Ⅶ:交戦(エンカウンター)
一か月一回更新は守るよ、本当だよ。
確認するまでもない事実かもしれないが、僕には確認したいことがあった。侵略者とは何なのかということである。大方の意見は『地球を滅ばすために出てきたバケモノ』ということで統一されているだろう。
だけど、もし彼らと会話が可能ならこんな状況にはならなかったのだろうか?手を取り合えって生きていく道もあったんだろうかと疑問に思う。でもそれはありえないことだろう。事実僕たち人類は彼らに家族や友達、身内、同朋を殺されている。許せるはずがない。否、許してはならないだろう。たとえ、彼らに知能があったとしても……。犯した罪は罰せられるべきなんだから。
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現在の時刻は8時57分。僕を含め今回の水虎討伐作戦に参加した討伐者全員は既に配置についた。作戦のおさらいも三十分前にすました。準備は万全である。あとはやつが来るのを待つだけである。
チクッタクッチクッタクッと時計の針を刻む音がやけにリアルに聞こえる。
無線に連絡が入る。
『こちら、Σ(シグマ)予測通り九時ちょうどに標的がγ(ガンマ)の射程距離内に入ります』
『了解した。Σはそのまま水虎の様子を監視、何か動きがあれば、逐一報告を入れてくれ。α(アルファ)、β(ベータ)は待機、μ(ミュー)はγが攻撃を始めたらα、βに支援魔法を唱えてくれ。γは既にμから狙撃のための支援魔法を受けていると思う。位置についててくれ。僕らΔ(デルタ)は例の罠まで全体の指揮を執るがそれ以降は各自作戦どおり行動してくれ』
『あーすまん、ちょっといいか?』
『どうした? 糸定なんか問題でもあったか』
『いや、問題はねぇよ。ただ、一つ言っておきたいことがあるから、もうあと三分しかないから言わせてもらうけどいいか、隊長?』
『ああ、いいけど』
『お前ら、絶対生きて帰るぞ! 分かったか!?』
その糸定の言葉にどの仲間も一拍置いてから返事が上がった。
『……おおーー!!!』
~~~~~
糸定の鼓舞が終わり、もうすぐ三分が経とうとしていた。三分が経つ、その意味が示すのは午前九時になるということ。つまりは、あの水虎との再びの交戦という事実を示している。どの仲間も既に準備はしてある。あとはやつがのこのことγの射程距離内に入った瞬間、γが水虎に向かってこの戦いの引き金を引くだけだ。
ザザァッ! 無線に連絡が入る。
『こちらΣ、標的がγの射程距離内に入りました!』
『ただいまより、作戦を開始する! 各仲間は行動を開始せよ!!!』
その言葉が終わると供に銃声音が戦場に向かって鳴らされた。
パンッパンッパンッ!!!
その音が鳴り響くと供に水虎の雄叫びが戦場に轟く。
「GGGGUUUUUGGGGAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!」
しかし、その雄叫びをかき消すように銃声が響く。
無線からはγ仲間の『SHOOT!』という声と供に銃声が続いている。γ仲間が放った銃弾は今のところ余すとこなく水虎に命中している。当の水虎はさっきから雄叫びなのかもはや悲鳴なのか分からない声を出している。
それもその筈だろう、何故なら水虎は銃弾を避けようとして別の場所に移動したらそこでも銃弾を喰らっているのだから。さっきからこの状況が繰り返されている。水虎は混乱しているはずだ。
混乱している今だからこそ、考える暇を与えない。やつは狙撃された痛みで冷静さを失っているからγが狙撃している間に、他の仲間が支援魔法を与えられて自分を待ち伏せしているなんて考えてはいないだろう。その隙に付け込まさせてもらう。
それに、いい加減やつも気付くはずだ。γがある場所だけいまだ狙撃していないと、あの銃連弾から一旦逃れるためにそこに行くだろう。もし僕や他の討伐者でも自分がこんな状況なら体制を整えるために引いてしまうだろう。だから、そこを狙う。
ひとまず、一時しのぎの場所に罠を盛大に張る。油断をついて一気に叩く。それが最初の罠だ。
予想通り水虎はγの狙撃から逃れれる唯一の場所に気付いた。やつは一目散にその場所へと向かった。その場所が罠だとも気付かずに。
その場所に水虎が着いた瞬間やつに向かって斬撃と打撃の猛威が牙を剥く。
「GGUUUWWAAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOO!!!?????????????????」
流石のやつもまさかひとまずと逃げた先に敵が待ち伏せしているとは今の状況では全く気付かなかったのだろう。困惑の声を上げていた。だが、そこに待ち伏せていたα仲間に一切の情はない。ただ水虎を狩るためにμ仲間から『攻撃力UP』『速度UP』『回避性能UP』『魔法攻撃UP』『心眼』『鬼人化』『特攻』全て攻撃にステータスを全振りしたような状態に持って行っている。
α仲間は全員で十人。狩人や覚醒者入り乱れている。武器もそれぞれ変わったもんを持っている。そんな彼らの猛威とかした攻撃は水虎もきつかったらしく声を上げて必死に逃れようとしている。
だが、そうは問屋が卸さない。αは逃れようとする水虎に対して追撃をかける。大剣を振るい、太刀は薙ぎ、槍は貫く、杖を振り回し、鎚は叩きつけ、斧は振り落すexc……。
けれども、流石に型獣の上位階層攻撃を喰らいながら魔法を使ってきた。その魔法が当たっただけでαは崩壊する。攻撃全振り状態にしているのだ。防御なんて紙にも等しい。故に、この時点でαは引き、やつが攻撃するのを待っていた。β仲間とバトンタッチする。
β仲間は最初、γが狙撃したときμ仲間がαと同じく支援魔法をかけていたのである。彼らに使った支援魔法はαと真逆の『防御力UP』『魔法耐性<大>』『速度UP』『回避性能UP』『堅牢』『鉄心』『受け流し』全て防御にステータスを全振りしたわけである。それゆえに彼らは硬い。鉄壁の守りを誇る。
Σが監視し、γが狙撃でポイントまで移動させ、μで支援した状態のαで攻撃、βで防御このローテーションで水虎の体力と精神力を削っていく。勿論、まだまだ始まったばかりである。この程度でくたばるような相手なら苦戦なんて端からしてはいない。
その証拠にさっきまではうまくいっていた攻撃も当たらなくなってきている。水虎とて戦ってリズムをとっていく感じなのだろう。最初の方では苦戦をしていたが今は自分の方が有利になってきていると感じてきているころだろう。・・・今頃は。
それも罠の一つだ。水虎は気付いているのだろうか。最初どうやって自分に攻撃してきたかを。何故居場所がわかったのかを。そして、本来αとβに支援魔法をかけたμが今どこにいるのかを。おそらく気付いてはいないだろう、気付いていれば、一刻も早くαとβに決着をつけてその存在を探すのだろうから。
ここら辺は侵略者があまり高い知能を持っていなかったことに感謝するしかあるまい。だが、水虎はそんなこともつゆ知らず、自分を散々痛めつけてくれた仕返しをしようとαとβに夢中のようだ。そして自分の攻撃が段々βが防ぎにくくなっていると思っているだろう。
だが、それは違う。彼らは水虎をあるポイントへと移動させている。何か狙いがない限り、αが攻撃してβが防ぐこの繰り返しを永遠と続けるわけがない。何より、彼らはそんなに愚かではない。討伐者をいや人間をなめているこいつにそれを教えてやる。
ザザッ! 無線に再び連絡が入る。
『こちらΣ、標的がμが仕掛けている罠ポイントへと近づいてきています』
『了解。αとβはあと少し頑張ってくれ。Σはそのまま監視及び状況の把握を頼む。γは再び狙撃の射程距離内に入った水虎を狙撃してくれ、切札は例の罠のポイントで狙撃。μはγの支援魔法が終了次第Δに向かってくれ。皆上手くやっている。このまま作戦通りに行くぞ!』
『『『『『『了解!!!!!!』』』』』』
それぞれの仲間の粋のいい返事が帰ってきて、にやける。このまま進めば、水虎を倒せる。そう思えたからだ。
~~~~~
αとβの必死の頑張りにより、水虎は例の罠へ近づいたし、何より再びγの狙撃ポイントへと入った。切札も準備を始めている。さぁ、その喉元を掻っ切ってやる。
無線に連絡を入れる。
『こちらΔ、作戦統括隊長玖凱 十三だ。指示を出す。αとβはよくやってくれた。直ちに退避して、僕らΔとは真逆の方向に迎え、数分後にμがそちらに向かう。γは狙撃を開始、切札は同じγが水虎をお前の狙撃ポイントに向かわせる。それまで待機だ。行動開始』
その言葉と同時にαとβは水虎から距離をとってワザと水虎に見えるように僕らΔとは真逆の方の廃墟へと消えた。そう、廃墟である。そこでやつも初めて気付いたのだろう。いつの間にか戦いの場所が自分がいたところからこの前僕が戦った場所に移っているということに。怒りで我を失い冷静な判断ができなかったからだ。
だが、今頃気付いてももう遅い。仕掛けは始まっているだから。
パンッパンッパンッ!!!
連続する銃撃音。三方向にそれぞれの狙撃者がやつへと銃弾を向かわす。
水虎のやつもその狙撃音で気付く。自分がはめられていることに。そして、この狙撃から逃れるために水虎も廃墟に隠れた。その選択は狙撃から身を守る選択肢としては、まぁ、悪くはないんじゃない程度の答えだが、今回に限ってはそれは悪手である。
何のために僕が指示でΣに監視と状況の把握を頼んだだと思っている。ここは廃墟。狙撃主が隠れるには絶好の場所にして標的が隠れるのにも最適かもしれないがこっちには監視員がいる。お前の行動は筒抜けになる。そして自分がγの狙撃であるポイントに誘導されているのにも気付かない。
お前が今使っている道は、もうすぐ進めば破壊の跡だけが残る更地。覚えているか! お前が濁流を放ちぶっ壊した場所だということを。そしてその身で思いしれ。自分の放った魔法厄介さを!
「GUUUUUUU?????」
水虎が不思議がる声を出している。それもその筈。自分を狙う狙撃がいきなり止んだのだ。この先に何かあるのかと踏んでいる。やつとてそこまでの大馬鹿者ではない。最初自分がこんな風な感じで罠に引っかかったことを忘れるはずはないだろう。だからその場所で戸惑うだろ。それが狙いだよ。
『μ、やれ』
どこで魔法を唱える声がした。直後、やつの足元が泥濘始める。
「GUUUUUURRRAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!??????????」
水虎が訳が分からないといいそうな感じの声を出す。そして、ヒュッ! と軽快な音が鳴る。その直後ドスッ! と水虎に鈍い音が響いた。
「GGGGGGGGGGGGGGGUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUGGGGGGGGGGGGGGGGAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!????????????????」
ここ一番の悲鳴めいた声だった。やつの体を貫通したのは巨大な弓矢。つまり切札とは弓での狙撃であった。一本の螺旋を描いた巨大な弓矢は水虎の体を貫いたのだった。やつは避けたかっただろう。しかし、それは出来なかった。それはやつの足場がぬかるんでしかも、沈んでいったからだ。
やつ自身が放った濁流は凄まじい威力だった。しかも、その影響で濁流を受けた地域はまだ地面が渇いていないのだ。あのポイントはμ達が魔法で一時的に固めたもの、先程μに頼んだのはあの魔法を解いてもらうことだった。魔法が解けてあの地面は泥濘まくり、更には沈む。まるで泥沼みたいな現象を引き起こしたのだ。
そう全てはやつにこの一撃を浴びせるための布石だった。これが僕たちが昨日考えた水虎を倒しえるための作戦だった。
~~~~~
話は昨日の会議室での会議まで戻る。
「とりあえず、確認しとくけど今この場にいる討伐者は全員で何人なんだ?」
僕がそう問うと、糸定がこう聞いてきた。
「ん、狩人と覚醒者は分けるか? それとも一緒にして討伐者の総員の数か?」
「狩人と覚醒者は分けずに討伐者の総員数を知りたい」
「OK! ちょっと待ってろ。今数える」
「……うし。分かったぞ、十三。今回の作戦に参加した討伐者は全部で33人だな」
「33人か、思ったより多く集まってくれたな」
「いいことだろ」
「まぁな。さて人数は分かったけど実際問題どうするかな。水虎の弱点みたいなのは分からないしな、せめて行動パターンとか分かればいいんだが」
僕がそういうと、糸定がこう切り返した。
「行動パターンが分かるかどうかは知らんが、俺は皆にどこで水虎を見たとか、どんな攻撃をしてくるかは聞いておいてやったぞ」
「まじか!?」
「おお、そうだ。こっち来てくれ、梁山」
そういって、糸定は会議室にいる一人を呼んだ。
「はい、何ですか? 副隊長」
そういって現れたのは小さな少女だった。おおよそ中学一年生になりたてたような子だった。僕がその子に対してそんな感想を思っていると、梁山と呼ばれた少女がこちらを向いた。
「どうも、先ほどの鼓舞はまぁまぁでしたよ。よろしくお願いします隊長」
なんて言われた。まぁまぁってひどくないか? なんて思っていると、糸定が説明してくれた。
「こいつは覚醒者の梁山。愛想が悪いが我慢してやってくれ。俺がこいつを呼んだのはこいつの固有概念魔法が『千里眼』だからだ。こいつの『千里眼』はあてになる。一度見た相手は自分が覚えている限り監視出来る。しかもこいつも一回水虎を見ているから。今からでも監視ができる。だが、制限があって、同じ対象は一日一時間しか見れない。そこが弱点ってところだな」
と、糸定が梁山さんの固有概念魔法を喋った。そんな糸定を梁山さんは睨んでいる。まるでなんで私の情報を勝手にしゃべってるんですか?とでも言いそうな感じだ。
「なんで勝手に人の固有概念魔法の情報をぺらぺらと話してるんですか、あなたはプライバシーという言葉を知らないんですか?」
前言撤回。思ってたより少しひどかった。しかし、糸定はそうんなこといわれるのは分かってたみたいな感じで話す。
「どのみち、水虎倒すために自分の情報は話すべきだろう。それに狩人も覚醒者も関係ない。いっそのこと、今から自分たちの情報を明けあうか? そっちの方が作戦も立てやすくなる」
と行動方針を提案してきた。勿論、否定する意味もないので素直に賛成する。
「じゃあ、僕が声をかけるよ」
そういって行動を始めた。
~~~~~
「・・・・・私を出汁に使いましたね。糸定さん」
「んー、今度何かおごるから、駄目?」
「はぁ。分かりましたよ。しかし、何故彼にわざわざ譲るのですか? あなたが意見をバンバン出せばいいじゃないですか」
「彼ならやってくれる気がするんだよ」
「あなたの代わりの雑用という指示ですか」
「違うよ、俺はそういう意味でいってるんじゃない」
「じぁあ、なんなんですか」
「水虎を倒し、その上にいる十大龍席をも倒すことだよ」
「…………はぁ? ついに頭でも沸きましたか。だったら良い病院を紹介した方がいいですかね」
「冗談じゃないさ、俺は本当にそう思っているんだよ」
「何を証拠に?」
「俺の固有概念魔法かな?」
「……それは、本当ですか。なおさら疑わしくなりましたよ、私には」
「疑り深いなぁ、梁山ちゃんは」
「一応、忠告しておきます。糸定さん、あなたの固有概念魔法だなんて滅多なことは言わないでください。心臓に悪いです。それが本当なら私はどうすればいいんですか?」
「さぁ、なるようになるだろ。いつだって世界はそうやって回っているんだ。例外なんてないさ」
「……もういいです。あなたにいった私がバカでした」
そういって梁山ちゃんは皆がいる方に向かった。しかし、梁山ちゃん。どうやら君が思っているよりも事態は進んでいるのさ。俺は彼と握手したとき感じ取ったんだ。彼と彼の持つ劔の運命を。あの時は表情に出さないようにポーカーフェイスを保つのに苦労したんだが、とはいえどうか彼の未来に幸あらんことを。そう願い俺も彼らの元に向かった。
~~~~~
糸定からの意見でこの作戦に参加した全ての討伐者の能力や使用武器を聞き、水虎がどうゆう行動をしているのかを梁山ちゃんから聞いて、他の皆からの情報も聞き、水虎のどの時間にどう動いているかどこにいるのかを特定することができた。
次は攻撃パターンだが、水虎に関してはやつが今まで使ってきた技を聞いても五つしかなかった。『水鉄砲』『水撃連弾』『水流波切断』『水層波槍』『濁流』この技を使ってくる。弱点とか癖は
目立ったやり方とかも調べ、それっぽいのは見つけた。
残る問題はこちらの戦力をどう使って、水虎を追いつめるか。また何時何処で戦うかの二つだけになった。
こちらの戦力を分析すると、遠距離攻撃ができる、銃や大弓を持つ狩人がいる。そこから考えて狙撃で攻撃していくのが有効かもしれない。幸い梁山さんの千里眼で位置特定はできる。狙撃はしやすい。だが、大弓は威力がでかい分、時間がかかる。使うなら罠にかけなければならない。そうなると、罠掛けがどうすればいいか分からない。そもそも水虎を罠にかけれるかが分からないのだ。
僕が思考の渦にはまってると、梁山さんが意見を出した。
「この前、水虎と戦った場所はどうですか? あそこなら廃墟が多いし、狙撃に向いてて、尚且つ私の千里眼で監視可能。濁流の影響で最深部はまだ泥濘があるから、覚醒者の魔法で一時的に一定の地面を固め、魔法を解いたら泥沼みたいに沈ませて移動封を封じます。そしたら、狙撃でそこまで追い詰め、罠にかけたら大弓で狙撃みたいな感じはどうでしょう」
周りからおおっ! とかそれはいいんじゃないか!? という声が出てきた。だけど、一人が尋ねる。
「だけど、水虎は泥と化した水を操ることが出来るんじゃないか? 見てはいないけど濁流が使えるなら、水系の魔法は使えるだろう。そしたら、泥濘で罠にはめても、泥沼化さして移動を封じてもいみないんじゃないか」
その疑問に勢いづいた会議室が収まる。だけど、糸定がその質問に答える。
「おそらく、それはそれはないと思われるな。水虎は水しか使えない。同じ水系譜の氷は使えない。なぜならもし水系譜の魔法が使えるなら俺らが戦った様々な場面でやつはそれを使うはずだ。出し惜しみはしないだろう。切札として持ってる可能性も少ない。十大龍席、型龍以外の侵略者は知能がないからだ。型獣しかり型虫もな」
周りからなるほど! とかそうかなど感想がでている。そして、僕の頭に一筋の光明が浮かんだ。
「皆、こうゆうのはどうだろう?」
数時間後、僕は皆にもう一度確認する。
「それじゃあ、決まった作戦を確認するよ。まず僕らは総計33人、仲間の打ち分けはαに10人、βに7人、γに4人、Δに3人、μに7人、Σに2人だ。Σが水虎を監視し9時丁度にγの射撃範囲内に入るから狙撃、予めμで強化されたαとβが水虎をローテーションで翻弄しつつ誘導、廃墟に入ったら再びγが狙撃、罠に誘導して引っかかったら切札こと大弓でバンッ! と射抜く。そんな感じかな」
大体説明し終えると、糸定が質問してきた。
「Δはどうするんだ? っていうか何故ギリシア文字?」
「Δは指示及び強襲。ギリシアなのは、αはアタックのa、βはブロックのb、γはガンのg、μはマジックのm、Σはサポートのs、千里眼と転移者だからばっちりだろ。そんでΔは」
「Δは?」
~~~~~
そうさっきまで昨日の一幕を思い出し、少し笑う。そして、声を出す。
「Δ突撃!!!!!!!」
『Δのdはデストロイのdだ』
オオッッ!!
僕を含めた三人が水虎に向かって突撃した。水虎は狙撃されたばかりの体で魔法を使ってきた。使用してきたのは『水層波槍』と『水鉄砲』の二つだ。しかし、『水層波槍』は左のやつが同じ鎗で交戦し、『水鉄砲』は右のやつが拳でねじ伏せた。中央を行く僕には水虎との間に邪魔なものはない。そう思い、攻撃しようと思った時、事態は急変する。
水虎は傷ついた体で二つの魔法を放った後、その上で更に魔法を放った。放った魔法は『濁流』つまりは奇しくもあの時と同じ光景が繰り返されたわけである。
無線からは焦った声が聞こえる。大方まだやつが魔法を打ってくるなんて思っていなかったからこの状況は予想外のものだった。だが、もう既に僕は走り出してしまっている。やつとの距離はもう数メートルしかない。ならやることは一つだろう。皮肉にもこの状況はあの時の焼き直しだ。水虎が『濁流』を使ってくるならこっちは『灯楼流し』で迎え撃つわけだ。
水虎との距離が数メートルを切った。濁流はもうすぐそこまできている。ならばこそここで使う、使うべきだ。不思議とこの劔とのなら勝てるきがした。やつの濁流に、そして、技名を、玖凱 十三は叫ぶ。
「添って返すぞ! 灯楼流し!!」
拮抗する二つの攻撃。濁流はその名の通りすべてを飲み込もうとして、灯楼流しはそれを返す為に。二つは激突する。
「GGGGGGGGGGGUUUUUUUUUUUUUUUGGGGGGGGGGGGGAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっっっっっっぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!!!!!」
十三の、水虎の叫びが廃墟という戦闘場所に響き渡る。怒涛の声は譲ることなく響き、二つの攻撃の衝突はいまだ続く。どちらが一方が有利になる状況は迎えてない。水虎はこの攻撃に文字通り命をかけているのにな気迫で望んでいる、十三もこの攻撃を返すのに必死だった。ここを制する者が流れと勝利を掴むといっても過言ではない状況がこの場所に広がっていた。
この二つの攻防を見ていた他の討伐者も手が出せなかった。否、下手に手を出してしまえばこの攻防がどちらに傾くかが分からなかったため、その場に立つしかなかったのだ。それはあまりにも無力だった。
このままどうなるか分からないかもしれないそう思い始めた時だった。
初めて、均衡が、崩れた。
それは水虎の濁流だった。流石の水虎も罠に嵌められ狙撃されていたのだ。むしろよくここまでもったというべきだろう。そして、決着がつく。
「だっっっらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そう叫んだ。十三は一気に水虎の濁流を添って返した。そして、水虎が己の放った『濁流』で視界が防がれた時、十三は畳みかけた。
「これで終いだ、水虎。 ぶれて刻め! 陽炎斬り!!!!!」
そういって、水虎にむかって灯楼流しによってパワーアップしていた濁流ごと掻っ切った。
「GGGGGGGGGGGGGGGGGGUUUUUUUUUUUUUUUUGGGGGGGGGGGGGGGAAAAAAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!?????????????????」
その轟く悲鳴とともに水虎は倒れた。一拍置いて周りから大歓声が上がる。ついについにあの自分たちを苦しめた水虎に勝利したのだ。誰だって歓声を上げたくなるだろう。僕が周りを見渡せば他の討伐者は皆喜んでいる。どの仲間もだ。糸定だってガッツポーズをとっているし、梁山さんだって喜んでいるオーラを出している。そして、やっとわかる。僕らは勝てたという事実に。
支部長からもらったこの劔、無銘だったか。よく持ってくれた。これがなかったら勝ててなかっただろう。支部長様様だった。
「G…………U…………G…………A…………」
そんな息が絶えるような声が聞こえた。そう思い、水虎の元に近づくと、ボロボロになりながらもまだ息絶えていない水虎の姿があった。その姿に驚きながらもとどめを刺そうと思い、無銘を握りしめた時、弱弱しくカタカナが聞こえた。
「…………ヨクモ……ニン…………ゲン……メ……」
思わず凝視する。目の前の水虎が人語を話したのだ。驚かない方がおかしい。そう侵略者でしゃべれるのは型龍つまりは十大龍席だけだったはずなのだ。不思議に思わないわけがない。殺す前に質問しようと思った時、悲劇が始まった。
それに気付いたのはただの感だった。直観といった方が正しいか、十三はとっさに身をかがめた。次の瞬間、十三の前にあった廃墟が切り裂かれた。は? と思うより先に悲鳴が走った。
うわぁぁぁ!!!!!! ぐわぁぁぁぁ!! きゃああああああ!!! などの悲鳴だ。他の討伐者の悲鳴だった。
後ろを振り向くと悲惨だった。あんなに一緒に戦った討伐達がボロボロだった。あるものは突然できた竜巻に吹き飛ばされ、廃墟にぶち当たる。また、あるものはまるで鎌鼬にやられたように切り裂かれていた。突然の強襲にわけが分からなくなる。まさか、他にも侵略者がいたのか彼らの思いはその一つになった。
そして、それは理不尽にも彼らの予想を大きく上回る絶望が喰い散らかす。
理不尽なる攻撃が一時止んだかと思いきや、大きな竜巻が廃墟の中心に現れる。そして、竜巻が終わりそこにいたのは一匹の龍だった。
誰もが言葉をなくす。龍、龍である。型龍が現れたのだ。しかも型龍は十体しかいない。その事実が指すのは十大龍席の強襲。絶望しかなかった。階層Aの水虎で苦戦したのにその浪費した状態で階層Sの型龍。彼らが狂わなかったのが唯一の救いか。
龍が口を開く。
「汝ら、何を望む? 憐憫ある生か、誇りある死か。どちらがいい?」
理不尽が牙を剥く。
一万字はつかれたわ、うん。無理せずいこう。