Ⅲ:看護室(レスキュー)
どうしようもなく、悲しい出来事ってあるよね、そんな思いに負けて書きました。
「ん……、んんん…………」
なんか眩しい。それに少しうるさい気がする。なんなんだ? でも、まだ眠いや……もう少し寝とこう。
「~~~~~~~~~」
ん? 何言ってるんだ? なんか言ってるような気がするけどまったく聞き取れない。
「~~~~~~~~~~~~」
あれ? 今度はさっきよりも長くなってないか?いったいどこの誰が何を言ってるんだろうか。でも、全くといっていいほど聞き取れない。やっぱりまだ眠いんだろうか。
「~~~~~~~~! ~~~~~~~~!!」
やっぱり誰かがなんか言ってる。しかもさっきよりも言い方が強くなってる気がする。でも、相変わらず全く聞こえない、この声がだんだん煩わしくなってきた。何を言ってるかわからないのに人がこの眠りに身を任せたいのに、ここぞという感じで邪魔をしてくる。鬱陶しいったらありゃしない。
こうなりゃ無視して眠りに身を任せよう、そうしよう。それが一番な気がしてきた。
そう思い、意識を手放した。
「ん、ん~~~~」
なんか頭がすっきりする。それになんか疲れが取れた気がする。そう思って瞼を開けたら、目の前に巨乳のナースが目の前にいた。
…………What?
は? なんだこれ? 何この状況? いきなり目が覚めたら巨乳のナースがいるんですけど、しかも結構距離近いんですけど、僕が顔上げたら頭と頭ぶつかるくらいに近いんですけど!
そんな感情が言葉よりも先に出てきた。まぁ、次の瞬間にはお決まりな感じになってしまった。
「うわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
「ひひひやややややぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
案の上、ご愛嬌である。定番過ぎたと言われちまったら、そこまでであるんだけどさ。
~~~~~~~
「あー、びっくりした。なんで目が覚めたら澪標さんがいるんですか、びっくりするじゃないですか」
「び、びっくりしたのはわたしですよぅ。玖凱さんが運び込まれたって主任がいって、わたし居ても立ってもいられなくなって、あわあわしてたんですぅ。そして、大怪我している玖凱さんを見て、大丈夫ですかぁ! っていったのに全く返事なくてわたし不安だったですよぅ。挙句の果てにはタオル変えようとしたときに玖凱さんに近づいた瞬間にいきなり目を覚ますんですよぅ。驚きましたよぅ。でもまぁ、目が覚めてくれてよかったですぅ。これで、30人目ですぅ」
「30人目?」
「はい、あの今回、型獣Bランク級の被害にあった人が目覚めた人数ですぅ」
「そうだ! あいつだ! あいつはどうなったんだ!!」
「ふぇぇ! あ、あいつですかぁ?」
「ああ、今回、型獣Bランク級の指定を受けていたあいつだよ、あいつ」
「型獣は水の上級魔法『濁流』を放ったあとどこかへいっちゃったらしいですよぅ?」
「本当か?」
「はい、濁流を間一髪逃れられた他の討伐者の方々が言っていましたぁ」
「そうか…………、ってちょっと待ってくれ」
「なんですかぁ?」
「今、濁流を間一髪逃れられたっていわなかったか?」
「はい、いいましたけどぉ、それがどぉかしたんですかぁ?」
「いや、あの攻撃に逃げ場はないと思ってたから、ちょっとびっくりしただけだよ。ごめんな、変なこと聞いて」
「いえいえ、全然いいんですよぉ、そういえばぁ、逃れられた討伐者の方々がいうには『一瞬だけ濁流が来なかったとこがあるからそこから逃げ込んだ』っていってましたぁ」
「一瞬だけ来なかったとこ?」
「はい、曰く、ほんの数秒だったけどあれがなかったら、今頃全員あの攻撃を喰らって助けを呼ぶこともできず、他の侵略者に見つかってお陀仏だった。っていってましたぁ」
「…………そうか」
「どうしたんですかぁ?」
「いんや、なんでもないよ。それより、看病してくれてありがとう。澪標さん。おかげで助かったよ」
「いえいえ、わたしはみなさんと違って一緒に前線では戦えませんから、これぐらいはどうってことないですよぉ」
「おいおい、澪標さん。何言ってるんだよ、澪標さんみたいな人はなかなかいないよ。討伐者じゃないのにこの軍勢の中にいて、前線から帰ってくる負傷者を治療する人なんて」
「……そうですかねぇ?」
「ああ、いくら軍勢内だから安全とは限らないんだ。それに他の人は皆、安全な聖域にいるからね」
聖域とは、侵略者が入ってこないように覚醒者達が作った結界のことで中からは簡単に破れるが、外からならそう簡単には壊れない強度な結界のことである。
「そ、そんなことはないですよぅ」
「謙遜しなくてもいいって」
「け、謙遜なんかしてないですよぅ、もう玖凱さんったら」
バシッ!
彼女にとっては、僕がほめていたから照れくさくなってついいつものように、知り合いにやるような感じでたたいてしまったのだろう。僕だって、あれだけ言われれば照れの一つもすると思う。だがしかし、今回は場所が悪かったというか、僕の今の状況のせいとかそんな感じで見事怪我しているところに当たってしまったのだ。
ただまぁ、そんな見事に怪我しているところにいい一発をもらってしまった僕は、その痛みに耐えきることなどできるはずもなく……。
「いっっってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
「ふわわわぁぁぁぁぁぁーーーーー!!! すいませーーーーーーーーん!!!」
数十分後…………
「あああああ、痛かった」
「すいません、すいません。わたしのせいですぅ。わたしが玖凱さんにひどいことを~~~」
「ああ、大丈夫だよ。それに僕もちょっと褒めすぎたせいだろうし」
「そうですよね、わたしなんかがみなさんのお役に立てているなんておこがましいですよね、すいません、調子に乗って」
「ああ、いやいや、違う違う。そういう意味でいったんじゃないよ」
「ふぇ?」
「だから、澪標さんを過大評価していたとかじゃなくて、僕が調子に乗って褒めすぎたから、悪かったって意味だよ」
「いえ、全然そんなことはありません。たとえ、そう言う意味で玖凱さんが言っていたとしても、そこから照れ隠しで病人に手を出してしまったわたしが駄目なんですぅ」
「いや、だから…………そうだ! 澪標さん」
「なんですかぁ?」
「おあいこってことにしないか?」
「おあいこですかぁ?」
「うん、僕も調子に乗って澪標さんを褒めすぎていたし、澪標さんも照れ隠しで僕を叩いたことも、お互いさまってことにしようよ」
「でもぉ、それはぁ」
「でもも、それもなし。患者である僕が言ってるんだ。この話はお互いさまってことでお終い。それ以上いっても、堂々巡りにしかならないからね」
「わかりましたぁ、そうしますぅ」
「「あはははははははははは」」
「なんかおかしいですねぇ、わたしたち」
「ああ、全くだよ」
そんな感じで僕と澪標さんの和やかな時間はすぐに過ぎっていった。
事態が変わったのはこの会話をして数分後のことだった。
澪標さんが
「ああーーーー!!! そうでした!!!」
って叫んだところから始まる。
「え、どうかしたの? 澪標さん?」
「どうしましょう、すっかりわすれてました、紘藤さんに玖凱さんが起きたら連絡を入れてくれって言われていたんでしたぁ」
「支部長に?」
「はい、紘藤支部長にですぅ」
「とりあえず、さっき起きたことにして、支部長に連絡してみて」
「ええでもぉ、玖凱さんはだいぶ前からおきてましたよぉ」
「いいから」
「はい、じゃあ支部長に連絡してきますねぇ」
「うん、よろしく」
そういって澪標さんは部屋から出ていった。さて、どうしよう。支部長からの呼び出しをくらう線が高いなこりゃ。参った。あの濁流を使ってくる型獣と戦う前に「任せといてください、お茶の子さいさいですよ」っとか言っちゃってたからなぁ、僕。確実に怒られるだろう。なんせ、あの部隊長っぽいのはランク的にぼくだろうしなぁ。難儀だ。まぁ、負けた以上言い訳はするつもりはこちとら全然ないんだけどさ。それでもなぁ、はぁ。
そんなこと考えてたら、澪標さんが帰ってきた。
「どうだった?」
「ええとぉ、なんか今すぐ支部長室に来てほしいらしいですぅ」
「今から?」
「はい、今すぐ、来てほしいってぇ」
…………どうやら支部長は僕の思っている以上にお冠だったらしい。
大丈夫か、僕。
次の話が本当の二月末になりそうです。三度目の正直です。はい。