生徒会からの命令
いつもどおりの放課後だ。
僕は、部室で祥ちゃんと奈央ちゃんがゲームをしているのを見ながら、勉強をしている。
水島さんは、奈央ちゃんを応援しながら、喜んだり、悔しそうにしている。
のどかな部室だ。僕は、この部室の一時の平和を噛み締めていた。
そう、この平和は長くは続かない。なぜならこの部室に嵐がもうまもなく足音を響きかせるからだ。
―――ドドドドド
いつものように廊下から聞こえる足音。だんだんとこの部室に近づいてくる。
そして、勢いよく部室の扉が開いた。
―――バーンッ
部室の前に京ちゃんがいた。
僕は、京ちゃんがいつものように怒るのかと思っていたのだが、何も言わずに部室の前で立っているだけだ。
僕は、不思議に思い、京ちゃんの顔を見た。顔面蒼白で、少し震えている。もう六月で寒い季節ではないはずなのに。
そして、一歩ずつ自分の指定席に進むと椅子に座った。
水島さんが京ちゃんが席についたと同時にお茶を渡す。京ちゃんはそのお茶を一口飲むと、やっと落ち着きを見せ始めた。
僕は、その京ちゃんらしくない態度に怖くなった。
「何かあったの」
京ちゃんは僕の問いに一回頷くだけだった。
「何があったの」
京ちゃんはお茶を一口だけ飲む。
そして、カバンから一枚のプリントを出した。それを僕は受け取る。
どうやら、プリントの作成者は生徒会のようだ。
「えっと、今月末をもって学園F・N・F解明部は廃部とします……。えー! なんで、廃部になるの」
京ちゃんは何も言わない。ただどこか遠くを見ているだけだ。
「ちょっとどういうことっすか。見せてください」
「うわっ」
奈央ちゃんは僕の手からプリントを奪うと、それを凝視している。水島さんもそれを横から覗く。
「なんすかこれ」
奈央ちゃんはプリントのある一部を指で差していた。そこには、部の成立条件を満たしていないため廃部とする。と書かれていた。
僕たちは、ちゃんと部としての成立条件を満たしているはずだ。それなのに、なぜ。
奈央ちゃんの問いに、京ちゃんは答えなかった。それより、聞いているのかも怪しい。
「僕たちは、正規の方法で部を成立させたんだよ。ちゃんと人数だっているし、顧問も付いている。成立条件を満たしていないわけじゃないよ」
「じゃあ、なんでこんな紙を渡されるんすか」
たしかにそうだ。それに、プリントには満たしていない条件がなんのか記入されていない。本当にどういう事なんだ。
「その紙ちょっと見せてくれ」
祥ちゃんが奈央ちゃんからプリントを受け取り、内容をチェックしている。
祥ちゃんは何度か頷くと、机にプリントを置いた。
「こりゃあ、陰謀だな」
祥ちゃんの言葉に僕は意味がわからなかった。
「陰謀? 」
水島さんは首をかしげながら祥ちゃんを見ている。
その視線に気づいたのか、祥ちゃんはその陰謀とやらについて語りだした。
「六月の初め頃、生徒会選挙があっただろ。それで新生徒会が結成した。現生徒会長は、俺と京子と同じクラスの、東郷聖だ」
「知ってるよ~。女子の間でも人気で、モテる人でしょ~」
水島さんが緊張感のない声を出す。僕も東郷という人物を思い出した。さわやかな感じの好青年で、人あたりもよく生徒会長にはちょうどいい人物だ。
「東郷君がどうかしたの」
「その東郷は、京子に告白して振られてるんだよ」
祥ちゃんは呆れた顔をしながら京ちゃんを指差した。
「まさか、振られた恨みでこんなことを」
「まあ、そんなとこだろ。でも、これは生徒会にとって教員に好印象を与えるだろうな」
祥ちゃんはニヤリと笑う。
「どうしてっすか」
「この部活はこの学校の危険分子だ。部費を強引なやり方で搾取し、活動内容もよくわからない。さらに、学校の成績がいい連中が組織の主要メンバーだ。これは、学校側にとっていいことだとは思わないだろうな」
たしかに、この部は他の部員と勝負をして無理やり、部員にしているし、部室に来てゲームや雑談をしたり、他から見たら奇妙なことをする部だ。
さらに、テストの順位が十番以内に常に入っている人間である、祥ちゃんと京ちゃんがいる。
この部が消えたら、そりゃ学校側には得しかない。
でも……。
「でも、生徒会は正規の方法で僕たちを廃部にしようとしていない」
そうだ。僕たちは成立の条件を満たしているんだ。そんな独裁が認められるはずない。
しかし、祥ちゃんが口に出したのは意外な言葉だった。
「いや、きっとこれは正規の方法なんだろうな」
僕にはどういうことかわからなかった。
これが正規のやり方なら、どんな部だろうが潰せることになる。こんなことが許されていいのか。
「どうして、そんなことわかるのさ」
「じゃなきゃ、京子があんな顔してるわけ無いだろ。俺たちの女王様は理不尽だろうがなんだろうが立ち向かっていくやつだ。きっと、東郷にいろいろと罵声を浴びせたことだろう。だが結果はあの様だ。正規の理由を押し付けられどうすることもできなかったんだろう」
祥ちゃんは悲しそうな顔をしながらゲーム機を見ていた。
この部室にあるゲーム機はほとんどが部費で買ったものだ。この部が廃部になれば、あのゲーム機も没収される。
「僕たちでは、どうしようもできないのか」
「いや交換条件を出されたの」
僕は京ちゃんの方に振り向く。今日初めて京ちゃんが部室で声を出した。
「交換条件って? 」
「その前に成立条件のことを言うわ」
僕たちは静かに京ちゃんを見ていた。その成立条件の内容によっては、僕たちがどうにかできるものかもしれない。
「成立条件で満たしていないもの、それは顧問よ」
「えっ」
僕たちは驚いた。
顧問はいるはずだ。部の成立に必要な人数が集まれば、顧問は学校側から決めてくれるんだ。顧問は祥ちゃんと京ちゃんの担任である、仙田先生。僕たちは一度挨拶にも行っている。どういうことだ。
「仙田は顧問から下ろされたってことか」
祥ちゃんが机を叩く。かなり怒っているようだ。
「そうよ。顧問は学校側が決める。そして、顧問を下ろすことができるのは学校。つまりこれは、生徒会と学校側の陰謀なのよ」
僕は愕然とするしかなかった。だって、僕たちには本当にどうすることもできないじゃないか。
「そして、交換条件が出されたのよ。私と祥悟がこの部をやめ生徒会に入れば、この部は廃部にはならない」
「それじゃ全く意味ないじゃないか。だってこの部は京ちゃんが作ったんだ。その交換条件を飲んだら、この部は廃部と同じだ」
僕は拳を握り締め机を叩く。なんでこんなことになったんだ。
「そうっすよ。うちは姉御や宮城先輩がいるこの部が好きなのにいなくなったら意味ないっす」
「うんうん」
奈央ちゃんの声に水島さんも頷く。
「私だっていやよ。だから、どうしていいか分からないのよ」
京ちゃんは机に突っ伏している。まるで、泣いてるようだ。
祥ちゃんが京ちゃんの肩に手を置いた。
京ちゃんは顔を上げ祥ちゃんを見る。
「じゃあ、顧問を探そうじゃないか」
祥ちゃんは手に持っている生徒手帳の部の成立のページの一文を指差していた。
京ちゃんは祥ちゃんが指差す一文を読みだした。
「顧問は生徒の相談により教師が合意をすれば、その教師を顧問とする」
学校側が決める以外にも僕たちの手で顧問を探せばこの部は大丈夫かもしれない。
「顧問を探すのは無理だが。顧問にさせることは簡単なんじゃないか」
祥ちゃんは悪い顔をしている。
僕にはその言葉の意味がわからなかった。
「まさか、あんた」
どうやら、京ちゃんはその言葉の意味がわかっているようだ。
「ああ、俺たちは学園F・N・F解明部だ。不倫、捏造、不祥事。すべての教師と生徒会役員を調べ尽くすぞ」
もしかして、学校と生徒会はやばい人たちを敵に回したのかもしれない。




