プロローグ
僕らはいつも一緒にいた。
かけがえのない日々を過ごした。
けど、いつかは離れ離れになる。
現実はいつも過酷だ。
そして、僕たちは何かを犠牲にして選ぶ。
一つの真実と一つの嘘を―――
僕はいつものように部室に足を運ぶ。二年二組の教室は西校舎にあって、それも、3階だ。東校舎の一階にある部室までは結構な距離がある。
部室までたどり着いた。扉を開けると、いつものようにテレビゲームをしている男子生徒がいた。彼は僕の幼馴染の宮城祥悟。漫画やゲームをしているのに学校の成績はいつもトップテン入りをしている。そして、顔もよく女の子にモテるのだが。「リアルの女は怖い。俺は二次でいい」と言って全員、振っている。最近じゃ僕と出来ているという噂がたっていて、僕まで変な目で見られている。
「祥ちゃん何してるの? 」
「格ゲーだ。数ヵ月後に、ストリートキングファイターの最新作が発売されるからな。それの前作で腕を磨いている。お前もやるか」
祥ちゃんは、ゲームを中断させてコントローラを渡そうとしてきた。
「いや僕はいいや。宿題が出たからそれをやるよ」
「そうか」
祥ちゃんは、ちょっとしょんぼりしてたけど、すぐにゲームを再開させた。僕はそれを横目で見ながら、宿題をしていた。
すると、ドドドと誰かが廊下を走っている音が聞こえる。僕にはその正体が誰なのか知っていた。
部室の扉が勢いよく開けられた。扉を開けたのは、春風京子。この部の部長で僕の幼馴染だ。彼女もまた、勉強もできるしモテる。それに、運動神経もいい方だ。才色兼備、文武両道。まさに完璧なのだけど、自分勝手なので僕たちはいつも振り回されている。
京ちゃんは、部室を見渡すといきなり叫んだ。
「祥悟、なにゲームしてんのよ。真志、なに勉強してんのよ」
「勉強は、学生の本分だよ」
「遊びは、学生の本分だ」
「祥ちゃんそれは違うでしょ」
京ちゃんが僕に向かってビシッと指を差した。
「あんたたち、なんにもわかってないわね。学生の本分は部活よ。真志、この部活の名前を行ってみなさい。」
「学園F・N・F解明部だけど」
それを聞いて、京ちゃんが仁王立ちをする。
「そうよ。じゃあ祥悟。このF・N・Fと何の略? 」
京ちゃんが祥ちゃんを指差す。祥ちゃんは、テレビ画面を見ながら答えた。
「F。不祥事。N。捏造。F。不倫」
「全然ちゃうわーーーー」
京ちゃんは学校カバンを床に叩きつけた。
「どこに、学校の不祥事と捏造と不倫を解明する高校生がいるのよ」
「違うのか。よしここでキャンセルして、泣け。叫べ。そして」
祥ちゃんは京ちゃんを無視してゲームをしている。そこに、京ちゃんが祥ちゃんのセリフを遮り、首に蹴りを入れた。
「ギャッ」
祥ちゃんの悲痛な叫びが部室に広がった。京ちゃんは、倒れた祥ちゃんを見下すと何もなかったかのように続きをしゃべりだした。
「F・N・Fは、不思議。謎。ファンタジーの略でしょ」
祥ちゃんは地面をのたうち回っている。その祥ちゃんに向かって京ちゃんは指を差す。
「あんたこの一年間何してたよ」
まだ、祥ちゃんはのたうち回っている。テレビの画面では祥ちゃんの使っているキャラクターがボコボコにされて同じようにのたうち回っていた。しかし、祥ちゃんはコントローラを握る。そこまでしてゲームがしたいのか。僕は、この宮城祥悟という男はすごいと思った。
「俺は、俺は、この一年間俺はゲームに時間を注ぎ込んだ。たとえヒットポイントがあと弱パンチで終わるとしても、最後まで諦めない」
祥ちゃんは、華麗なガードを決め、相手に攻撃していた。ヒットポイントがほぼゼロに近かったのに勝利した。
しかし、リアルではそうもいかない。京ちゃんが祥ちゃんを蹴る。殴る。そして、投げる。祥ちゃんは悲鳴とともに、部室を転げまくった。
京ちゃんがスカートを叩き、手を叩くと、仁王立ちした。
「私たちももう二年生になって、一週間が経ったわ。しかし、何の不思議も謎もファンタジーも解明していない。そこで、一学期の目標を作ったわ。これよ」
そういうと、部室にあるホワイトボードに文字を書き、僕の方に振り返った。
「一学期の目標は、『学園の七不思議を解明せよ』よ」
「学園の七不思議ってトイレの花子さんとか歩く二宮金次郎像のこと? 」
僕は、京ちゃんに聞くと首を振った。
「じぇんじぇん違うわ。私はそんなオカルト話は信じないわ。だって、銅像が歩くわけがないじゃない。もし歩いたとしたら何百キロもある銅像なんだから跡が残るはずよ。そういう非現実的なものじゃないの。もっとこうこの学園の隠された秘密みたいなものよ」
「秘密ねー」
僕は、少し考えたけど何も思いつかなかった。
「なんにもないの? 」
「あるぞ」
祥ちゃんがあの世から舞い戻ってきた。それを京ちゃんがワクワクした目で見ている。
「数学の若い教師が実は、三年の女学生と付き合ってるらしいぞ」
祥ちゃんのドヤ顔。沈黙の部室。京ちゃんのポカーンとした顔。その顔が怒りに変わる。
「そういうんじゃないって言ってんだろうがーー」
祥ちゃんの男の急所に蹴りが入る。
「悶絶……」
祥ちゃんは、目を白目にして倒れた。本日何度目の気絶だろうか。
「このバカはほっといて、明日中に七不思議の一つを提出ね。今日の部活は各々七不思議を探してきなさい」
「京ちゃんはどうするの」
「私は、帰えるわ。ちゃんと捜しなさいよ。じゃあ明日」
そういうと、京ちゃんは部室から去っていった。また、神山真志の怒涛の学園生活が始まると思うと楽しい半面不安だ。
「はぁ」
そりゃ、ため息も出るよ。