15.合縁奇縁
翌日は抜けるような快晴で、朝ご飯を食べてすぐ私と母、そして叔父夫婦にもちろんしずちゃんも加えて蔵王を目指した。
麓の車道にある大きな鳥居を超えて、山を登っていくとロープウェイ乗り場がある開けた場所に到着した。どうやら足湯もあり温泉にも入れる施設があるようだ。少し前の自分であれば他人と一緒に入浴するなど緊張しすぎて無理であったろうが、今はお母さんやしずちゃんと一緒ならば無理ではない気がする。
「上の気温は寒いからな、しっかり上着も着ていこうな゛」
今日は暖かく、この乗り場でも少し汗をかくほどだが叔父の発言を参考に上着を着ることにする。観光名所だけあって休日の今日はそこそこの人がいるがまだ早いためか多くはない。母達のことだから私のことを気遣ってこの時間に来たのかもしれないとふと思った。
「ユキお姉ちゃん行こうっ!」
「うん」
しずちゃんに手を引かれてロープウェイに乗ったユキは不思議な感覚に襲われていた。
気持ち悪いわけではない、妙に心が澄んでいくのがわかるのだ。
体に今までにないほどの活力が湧き出すのが感じられた。なんとなくではあるが今なら空でも飛べそうなものである。
そういえば私の力は高いところに行くほど強くなるんだっけ。こんなに高いところに来たのは初めてだもんね。
そう納得したユキであった。
20分程のロープウェーで上がった先でさらにリフトに乗り換えて、しずちゃんの言った通りほとんど苦労もせずにユキは蔵王の山頂にやってきた。
御釜と呼ばれる火口が眺望でき、その火口には湖が出来、空の色を美しく映し出していた。
「綺麗・・・」
思わず自然の情景にそんな感想が零れた。
「冬はもっと綺麗だよ。知ってる?樹氷って言って木が雪で覆われるの!」
「あ、さっきロープウェイ乗るときに写真で見たやつ?しずちゃん見たことあるの?」
「へへー、去年の冬にお父さんとスキーで来たんだよっ、すっごく大きかった。」
「へーそれは見てみたいかも」
「マイナス15度くらいだけどね」
「それは遠慮したい・・・」
ユキのつぶやきを聴いたしずちゃんが、冬に見た雪景色を語ってくれた。
私は名前の割に冬生まれでもないし、寒いのは苦手だったりする。
とにかく、せっかくだからこの雄大な景色を目に焼き付けなければ。
そう、再び山の火口を見た私の視界に不思議な光景が見えた。
「樹氷?」
火口の反対側の峰に白い柱が数本視えたのだ。
さっきまではなかったような気がしたのだが、いくら涼しくても今は初夏だ。雪があるはずがない。
ユキは千里眼(仮)を使ってそれよく見ようとした。
「!!」
それは修練者のような白い衣を着た人のような者たちであった。
人のようというのは語弊があるかもしれない。衣は来ているが顔はなく本来首が出る衣の襟の部分には黒い影があるだけであった。
そして周囲の岩石と比べても明らかにサイズがでかく、体高で10m近くはあるように見える。
黒々とした岩と青い空の元で白い衣の巨人達の数は増えていく。
そして遂にその中の一体とユキは目があったのを感じた。
「くっ!」
急いで眼をそらしたが、あちらがまだこちらを視ていることは分かった。
「しずちゃん、もう行こうか」
「えっ、う、うん」
「!!・・・・」
カタカタと震える私の手を見て訝しるしずちゃんであったが、ユキの表情にただならぬものを感じたのか特に文句も言わずについてきてくれた。
しかし、しずちゃんの手を引きながら急いで元来た道を帰ろうとするユキが視たのは、火口の向こうに居るはずの白い衣の巨人が腰を折って衣の影の中から無いはずの瞳で自分の顔を覗き込む姿であった。
「不忘山、帰ッテキタカ」
そう巨人はユキに向かって話しかけた。