涙
次の日。
旧理科準備室だった映研の部室で、未完の映画の台本を発見した僕らはすぐに、撮影の準備に取り掛かった。ヒロインはもちろん水島さんだ。でもなぜか主役は僕になった。反論はしたが京ちゃんが
「私は監督をするの。祥悟はカメラマンと編集。つまり、残るのはあなただけよ、真志」
と言って結局僕に決まってしまった。
撮影準備は着々と進んでいく。
僕は台本を読んで覚える。水島さんを見ると、彼女は演技の練習をしていた。練習の時点ですごくうまかった。
「こっちは準備できたわよ。あんたたちは大丈夫? 」
「私は大丈夫」
水島さんが真剣な眼差しで京ちゃん見ている。
「僕も大丈夫だよ」
僕は台本を閉じるとカメラの前に向かう。
「じゃあ、撮影はじめるわよ。よーいアクション」
京ちゃんがカメラの前でカチンコを鳴らし、撮影が始まった。
僕は、初めての映画撮影でめちゃくちゃ緊張した。演技も下手でセリフも間違えることも多々あった。でも、水島さんはめちゃくちゃ演技がうまく、セリフも間違えなかった。
僕は、監督である京ちゃんに怒られながらも必死に演技をした。
そして、映画の撮影が終わった。
「みんなお疲れ様。あとは祥悟が編集するだけなんだけど、水島さんが祥悟に指示を出してあげて」
「わかりました」
水島さんは力強く頷く。祥ちゃんは任せろという感じにサムズアップした。
そして、僕たちは、撮影機材を持ちながら部室へと戻る。
祥ちゃんは部室に着くとすぐにパソコンを起動させた。
そして、撮影した映像のデータをパソコンに入れ編集を始める。
編集作業は空が暗くなっても続いた。
そして、終わったのは夜の九時だ。
「これで完成だな」
祥ちゃんが水島さんを見ると、水島さんは大きく頷いた。
編集したものをフィルムに焼いて僕たちは部室をあとにした。
日付も変わり、今日は土曜日だ。
僕と京ちゃんと翔ちゃんは街の総合病院に来ている。水島さんは彼女のお兄さんの大地さんの病室へと向かっていた。僕たちは病院の前で彼女が出てくるのを待った。
そして、水島さんと車椅子に乗った彼女の兄さんである大地さんらしき人が出てきた。
「遅くなってすいません。これが兄の大地です」
僕には大地さんがただ眠っているようにしか見えなかった。
「じゃあ、行きましょうか」
京ちゃんがそう言うと僕たちは学校へと向かった。
僕たちは学校に着くと旧理科室へ大地さんを運んだ。
旧物理準備室からの梯子はというと祥ちゃんが大地さんを背負って運んだ。
祥ちゃんは映画が一番見やすい場所に置かれた車椅子に大地讃を座らせると京ちゃんが映写機を起動させる。
映写機に映し出された映像がカウントダウンを撮り始め、ゼロになると映画が始まった。
カラカラという映写機の音と演者の声だけが教室に響く。もうすぐ僕らが撮った場面へと変わる。僕は、静かに映画を見続けた。
そして、僕たちが撮った場面が流れ始めた。
僕は、大地さんを見て驚いた。彼は目を開けていた。その顔に表情はなかったがずっと映画を見続けていた。
「水島さん」
僕は水島さんに目配せをした。水島さんはそれの意味に気づき大地さんを見ると顔に手を当てて泣いた。
そして、映画が終わった。大地さんは涙を流していた。まだ、彼の意識が戻ったわけじゃないのかもしれない。ただの反射的なモノなのかもしれない。でも僕は信じている。きっと大地さんは、自分の作品が完成したのを見て泣いたんだ。
僕たちは、大地さんを病院に送り届けると家に帰った。