昔話
あの幽霊騒動から数日が経った。
僕は今日も水島さんと一緒に部室へと向かう。部室には既に、祥ちゃんと奈央ちゃんがいた。二人はどうやらゲームをしているようだ。
奈央ちゃんは入部以来ずっと、祥ちゃんのゲーム相手をしている。
「宮城先輩それずるいっすよ」
「このキャラはこういう戦法がテンプレなんだよ」
どうやら、祥ちゃんたちは格ゲーをしているみたいだ。祥ちゃんは相手になってくれる人ができてちょっぴり嬉しそうだった。
「はい、お茶が入ったよ~」
水島さんは一人ずつお茶を配っている。
「ありがとう」
僕が礼を言うと水島さんはニッコリと笑った。
なんだか、今日は平和だな。僕がそう思っていると廊下から足音が聞こえる。やっぱり一瞬の平和だったか。
―――バーン
部室の扉が壊れるくらい大きな音をたてて開かれた。
「あんたたち何のんびりしてるのよ」
京ちゃんは僕たちを一人ずつ見ていく。部室に数秒間沈黙が流れた。僕は息を飲んだ。
京ちゃんは、部室のホワイトボードの前に行くと何やら書き出した。
そして、京ちゃんは振り返るとホワイトボードを叩き、大声を発した。
「ゴールデンウィークに合宿を行います」
僕たちはいきなりの言葉にびっくりした。ホワイトボードには大きな字で合宿と書かれていた。
「なんで、合宿するの」
「それは、最近あんたたちがたるんでるからよ」
京ちゃんはビシッと僕を指差した。
「ゲームしてお茶飲んで落ち着くような部じゃないのよ。それに、まだ七不思議だって二つしか解明できてないんだから。そこで、ゴールデンウィークに合宿を行うのよ。この堕落した部活動から抜け出しなさい」
なんだろう、間違ってはいないんだけど、理不尽だ。
「まあ、ぶっちゃけ言うと学校内だけで七不思議探すのも大変だろうし学校外の方が面白いっていうのが本音だけどね」
京ちゃんは椅子に座ると僕の前にある湯呑を手に取り一息ついた。
「それでどこに行くの」
「まあ待ちなさい。さっき図書館でこの町の伝説話みたいなのを見つけたのよ」
京ちゃんは一冊の本をカバンから出し、ページをペラペラとめくり始めた。伝説話が乗っているページを見つけたのか、ページをめくる手が止まった。
「えーっと、これだわ」
京ちゃんはその伝説話を読み始めた。内容はこんなものだった。
昔々、この土地に神隠しが起きた。神隠しにあったほとんどが十歳以下の子供である。
ある時、その神隠しの原因が一人の浮浪者だということがわかった。村人たちはその男に拷問して子供の居場所を聞いたが、男はいつまでたっても口を割らない。
すると、一人の少年が『妹がいる場所がわかった』と言った。その少年の妹は最初に男に連れ去られた被害者だった。
村人たちは男をつれ、少年について行った。少年がつれて来た場所は誰も使っていない廃屋だった。
村人たちは廃屋に入ったがそこにはなにもない。村人たちが少年を見ると、少年は床を指差していた。そこを見ると、どうやら床が開くようになっていた。
村人の一人が床を開けた。すると中から子供の死体がいくつかあった。それを見て男は自分がしたと白状した。男はその後、斬首された。
村人たちは少年になぜ妹の場所がわかったのか聞いた。少年はそのことについて奇妙な話を始めた。
少年は、いつも御身代様と呼ばれる大きなしだれ桜のある西山神社で遊んでいた。
ある時、少年がいつものように西山神社に行くと、御身代様から声が聞こえ、自分に妹の場所を教えてくれたと言った。
それから、村人たちは大切なものを無くした時、御身代様に聞くようになった。
しかし、御身代様はその人が本当に大切だと思うモノだけを教えてくれたという。
京ちゃんは話し終えると、本をパタンと閉じた。
「どう? 中々面白い話でしょ」
僕は静かに考え込んでいた。この話はこの町でも結構有名な話で、僕も親から聞いたことがある。
「姉御、それって、あの有名な御身代様の伝説のことっすよね」
「そうよ」
「ということは、あの西山を登るってことっすか」
奈央ちゃんは、学校の窓から見える山を指差す。西山は野球部が練習に走り込みをしたり、山岳部が練習に使っている山なのだ。それも、かなり急な坂だ。山岳部はあの山を一番きつい山というほど地獄な山だという。
「えっそうだけど。なにか問題がある」
「あるっす。あそこまで何で登るっすか。バスもしくは車っすか」
奈央ちゃんは京ちゃんに詰め寄り、顔面を凝視している。そして、京ちゃんはあっさりと
「徒歩だけど」
だってさ。どうせ荷物は僕と祥ちゃんが持つんだろうな。僕はそこで、机に突っ伏した。正直行きたくないです。
「あの地獄の山を自分の足で登るんすか。それも泊まるってことは荷物もあるっすよね」
「大丈夫よ。荷物は男性陣に持ってもらうから」
案の定だよ。
「まあ、自分で持つ者は着替えぐらいかしら」
「ならよかったっす。宮城先輩、神山先輩。ありがとうございます」
奈央ちゃんは僕たちに深々と礼をした。水島さんも同じように礼をする。
ああ、水島さん君だけは違うと思っていたけど、これに関しては二人と同じなんだね。
合宿は一泊二日で行うと、京ちゃんの説明があった。
それから、すぐに合宿の準備をし始めた。女性陣は買い出しに行き、僕はテントやシュラフなどの合宿にいるものを揃えておく。なぜか知らないけれど、この部室にはテントとシュラフが揃っていた。今考えると部室にゲームがあるのもすごいと思う。
祥ちゃんは、ヘッドホンを付けてFPSの戦争ゲームをしている。きっと、合宿の話なんて一切聞いていないに違いない。
僕は、祥ちゃんのスーパープレイを見ながら合宿の準備を進めた。
人数分のサブザックと僕と祥ちゃんのメインザックを用意した。
メインザックにテントを二つ入れて、試しに背負ってみると絶望の重みがあった。こんなものを背負って山に登るなんて修行以外の何ものでもない。僕は、テントを一つのメインザックに入れるのを諦めて、一つずつメインザックに入れることにした。
しかし、ここで問題がでてしまった。メインザックにシュラフとテントを入れるとそれだけでいっぱいになる。どう考えても食器だとか食材が入らない。僕は、そんなことは忘れて祥ちゃんのプレイを見ることにした。
それから、数分後。京ちゃんたちが帰ってきた。大量のお菓子と食材をその手に持っていた。
「結構重いっすね。これなら、宮城先輩と神山先輩も連れてきた方がよかったっすね」
「ぬかったわ」
京ちゃんたちは机に荷物をドサりと置いた。その量たるや絶望が増し増しで来るくらいだ。京ちゃんは僕たちを殺す気なのかな。
「京ちゃんお帰り」
「ただいま。なんでそんな、すっごく悲しい顔をしてるの」
まあ普通に考えて荷物持ちをさせられるからなんですけど。
「いや~あの荷物、シュラフとテント入れたらいっぱいになったんだけど……」
僕は申し訳なさそうに京ちゃんに言った。
「あっそうなのまあいいわ」
僕は意外な言葉に驚いた。
「えっいいの」
「いいわよ。往復したら大丈夫でしょ」
この人鬼だ。
この日は合宿の準備をして終わった。




