12 . 温故知新
私は大丈夫
私は大丈夫
私は大丈夫
ユキは心の中でそう唱えると前を見た。
目の前の大きなガラスの向こうには、巨大な鉄の塊が空に羽ばたくのを待っている。
そう、今ユキは家を出て空港に来ていた。
平日ということもあってか、出発ロビーの人はまばらで、片隅に座る私にはあまり注目はされないが、それでも久しぶりの遠出にして、沢山の人のいる場所。
最早、引きこもりを卒業したと言ってもいいのではないか、そう自負できそうだ。
まだ誰とも目は合わせられないし、話もできないがユキは自分の成長を確信した。
そして借りてきた猫のように大人しく、しかし緊張に背筋を張って売店に行った母を待っていた。少し涙目になりそうだ。
「お待たせユキちゃん、飲み物買ってきたわよ」
「ありがとう」
「大丈夫?」
「少し緊張してるけど・・・大丈夫。」
「そう、良かったわ。でも無理をしないで大変だったら言いなさいね」
「うん」
ユキはそう母に答えると、目立つ銀髪を隠すように帽子を深く被った。視界に誰かが映ると軽く震えがくる。
「おばあちゃんもユキちゃんに会えれば喜ぶわ」
「そうかな」
そう今回母とののいきなりの遠出の目的は祖母に会いに行くことなのだ。こちらのユキは正直いつぶりになるかわからないが、前のユキにとっても二年ほどご無沙汰していた。
「体調良ければ良いけど・・・」
「そうね、母ちゃんは昔は体も心も強い人だったんだけど、今回の前からもう少し認知症が進んでいたのよね。」
「そうなんだ・・・」
少し悲しそうに話す母に相づちを打ちつつ思案にくれる。
これはまた以前のユキの世界とは違う点だ。
祖母は七十を超えてもなお畑仕事に庭いじりを趣味としており、快活な笑顔の素敵なおばあちゃんであった。夫を亡くしてもおじさん夫婦といとこの家で元気に暮らしていたはずだった。
その違いはユキのことが関わってるかもしれないと思ったのが、今回頑張って、帰省する母の誘いに乗って祖母が入院している病院へ見舞うきっかけとなっていた。
飛行機は何事もなく目的地の山形県に降り立った。
何事もなくと言ったが1つあったか、実は飛行機の中で暇を持て余していたユキは千里眼(仮)を試してみた。
どこまで見れるか楽しみにしていたが、飛行機からだといくら高い場所であっても千里眼(仮)は使えなかった。どうやら地面について無いと使えないなんていう制約があるらしい。
「おばあちゃんもユキちゃんに会えれば喜ぶわ」
「そうかな」
空港にはおじさんが待機してくれていた。叔父はさくらんぼ農園を営んでおり、訛りは強いが素朴な雰囲気の優しい人柄であり、こちらのユキもアルバムでは膝に載せてもらっている写真もあり昔はよく懐いていたと思う。多少、それもあって安心した。
「良く来だな、ユキちゃんもこんだっに大きくなって、ますます美人さんだぁ」
「こんにちは」
「兄ちゃん、このまま、とりあえず病院に行こうかと思うのだけど、いい?」
「わかっだ、まーそっだに急ぐこどもねーから、田舎道をゆっくりいくべ」
とりあえず空港を出て、おじさんの車でのどかな風景の中をひた走る。
「そういや、ユキちゃんは家のしずは初めて会うっがな?」
「静葉ちゃんですか・・・そうですね」
「今、学校さ行ってるから帰ったらよろしくしてやってくれな゛」
いとこの静葉ちゃんは私より六つ下の女の子で、今小学校三年生であるはずだ。こちらでは十年引きこもっていたため未接触だ。
前は遊びに行くと私や兄の後ろをちょこまかついてまわってきて妹のいない私には可愛くてたまらなかった存在だ。また仲良くできればいいなとユキは楽しみに思うのであった。