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命運玉座のキヲテラウ  作者: 古卯木 悠右人
第一章 吹き荒れし颶風の覇者
8/22

Ⅰ:颴風(ヴォーテクス)

タイトルは颴風せんぷうと読みます。もしかしたら環境依存文字なので颴が見えないかもしれません。そんなときはこれに代用してください。旋風です。

 「汝ら、何を望む? 憐憫ある生か、誇りある死か。どちらがいい?」


それがやつがしゃべった第一声だった。僕は何もいうことができなかった。かろうじて分かったことは僕らの生存確率が限りなく零と化したということだけ。勝つ確率なんて一垓分の一に等しい。一垓は十の二十乗を指すから、もはや確率論もいいところだ。絶無。その言葉がこの今の状況を表すのに適しすぎていた。


 しばらくの間、誰もが口を閉ざし、言葉が出なく空白が続いたが、それを目の前の十大龍席ドラゴニックイクスがどう解釈したのだろうか、こう言いだした。


「ふむ、いささか失礼であったか、我が名を名乗っておらぬのに生も死もないな。挨拶を欠くとは生物として無礼だったな。謝罪しよう」


 そういい、いきなり廃墟から突然現れた型龍タイプドラゴンは僕らに頭を下げた。


「ッッッ!」


周りから驚きの声を噛み殺そうとしたが少し出てしまったみたいな音が聞こえた。無理もない。僕だって驚いている。間違いなくこの型龍は十大龍席の一体だ。そんな奴が僕らに謝罪をするだと? 礼を重んじてるだと? そして、何より僕らを認識しているだと!? なんなんだ、こいつ。訳が分からない。そんな感情が僕の中を満たしていった。


だが、そんな感情もやつの自己紹介で無残に壊される。そんな現実が僕らに待っていたのだ。


「我が名はストームブリンガー。十大龍席が一つにして、第Ⅴ席。嵐龍 ストームブリンガーだ。さぁ、次は汝らの名を聞こうか?」


答えることができない。今こいつはなんて言った? 第Ⅴ席だと! 今までに討伐者エクテレスが倒した十大龍席は二体。炎龍 ニーズフレイガと氷龍 アイシクルローザ。炎龍は第Ⅵ席、氷龍は第Ⅷ席という位置だった。


Ⅴ席と言う意味が示すことは今まで出てきた型龍の中でも最強クラス。氷龍との戦いで中国領域(北エリア)はほぼ壊滅状態となっている。炎龍にしても、討伐者の中で最強を誇る覚醒者アフィプニスィ仲間チームが四国領域(南エリア)の一つの県を犠牲にして辛勝したと聞いている。そんなやつらよりも目の前のこいつは強いということ、ただただこれだけの事実が重くのしかかる。


 誰もが重く口を閉ざし、絶望を味わう中で一人の声が響いた。


「そうか、それがお前の名か! 十大龍席。俺の名は糸定しじょうだ。お前を倒す討伐者の一人だ。よく覚えておけ」


 そう、そう言い切ったのは糸定だった。あろうことかあいつは皆が絶望にひんしている中、ただ一人十大龍席に啖呵たんかを切ったのだ。


 「バカっ!」


 無線から梁山さんの焦った声が聞こえる。無理もない。十大龍席にお前を倒すと啖呵を切ったのだ。その言葉が指すのは戦闘を行うということ。水虎での戦いに全力を尽くし、疲労がたまりに溜まっている。そんな状態で戦うのは自殺行為に等しいものだ。


 誰もが糸定の行動に唖然とする中、糸定が僕らに声をかける。


「なぁに、黙ってるんだよお前ら。折角、やっこさんが自己紹介してくれてんだ。ここは俺たちもやつにならってカッコよく自己紹介しようじゃねぇか?俯いてるだけじゃ何にもはじまらねぇだろ」


 そんな糸定の言葉に周りの討伐者から非難の声が上がる。


「何言ってるんだよ? 俺たちはもう終わりだろ。せっかく水虎を倒しかけたのに、十大龍席だぞ!! しかも、第Ⅴ席! 今までのやつで一番強いんだ。どうすることもできねぇだろがっ!!!」


「もう、殺されるだけの運命じゃないか、何を頑張ろうっていうんだよ」


「そうだ、一矢報いることもできるかどうかわかんねぇような、相手なんだぞ?」


「お前、気でも狂ったのかよ。俺たちを巻き込まないでくれよ」


「死ぬなら勝手に一人で突撃して死ねよ。俺はまだ生きてたいよ」


「くそっぅ。なんでこんなについてないんだよ、俺たちは」


「理不尽すぎるだろ、この世界はよぉ」


 そんな絶望と諦観が立ち込める雰囲気が場を覆いこみ、討伐者は皆そんなことを言いだした。彼らの気持ちは分かる。僕だって隊長リーダーでなければ泣き言を言ってたかもしれない。僕も何かいおうとしたけど、今の状態じゃ皆のやる気をどう引き出せばいいか。まったくわからない。鼓舞する声も上がらない。そんな情けない状態にしかならない。どうすればいいんだよ。


 そんな中再び糸定が僕らに声をかける。


「ぐずぐずしてんじゃーねよ、泣いたら状況は変わんのか? 泣き言言ってどうなる、わめいてどうする。気持ちは楽になるかもしんねーが、状況は一つも変わんねーぞ。みっともない姿で死ぬのかよ、お前ら。だせえなぁ!」


 何をいうんだよっていおうとしたけど、糸定は続ける。


侵略者アグレションが来てからどれだけたったよ。数十年前か? 数年前か? 一年前か? 半年前か? 違うだろうよ! やつらが来たのはほんの数か月前だ! たった数か月で世界はあちこち滅ぼされた。日本も例外じゃねぇ。今じゃあ生き残ってるのはたった四つの領域だけだ。最東が三重県になったんだぜ、覚えてるよな?」


 誰もが知ってる、今じゃ小学生だって知ってる当たり前のことを糸定は言った。


型虫タイプイノセント型獣タイプビースト型龍タイプドラゴンいろんな種類があってたくさんの戦わなきゃいけないやつらが出てきて、更には、そいつらには階層ランクみたいなもんがあって、挙句の果てには十大龍席っつーわけのわからないやつらの親玉は出てくるし、散々じゃねぇか。でも、生きてきたぞ」


 誰かの息を飲んだ音がする。


「今まで、命からがら、逃げ回って、協力しあって、罠を張って、頭使って、武器を持って、能力使って、必死こいて、泥すするように生にしがみついて、今日まで生きてきてるんだよ」


「十大龍席の一体で第Ⅴ席だから、今までで一番強い型龍?なるほど、そうだろうよ。強いにきまってんだろうな。何たって第Ⅴ席だもんな。水虎に辛勝した俺たちじゃ相手にもなんねぇかもしれねぇ」


 そんな突然、他の討伐者の意見に賛同する糸定の態度を見て、少し周りがざわめく。


「けど、それがどうした! 第Ⅴ席? だからなんだ。いずれは倒さなきゃいけねぇ相手だろうが。大体まだこいつの上にあと五体もいるんだぞ。そっちの方が絶望すると思うぜ? 今ここで絶望してどうすんだよ? また敵が現れるたびに絶望しなきゃならないのか。俺はそんなのごめんだな。しかも、どうすることもできない状態だったのは水虎の時だって同じだったろうが。焼き直してんじゃねーよ」


 あまりにもけったいな言葉に誰もが言葉を失う。


「もう、殺されるだけの運命? それなら侵略者どもの最初の攻撃の時点で人類全員滅亡ゲームオーバー喰らってる。だが、現実はどうだ。生きてるぞ、今の今まで生きてるじゃねぇかよ。そんな運命を潰したじゃねぇかよ」


 糸定はまだ続ける。


「一矢報いるかわかんねぇ? やってもねぇのに決めつけんな! 未来が見えたのか? そんな未来が。お生憎様、俺にはそんな未来さっぱり見えなかったよ。だからよぉ、一矢報いるなんて暗いこと言わねぇであいつを倒そうじゃねぇかよ」


 糸定はまだまだ続ける。


「気でも狂ったってか? そうかもしれねぇな。気でも狂わなきゃ実際、やってらんねぇよ。でもよぉ、巻き込むつもりなんてさらさらねぇよ。俺たちは仲間だ。仲間が失意のまま死にそうな顔をしてんのをほおっておくわけにはいかねぇよ」


 そういって、糸定は笑った。


「一人で突撃で、生きてたいか。俺だって死にたくはねぇし、生きていたいよ。でもさぁ、みっともなく死にたくはないよ。どうせ、死ぬならかっこよく死にてぇさ。一生懸命あがいて、生きた証をのこしてぇよ。男に生まれた以上さぁ」


 誰も何も言わない。


「ついてないかぁ。これに関しては何もいえねぇな。俺たちが生きてる時にこんなことになるなんて本当についてねぇよな。どうせなら俺が死んだ後ぐらいにやってきてほしかったよ、それなら俺に被害はねぇし、往生おうじょう出来てるしなぁ。でもなぁ、きちまったもんはしゃあねぇだろ。割り切るしかねぇよ」


 誰かの拳を握りしめる音が聞こえた。


「理不尽だよなぁ! それについては大いに賛成だよ。なんで、何故、どうして。そんな言葉がよくでるさ。仕方ねぇよ。誰だって思う。思わないやつなんざいねぇ。皆、憤りを感じてる。例外なくな。だから抗ってやろうじゃねぇか! 盛大によぉ! こんな世界そうでもしなきゃやってらんねぇぜ? 違うか!? なぁ、お前ら?」


 糸定のそんな喝破かっぱに討伐者達の怒号が返事をする。


ったりめぇーだ! とかそうだそうだ!! やってやろうじゃねぇか!? ああ!? このまま死ぬのはごめんだ!! 生きた証は残してぇよ!! そんな声が聞こえてくる。そんな状況に玖凱は少し苦笑いを溢し、呟く。


「ったく、僕なんかよりもあんたの方がよっぽど隊長にむいてるよ」


そして、玖凱は今の今まで何の攻撃もしてこなかった。ただ静観していた。嵐龍に声をかける。


「今の今まで攻撃や、茶々を入れないでくれてありがとう。それだけはあんたが礼を重んじた以上いわせてもらうよ。名だけの隊長してさ」


 僕のそんな言い草に嵐龍が少し笑ったような雰囲気を出して言う。


「何、気にするな。我としても選択をしない意志なきものは一撃で有無を言わさず殺したくなるからな。その点ではやつの喝破はこやつらに意志を与えたからな。それを邪魔しようとするほど、愚かではない。人とは考える生き物だ。意志を持ち、選択ができる。権利を持っているのに使わないのは愚者よりもはるかに劣る行為だ。許しがたい」


 この型龍がどうして礼を重んじようとしているのかそんな理由の一つが分かったような気がした。


「だが、貴様らは少々見違えるようになって我は満足だ。それでこそ戦い合う意味があり、価値が生まれる。誇りあるデッドか(オア)憐憫あるライブなど、もはや聞く意味などなかろう。否、確認するまでもなかったか、今の貴様らには」


 そんな傲慢賦存ごうまんふそんな態度に少しケチをつけるように話す。


「あんまり、人類なめんじゃねぇぞ? てめぇが倒されるかもしれないぜ!」


「ふん、それならそれでよかろう。貴様らが我よりも強かった。ただそれだけ。意志ありしものと戦い、価値あるものを得れるならその死はこの後何千年も生きる命の生よりも数億倍意味があるものだからな」


 そんな威風堂々たる覇氣オーラを纏わせ、そう言い切った。嵐龍は何よりも神々しかった。一歩、思わず下がってしまう。しかし、下がった足が何かにぶつかった。


 後ろを振り向く。そこには糸定を始めとした討伐者がいた。水虎討伐作戦に参加した討伐者達総勢33名欠けることなく玖凱の後ろにいたのだ。


 思わず笑いが漏れる。そんな玖凱の横に糸定が立つと嵐龍が思い出したように言った。


「そういえば、糸定といったな。先ほどの喝破は見事だった。まるで颴風ヴォーテクスだった。貴様の意志と思いと、言葉と、態度この全てが一つの風となり、ぐるぐる廻り、渦を形成し、他のやつらの心に吹き込んで言ったのだろう。態度で示し、言葉を紡ぎ、思いを乗せて、意志と化す。それこそ、人が持つ意志の力。それでこそ戦いがいがあるのだ。人間はこうでなくては意味がない」


「お褒めに預かり、そいつはどうも」


 嵐龍の嬉々とした言葉に苦いものを感じるような表情で糸定は返事をした。


「恥ずかしかったのか?」


僕は思わずそう聞いてしまった。僕のその言葉に目つきを悪くした糸定は苦いものを噛み潰すようにこう言った。


「割に合わねぇことはするべきじゃなかったわ、大体、あれはお前がやるべきだったと思うんだがな」


 そう吐き捨てられたが、できなかったもんは仕方がない。糸定には悪いかもしれないが。そう思ってると後ろから冷やかす様な声が聞こえてきた。


「本当ですね、どうしたんですか?あんなキャラでもないのに。熱血主人公なような言い方。男の子でもしてるんですか?」


 冷やかしたのは梁山さんだった。っていうかニヤニヤして糸定の方を向いてるよ。この子……。


 なんか梁山さんの印象が崩れた感じがする。もっとこう、クールな感じの子だったような気が。


「うるせぇな。何度も言わすんじゃねーよ。だから割に合わないことはするべきじゃねぇって言ってんだろうが」


 糸定がぶっきらぼうに梁山さんに向かって悪態をついた。そんな態度に梁山さんはまたニヤついて後ろの集団に下がって行った。



 少し深呼吸をして、確認と奴のいうところの意志を込めて、僕は糸定に再び問う。


「勝てると思うか? 正直やつのいう通り、誇りあるデッドか(オア)憐憫あるライブ感はどうしても拭えない」


 僕がそんな正直な感想を言うと、糸定は呆れたようにこっちを見て言った。


「バーカ、そんなもん百も承知だわ。つーか皆思ってるけど言ってなかったのに、どうして言っちまうかね、お前さん。KYどころじゃないぞ、それ。ちゃんとしろよな」


 そんな責められる視線を向けられ、言葉に詰まる。続けるように糸定は言う。


「まぁでも、一つ訂正するなら、誇りあるデッドか(オア)憐憫あるライブじゃなくて、カッコよく次に繋げれる様なデッドもしくわ(オア)生きた証をのこすように嵐龍を討伐して生き残るライブにしようじゃねぇか!」


 そんな言葉に苦笑がこぼれる。


「ああ、そうしよう!」


 そして、十大龍席が一つ。第Ⅴ席 嵐龍 ストームブリンガーが再び嵐を身に纏い、宣言する。


「さあ、覚悟は出来たな? 人間よ。汝らの意志、みせてもらおうか!!!」



~~~~~


 水虎討伐作戦に参加した討伐者総勢33名。


 水虎に辛勝した彼らに待っていたのは更なる敵であった。


 十大龍席が一つ。第Ⅴ席ストームブリンガー。


 人間の意志に興味を持ち、礼を重んじた。嵐龍なるもの。


 覚悟を決め、各々が闘志を出し、意志を引き出した。


 ならばこそ、やるべきことは決まった。


 今一度、世界が創り出した理不尽に喰らいつく。


 



 今月はまだ投稿するからね。待っててください。下旬かな?活動報告にも書いてるよ。

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