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学園F・N・F解明部  作者: 山神賢太郎
学園F・N・F解明部
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あの日

 真っ暗闇の中に僕はいた。

 ここは、夢の中なのだろうか。なにもない、地面も天井も色も。浮かんでいるのか立っているのか。それさえも分からない。ただ、懐かしい気がしていた。

 ここに来る前のことを思い出す。僕は、京ちゃんの部屋で新聞の切れ端を拾った。そこには、僕には信じることのできないことが書かれていた。

 七年前のあの日、京ちゃんの家で火事が起こった。火事の原因はガス漏れによるものだった。負傷者3名、死者1名。死者の名は、神山涼一。そこに、何の問題はなかった。ただ一つの文を除いて。それは、死者が神山真志の弟だったということだ。つまり、僕だ。

 しかし、僕の名は、神山真志だ。兄さんの名は神山涼一だ。それに偽りはないはずだ。どんなに考えたところで、僕の頭の中で解決できるはずもなかった。でも忘れていたことがある。思い出せないことがある。それはあの日。事件のあったあの日を思い出すことができたら僕のこの謎は解明することができるはずだ。

 あの日何があったのかそれを知る人物は、三人だ。京ちゃん、祥ちゃん。そして、兄さん。この三人にしか、この背中の火傷が付いた日を教えていくれる人はいない。

 そんなことを思っていると、暗闇の中から誰かの足音が聞こえた。だんだんとその足音は僕に近づいてくる。その時わかった。ここは僕の心の中だ。

 足音の正体が僕の目の前に現れた。それは、心的外傷(トラウマ)が生み出したもう一人の僕だった。久しぶりに見る兄さんに僕は涙をしていた。

 「兄さん僕は誰なの」

 会えたことに対する喜びの言葉は出なかった。ただ、僕は誰なのかそれだけが知りたい。この謎を解明できる人物が目の前にいるのだから、そんな言葉しか出なかった。

 「知らなくていいことだったんだ。お前は何も知らないで、楽しく暮らしていればよかったんだ。俺がお前の嫌な思いでは背負ってやる。だから、お前は何も知らないで過ごしてくれ」

 「答えになってないよ! 僕の名前は神山真志のはずだ。でも僕は兄さんの弟だ。じゃあ、あの日は誰が死んでしまったんだよ」

 兄さんの胸ぐらを掴みながら揺らした。でも兄さんは涼しい顔をしたまんまだった。

 「そうまでして、知りたいのか。だったら教えてやるよ。あの日本当は何があったのか。あの日、誰が死んでしまったのか」

 兄さんの言葉に反応して、辺りが光りだした。

 そして、まるで映画館のようなスクリーンに映像が流れた。



 七年前の今日、七月二十九日の暑い日のことだった。

 俺とお前は京子の家に向かっていた。そう、この日は京子の誕生日だ。お前は、笑いながら京子の誕生日ケーキと誕生日プレゼントを持ってはしゃいでいたんだ。俺もそれを見て、笑っていた。京子の家に行くと京子と祥悟が出迎えたんだ。祥悟の顔にはなぜか殴られていた跡があった。俺とお前は祥悟の顔を見て笑っていた。

 そして、俺たち二人で誕生日パーティをすることにしたんだ。京子の部屋をみんなで飾り付けをしていた。その時、お前が菓子が少ないことに気が付いたんだ。そこで、俺たちは菓子の買い出しのジャンケンをすることにした。そのジャンケンでお前が負け、お前は近くのコンビニに買出しに行くことになった。

 お前がコンビニに行っている間に悲劇が起こったんだよ。

 俺は、京子の部屋でケーキのロウソクに火を着けようとしていた。京子と祥悟は、下でお湯を沸かしていることを思い出して見に行ってたんだ。そんな時だった。俺がロウソクにライターで火を着けようとした瞬間、爆発が起こった。たった一瞬で辺りは火の海と化し、窓のガラスは割れていた。原因はどうやら、ガス台の火がお湯の沸騰で消えたことによりガスが漏れたんだ。それに、ライターの火が引火したらしい。

 京子と祥悟の叫び声が聞こえた。俺は、叫ぶこともできずただ茫然と立ち尽くしていた。階下に降りる階段は燃えていて、降りることさえできなかった。割れた窓ガラスから外を覗くと祥悟と京子の姿が見えたんだ。俺はそれを見て安堵した。京子達は泣きながら俺の名を叫んでいた。そこに、お前が帰ってきた。

 お前は、俺の姿を確認すると家に入ろうとしてきたんだよ。しかし、家に入ってすぐに俺のところにはこれなかった。なぜなら、燃えた天井の柱がお前の背中に落ちてきたからだ。お前は、祥悟に助けられその背中の火傷だけで済んだ。

 俺は、煙を吸ってその場で倒れた。そこから、俺の意識はなくなった。だから、死んだのは俺なんだ。

 お前は、病院で目を覚ました。しかし、そこでお前は俺が死んだという事実を消すために俺になった。弟である神山涼一という人間を殺し、兄の神山真志になったんだ。そうお前が起きた時は俺だった。そのため、嘘の記事ができたんだよ。実際に死んだのは、双子の兄だが、双子の弟であるお前が俺の名前を語って、死んだ人間を偽ったんだ。

 だから、生きているのはお前だ。それだけだ。



 あの日を映し出した映像が消えた。それとともに、兄さんはどこかに消えて行ってしまった。

 僕が知りたかった真実を兄さんが語ってくれた。でも僕にはそれが真実には思えなかった。僕が本当は神山涼一だなんて信じられなかった。それに、兄さんはどうして死んだ人間の記憶をあそこまで鮮明に思い出すことができたのだろうか。だって、僕は事故の時コンビニにいたんだ。だったら、僕の中の兄さんも事件のことなど記憶することなんてできないはずだ。

 兄さんは嘘をついている。どこまでが嘘なのかわからない。それに、今日何気なく思い出したこと、僕はあの時ジャンケンで勝っていたんだ。ということは僕はコンビニに買出しに行ってないことになる。じゃあ誰が、負けたんだ。

 兄さんが語ったことによって謎が増えてしまった。見つけなきゃいけない、本当のことを。僕が誰なのか探さなきゃ。

 辺りが光りだした。この闇が終わったら僕を探しに行こう。

 光は僕を包んだ。起きる時間だ。

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