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学園F・N・F解明部  作者: 山神賢太郎
謎の男子生徒
16/37

最強の兄

  声が聞こえる。懐かしい声が俺の耳に届いた。

  「気絶したな。でも、女に抱きしめられて人格が変わるのって、なんか漫画みたいだな。俺が知ってるのは、動物になるのくらいだけど」

  この声は祥悟だな。なぜか、意識はあるが体動かない。

  まるで、金縛りに合ったような感覚だ。

  「まあ、女の子に耐性がないから仕様がないわよ」

  ああ、この声は京子だな。また馬鹿なことでもしているのだろうか。

  「えっ。オンナノコ? 」

  「なんで、片言で疑問形なのよ。私はどっからどう見ても女の子でしょうが」

  何かが風を切る音が聞こえた。それと、同時に鈍い音と祥悟の悲痛な声が聞こえる。

  「うっ……」

  いつもどおりの二人だ。俺は、少し嬉しくなった。

  そして、そこでようやく体が動いた。目を開け周りを見る。どうやら体育館のようだ。近くにお腹を抑えながら床で丸まっている祥悟と仁王立ちの京子がいた。

  「やっと目を覚ましたわね」

  俺は、近くにいる京子を見た。

  「ああ。それで、今回は何をしているんだ」

  「バスケ部とバスケで勝負」

  「えっ」

  こいつは何を言っているんだ。バスケ部にバスケで挑むなんて無謀だろ。それでも、京子はお構いなしに俺に経緯(いきさつ)を説明してきた。

  

  「なるほど、それで俺の出番か」

  俺は準備運動を始める。どうやらハーフタイムはそう長くないらしい。すぐにでも動き出せるように準備する。

  そして、まもなく試合が始まる。その前に京子にワックスをもらいオールバックにする。一番気合が入るのは、やっぱりこの髪型だ。

  俺たちは、コートに進んだ。得点ボードには三十対四十五と表示されていた。バスケ部から最低でも五回のゴールを決めなければならない。これはなかなか無謀だな。

  俺は、ニヤリと笑い、コートに立った。

  バスケ部員が俺のことを見ている。

  そして、一人の部員がこちらに歩いてきた。どうやらバスケ部主将のようだ。

  「おい、こいつは誰だ」

  主将は俺を指差しながら京子に聞いている。

  「言い忘れてたわ。こちらも選手交代よ」

  「お前たちは三人じゃなかったのか」

  主将は、京子を睨みつける。京子はそれに睨み返していた。

  「あなたたちも選手交代したんだからこっちだって変えてもいいでしょ。ハーフタイムに選手交代はルール違反じゃないはずよ」

  京子の言葉に何も言えずに主将は立ち去った。

  そして、後半の試合が始まる笛が鳴った。

  後半は俺たちの攻撃から始まる。何とかして、点を入れなければならない。

  俺は、ボールを受け取ると周りを見る。京子も祥悟もマークがきつくてパスはできない。ならば、俺が目の前のこいつを抜くだけだ。

  俺は、ドリブルをしながら目の前の選手に突っ込む。体が当たる瞬間に体を回転させ、その選手を抜いた。その先は、誰もいない

  スリーポイントラインまで進んでシュートをしようと思ったが無理だった。抜いた選手が俺に追いつき、マークしてくる。俺はシュートを諦める判断が早かったおかげでダブルドリブルにはならなかった。

  マークを交わしつつ俺は前に進む。俺はゴール前まで進むとレイアップでゴールを決めた。

  ギリギリだ。マークがキツ過ぎる俺はそう思いながら防御の立ち位置に行く。

  その時、背中が叩かれた。振り向くと京子がそこにいた。

  「やったわね。とりあえずバスケ部からゴールを決めれたわね」

  京子は笑顔で俺を見ている。ああそうだ。俺はバスケ部からゴールを奪ったんだ。あと十三点出来ないことじゃない。

  次は、バスケ部の攻撃だ。絶対に守りぬく。

  バスケ部の攻撃が始まるとボールを持った主将を俺はマークした。

  主将だけあってやはり強い。素早いフットワークを使いながら俺を抜こうとする。だが、この俺が抜かすわけがない。

  俺は、わざと隙を見せパスを出しやすくさせる。それに釣られて主将はパスを出そうとした。主将の手からボールが離れる瞬間にボールを奪ってみせた。

  主将は驚いた顔で俺を見ている。

  これくらいの選手なら、なんとか勝てるかもしれない。

  しかし、そう簡単にはいかなかった。

  その後、俺たちはバスケ部から二十九点奪ったが、バスケ部に十三点ゴールを決められている。これで、得点は五十九対五十八だ。

 残り時間一分。バスケ部の攻撃だ。ここを守れば、俺たちの勝ち。

 バスケ部の攻撃が始まった。ボールを最初に持っているのはバスケ部の主将だ。

  なんとしてもでも、守りぬく。

  俺は、主将をマークしてパスをさせないようにする。相手は何度もフェイントをかけてくるが、絶対に抜かせるわけにはいかない。

  しかし、俺の一瞬の判断ミスにより、相手に隙を与えてしまった。

  主将はパスを出す。

  それを、京子が止めにジャンプした。

  だが、届かない。あと一センチが届かなかった。

  ボールをキャッチした選手は、そのままシュートを放つ。

  入るな。俺は、心で念じたが、ボールはゴールに吸い込まれた。

  得点は五十九対六十。残り時間は十秒。二人の顔は絶望していた。

  いや、まだだ。まだ十秒もあるじゃないか。

 俺はハーフラインに立つ。二人は驚いていた。

 しかし、その顔もすぐに俺を見て頷くと、二人は自分のポジションに立つ。

 そして、俺たちの攻撃が始まった。

  最初にボールを持っているのは京子だ。俺は京子がパスしやすい位置に走る。

  それを見た京子が俺にパスをする。京子をマークしている選手は余裕からか、今までよりきついマークをしてこなかった。

  俺はボールを受け取るとゴールへ進もうとした。

  しかし、俺をマークしているのはバスケ部主将だ。こいつは余裕なんてあまっちょろいものを見せてくれるわけがない。俺は前に進むことを諦め、バックする。

  タイムは残り一秒を切っていた。俺はハーフラインギリギリから、誰にも取られないように高くボールを投げた。俺の手からボールが離れた瞬間に試合終了のブザーが鳴る。

  誰もが、俺の手から放たれたボールを見ていた。ボールが重力により下に落ち始める。

  「入れー」

  京子がそのボールに向かって吠えた。

  ボールはリングに当たるとバックボードに当たる。力を失ったボールは、またリングに当たり上にはねた。

  「入れー」

  京子と祥悟が叫ぶ。

  お願いだ、入ってくれ。俺は目を瞑る。

  ―――パシュ

  俺の耳にボールがネットをかすめる音が聞こえた。俺は目を開け、得点を見る。そこには、六十二対六十と表示されていた。

  俺は二人を見た。

  京子が笑い、祥悟はガッツポーズをしていた。

  俺たちが勝ったんだ。俺は京子と祥悟の元に走り、抱き合った。

  「やったー。勝ったわー」

  「俺たちの勝ちだ」

  京子と祥悟が喜びの声をあげる。

  そして、京子がその場で床に手を付き絶望しているバスケ部主将に声をかけた。

  「結局私たちが勝ったわね。ほら、バスケ部員全員の名前をこれに書きなさい」

  京子は入部届けを主将に渡す。主将はそれを受け取ると恭子を見た。

  「それほどの実力がありながらなぜ君達はわけのわからない部を作ろうとするんだ? 君達ならインターハイも目指せるだろうに」

  京子は主将を指差しにやりと笑った。

  「そんなものには興味がないの。そんなことよりも面白い出来事との出会いのほうが大事なのよ。そのための部活を私たちは作ろうとしているのよ。あなたたちが、そのボールを追いかけるのと同じで私たちも面白いことを追うことに生きがいを持っているのよ」

  まだ作ったばっかりだってーのになかなか言うね。なんというかその言葉は懐かしいな。

面白いことを追う。いつだっけな俺が言った言葉だな。お前はまるで自分の言葉みたいにいいやがってだから変な部活を作ろうとしているのか。

 「そうか、完敗だよ。約束だ。バスケ部員全員の名前を書くから少し待っていてくれ」

  そう言うと主将はバスケ部員たちの元に名前を書いてもらいに行った。

  全員の名前が書き終わると主将が京子の元に帰ってきて、入部届けの紙を渡した。

  それを見た京子は高笑いをし始めた。

  「これで、三十二名分の入部届けが集まったわ。さて、次の部に行きましょう」

  俺と祥悟は顔を見合わせた。こいつは、何を言っているんだ。

  「次は、野球部ね。その次がサッカー部、その次が陸上部で、その次が囲碁将棋部、その次が……」

  京子はこの学校にある部のほとんどの名前を出していく。

  「おいちょっと待て。いくつ回る気だ」

  「できれば全部よ。今日中に百人は集めたいしね」

  嘘だろ。こんなことをあと何回続けるつもりなんだ。

  俺たちは、体育館をあとにし、グラウンドに行くことになった。

  そして、野球部と三打席の勝負をした。

  その勝負は、俺がホームランを放ち。勝利を収める。次は、サッカー部に行った。

  それから、いくつか回り、すべて勝利することができた。俺と京子は、運動部中心に活躍した。祥悟は文化系の部の勝負で圧倒的な実力差を見せて勝利を収めていった。

  この日集まった入部届けは百二十枚。俺らの部は、発足してすぐに百人を超える部になった。

  

  僕は学校に行くと昨日のことを京ちゃんから聞いた。

  京ちゃんの話はとんでもなかった。それと同時にやはり兄さんはすごいと思った。

  その後、運動部はオールバックで目の鋭い謎の生徒を勧誘しようと懸命になって探したが、あの日以来誰もその生徒の姿を見ることはなかったらしい。

  まあ、その生徒は僕のもう一つの人格だから探しようがないよね。



  京ちゃんは奈央ちゃんに経緯を話し終えると満面の笑みを浮かべた。

  「たった三人でほぼすべての部に勝利したなんて、すごいっす」

  「この部ってそんな経緯があったんですね」

  奈央ちゃんとと水島さんは目をキラキラさせていた。

  「謎の生徒のことは結構、噂にはなってましたよね。女生徒の間でもオールバックで運動抜群のかっこいい人って噂話になってましたよ」

  水島さんは京ちゃんと僕を見て言った。

  「そうっすよ。それ七不思議っすよ」

  奈央ちゃんが手を打ちながら京ちゃんに言った。

  「そうだわ。謎の生徒が運動部に勝負を挑み全てに勝利を収める。しかし、その生徒の正体を誰も知ることがない。これこそ、七不思議だわ」

  京ちゃんはそう言うとホワイトボードに謎の男子生徒と書いた。

  「これをこの学園の七不思議に加えるわ」

  ホワイトボードをバンと叩く。水島さんと奈央ちゃんは拍手をしていた。

  僕は、部室を見渡す。部費で買ったものがいろいろある。まあ部費のほとんどが祥ちゃんのゲーム代となったことを思い出しながら、寝ている祥ちゃんを僕は見ていた。

  今日は平和な部でした。

  

  学園七不思議肆“謎の男子生徒”解明済み

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