

「私は元木ユキです・・・不忘山なんてわかりません、私、なにもわからないんです。」


訳が分からず、ただただ怖い。

この状態になって過去も記憶も身体も家族も全てが不条理に変わってしまった。

だがそんな中でも自分の名前だけは変わらなかったのに・・・それすら知らない名前で呼ばれるなんて。

頬を涙が伝い、立ってることもできずしゃっくりをあげてユキは泣いた。


「・・・・・ふむ」


震えて泣くユキを見て冰様が声をかける。


「泣かないでほしい元木ユキ・・・・不忘山は我らにとって重要な存在なのだ・・・・・・・ならばこそ、そなたが自分を取り戻す時まで、望むであれば我はそなたと共にあろう。」

「えっ?」

「力を使え、そして力を修めよ。自らを求め、自らを知れ。我はその幾つかについては道標を示そう。我が助力を望むか・・・・・・元木ユキ」


冰は、そう私に提案すると私に視線を合わせた。

この不思議な力と状態を少しでも理解する事が出来るなら。

ユキは決めた。


「はい、望みます。少しでも私、自分の事を知りたいんです・・・協力してください冰様」

「了承した。ならば敬称は不要、我の事はコオリと呼べ」

「コオリ・・・・それなら私もユキと呼んで欲しい」

「ああ、コオリはユキと共にあろう」


そう言って頬を寄せてきたコオリにユキは触れる。

ふさふさとしたコオリの毛の感触は気持ちよく、撫でると不思議と心が落ち着く。


こうしてユキは、コオリという相棒を得て山形を後にするのであった。


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