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引きこもり少女に幸あれ  作者: motto
山と主
18/35

17.鴛鴦之契

久々すぎる更新。

翌日、ユキと母は再び祖母の入院している病院へ見舞いに来た。


「調子はどう?母ちゃん」

「かわんねぇー、また来てくれたのかー詩織。それにユキちゃんも。」


祖母は前回来た時と同様になにやら手紙を書いていたが、ユキ達が声をかけると笑顔で迎えてくれた。


「今日さ、けえるからユキがまた会いたいっていったんだ」

「そうかぁ、ありがとよユキちゃん」

「・・・うん」


そう笑顔でユキに感謝を述べる祖母だったが、今さらながらに昨日の件をどう話し出すか考えつかない。母にも何の話かと戸惑われるだろうしどうしたものか・・・。


「詩織、これでユキちゃんになんか飲み物を買ってきなぁ。ついでに売店さで便箋買ってけろ」

「いいわよ、私が出すから。ユキはなに飲みたい?」

「・・・えっと、ココアとか」

「わかったわ、それじゃ少し行ってくるわね」


言い悩んでいたら、思わぬ祖母の心遣いでチャンスがやってきた。


「お婆ちゃんに、聴きたい事があって・・・私、山で、その変なモノを視たの」

「うん、うん、わかっとるよぉ・・・・山の神様に会ったべ」

「山の神様?」

「そうさ、オラが生まれるずぅっと前から、ここらを見守って下さる山神様だぁ」

「その神様の一人がヨネに・・・お婆ちゃんに後は聴けって」

「そうかぁ・・・・・・・・そうおっしゃったのかぁ」


祖母は窓の向こうにうっすらと見える蔵王の頂を眼を細めて見て、語りだした。


「まず、これはオラが勝手にやったことだ・・・ユキちゃんは何も悪かねぇ」

「・・・・」

「10年前、ユキちゃんが居らなくなって・・・ばっちが・・・詩織が悲しんでなぁ、オラは何とかしてやりたくて山神様に祈る事を決めたんだぁ」

「山神様に祈る?」

「んだ・・・オラもユキちゃん程じゃないがのぉ、少し他人には聴こえぬ声を聴いて話しかける事がするいんだ。裏のお堂様ともよう話したよぉ、だども、それだけだった。願いを叶えるのはすげくおっかないんだぁ」

「おっかない?」

「んだ・・・・ユキちゃんも、もしかすっとお願いしてしまうかもしねっだ、よぉく憶えてなぁ・・・・願い叶えるにはすてるものがいる」

「捨てるもの?」

「んだ、なすものが要る」

「・・・・・・・・おばあちゃんは、何を捨てたの?」

「おらは、憶えが悪くなってぇ・・・旦那さ忘れただ。」

「えっ!?」


ユキの小さな頃に祖父は亡くなっているが、おしどり夫婦でとても仲睦まじい夫婦であったという事は聴いている。前のユキが遊びに来た時も毎日、仏壇に話しかけて祖父が大切にしていた菊の花を育てるのが祖母の生きがいだったのを憶えている。

祖父の記憶は、祖母にとってなによりも、一番に大切な思い出ではなかったのだろうか・・・にこにことした笑顔の中に寂しさを見たユキは胸が締め付けられる思いがした。


「泣くことはねぇよぉ、こーしてユキちゃんが戻ってきたんだぁ。じーさんもすごだま喜んでるさぁ」

「でも・・・お婆ちゃんは私のせいで・・・」

「ははぁ・・・・まぁ、見てけろ」


祖母は身体を起こすと床頭台の鍵のかかる棚から手紙の束を出して私に差し出した。


「これは?」

「じーさんからのラブレターんだ」

「へっ?」

「ここさ入る前に見いつけてなぁ、戦争行った時も、家さ離れた時もよぉく送ってくれたんだぁ。オラも返すんよ。・・・たすかにじーさんは忘れたども気持ちはのこっとるんだ。オラはべっかい恋をしとんのよぉ」


祖母は顔を幸せそうに綻ばせ、少し頬を赤らめながらそう言った。

あの多くの手紙の送り主は、母や叔父さんだけでなく天国の祖父に当てたものもあるらしい。

祖母は涙するユキの頭を撫でで、このことは二人だけの内緒に、くれぐれも母達には言わないようにと恥ずかしそうに言った。


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