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引きこもり少女に幸あれ  作者: motto
出会いと神隠し
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10.火中取栗

リビングにやってきた私の目に飛び込んで来たのはニュース番組のテロップであった。


『鈴木七海ちゃん(5歳)美倉山遠足中に行方不明、80名体制で捜索続く』

「この子って前に公園であった子じゃない?」


写真などは流れてはいないが、たしかにあの女の子の名前で年齢も一致する。


「どうしたの?」

「わからないけど、幼稚園の遠足中にはぐれてしまったらしいのよ」

「美倉山ってそんな迷うような山じゃないよね、はぐれたって・・・」

「それで事件・事故として扱うって・・・もしかしたら誘拐かもしれないわ」


 母が自分の服をきつく握りしめて、うつむく。

 昔の事件で、私を目の前で攫われた事がある母にとっては他人事ではないのであろう。


「大丈夫?」

「え?ええ、少し昔の事・・・思い出しちゃって、ごめんねこの話はあなたのがつらいのに」

「私は大丈夫・・・・それに、七海ちゃんもきっと元気にすぐ見つかるよ」

「そうね、ありがとうユキ」


 私は母の少し冷たくなった手をとり両手で温めながらそう言った。


 


「で、お前が探すと・・・」

「そう、『千里眼(仮)』あるし・・・母さんのあんな顔見てられないわ、それにこの寒空の下で七海ちゃんが震えてると思うと居たたまれない」


 しばらく後、仕事から帰って来た兄を捕まえて事情を話す。


「しかし、美倉山だろ・・・山も整備されてるし、人も多いから、きっとすぐ見つかるだろ」

「でも、まだ見つかってないのはおかしい・・・行方不明から10時間以上は経ったのに」


 外はすでに宵の口だ、こんなに見つからないのはおかしすぎるのだ。


「なるほど、事件かもしれないか・・・・」


 あまり乗り気でないように見えた兄は神妙な顔つきになる。


「私の能力なら助けられるかもしれない」


 私の眼を見て、兄は一度眼を閉じてうなずく。


「わかった、協力するよ。お前の能力があれば確かに早く片付けられるかもしれない。だが事件だとすれば人は多い方が有利だし、ゾーイも呼ぶぞ」

「ありがとう、孝太兄さん」

「あー、わかってると思うが父さん母さんに内緒で出かけるんだから、ばれたら覚悟しろよ」

「うん、了解」


 携帯でゾーイさんへとメールを打つ兄からは、そう釘さされた。



「夜中ノ冒険、召集アルガトー」

「ゾーイさん、来てくれてありがとう!」

「ノン、ノン、イイッテ事ヨ。ソレにコータとユキの組み合わせダッタラ、コータ警察ノお縄」


 いつもと変わらず、ニコニコと笑顔を振りまき金髪美女は颯爽と車から降りるとそう語った。


「・・・・確かに」

「確かにじゃねぇ!!・・・・・・・・・・・・・・・いや・・・・まて、検問とかあればそうなるか」


 ぼさぼさ頭のさえない青年と自分で言うのはなんだがキラキラな異色美少女(未成年)の組み合わせ。

 それこそ犯罪のにおいしかしない。


 ちなみに私が両親に早々に寝ると言って部屋に戻り、外出の支度をした後に、兄が両親にゾーイさんに呼ばれたので行って来ると話をしている最中にこそっと玄関から先に抜け出し、その後兄と合流しゾーイが車で合流いう形で現在に至る。


「で、今は女の子視えるのか?」

「ううん、さっきからやってるけど視える範囲にはいないよ、私の『千里眼(仮)』は高いとこに居るほど遠くまで視えるの」

「高さか・・・・・・千里眼のくせに近くに行かなきゃ視えないってのも、なかなかめんどいな。それこそ検問でもあるかもしれないが夜景の名所だからだましだまし近くまでは行ってみようか・・・」

「うん」

「OK、シュッパツシンコ―ウ」


 軽快なエンジン音を響かせゾーイさんの車は美倉山に向かって夜の街を走り抜けて行った。


「『視えた』・・・」


 美倉山の麓には捜索の対策本部が置かれ、夜中でもこうこうと明かりが灯されており、依然捜索が続けられているようだ。

 山に向かって懐中電灯を持つ人たちが歩いていくのも見える。

 意外と麓には野次馬も多く、その野次馬にまざって捜索の様子を視ているが大きな動きはなく、警察も誘拐の可能性も視野に入れて動いている様子だった。

 ここまで近ければ『千里眼(仮)』で山頂は無理だが山の大部分は私の視野の内だ。

 七海ちゃんを探して山の中腹のあたりを調べていたとき何かが引っかかった。


「『居た』山の中くらいの・・・家、お寺みたいなとこの裏に七海ちゃんがいるのが視える」

「おおよかったな!でもそんなわかりやすそうな所にいたのに、なんでみつけてあげられなかったんだ?」

「ナナミチャン、元気ソウ?」

「泣き疲れて寝てるようだけど、息はしてる。大丈夫そう。」

「ヨカッタ」


 七海ちゃんの姿を視て、少し安心したが5月のまだ夜は寒い時期なので早く助けてあげたい。

 なんとか道を探ろうと七海ちゃんの周囲を視た私はソレの存在を認識した。


 全身に鳥肌が立つ。


「大丈夫かユキッ!?」


 兄が私の異常を感じたのか声をかけるのが遠くに感じた。


「ナニ・・・・・なんなのあれは?」


 ゆっくりとそいつは七海ちゃんの体に手を伸ばす。


「ダメッ!!」


 私はただソレが七海ちゃんに腕を伸ばそうとしているのを視てしまい、夢中でソレとの間に立った。

 そう、兄たちといたあの山の麓ではなく山の中腹のお寺、七海ちゃんのすぐそばに私は瞬間的に移動したのだった。

 

 だが私にはそんな移動の事は考える余裕がなかった。


 目の前のソレは、急に現れたはずの私を驚きもせずに見おろして口角を上げた。


「ひひっ・・・・ミタナ・・・・・ひひ、ひひひひひ・・・」


 ソレは私を上から見下ろすと嬉しそうに、そう言って笑った。


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