表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘つきの箱  作者: 藤崎月火
1/5

第零話

第零話


「『善』って、なんなんだろう。何が『善』で何が『悪』なのか、ハッキリと明確に答えられる人はどこかに居たりしないかな?」



そこには、一人の少女が居た。黒髪を後ろで綺麗に切り揃え、前髪を赤いピンでとめている。顔立ちはとても幼く、奇妙な赤いセーラー服を纏っていた。



落ちていた細い枝を手に持ち先の方をくるくると回している姿は、まるで年相応のただの女の子だ、と木の陰に隠れる女は思った。



 空が橙色に輝く。カラスが数羽、電柱から羽ばたいた。



「あ、ちょっと待って!まだ話は終わってないんだよ!」


 その少女は、小さな携帯電話を持っていた。枝を持つ手とは反対の手でその携帯電話を耳元に当て、誰かと会話をしている。その携帯電話を耳元に当て、誰かと会話をしている。セーラー服は汚いだけであって、決して使い古されたというものではないらしい。



「あぁ、びっくりした。もう、人の話は最後まで聞かなきゃダメでしょ。で、話の続きだけどさぁ――…ん?続くよ?当たり前じゃん。…で、警察ならわかるのかな?悪い人を捕まえちゃうんだし。あ、でもでも、警察の人も悪い事したりするときもあるよね。あぁもう、どうしよう!私、困って困って困りまくって、もうどうにかなっちゃいそう!」


明るい朗らかな声で、楽しそうにしゃべっていた。嘘偽りなく、心から笑っているのだ。

 


少女は、人形の上に座っていた。その人形は一体だけでなく、表層だけでも五体はある。


「あ、でも……もう、どうにかなっちゃったから、手遅れだから、こんな風になっちゃったのかな?」


 少女はケラケラと笑った。その微妙な振動で、重なって山のようになっていた人形が一つ転がって落ちる。


仰向けになった人形は、男の顔をしていた。普通の、ごく平凡な男の顔で、服装はパーカーにジーンズというラフな格好である。ごく普通の、ごく平凡な人形。


――否。その人形は服が赤かった。胴体の中央の、鳩尾のあたりがとてもとても、異常なほど鮮やかに、赤い。




「手遅れは元からって…ひどいなぁ、もう。そんなんじゃあ、アタシ、怒ってもっともっともぉっと、どうにかなっちゃうよ?」



 少女は唇を少し尖らせた。

手遅れだからこそ、選ばれたというのに。



 少女は人形の山から軽々と飛び降りた。着地点は、転がっておちた人形の上だ。少女が着地すると同時に、人形の口から赤い液体が飛び出た。吹き出す、というよりも、吐き出すように。


ぬめり、と、謎の赤い液体は少女の靴にまとわりついていく。


「あれれ、血抜きはちゃんとしたと思ってたんだけどなぁ…あーぁ、靴が汚れちゃったじゃんか」


ペチペチと人形の顔を叩く少女は、どこかが欠陥しているように見えた。本当に、どこか大事なところが。



「…ん?あぁ、ごめんよ。…いやいや、大丈夫。コッチの話。それよりさぁ、どうするの?これ。…うん?アタシが処理すんの?え、マジで?」


 空はいつの間にか日が落ち、辺りは暗くなり始めていた。少女が人形を蹴った。


――否、それは人形ではなく…



「あーぁ、また無駄な人殺しをしちゃったなぁ」


 楽しそうな、嬉しそうな、可愛らしい満面の笑みを浮かべてそう少女は言ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ