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学園F・N・F解明部  作者: 山神賢太郎
学園F・N・F解明部
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嘘の始まり

 僕はあの日じゃんけんで負けていた。あの時、フラッシュバックした記憶はどうやら兄さんの記憶だった。それもそのはずだ。だって僕は本当の神山涼一じゃないんだ。神山真志が作り出したもう一人の神山涼一なんだ。そう僕は偽物だ。

 本当の僕があの日どうして死んだのか。あの日本当は何があったのか。

 

 僕はじゃんけんで負けた。だから、近くのコンビニへお菓子を買いに行ったんだ。

 コンビニで買ったのはポテトチップス、クッキー、チョコ菓子とかいろいろ買った。京ちゃんの好きなプリンも買った。僕は買い物を終えると京ちゃんの家に向かった。

 そして、異変に気が付いた。京ちゃんの家が燃えていたんだ。家の外には火傷を負った。祥ちゃんと京ちゃんがいた。

 「兄さんは? 」

 祥ちゃんは二階を指さしていた。そこには、炎に包まれた部屋の中に兄さんの姿があった。

 僕は迷わず燃える家の中に入った。まだ下の階は燃えていないところもある。僕は階段へと向かった。階段は上の方が下の方はまだ燃えていないこれなら大丈夫だ。

 僕は駆け足で階段を上る。階段を上り終えた先はすでに火の海だった。熱いし、煙で前が見えない。しかし、大丈夫だ。京ちゃんの家は目を瞑ったってどこになにがあるかわかるかぐらい知ってるんだ。前が見えないくらいどうってことない。僕は京ちゃんの部屋を目指した。

 京ちゃんの部屋の入り口の辺りは火の勢いも下の階よりもひどく、京ちゃんの部屋の扉は火に覆われていて扉だとはわからなくなっていた。僕はそのもう扉とは言えないモノのドアノブを掴んだ。

「んーーッ! 」

 熱い。そりゃそうだ。熱された金属に触れれば熱い。でも、そんなことはどうだもいい。僕は兄さんを助けに来たんだ。僕は扉を勢いよく開けた。その時に、掌の皮が剥がれる痛みが走った。痛い。僕は目を瞑りその手を強く握りしめた。痛みに耐えるため、熱さに耐えるために。

 目をカッと開け部屋を見渡すと倒れている兄さんの姿があった。部屋を火が包み込んでいた。窓ガラスは割れ、部屋中にガラスの破片が散らばっていた。そんなことも気にせずに兄さんの元へ急いだ。

 「兄さん大丈夫? 」

 兄さんの意識はなかった。だが、心臓は動いているし、息もしていた。良かったまだ生きている。

 僕は、兄さんを背負うと階段を目指した。京ちゃんの部屋から階段まではそう遠くはない。しかし、火は来た時よりも勢いを増していて、燃えていない部分の方が少なかった。

 一歩一歩僕は歩く。階段まであと五メートルくらいだ。あと四メートル、あと三メートル、もう少しだ。僕はゆっくりと一歩ずつ進む。そして、階段へとたどり着いた。しかし、階段を見たとき絶望した。階段が炎で見えない。そこに、階段が残っているのかわからない。すでに、僕は炎に囲まれていた。勇気が欲しい。この階段を進む勇気が。

 僕は、いつも兄さんの後ろを歩いていた。何をするのも兄さんと一緒だった。兄さんにあって僕に無いもの、それは勇気だ。兄さんは京ちゃんのために上級生と喧嘩したり、僕がいじめられたらいつも駆けつけてくれた。僕も兄さんのような勇気が欲しい。

 僕は、僕は……。兄さんの手を強く握る。兄さんと一緒なら怖くない。

 燃え盛る階段へと足を伸ばした。そこに階段が残っているのかわからない。でも僕は進むんだ。

 ―――バキッ

 僕が踏み下ろした先には燃え尽きつつある踏み板があった。それは全体重を乗せれば折れるくらい脆い。これは駆け下りるしか術がない。急いで、次の足を下ろした。しかし、次の踏み板はすでに燃え尽きていて少しの体重も支えることができなかった。そのまま僕と兄さんは階段を転げ落ちた。

 痛みに耐えつつ目を開ける。目を開けると僕は上を向いていた。すぐに立ち上がり、兄さんを探す。兄さんは僕の下敷きになっていた。

 「イーッ! 」

 兄さんは痛みで意識が戻った。

 「兄さん、大丈夫? 」

 「なんで、お前がここにいる。お前は、外にいたはずだ」

 「兄さんを助けに来たんだ」

 兄さんは嬉しいような悲しいような、複雑な顔をしていた。

 「死んだらどうするんだよ」

 「兄さんのいない人生なんて嫌なんだ。僕と兄さんはいつでも一緒だ。だから、一緒に生きてここを出よう」

 兄さんは笑っていた。僕も笑った。死んでもおかしくない状況で僕たちは笑っていた。

 僕は兄さんを起き上がらせ、右手を背中に回した。

 「んーーーッ! 」

 兄さんは声の無い悲鳴を出していた。

 そして、兄さんの背中の異変に気がついた。どうやら、兄さんが倒れた先に燃えていた柱があったのだ。そのせいで兄さんの背中には右肩から左脇腹にかけて火傷を負っていた。

 「兄さん大丈夫? 」

 兄さんは痛みに耐えながら笑っていた。

 「大丈夫だ。これくらいなんともない」

 僕と兄さんは同時に頷くと兄さんに肩を貸して、玄関を目指した。

 玄関までは、約十メートル。問題なく進めばすぐに出られる。僕たちは今出せる最大のスピードで玄関を目指す。しかし、満身創痍では出せるスピードは歩くスピードよりも遅かった。

 燃え盛る廊下を一歩ずつゆっくりと進んでいく。二人共すでに限界が迫りかけている。それでも諦めることなく出口を目指す。もう玄関まであと少しだった。そうもう少しだったんだ。

 異様な音が聞こえる。その音は僕たちの上からだった。

 ―――バキッバキ

 上を見た瞬間それは起こった。天井が落ちかけていた。出口まですぐそこなのに。大きく一歩踏めば出口なのに。神様は残酷だ。だから、僕の今できる最善を尽くそう。

 僕は兄さんを出口へ押し飛ばした。

 「お前何を? 」

 僕は笑って兄さんを送り出した。これで良かったんだ。僕の目的は兄さんを助けること。それが果たしたかったんだ。だから良かったんだよ。

 景色はゆっくりだった。兄さんが玄関の外まで飛んでいくのがゆっくり見えた。もう兄さんは大丈夫だ。

 そこで、僕の人生は終わった。最後に見たのは兄さんの泣き顔だった。



 「涼一ーーーーーーッ! 」

 涼一の上に天井が落ちていく。

なんでお前は笑ってるんだよ。自分が死ぬのになんで笑えるんだよ。一緒に生きて出ようっていったじゃないか。なのになんで、お前は俺を助けたんだよ。

 俺は拳を何度も地面に叩きつけた。もう痛みの感覚なんかなかった。俺の中は悲しみでいっぱいだった。なんでこんなことにならなきゃいけないんだ。なんで、お前が死ななきゃならないんだよ。俺が諦めずにお前が帰ってくる前にあの燃える階段を進むことができていたらこんなことにはならなかったのに。

 「うおおおおおおおおおおおおッ! 」

 天に向かって吠えた。涼一はもう帰ってこない。俺はあの笑顔を一生忘れることができないだろう。もし俺があの時、涼一を押し飛ばせたら。もし俺がロウソクに火を着けなければ。もし俺がガスの臭いに気がついていれば。もし、もし……。もしを考えていたらキリがつかないほどある。俺はどうすれば良かったんだよ。

 振り返ると、京子と祥悟の泣いている姿が見えた。もう四人でいられないんだと思うとまた、悲しみが襲ってくる。

 そして、意識が遠くなっていく。目の前が白で覆われた。


 痛い。ここはどこだ。

 目を開けると白い天井があった。ここはどうやら病院のベッドのようだ。俺の体は包帯でぐるぐると巻かれていた。

 俺はなんでここにいるんだ。今はいつなんだろうか。この背中の違和感はなんだ。

 その背中に触れてみる。すると、急激な痛みに襲われた。そして、全てを思い出した。俺は涼一に助けられたんだ。あの時のことが鮮明に思い出された。涼一はどうなったんだ。

 「なんで俺がここにいるんだよー! 」

 奇声を上げながら何度もベッドを叩いた。何度も、何度も。

 それに気がついたのか京子が病室の扉を開けた。

 「真志。気がついたんだね良かった」

 その顔は泣き過ぎて、ひどい顔だった。

 「京子、涼一はどうなった」

 京子は俺の目を見ながらしゃくり上げながら答えてくれた。

 「涼一は……」

 「涼一は」

 「涼一は……死んじゃったよー」

 京子は布団に顔を埋めながら泣き出した。俺はそんな京子をよそに呆然としていた。

 「涼一が死んだ」

 認めたくないことだった。でもわかっていた。焼けた天井が涼一の上に落ちていくところを俺は見ていた。あの顔を俺は見ていたんだ。わかっていた。でも認めたくなかった。

 俺は、また意識を失った。というより、心に鍵をかけた。

 いつまでそうしていたんだろうか。俺はずっと目を覚ますことを拒んだ。

 そして、一つの答えを出した。それは、俺が死ぬことだ。俺が死んだことにすればいい。俺が涼一になればいい。俺たちは双子だ。だから、大丈夫。俺が死に涼一が真志として生きればいい。この嘘を貫けばいいんだ。

 俺は総決意すると、心にもう一つの部屋を作った。偽物の思い出を詰めたその部屋にもう一人の自分を作った。名前はそのままにして弟としての自分を作った。自分はこいつを助ける時だけでよう。この偽物の弟を守るため時だけ扉を開けよう。俺は弟助けられなかったダメな兄だ。だから、罰を受けよう。この命が尽きるまで嘘を吐き続けよう。

 俺はその日を境にその偽物の弟に体を預けた。そうすることが正しいと思っていたから。それでも、助けがいる時は扉を開けて目を覚ました。弟が真実を知ろうとすれば、扉を閉めて思い出さないようにしていた。そうして、近く遠い位置で弟を守っていた。これが、俺の七年間貫き通した嘘だった。

でも、俺の七年間の努力は無駄だった。知られてしまった。嘘がバレてしまった。俺がしたことはなんだったんだろうか。もうわからない。

 そして、意識の中に雫が落ちた。

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