13. 仙風動骨
祖母の病院に着き、母とおじさんから一歩下がり二人を壁にしつつ病院内を移動する。
着いてから気がつくが病院という場所はユキのような異色の人物がとかく目立つ、患者さんにはギョッとされるし、看護師さんにはなにやら噂されている。
病棟のナースステーションで面会の手続きをして祖母の部屋に来た。
カーテンで遮られた四人部屋で、窓際のベッドで祖母はなにやら手紙を書いていた。何枚も何枚もそれは布団中にあった。
広告の後ろにびっしりと書かれた文は、広告の表の余白にも書かれているが、達筆すぎてユキには読めなかった。
「母ちゃん、また手紙かー、しっかたねーな。どこにだすだ?」
「武史んとこだ、それに詩織にもだ」
「母ちゃん俺も来とるし、今日は詩織もきたんだ、ユキちゃんも一緒だぞ」
ちなみに武史とはおじの名前で、詩織とはユキの母のことだ。なんとなく祖母の認知症の一端を見た気がするが、母と私とが来たことを言うとその顔は輝き出した。
「ほー、詩織も、ユキちゃんも来たのけぇ」
「母ちゃん、大丈夫か?」
「なーかなか、ほっだども、孫の顔見て元気でだよ、よく来なしてー」
「・・・」
祖母は顔を上げ、私達を見て笑顔を見せる。白髪混じりの黒髪に、しわくちゃだが、愛嬌のある笑顔は変わらずであった。しかし、以前の祖母と違うのはただ一点だけあった。
それは私と同じ空色の瞳だ。
以前の祖母は普通の黒の瞳であったはずだ。
そのことが衝撃過ぎてまともに挨拶も出来ずに、ただ笑顔を振りまく祖母に話しかけまくられ相づちをうち、時折、言葉の訛りが分からず母の通訳をもらって、その日の面会は終わりの時間になった。
「しっがし、せっかく山形さ来たんだぁ、明日は土曜でシズも休みだ。一緒にどこさか行くべ?」
祖母の病室でそんな事をおじさんは提案した。
「ユキちゃんどごか、行きたくなぃか?」
「いえ、私はどこでも」
正直言えば、私の体力を考えると既に一週間分は使い切る勢いだ。なるべくならゆっくりしたいのだがそう言える雰囲気ではないようだ。
「そんで決まりだ。明日は蔵王さ行くべ」
蔵王とは日本でも有数の火山で、スキー場やら温泉も有名なところである。どうやら明日のお出かけ先は決まったようである。
「山さ入るなら、裏のお堂に参りしなぁな」
祖母がそう忠告をするように言うと私の手を握った。
「裏のお堂って懐かしいわ」
「ほっだな、だけんど蔵王だぁ、あんところで何も起ねぇし、必要ねぇべ」
「いっどきなぁ、山入るなら参らななぁ」
「わがったよ、きーつける」
「きーつけなー」
祖母は何かのしきたりか、母の実家の裏手にあるというお堂を尋ねることを勧めてきた。 母もなにやら懐かしそうだが、おじは少し渋っていたが了承した。
「お母さん、おばあちゃんの眼って・・・」
「あれ、ユキちゃん初めて知ったけ?」
隣に座る母にまず気になった眼のことを聞いてみた。
「そう、ユキちゃんと同じ蒼色の瞳よ、東北の人の中で時折、アルビノって出るのよ。母ちゃんの瞳やユキちゃん位の髪と瞳はそうはいないだろうけど、色白の人なら結構いるわよ」
「へー、知らなかった」
どうやらユキのアルビノのルーツは、祖母にあったらしい。それにしても、なんで祖母と私だけがこの世界で違うのだろうか?
「それとお堂ってなに?」
「ああ、あんまり間に受けんでな。うちのしきたりで山入るならば参る事になってるんさ、実家の裏手の山のお堂だぁ、迷惑だけんども後でうちのシズに案内させっから、参ってきてくれな」
「は、はぁ、わかりました」
ユキはそう曖昧に頷く。
しかし体力の限界を迎えていたユキは走り始めた車に揺られて、母にもたれかかりつつ撃沈するのであった。