絆
七月一日。
僕たちは部室の部屋の前にいた。
僕らの放課後に集まる場所はそこにはない。そこに、部活のキャプテンが数名現れた。「あれ、奉仕活動ってもうやってないの」
バスケ部のキャプテンが僕らに聞いてきた。
僕たちは首を横に振り答える。
「廃部になったのよ」
京ちゃんが落ち込みながらキャプテンたちを見ていた。
「マジかよ」
キャプテンたちは、皆一様に文句をたれていた。もうすぐ総体が始まるため、練習に力を入れたい。そのためには、京ちゃんや祥ちゃんがいる方が都合がいいのだろう。
「なんで、廃部になったの」
そう言ったのはハンド部のキャプテンだ。
京ちゃんは、ここに至るまでの経緯を話した。
キャプテンたちは怒ったり、呆れたりした。
そこで、バスケ部のキャプテンが口を開いた。
「お前らちょうど五人いるんだから、また部活作ればいいじゃん」
その意見に僕たちはハッとした。
そうだ。その手があった。
僕たちは、部の発足に向けて書類の作成や顧問を探した。
書類はすぐにできたし、顧問も仙田先生がしてくれることになった。
仙田先生は笑いながら、二つ返事で僕たちの顧問をしてくれることになった。
僕たちは、作成した書類を部活の総合的な管理をしている副校長のもとに書類を提出しに行った。
副校長は僕たちを見て驚いていたが、すぐに笑い出した。
「なにがおかしいのよ」
京ちゃんは副校長を睨む。その度胸は驚くべきスキルだ。僕には絶対できない。
「いやいや。君たちの行動力には毎度驚かされる。部を廃部にさせた張本人である私に今度は、部の設立を申し込むなんて普通はできることじゃない」
副校長は、ずっと笑いながら僕たちを見ていた。
「じゃあ、部は設立してもよろしいんですか」
僕はじっと副校長の目を見た。
しかし、副校長は残念そうな顔をしている。
「すまないが、今私にその権限はないんだよ」
どういうことなのだろうか。たしかに部活の管理をしているのは副校長のはずなのに。
「どういうことよ」
京ちゃんは副校長の机に手を付き前のめりになる。
「それが、新しい生徒会になってから、部の設立について少しだけ内容が変わったのだ」
僕たちは全くそれを知っていなかった。
「どう変わったのよ」
「それはね、部の設立には私やほかの教師陣の同意と生徒会の同意が必要になるのだよ。君たちの最近の活動を見ていれば教師陣の同意は簡単に受け入れられるだろうが生徒会の同意は難しいだろうね」
「そんな……」
京ちゃんは落胆している。
しかし、そこで意外にも祥ちゃんが口を開く。
「生徒会の同意があればいいんだ。だったら今から生徒会室に行くぞ」
祥ちゃんは職員室の出入口へと向かった。僕は副校長に一度頭を下げて祥ちゃんについて行く。ほかのメンバーも同じようについてきた。
京ちゃんは未だ落ち込んだ様子で水島さんに支えられながら歩いている。
僕たちは祥ちゃんを先頭に生徒会室へと向かった。
祥ちゃんは生徒会室の扉の前まで行くとノックもせずに扉を開けた。
扉を開けると生徒会役員立ち数名がこちらを見ている。どうやら、総体前にある総会の進行などを決めているようだ。
生徒会長である東郷君は僕たちに気付くと静かに一歩ずつこちらにやってきた。
「やあ、学園F・N・F・解明部の皆様。おっと失礼今は旧学園F・N・F・解明部だったね」
東郷君は僕たちに嫌味を言いながら不気味に笑っている。
「前置きはどうでもいい。これにサインをくれ」
祥ちゃんは東郷君に部室の設立に関する書類を差し出した。東郷君はそれを受け取ると、読みもせずにバラバラに破いた。
「君たちが部を設立することは認められないんだ。悪いが帰ってくれ」
東郷君は手で僕たちを追い払う。それを見た祥ちゃんが東郷君に殴りかかろうとした。「この野郎……」
僕は祥ちゃんを止める。
「暴力で解決とは良くないな」
東郷君は少しビビっていたが、それも一瞬だけですぐにキリッとした表情に変わる。
「なにが、望みだ」
祥ちゃんは東郷君を睨みながら聞く。
「そうだな。春風さんが我が生徒会に入れば、設立を許そう。あっでもそれだと人数が足りなくなるな」
東郷君はにやけながら京ちゃんを見た。
「性悪が」
祥ちゃんは悪態を付く。
「やはり、君のようなクズがいる部活は設立することはできないよ」
東郷君は祥ちゃんを睨みながら笑う。
もう僕には祥ちゃんを止めることはできない。だって、僕もこの人に殴りかかろうとしていた。
「お前らやめろ」
僕は声のする方に顔を向ける。そこには、仙田先生とこの学校のすべての部活動のキャプテンが集まっていた。
「そんなことをしたら、部は一生設立することはできないぞ」
仙田先生が僕たちに近づいてきた。
そして、東郷君に紙の束を渡す。東郷君はそれを見て驚いている。
「仙田先生これは」
東郷君は声を震わせながら仙田先生を見ている。
「それは、お前を生徒会から降ろすための署名だ。この学校の生徒の三分の二以上がそれに署名をしてくれた。たった一時間もかからんうちに署名を集めることができたよ」
「そんな馬鹿な」
東郷君は紙を何枚も捲る。
「ただし、それが執行されない条件がある学園F・N・F・解明部の設立を認めることだ。どうだ。簡単なことだろ」
仙田先生は僕たちの方を向いてニヤリと笑っている。
京ちゃんはそれを見てなぜか悔しそうにしていた。
「そんなの選択する余地ないじゃないか」
東郷君は床に崩れるように倒れた。
「じゃあ、部の再設立を認めるのね」
京ちゃんは東郷君を見下ろす。それは冷い目だった。
東郷君は静かに頷いた。
僕は、東郷君の目線までしゃがんだ。
「なんでこんなことをしたの」
東郷君はボソボソと小さく何かを言っている。僕はそれを聞き取ることができず、東郷君の口元に耳を近づけようとした。
その時、東郷君が僕を押し倒して立ち上がった。
「痛ッ」
僕は尻餅を付き、東郷君を見上げた。
「俺は春風京子、君が欲しかったんだ。君を独占したかった。そのために、こんなことをしたんだよ。僕は、君が好きなんだ」
東郷君は京ちゃんの両肩に手を置き、泣いていた。
京ちゃんはまだ冷たい目で東郷君を見ている。
そして、京ちゃんは東郷君の手を振り払った。
「前にも言ったと思うけど、私はあんたのことなんてこれっぽっちも好きじゃないのだから諦めなさい」
京ちゃんは東郷君を睨み続ける。
「じゃあどうしたら好きになってくれるんだ」
東郷君は泣き顔で京ちゃんを見上げている。
「そうね。取り敢えず自分のことしか考えないような男は好きにならないわね。私が好きになる人間はね。仲間と一緒にバカ騒ぎして楽しんでくれる人だったり」
京ちゃんは奈央ちゃんを見ている。
「場の空気に合っていないこと言ったりもするけど、そんな発言で癒してくれたり仲間を思っている人」
京ちゃんは水島さんを見た。
「いつもはゲームばかりして、下ネタしか言わないようなバカだけど、仲間のことになると妙に真剣になる奴」
今度は祥ちゃんだ。
「私の無理難題に文句も言いつつも付き合ってくれて仲間を大切にしている奴」
僕は京ちゃんと目が合った。
「そんな人間が私は好きなのよ。あんたみたいなのはどれにも当てはまらないわね。それに、私は好きな人がいるの。私がそいつ以外を好きになることは一生ないわ」
京ちゃんは東郷君を見るのをやめ、踵を返すとどこかに行ってしまった。
僕たちは京ちゃんの後ろ姿が消えるのをずっと見ていた。
その後、生徒会長から部の設立の承認をもらい、僕たちは副校長の元へと急いだ。
副校長に部の設立の承認をもらおうとすると
「さっき春風さんが来てすでに承認はしておいたよ。」
と言って微笑んでいた。
僕たちは、副校長に一礼すると部室へと急ぐ。部室にはすでに明かりがついていた。
僕たちはその扉を開くと、さっきの発言が恥ずかしかったのか真っ赤な顔をして仁王立ちしている京ちゃんがそこにはいた。
「学園F・N・F解明部の再スタートよ」
京ちゃんが叫び、僕たちは右拳を天に掲げた。
「オウーーー! 」
学園七不思議陸“新生徒会長の陰謀”解明




