水島の実録恐怖体験
僕は水島さんと一緒に部室に向かっていた。
「本当なの! 」
「水島さん。それって誰かがいただけじゃないの」
「でもあそこは入れないこと、神山君も知ってるでしょ」
水島さんはどうやら昨日の夜、学校で幽霊を見たらしい。僕は部室の扉を開けると椅子に座り、水島さんはお茶を湯呑に入れていた。
「じゃあ、見間違えたんじゃない? 」
「絶対見間違いじゃないよ。はいお茶」
水島さんは僕にお茶の入った湯呑をくれた。
「ありがとう」
僕は一言水島さんに礼を言った。水島さんは僕が話を信じてくれないからちょっと不機嫌だ。
僕がお茶を飲んでいると祥ちゃんが部室に入ってきた。
「祥ちゃん今日は遅かったね」
「今日は担任の話が長かったんだ」
祥ちゃんはいつもどおりゲーム機の前の座布団に座り電源を入れた。どうやら今日のゲームはホラーらしい。
水島さんは祥ちゃんにもお茶を渡しに行くようだ。
「はい宮城君、お茶」
「サンキュ」
祥ちゃんはお茶を受け取ると水島さんの顔を見て首を傾げていた。
「水島。どうしてお前がここに」
「えっ昨日からここに入部してるよ。宮城くんもいたよね? 」
水島さんの言葉になぜか祥ちゃんはその場にいたにもかかわらず、びっくりしていた。
この人はゲーム以外のことには興味がないのだろうか。
「まあ、よくわからないがよろしく」
「はいよろしくお願いします」
祥ちゃんはそれだけ言うとテレビの画面を見てゲームに集中し始めた。
そうこうしているうちに今日も同じように廊下を走る音が聞こえる。なぜ、京ちゃんは走ってくるのだろうか。廊下は走ったら危ないことを知らないのかな。こんなことを考えているとなぜか廊下から大きい音が聞こえた。
―――ドーン!
僕は廊下を覗きに行った。部室の扉を開けると京ちゃんがパンツ丸出しでこけていた。
「痛いわね、もう」
「京ちゃん大丈夫? 」
僕は京ちゃんに手を差し出す。
「大丈夫じゃないわよ。腰が痛いわ」
京ちゃんは僕の手を取る。京ちゃんは僕の手に引っ張り上げられて立ち上がると、スカートをパンパンと叩いた。
「廊下は走ると危ないから気をつけなよ」
「いやこれは誰かの陰謀よ」
京ちゃんは廊下にしゃがみ床をなでた。どうやら、何かが塗ってあったらしい。
そして、その手についたものを臭う。
「こ、これはグリースだ。やはり誰かの陰謀か」
なんでわかるんだよ。なんでグリースの臭いをこの人は知ってるんだよ。っていうかなんだよ、グリースって。
京ちゃんはその手をティッシュで拭き取ると廊下のグリースも拭き取った。すると、パッと立ち上がり祥ちゃんの方へと向かう。
「あんたがやったんでしょ」
「なんのことだ」
祥ちゃんはゲームをしながら言った。
「廊下にグリース塗ったの、あんたでしょう」
「証拠も何もないのに人を疑うのは良くないな」
まあたしかにその通りだ。
「証拠ならあるわよ」
そう言うと京ちゃんは突然祥ちゃんのカバンの中をあさった。
「おいちょ、やめろ」
祥ちゃんが焦る。
「これなーんだ」
京ちゃんが祥ちゃんのカバンから何かの容器を取り出した。
そして、祥ちゃんの膝が折れた。
「それはグリースだ」
あんたなんで持ってんだよ。
「そうさ。俺がやったんだよ。いつもいつも俺を殴りやがって。だからやり返してやりたかった。でも俺は女を殴ることなんてできない。それで、グリースを塗ってこかしてやろうと……。さあ煮るなり焼くなりしやがれ」
祥ちゃんの肩に京ちゃんが手を置いた。
「そうだったの……。ごめんんさいねとでも言うと思ったかー」
京ちゃんは祥ちゃんを立ち上がらせると机に上り祥ちゃんにフランケンシュタイナーを決めた。
「女の子がフランケンシュタイナーしたらダメ」
「春風さんすごいね。私もしてみたい」
水島さんはなぜか目を輝かしていた。
「なんでやりたいと思うんだよ」
僕は水島さんを説得し京ちゃんを落ち着かせ椅子に座らせた。本当になんだ、この部。
「それで、七不思議は見つけてきた? 」
「七不思議? 」
水島さんは京ちゃんの顔を見て首を傾げる。
「この部では学校の七不思議を探してそれを解明しようっていうことを今学期の目標にしてるんだ」
「そうなんだ。じゃあ私が昨日体験したことを解明するのはどう」
水島さんは昨日幽霊をみたとか言ってたし、それはいいかもしれない。
「なになにどんな話」
京ちゃんが興味津々で水島さんに近づく。
「これは、昨日の夜のこと。私は学校に財布を忘れたので旧理科室へと向かったの。合鍵を使って、旧理科室へと入ると屋上から女性の悲鳴が聞こえたの」
水島さんがおどろおどろしく話し始めた。僕は既に聞いた話だったので祥ちゃんのゲームプレイを見ながら聞いていた。
「屋上は鍵がかかっていて誰も入れない。私はおかしいなと思い財布をカバンにしまうと屋上へと向かったの。屋上の扉を回すとやっぱり鍵がかかっていたの。私は気のせいだと思い、屋上をあとにしようと思ったとき、すすり泣く声が屋上から聞こえたの」
水島さんは泣き真似をしながら京ちゃんを見ていた。
「私は怖くなってその場でこしをぬかしちゃって。それで、屋上の扉のすりガラスを見てたらボーっと何かが光ったの。そしたら、女性の声が聞こえるの『タスケテ。タスケテ』って。怖くて怖くてしょうがなかった。ようやく立ち上がることができて学校をあとにしたの」
水島さんはその話をしながら昨日のことを思い出したのか本当に震えていた。
そして、なぜか京ちゃんも震えていた。
「へぇ、幽霊を見たの。そうなの。でもね、私はオカルト話は信じないの」
「えーでも学校の不思議を解明するんでしょ。これは不思議じゃないの? 」
水島さんの意見は最もである。
「おい、京子。貧乏ゆすりやめてくれ。床に響く」
どうやら、京ちゃんは怖いのか脚をガクガクと揺らしていた。そういえば、京ちゃんは昔お化け屋敷に入ったとき失禁するほど怖がっていたことがある。
「京ちゃんもしかして怖いからしたくないんじゃ」
「べ、べちゅ。べつに怖いわけじゃないもん」
どもってるし、噛んでるし、怖い証拠だ。
京ちゃんが怖がっていると突然、祥ちゃんが立ち上がった。
「その不思議解明しようじゃないか」
祥ちゃんが京ちゃんを指差す。
「なんでよ」
京ちゃんは祥ちゃんを睨んだ。
「俺たちは謎を解明するためにこの部を作ったんじゃないのか。謎を解明することが学園F・N・F解明部の使命じゃないのか」
祥ちゃんはニヤリと笑い京ちゃんを見ている。その笑いの意味は京ちゃんがビビる姿を見たいからなんだろうなぁ。
「なんであんたそんなやる気なのよ」
京ちゃんは未だに脚をガクガクさせながら、祥ちゃんを見ている。
「お前は前に言ったよな。学生の本分は部活だと。たまには本分しないといけないと思ってな」
「ぐぬぅぅぅ」
祥ちゃんの言葉に京ちゃんは唸っている。まあ、部員がやる気を出しているのに部長がやる気を出さないわけにはいけないから当然だ。
「じゃあ、今夜九時に校門前に集合だ。わかったな」
祥ちゃんが僕たちを見た。
「わかった」
僕と水島さんは声を揃えて返事をした。ただ一人、なぜか机の下に隠れていた。
「真志。引きずってでも京子を連れてこいよ」
僕は机の下に隠れている京ちゃんを見た。まあこんな京ちゃんなかなか見られないし引きずってでも連れてくるしかないな。僕は、京ちゃんに見えないように祥ちゃんに親指を立てた。
「ねぇ、今日テレビで映画見たいから私は行かなくてもいいよね」
「俺が録画予約しといてやるからいいだろ。それに、部長がいないと締まらんだろ」
祥ちゃんは机の下に隠れる京ちゃんの肩に手を置いた。
「ぐぬぬぅぅぅぅ」
京ちゃんは本日二回目の唸り声をあげた。