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学園F・N・F解明部  作者: 山神賢太郎
ミズの精
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ミズの精の謎

  僕たちがミズの精を探して一時間くらいが経過した。

  みんな、京ちゃんの指令通りに探しているが、明らかに疲れというか探すことに飽きた。

  祥ちゃんは既に、撮影するという気も起きないのか。岩に座ってボーっとしている。

  僕も、岩に座って休憩することにした。

  すると、おばあさんが道を歩いているのが見えた。どうやらおばあさんは近くにあるお地蔵さんにお供え物をしに来たらしい。

  おばあさんは僕たちに気がつくとこちらに近づいてきた。

  そして、おばあさんは一番近くにいる京ちゃんと話しを始める。

  僕は話し声が鮮明に聞こえる距離ではなく何を言っているのか、わからなかった。

  みんなもそうなのか、京ちゃんの元に集まりだした。

  「どうしたんすか」

  奈央ちゃんがおばあさんと京ちゃんを交互に見た。

  京ちゃんは一度ため息をつく。

  「ここはどうやら遊泳禁止の川らしいわ」

  僕たちは京ちゃんの言葉を聞き、そのおばあさんを見た。

  「遊泳禁止ってそうなんですか」

  おばあさんは小さく頷いた。

  「そうなんよ。最近はここで泳ぐ人もおらんけん、手入れも何もされとらんけど、ちょっと進んだところに遊泳禁止の看板が昔はあったんよ。今はもう折れて看板は残ってないんやけんど。それに、ここは流れが急なところがあるけん。流されて死んだ人もおる」

  僕たちはおばあさんの言葉を聞き、川から上がって休憩所へと向かった。

  「はあ、ミズの精はやっぱりいないのか……」

  京ちゃんがボソッと声を出した。

  「あんたら、ミズの精を探しに来てたんかい? 」

  おばあさんは京ちゃんからミズの精という言葉が出たことに驚いていた。

  「何か知ってるの? 」

  京ちゃんはサッとおばあさんの方を振り向く。

  「知ってるもなにも、ミズの精っていうのはこの川のことじゃけん」

  「えーー」

  僕たちは、おばあさんの言葉に一斉に声を出して驚いた。

  「この川がミズの精ってどういうことよ」

  京ちゃんは息を荒げて、おばあさんにすりよった。

  おばあさんは京ちゃんがいきなり近づいてきてびっくりしていた。

  「えっとな。ミズの精の名前の由来は、いくつかあるんじゃ。一つは、ミズの精というのは見ることができない精霊様のことで、精霊様を見ることができたら幸運が訪れると言われておる。そこで、見えない精霊じゃから見ずの精という名前になったと言われとる」

  おばあさんの言葉に京ちゃんは怒りを見せていた。

  「なによそれ。見えない精霊をどうやって見ろって言うのよ」

  京ちゃんに詰め寄られておばあさんは戸惑っている。

  「いやそれ以外にもな、ここの川の水には、少しばかり温泉が混じっとってな、怪我をした人間がよく入っとたんそうじゃ。やけどをしとる人は熱くてお湯につかれんじゃろ。それで、ここの川に入って傷を癒しとったそうじゃ。そこで、傷が治ったのは川にいる水の精のおかげじゃという人がおったらしいわ」

  僕はおばあさんの言葉に覚えがあった。

  ここの川に入ってからの背中の違和感の理由がやっとわかった。確かに、ここの川の上には温泉宿があるから、川に温泉が入っている可能性は十分にある。

  京ちゃんはというとおばあさんの言葉に納得できていないみたいだった。

  「どっちにしても、幸運なんて得られないじゃない」

  おばあさんは、京ちゃんの言葉に困惑していた。

  おばあさんもミズの精について教えてあげたのに、怒鳴られると思っていなかったのだろう。すいません。

  そんな、不機嫌な京ちゃんに祥ちゃんが近づいてきた。

  「よく考えてみろ。ミズの精は見えないって言うんだろ。そして、ミズの精というのはこの川の事なんだろ。だったら、こう考えたらいいんじゃないか。ミズの精がこの川と気づけたものに幸福が訪れる」

  京ちゃんは祥ちゃんの発言に何度もうなづいた。

  「なるほど、それなら私たちは既に目的を果たしているわ。ハッハッハ」

  京ちゃんは高笑いを始めた。

  僕は、一人笑う京ちゃんをよそにおばあさんに何度も礼をした。

  「どうもありがとうございました」

  「いやいや。子供は元気が一番やけんな」

  おばあさんはそのままどこかに去っていった。

  

  それから僕たちは着替えをして、帰ることにした。

  川泳ぎで疲れきった体で、また歩かなければならないというのがとてもしんどい。

  水島さんは今にも寝てしまいそうになっている。

  「大丈夫水島さん」

  僕が水島さんに声をかけると、水島さんは顔を真っ赤にしていた。どうやら、あの時のことを思い出しているようだ。

  「大丈夫だよ」

  水島さんはそう言うと僕から目をそらした。

  僕たちは、長い山道をとぼとぼと帰っている。そんな時、京ちゃんがポストを発見し立ち止まっていた。

  「どうしたの、京ちゃん」

  僕が聞くと、京ちゃんはニヤリとした。

  そして、カバンから大量のはがきを取り出した。

  「それなんのはがきなの」

  「これは、応募はがきよ」

  確かに京ちゃんの持っているはがきは、雑誌についている応募はがきだ。

  「なんの応募はがきなの」

「いろいろよ。うちに百冊くらい雑誌があったからそれの応募用よ」京ちゃんはそう言いながらポストにはがきをいれた。

その時僕はあることに気がついた。

「まさかその応募をはがきを当たるようにするためにミズの精を探してたの? 」

「えっそうだけど」

   京ちゃんは当たり前のように言ってきた。

  「じゃあ僕たちはそんなことのために探してたの」

  「そんなことってどういうことよ私はこの部のために、わざわざ百枚以上も応募はがきに住所と名前と電話番号を記入したんだからね」

  京ちゃんが仁王立ちをして、僕を指差す。

  「この部のためってどういうこと」

  僕は、京ちゃんの指を握り締め横にずらしながら京ちゃんに聞いた。

  京ちゃんは、僕に指を握られて嫌だったのか僕の手を振りほどくとまた僕を指差す。

  「さっきの応募はがきには、旅行だとかテレビだとか高級黒毛和牛だとかがあるのよ。そんなものを私が独り占めすると思うの」

  いや僕はあなたならやりかねないと思いますよ。なんたってうちの部の女王様なのだから。こんなことは死んでも口に出せない。なので僕は無難なセリフを言う事にした。

  「いや、まさかそんなこと思ってませんよ」

  「なんで、敬語なのよ。怪しいわね」

  京ちゃんは僕をキッと睨む。

  しかし、その顔もすぐに緩んだ。

  「まあいいわ。なんたってこの応募はがきは全部当たることになるのだから」

  京ちゃんは手を口に当てて、アメリカのアニメの犬のような笑い声を出した。

  日も暮れた七月の空。雲が茜に染まっているのを見ながら僕らは駅を目指している。

  こんな日も悪くはないと思う僕がいた。

  もう一学期も終わり、夏休みなのだなと寂しくもあり嬉しくもある。

  こんな日常が終わらなければいいのにと僕はふと思っていた。

これで第七章がおわりました。

次回から最終章です。

どうぞお楽しみに。


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