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学園F・N・F解明部  作者: 山神賢太郎
ミズの精
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川と水着と風船

  セミの声が聞こえる。

  僕はどれくらい眠っていたのだろうか。頭の上にヒンヤリしたものがあった。

  僕は目を瞑ってそれを手にとってみる。それは、濡れたタオルだった。

  目を開けると祥ちゃんがスポーツドリンクを飲んでいた、

  「やっと目を覚ましたか」

  「僕はどれくらい寝てた」

  「一時間くらいだ。ほれ」

  祥ちゃんはまだ冷たいスポーツドリンクを僕に投げた。

  まだ、頭がぼんやりしていて、うまくキャッチすることができなかった。

  「大丈夫か」

  祥ちゃんはそんな僕を心配してくれる。

  「大丈夫。まだ頭が、ボーっとしているだけだから」

  僕は取り損ねたスポーツドリンクを拾い、一口飲んだ。たった、それだけのことなのにだいぶ頭がすっきりしてきた。

  祥ちゃんはさっきまで、ただの変態だったのにこういうことになると、誰よりも心配してくれる。

  僕はそんな友達がいて幸せだなと感じていた。

  「そろそろ、合流するか」

  僕は一度頷いて立ち上がる。僕たちは京ちゃんがいる場所へと向かった。

  一分くらい歩いたところで、川が見えた。川の中では京ちゃんが戦闘態勢で突っ立っている。

  僕たちはそれを見て一瞬止まってしまった。

  すると、京ちゃんがこちらをじーっと見ている。僕たちは、ゆっくりと目線を反らしていった。

  チラッと京ちゃんを見てみる。京ちゃんは僕たちの方を指差し指笛を鳴らす。

  ―――ピーッ

  すると、左右の草むらがガサガサと揺れた。そこから現れたのは水が大量に入った風船を持った奈央ちゃんと水島さんだった。

  奈央ちゃんはジャンプしてその風船を祥ちゃんめがけて投げる。

  祥ちゃんはそれをギリギリで交わす。ジリジリと、にらみ合いが続いた。

  水島さんはよろめきながら僕の方に向かってくる。

  「うんしょ。うんしょ。えい」

  水島さんは水の入った風船を投げるというよりは落とした。

  風船に入っていた水は全部、水島さんにかかった。

  「冷たいよ~」

  その隙を見逃さなかった人物が一人いた。祥ちゃんだ。祥ちゃんは、カメラを構えると水で濡れた水島さんを接写していく。

  奈央ちゃんは祥ちゃんの後ろから小さい水風船で攻撃する。しかし、祥ちゃんはそれを避けつつ水島さんを撮る。

  さらに、祥ちゃんが避けた水風船は全て水島さんにあたっていく。

  この人たちは何がしたいのだろうか。僕はもうわからないというか。この状態を作った張本人に直接聞くことにした。

  「京ちゃんは何がしたかったの」

  僕たちの攻防を仁王立ちで見ていた京ちゃんは手頃な岩を見つけるとその岩に座った、

  「私たちを一時間も待たせた罰よ」

  京ちゃんはニッコリと笑ってみせた。

  それを見て、僕も笑う。

  「全然、罰になってないけどね。今はもう水島さんがいじめられているようにしか見えないよ」

  「しょうがないわね」

  京ちゃんは立ち上がり、風船を川の流れの早い場所に入れる。そうすると、風船の中に水が入り、だんだん大きくなっていく。

  京ちゃんは、その風船が直径三十センチ位になると、風船の口をくくり祥ちゃんめがけて投げた。

  祥ちゃんは奈央ちゃんの水風船を避けつつも、京ちゃんが投げた水風船の落下位置を予想し避ける。

 しかし、ここで思いもよらないことが起きた。

 京ちゃんは、サッと吹き矢を出すと投げた水風船へ針を飛ばした。

 水風船はちょうど祥ちゃんの頭上で割れた。つまり、祥ちゃんはカメラもろともビショビショだ。

 「マイキャメラーーーー! 」

 祥ちゃんの叫び声が山に響き山彦となって返ってくる。

  しかし、祥ちゃんはすぐに立ち直るとカメラをイジっている。

  「フーっ。忘れてたぜ、これ防水だったわ」

  祥ちゃんの安堵とは別に京ちゃんの舌打ちが聞こえた。

  僕はそんな京ちゃんたちをよそに川に足を入れてみる。ほどよい冷たさだ。

  全身が入る深さの場所に歩を進め川に浸かる。気持ちがいい。

  たまに痒くなる背中の火傷の痕にちょっぴり違和感を感じた。まるで、傷痕が無くなったような。そんな感覚だ。

  左手で右肩に触れてみる。そこにはちゃんと傷痕が残っていた。

  僕は、この川に癒されながら今回の目的のことなんて忘れていた。

  京ちゃんたちを見ると、川の中で水の掛け合いをしているようだ。祥ちゃんはいいアングルを見つけたのか、そこから、女性陣の水の掛け合いを撮っている。

  そんなことをしていると奈央ちゃんのお腹が鳴った。奈央ちゃんは顔を赤くして、京ちゃんを見ている。

  「そうね、もうお昼だし、ご飯にしましょう」

  僕たちはさっきの休憩所に集まって、女性陣が作った弁当を食べた。

  京ちゃんが作ったのはオムレツ。形はいたって普通。僕は一つ手に取り、口に入れる。

  うまい。オムレツの中には刻んである玉ねぎとウィンナーが入っていて、普通に美味しかった。

  「京ちゃん美味しいよ」

  「当然よ。誰が作ったのと思っているのよ」

  京ちゃんは笑っていたけど、その笑い方が嫌な笑い方だった。

  祥ちゃんが京ちゃんの作ったオムレツを口に入れる。

  祥ちゃんの顔色がだんだん青くなる。祥ちゃんはトイレに直行した。

  そして、すぐ帰って来た。まだ、青い顔をしている。

  「何が入ってたの」

 京ちゃんがニヤリと笑った。

 「シュールストレミング」

 この人は悪魔か。シュールストレミングスト言えば世界一臭い食べ物と言われる発酵品。というかまず、どこから入手したのだろうか。

 僕は口臭がキツイ祥ちゃんに水を渡す。

 祥ちゃんはそれを一気に飲み干すが、飲み干したあとに鼻にくる臭いでまた青くなっていた。

 僕は、それから京ちゃんが作った料理には一切手をつけず、家庭的な水島さんの料理とちょっと濃い目の甘辛ソースを存分に使った奈央ちゃんの料理を食べた。

 もう、その時には誰一人として、ここに来た目的なんか忘れていた。

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