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学園F・N・F解明部  作者: 山神賢太郎
新生徒会の陰謀
23/37

ラスト一週間

  僕が部室へ行くと、久しぶりに祥ちゃんがいた。

  「祥ちゃん、今日は来たんだね」

  祥ちゃんは相変わらずゲームをしている。

  「おう、副校長を一週間追っていたが、結局何もなかったから諦めた」

  祥ちゃんは部室に来ないでずっと、副校長のあとを追っていたらしい。でも結局はなにも出ず。

  「そうなんだ。やっぱり正当法のやり方じゃないと」

  僕がそう意見すると、祥ちゃんは肩を小刻みに動かしながら、笑い出した。

  「ククク。ハッハッハ」

  僕は祥ちゃんが気が狂ったんじゃないかと、怖くなった。

  「祥ちゃん、大丈夫? 」

  「ああ、大丈夫さ。俺は、副校長だけじゃなく生徒会も追っていたんだよ。そしたら、こんなものが生徒会室にあったんだよ」

  祥ちゃんは、僕に一枚の紙を渡した。

  「なにこれ」

  「まあ読んでみな。面白いことが書かれてあるぜ」

  僕は祥ちゃんに言われた通りにしてみた。

  その紙に書かれていたことは衝撃の事実だった。

  なんと、僕たちの部が廃部になることで生徒会への予算配分が多くなることが書かれていた。

  「じゃあ、最初から僕たちの部費が目当てだったってこと? 」

  「だろうな」

  

  僕は全員が部室に来てから、この話をした。

  みんな怒りと驚きの顔を見せていた。

  「そんな理由でこの部を廃部にするのはひどいっす」

  奈央ちゃんは机を叩いて、怒り爆発している。

  しかし、そんな僕たちをよそに祥ちゃんだけはやけに冷静だった。

  「いや、そんな理由じゃないだろうな。俺たちの部費が生徒会に回ることで学校行事を華やかなものにもできるし、いろいろと楽になるだろうからな」

  たしかに、祥ちゃんの言うことは正しい。でも、

  「僕たちは、他の部員を退部させてるんだから、部費も減るはずだ。そうすれば、生徒会に回るお金だって増えるんだ」

  「そうっすよ」

  水島さんも僕と奈央ちゃんに同意するかのように頷いている。

 だが、祥ちゃんは呆れたように僕たちを見ていた。

 祥ちゃんが口を開こうとしたとき、京ちゃんが、

  「いや、それは生徒会だけの利益だわ。学校側は得をしていない」

 と静かに発し、祥ちゃんを見た。

 祥ちゃんは一度だけ、小さく首を縦に振る。

 「そういうことだ。つまり、この部を存続させるためにはこの部が学校側としてなくてはならない部にしなくちゃいけない」

 そうか。そういうことなら、僕たちの部を廃部にしようとすることにも納得できる。

  僕たちは、頭を抱えながらどうすればいいか考えていた。

  僕たちに残された猶予は一週間。それまでに、何とかしてこの部を守らなければならない。

  そこで、いきなり京ちゃんが立ち上がりホワイトボードへ向かった。

  ホワイトボードに大きく文字を書くと、僕らの方に振り向きホワイトボードをバンと叩いた。

  ホワイトボードには奉仕活動と書かれていた。

  「私たちはこれから一週間、奉仕活動をするわよ」

  京ちゃんはやる気に満ちた顔をしていた。

  「たった一週間そんなことをしたところで、変わらないと思うがな」

  祥ちゃんは、もう諦めているのか京ちゃんに冷たく言った。

  京ちゃんは祥ちゃんを睨んだが、祥ちゃんは動じない。

  そのやりとりを見ていた水島さんが、祥ちゃんに近づき手を取った。

  祥ちゃんは驚いた顔をしたが、すぐに

  「水島どうした」

  と冷静さを装った。

  「私は、諦めなければきっとなんだってできるってあなたたちから教わったんだよ。私は、諦めることはしたくないの、どんなことでも諦めちゃいけないの」

  水島さんは僕たちと出会った時のこと、そして、映画を作って水島さんのお兄さんに見せたことを思い出しているのだろう。水島さんは一滴の涙を流した。

  「それを教えてくれた宮城君が諦めないで」

  祥ちゃんは水島さんを真剣な目で見ている。

  そして、なにかを決意したのか祥ちゃんは大きく頷いた。

  「ああ、諦めない。俺が間違っていた。この部とゲームを守るためならなんだってしようじゃないか」

  祥ちゃんの言葉を聞き、水島さんは涙を拭いて、笑った。

  「じゃあ、奉仕活動の内容を決めるわよ」

  京ちゃんも笑っている。僕たちは諦めない。最後まで足掻き続けるんだ。

  僕たちはその日、奉仕活動の内容を決め、張り紙を作った。

  奉仕活動の内容は、一人一人違う。僕たちの個性を生かした、奉仕内容だ。

  京ちゃんはその運動能力を使い、運動部の練習を手伝う。祥ちゃんは、ゲームの攻略法を教えたり、囲碁・将棋部の手伝いをしたり、勉強を教えることをする。

  僕と水島さんと奈央ちゃんは、学校の掃除をすすんでしたり、先生の手伝いを行ったり、他の部の雑用をしたりする。

  その活動内容を書いた張り紙を印刷し、学校中の掲示板に掲示した。

  最後の掲示板に僕は掲示し終わると、手を叩き願掛けをした。

  たくさんの依頼がきますように。

  僕たちにできることは、依頼を待つだけ。その日、僕は明日のことを思いながら家路についた。

  

  次の日の放課後。

  僕は部室へと急ぐ、部室の扉を開けその先にあった光景はいつもと同じ祥ちゃんと奈央ちゃんが格闘ゲームをしているだけだった。

  「依頼は? 」

  僕は二人に投げかけると、二人は首を横に振った。

  「いやまだだ」

  「まだ、放課後は始まったばっかっす。そのうち来るっすよ」

  二人に焦りはないのか、気楽なもんだ。

  僕はいつもの席に座り、そんな二人を見ていた。僕も同じようなもんだな。

  しかし、いつもの祥ちゃんらしくないコマンドミスを連発していた。

  奈央ちゃんはその隙に攻撃しようとしていたが、近距離で使わなければならない必殺技を遠距離から使ってしまい、祥ちゃんの使うキャラにカスリもしていない。

  どうやら、二人は顔には出さないが焦っているようだ。

  僕も気づかないうちに貧乏ゆすりをしていて、何度か祥ちゃんに注意された。

  そうこうしているうちに水島さんと京ちゃんが部室に来た。

  二人とも、僕と同じように依頼について聞いてきた。僕たちは、首を横に振り、依頼がないことを伝えた。

  それを聞いた京ちゃんと水島さんは落胆している。

  そして、すでに放課後を迎えてから三十分が過ぎている。

  部室はまるで、通夜のように重たい空気が充満していた。

  僕たちが依頼が来るのを諦めていた頃、部室にノックの音が聞こえた。

  京ちゃんが

  「どうぞと」

  扉に向かって言うと、部室の扉が開いた。

  扉を開けたのは、バスケ部の現キャプテンだった。

  僕たちの重たい空気がバスケ部のキャプテンにもわかったのか、引きつった顔をしていた。

  「掲示板を見て来たんだが」

  僕たちはその言葉を聞き、明るい顔になる。

  「何、依頼? 依頼なのね」

  京ちゃんはバスケ部キャプテンに走るように近づいていく。そこで、僕は部室の外に人が並んでいるのに気づいた。

  僕は、部室の廊下側の窓を開けた。

  そこには、運動部から文化部、先生が並んでいる。人数はざっと数えて、三十人以上。

  その光景を目の当たりにした女性陣は飛び跳ねながら喜んでいる。

  祥ちゃんも驚きを隠せないのか目を丸くしていた。

  僕たちは、一人一人の依頼を聞き、タイムスケジュールを組んでいく。

  圧倒的に多い依頼が部の手伝いをしてくれというものだった。

  一番人気はやはり、京ちゃんだ。その次が祥ちゃんだった。僕たちほかの三人は部の雑用や掃除、授業の準備の手伝いなどが多かった。

  タイムスケジュールが組み終わると、僕たちは依頼者の元へと行き、依頼内容をこなしていく。

  僕は、部の雑用をメインで行った。ボール拾いやタイムキーパーをした。

  すべての依頼が終わる頃にはへとへとになっていた。

  そして、部室に戻り、タイムスケジュールを確認するとこれから五日間のタイムスケジュールがすでに埋まっていた。

  僕たちは、休日も学校に向かいこのスケジュール通りに依頼をこなしていくことになった。

  忙しい、五日間が終わった。今日で六月も終わりだ。僕たちに残された猶予は今日までだ。

  僕たちの部が必要だと、副校長が思えばこの部は廃部にならない。そう思いながら、僕は部室の定位置に座していた。

  そして、部室の扉がノックされた。

  京ちゃんが返事をすると、扉が開いた。そこにいたのは、生徒会長である東郷君だ。

  「今日で、この部は廃部だぞ。すぐに片付けをしてもらおうか」

  彼は、冷たい眼差しで僕らを見ている。

  京ちゃんと祥ちゃんはそんな東郷君に睨み返している。

  僕たちの学園F・N・F解明部はこの日、廃部となった。

  僕たちは東郷君の見ている前で片付けを行う。

  誰も彼に文句を言わなかった。まるで、最後の意地を見せるかのように静かに片付けを行った。

  水島さんは、みんなのために持ってきた。コップや湯呑を小さいダンボールに詰めている。その背中は小刻みに揺れていた。後ろ姿からはわからないが床に雫が落ちるのを僕は見た。

  祥ちゃんと奈央ちゃんはゲーム機やソフトを整理している。二人とも一言も喋らずに、梱包作業をしている。

  京ちゃんも部費で買ったテントなどを片付ける。僕もそれを手伝った。

  片付けが一通り終わると東郷君は小さく頷いた。

  「よし、まあこれでいいだろう。部費で買ったものは職員室の横にある倉庫にしまってくれ」

  そう言うと彼は、部室から出て行った。

  僕たちは、倉庫に部費で買った物を入れる間も無言だった。

  あんなにがんばってやったのに報われなかった。

  それから、僕たちは一言も喋らずにそれぞれの家に帰った。

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