11.禍福倚伏
ひさびさに投稿。
目の前に異形がいる。
それは確かに言葉を発した。
それは人間のように感情を表した。
だがユキの目の前にいるソイツは断じて人間ではなかった。
そいつは体が太いわりに手足はひょろりと長く身の丈はユキの2倍はある。横長な顔は猿のように皺が浮かび、爛々と輝く鈍色の瞳と半ばに開いた口は月明かりの影の暗さをより一層暗くしたように真っ暗にのぞいていた。
ガチガチと歯が震え、膝がガクガクと今にも崩れ落ちそうになるのを感じつつ、ユキはソレと対峙した。あまりの恐怖にすぐさま逃げ出したい衝動に駆られるが、身体が金縛りにあったように竦んで動かない。
「ミタ・・・ミエタ・・・・ハハハハははは」
どれくらいみつめあったか分からないが、無造作にソレはユキに近づき腕を掴み挙げた。掴まれた腕からゴワゴワとした掌の皮の感触が伝わり全身が泡立つ。
「ッ・・・や、やめて」
「さわ・・・サワレタ・・・ハナ・・・・ハナした・・・・あははははははははははあ」
何とか声を出したユキの反応に、ソレは過剰に反応して笑い出す。
そしてユキを掴んだ手と反対の手もユキに向けて伸ばしてくる。
「や、やめて、やめてぇーーーーーーーーーー!」
「!!」
ゴゴゴゴ・・・・ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・
やっとまともに出た声は、しんと澄んだ周囲の暗闇に響き、次いで周囲の大地が揺れ始めた。
木々は打ち合い、岩が崩れ、大地はひび割れを起こす。
「ヒィッ!?」
ソレはユキの腕を放すと一歩後ずさって周りを見まわして慌てる。
「怖イ・・・スゴイ・・・ナンテコトダ・・・・ヤメロ・・・・・ヤメテクレェ!」
再びユキを見るソレの瞳には恐怖があった。身体をちぢこませ、頭をかばうように抱えている。
「これ、私が・・・」
茫然と周囲を見るが、間違いなくこの激震は私の力が作用しているらしい、激しく揺れる周囲に反して私の周りだけは何も起きていないのだ。
周囲は揺れ続け、背後にあった古い寺は建物全体がギシギシと軋み、瓦が落ち始める。
その音にも一向に目を覚まさない七海ちゃんが心配で、心が少し冷静になり体が思うように動き始める。
「とにかく・・・逃げなくちゃ・・・」
意識がない七海ちゃんを何とか抱えると再び千里眼で兄たちを探す。
「居た・・・」
暗い山道を急いで上がってきている兄とゾーイだが、この揺れに立ち往生している姿が見えた。
一度跳んだことで感覚は残っていた。それを思い出すと今回は意識的に跳んだ。
視界が移り変わる寸前、アレが視界に入る。
マ・テ・・・
声は聴こえなかったが、再び鈍色の瞳に執着を覗かせ、そう確かにアレは叫んでいた。
局所的な地震で原因は山の地下の空洞の崩落では?なんてことにあの出来事はなった。
あのあと辛くも兄たちに合流した私だが、その場での話合いで私は目立たないように新たに目覚めた瞬間移動を使って家へ一足先に戻り、兄に借りた携帯を使いゾーイさんの携帯に家に着いたことを連絡。その後、兄たちは七海ちゃんを連れて捜索本部へ向かった。
そして夜中に父母が警察に呼び出され事情を聴かれるなどあったが、「肝試し中のカップルが偶然女の子を発見」という見出しで新聞に載るなど、兄たちはちょっとした英雄のような扱いで、関係者、特に七海ちゃんの両親からの感謝とうちの父母からお小言をもって無事、行方不明事件は解決した。
「まー、あの揺れの中、本当によく助かったよな俺たち」
「七海ちゃんも、退院して無事元気だって、ご両親から連絡来たって母さんが言ってた」
「それはユキちゃんノオカゲヨー」
家に遊びに来たゾーイを入れて、私の部屋でお茶を飲みつつ事件を振り返っていた。
「それししても、瞬間移動と念動力とは中二心をくすぐる力に目覚めたな」
「さすがに何度も試す度胸はないけどね」
「Coolヨ!デモ本当ニ野犬ガニゲテクレテ、ヨカタネ」
「う、うん・・・」
あの日見たアレについては兄たちには話していない。
ただでさえ新たな超能力でもお腹いっぱいなのに、あんなありえない生き物まで入ると私自身も爆発してしまいそうだ。
あの恐怖を少しでも早く忘れたい。
その時、私はアレの最後にみせた執着を浅はかに捉えていた。