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命運玉座のキヲテラウ  作者: 古卯木 悠右人
第二章 煉獄業火の煌焔のち??
22/22

追憶(レミニセンス)~紅蓮(クリムゾン)~

遅くなってすいません。これからは最低でも一か月一回は更新します。

 その日はいつもと変わりない日だった。朝を起きて、父さんや母さんに挨拶をして、既に用意されていた朝飯を食べて、一緒に学校へ行く友達や幼馴染と共に、何気ない話をして、学校に行く途中だった。行く途中だったのだ。あの悲劇が起こるまでは……。


 まず、大地が揺れ、空気がきしみ、空は割れた。体中を走り回る怖気が俺に異常を教えた。俺にしては珍しく、早めに行動できたと思えた。全然そんなことはなかったのだけど。この現象の疑問を友達や幼馴染に問おうとしたとき、更なる異常が俺を、俺たちを襲ったのだ。


 ザザッァァ! といきなり頭の中にノイズが走り、思わず、不安定なはずの大地に足をつけた。だが、これはその程度では終わらなかった。続くように頭の中にナニカが聞こえる。その声は小さいはずなのに、だんだんと繰り返される度に音を、声を大きくハウリングでもするように増していった。そして、響く。


 ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ

ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ


 狂ったように繰り返される言葉は、一度などではなく、心をへし折るように、するりと体の中に入っていく感じがした。それは狂気そのもので、吐き気がし、胃の中のものを全て吐き出した。空っぽになった体は耐え切れないとでもいうように、倒れ伏し、俺の体はまるで強制的にシャットダウンしたように動かなくなり、意識は切り離され、視界は意識ごとブラックアウトされた。


 俺が再び目を開けたのは、いつだったのだろうか? 詳しいことは覚えていない。ただ、再び目覚めたとき、世界は変わって、いや、終わっていた。倒れ伏した体を、よろよろと壁に背を預けながら三半規管がはっきりとしない体をゆっくりと起こし、唖然とした。


 空には、見たこともない怪物が空を泳いでいる。同じく空を飛んでいた小鳥を一口で飲み込みながら、何体も、まるで群れみたいに。大地はひびが入り、不安定なままだった。だが、いたる所で火が、燃え盛る炎が住んでいる町を、市を、劫火に灰燼へと変えていた。炎は轟々と灼熱のように容赦などなく、人々の悲鳴を燃料にするかのごとく燃え盛っていた。しばらくの間呆然とその光景をまるで他人のように眺めていたが、ふと思い出したように、俺は友達と幼馴染の元へ向かった。


 結論からいうと、友達は既に死んでいて、幼馴染は壊れてしまった。俺が先に向かった友達は目は閉じていて、口を開けていた。咄嗟に心音を確認するが、心臓はもう動いてなかった。すぐさま心臓マッサージを開始したが、数十分やり続けたが、意味はなく、既に彼は手遅れだったのだ。失意のまま、幼馴染の元へ向かったが彼女のまた心臓が止まっていた。同じように心臓マッサージをし続けた。俺はもうやけくそだった。ルーチンワークのようにそれを同じように数十分繰り返した。一つ違うことがあるとすれば彼女の息が吹き返したことだった。その当時は、生き返ったことをとても嬉しく思ったけど、それは今振り返ってみると、物凄く酷い行為だったと感じる。あの時、死なせてやれば、俺が諦めていれば彼女はこんな世界に生きずにすんだかもしれないのだ。


 俺は彼女を蘇生した後、まだ意識が朦朧もうろうとしている彼女をおぶって、自宅まで帰ろうとした。早い話、俺は家族が心配だった。謎の生物がまだ町をうろちょろしているし、あれらが消えてからの方が完全に安全だが、火は終わることなく、まだ町を燃やしているのだ。牛歩のように行動していたら、家が全焼して意味をなくしてしまう。後から思えば、俺のこの判断がこの後の運命を全て決めてしまったのだろう。後悔などしても意味はない。だけど、ふと時々思い出してしまうのだ。あの時、違う行動をしていたら何かが変わっていたのだろうかと……。


 彼女を背負いながらゆっくりだが確実に一歩一歩ずつ進んでいく。それが地獄へと道だとは気づかずに。俺は愚鈍なままに無様に進んだ。


 ようやく、俺は家についた。そこは朽ちていた。そして、既に終わっていた。燃え盛る炎の影響は受けていなかったが、わけのわからない怪物が俺の家族を食べていた。いや、既に食べ終わっていた。もうそれが俺の家族か分からなかった。ただ着ていた服から俺の母さんだと分かった。何もいえなかった。負ぶっている幼馴染はまだ意識が朦朧としている。怪物は俺の方など見向きもしなかった。今のうちに抜け出そう。ゆっくりとしかし、俺の中の何か大事な物がハッキリと抜けていく気がした。


 家を出た後、そこらへんにあった木を拾い、燃え盛っている火を木に移して、家に向かってその木を放った。轟々と燃えていく炎が全てを燃やしていく。大事だったものを燃やしながら、消えていく。不思議だが涙は零れることはなく、涙腺は未だに乾いたままだった。炎を目にして、振り向かず、幼馴染を再び背負いなおし、彼女の家へと向かう。もう帰ることなどできやしない。俺の家を背にして……。


 だが、この判断もまた間違いだったのだ。あの時に俺は、避難すればよかったのだ。彼女の親が俺の親と同じ運命を辿っていると気づけばよかったのに。当時の俺は気づいていなかったのだ。無様に奇跡に期待した。俺は既に悲劇への道を歩いていた。


 歩いて数十分。俺は彼女の家にたどりつくことができた。彼女はまだ気がついてはいなかったが、俺はそこで、不意に彼女の親が俺の親と同じ運命になっているかもしれないと思い、彼女を家の前に降ろし、一人で入ることを決意した。最初から気付いていれば、こんなことも無意味だったのに。恐る恐る玄関のドアを開ける。鍵は開いていた。自分の喉からごくっと音がなる。そのことを自覚しながら、足を一歩踏み入れた。


 光が漏れることはない真っ暗な部屋だった。家の中に人がいるのかはわからない。だが、俺は彼女の家族を確かめるためにまっすぐにリビングがある部屋まで歩いていった。リビングがある部屋までたどり着き、俺は再びゴクッと喉を鳴らし、ドアをまわす。ギィッとドアの開く音がする。俺は脚を一歩踏み入れた。


 ……………………終わっていた。既に終わっていたのだ。彼女の家はもう終わっていた。崩壊していた。崩落していた。惨劇は終了していた。家も終滅していた。人は死んでいた。徹底的に終わっていた。彼女は見なくてよかったと心の底から思った。こんな悲劇は見るのは、俺だけでいい。もうここから出よう。そう決意したとき、ガタッ! と物音がする音がした。反射的に振り返ると、彼女がそこにいた。こちらを見ている。俺を見ている。正確には、俺の後ろにある惨劇の風景を。


 叫び声はなかった。彼女は唯唯ただただ目の前の風景を、惨劇を見ていた。目は虚ろで、生気が宿っているかはまるでわからない。一言も喋らず見ているだけ。その動作が酷く俺には怖かった。もう俺の知る彼女はいないんじゃないかと思ってしまいそうだったから。思わず声をかけた。


「おい、△△△」


 返事はない。彼女は風景を見ていた。俺を見ていた。正確には、俺の後ろにある風景を、惨劇の風景を。酷く虚しい風景を。しばらくの沈黙が場を支配した。彼女は歩き出し、俺を通り過ぎ、カーテンを開いた。庭は荒れていた。彼女の家は一軒家だからが庭がついてた。俺の家と同じように。窓を開け、庭に彼女は出る。物置のところまで歩いていき、ガラリと戸を開ける。その中からスコップを取り出し、おもむろに、スコップで穴を掘り始めた。大体人一人分くらい入る穴が掘り終わった後、彼女は再びこちらまで歩いてきてある物体の前まで来て、俺のほうを向く。どうやら『手伝え』ということらしい。俺は既に死んでいる、事切れている死体の足の方のほうを持ち、彼女と二人で穴のところまで歩いていく。


 死んだ死体を穴に置き、掘った分の砂や土をかけていく。ばらばらに壊れていたレンガの中から長方形っぽいものをその上に置いた。おそらくは簡易的な墓だろう。しばらくの間、俺と彼女はその墓を見続けていた。数分経った後、彼女が俺に向かって問う。


「ねぇ、〇〇? どうしてこんな世界になっちゃたんだろうね?」


 俺は彼女の問いに答えられなかった。どう答えていいか分からなかった。どうしてなんだろう。一体何時からこんな世界になってしまったのだろうか。そんな問いはきっと誰も答えることはできないだろう。むしろ俺の方が聞きたった。でもいえなかった。言えるはずがなかった。目の前の彼女にそんなことは、また沈黙が場を支配した。その沈黙がしばらくした後、彼女は俺の方を向き、言った。


「いこっか」


 何処に? とは問わなかった。もう終わっているこの世界に無事なところなどないだろう。何処に行っても同じとはいわないが、死が支配しているのは、間違いない。この世界が変わってしまった風に、彼女もまた変わってしまった。俺も然り。暖かかった陽だまりは、もうない。幸せだった日々はついえた。全て闇に消えた。消失し、消滅した。ここからは死がただよう世界が存在しているだけだ。そんな事実が酷く悲しくなる。


俺と彼女は何も言わずかつてあった家を後にした。それからのことは、大雑把にしか覚えていない。唯唯二人で当てもなく歩き続けた。どちらも何も言わずに。そうして、数十日同じような生活をしていた。最初の方は、道を歩く度に、惨く抉れた死体を見て、俺も彼女も吐いてしまったが十を超えたあたりで、吐かなくなった。死体に慣れてしまったのだ。道の通りには、化け物が喰い散らかした死体と死骸の数々だ。鳥は羽だけ残ったものや、犬の頭だけ、猫のしっぽだけ、道端には、肉が抉れて骨が見えた人間の死体なんぞざらにあった。


 それらを無感情のま俺と彼女は素通りし、夜まで歩き続ける。夜になったら、いつものように、コンビニに行き、食べれるものをとり、勝手に喰い、奥にあるスタッフルームっぽいとこに行き、毛布みたいなものを見つくろい、二人で固まって寝る。朝になったら、朝食の分だけ貰い、また夜まで歩き続ける。それの繰り返しだった。


 幸いなことなのか、不運のことなのかは分からないが、俺と彼女は未だにあの化け物と遭遇していなかった。今を生きていることが幸せなのか、それとも、既に死んだ方が幸せなのかは誰にも分かりやしないだろう。当ても無く、行き所もなく、帰る場所さえない。一体何をしているのだろうか俺たちは。答えは未だにでない。そうして、歩いていた。そして、遂に俺と彼女は化け物と再び邂逅した。


 これが、絶望の終極で、新たな絶望の起源となっていくことなど、当の俺には分かりやしなかったが。


「グルルルァァァァ!」


 化け物が俺と彼女を見つけ、いきなり雄叫びを上げる。にやりと凶暴な笑みを浮かべながら。おそらくは、恐怖心を煽ったのだろう。逃げ出したところを後ろから食うつもりだったのか、叫び声を上げても、暫くは何もしてこなかった。これだけで目の前のやつがクソだと分かった。やつはこちらが助かったと思った所を一気に喰らおうとしている下衆だった。だが、俺達が恐怖の感情や逃げ出す気配がないと知るやいなや、不機嫌になったように、もう一度、咆哮を上げた。それでも何もしなかった俺達を見て、本格的にイラついてるように、「グルァ!」と憤慨するように鳴いた。


 それが少しおかしく見えた。多分後、数秒後には、俺と彼女は目の前の化け物に殺されて今の生を終えるだろう。ただ、ほんの少しだけだが、目の前のこいつに吠え面をかかせてやりたいと感じた。命を何とも思っておらず、弱肉強食の理論で好き放題に喰い散らかす化け物に。


 俺はふと彼女の方を見た。一瞬のアイコンタクトだったが、どうやら彼女も同じことを思ったらしい。虚ろだった彼女の目に少し生気が宿った気がした。次の刹那は数秒だったが、事態は変わった。俺と彼女はお互いにお互いを突き飛ばし、化け物の一撃目を躱した。自分の攻撃がすかされたことに数秒後に気付いた化け物が唸り声を上げて、怒り狂う。


 その咆哮している間に、次の行動に移る。道に会った死体を化け物に向かってぶん投げる。バンッと化け物の顔に死体があたる音がした。ズルリと死体が重力に従い落ちていき、化け物の顔らしき所が血まみれになった。初めそれが何かは分からずポカンとしていた。その時に彼女は次のアクションに出た。一刻遅れて、化け物が目を血走らせて、唸る。そして、彼女の投げた石が化け物の目に直撃した。


「gugugagaagag!」


 と目を抑えながら後ろによろめいた時、俺と彼女は互いに後ろの家に隠れる。化け物は痛んだ目をあけて、目の前の景色を見て、俺達がいなくなっていることに気付き、叫び声を上げた。一矢は報いた。後は、こっそり彼女と合流すれば、こちらの勝利だ。その確信したとき、ドンッと後ろから衝撃が走った。


 いきなりの出来事に、咄嗟の判断が出来ず、倒れてしまった。そして、激痛が背中から走り、血がドバッと出ていることに気付いた。視界に血が混じり、見にくくなった。後ろで聞こえる化け物の喜んだ声。そして、前から聞こえる怒り狂う声。あの場には、もう一体化け物がいたのだ。俺達が気付かなっただけだったんだ。せめて、彼女のだけでも、無事ならと思い、視線をギギギと無理やりに動かして見る。事態は最悪だった。


 敵である化け物は一体でも、二体でもなかった。合計で三体いたのだ。彼女もまた俺と同じように、不意を突かれてか、同じように地に伏していた。悔しい。その感情だけが俺を占める。どうしてこんな目に合わなくてはいけないのだろうか。一体なんでこんな世界になったのだろうか。つい二週間前くらいは平和に暮らしていたのだ。戦争なんてものもなく、争いや諍いもなく、平穏に。どうして奪われなければならない。


力がないからか? 目の前の化け物を殺す。力があれば、目の前の化け物を殺せるのか? だというのならば、どこかの誰でもいい、どんな存在でもいい、俺に力をよこせ! 目の前の化け物を殺す力を。何を犠牲にしてでもいい! 何を代償にしてでもいい! その変わり俺に化け物を殺す力をくれ!!!


『その言葉に嘘偽りはないと誓うか?』


(誓う! だからよこせ!! 俺に奴らを殺す力を!!!)


『然り。汝の意志認証したり、故に、代償と犠牲を持って、支払いそうろう。ここに、新たなる人類がまた一人覚醒した。ようこそ、境界の最果てに。歓迎しよう、覚醒者アフィプニスィ


 そういって謎の声はそれっきり、声を発さなかった。そもそも俺はこれが幻聴かも分からない。唯ハッキリしているのは、この声の言う通りに、俺は代償と犠牲を支払うことになった。化物を殺す為に。


「GURUUAAAAAAAAAA!」


 化け物が雄たけびを上げて俺を喰らうために、殺すために、攻撃してくる。反撃を、目の前の化け物を殺すために、右手を掲げる。体中に激痛が走るが、そんなものを無視して叫び声をあげながら殴りつけようとする。


「くたばれ、くそ野郎!」


 掲げた右手と相手の攻撃が交差する。顔面に強い衝撃が走ったが、こちらの右手には、攻撃があたった感触がない。つまりは、リーチの差で俺の攻撃は届かなかったのだ。その事実が俺の頭をよぎった。だが、現実は違った。


「GUUURUUUUU!!!」


 化け物が痛がる声がその場に轟いた。だけど、俺の攻撃は届かなかったはず、そう思い、相手を見ると、想定外の自体が発生していた。何と俺の右手から氷で出来たとがった刃物が化け物のどって腹に突き刺さっていた。何が起きたか分からないような表情をしながら、こちらを化け物が睨みつけてくる。化け物にとって俺の一撃は予想外だったのだろう。だが、それはこちらも一緒だ。……どうして、俺の右手から氷が出てきた? そんな疑問が頭を占めたが、すぐさま入れ替える。


 何はともあれ、これはチャンスだ。化物を殺せるチャンスだ。どうやって、どうして何かは後でも考えることは出来る。でも、化け物を、目の前の化け物を殺せるのは、今しかない。そう考えたら、不思議と体は軽くなった。


 タンっと地面を蹴る。なんとなく感覚で分かる。ここをこうすればいいと。化け物が翼らしきものを羽ばたかせて空に行こうとしている。逃がさない。空中を蹴る。蹴る前に空中に薄氷みたなものが空に現れる。俺はそれは蹴り壊しながら、空を翔ける。パリンパリンと薄氷の割れる音が少なくなっている。感覚がつかめている気がする。どの程度で蹴れば、薄氷が壊れないのかを。俺は軽やかに空を翔けて、化け物を追い越す。


 化け物が驚いている声を聴きながら、俺は右手から氷が出来るのを知覚した。出来上がったのは、槍に近しき物体。それを化け物相手に構え、落下に従いながら、狙いを定めて、当たるまで何度も打ち続ける。何度も、右手から氷の槍らしきものを作り続ける。下手な鉄砲でも数打ちゃあたる理論だった。結果、俺は空中でエアバックみたいな物を作って、落下の衝撃を和らげ、地面に降りるまで、氷の槍を十本は化け物にぶつけた。


 俺が、地面に足をついて、数秒後、俺が氷の槍を反撃する暇も与えずにぶちこみ続け、その攻撃をくらってしまった化け物は、殺傷数が何個もある死骸になっていた。その死骸を見て、俺は一息をついた。殺せた、俺は敵をとれた■■の敵だ。不意に気づく。■■って誰だったけ。俺はなんで化け物と戦おうと思ったのだっけ? ……ああ、そうだ。幼馴染を生かすためだ。でも、それなら敵じゃないような気がする。だって幼馴染はまだ死んでいないのだから。そんなことを考えていたけど、その思考は中断される。


「GIIIIIGGAAAAA!!!!!」


 俺の後ろで残っていた二対の化け物が俺に向かって咆哮をする。響き渡る音量は辺りを揺るがせる。次の瞬間にも俺は二体の化け物に殺されるだろう。今の俺には迎撃する力がもうない。すっからかんだ。抵抗できない。それに対し、化け物は怒り狂っている。仲間が下等だと思っていた俺に殺されたのだ。それはとてつもない憤怒だろう。化け物の攻撃を俺はよけられる気がしない。圧倒的な不利。それだけが分かった。


 でも、俺の心は安らかだった。化け物を一体殺せた。その事実が俺を満たしてくれる。ただ一つ心残りがあるとすれば、それは幼馴染のことだ。もし、俺が食われてしまった後はどうなるのだろうか? その答えは漠然としていた。その無力感が俺の中をしめる。せっかく化け物を殺す力を得たのになと思った。心の中で幼馴染にごめんと謝り、俺は目を閉じた。


 ……衝撃がこない。不審に思い、目を開く。そこには、完全に予想外な光景が広がっていた。俺を食い殺そうとした二体の化け物は体中に木が貫かれており、既に絶命していた。至るところから広がった木が化け物をあますことなく、貫いている。塀の向こうにある朽ちた家にあったかしの木、林檎の木、梅の木、蜜柑の木といった様々な木、そしてそこから伸びる枝が、鋭く尖って、化け物を突き刺している。ふつうならありえないくらいの距離の伸びだ。だからこそ、あの二体の化け物はよけることもできず、木に刺されて殺されたのだろう。


 俺には不思議とこれをやった人物が分かった。おそらく彼女の仕業だろう。何故かそう強く思えた。


「△△△、どこにいるんだ」


 彼女の名を呼んだ。だが返事は返ってこない。痛む体を抑えて、俺は辺りを見渡す。彼女は俺の後ろに幽鬼のように立っていた。その姿がひどく不安定でひどく悲しくなった。俺は再び彼女の名を呼ぶ。返答は未だに帰ってこない。そうした時間が数分過ぎた後、彼女が動いた。


 ふらりと俺の方に倒れこむ。俺はとっさに彼女を抱きしめる。そして、しばらくが経ち、彼女が震えていることに気づく。そして、すすり泣く声が漏れる。俺は彼女がどうして泣いているかの理由が分かったけど、俺のせいなので何も言えなかった。彼女がポツリと言う。


「死んじゃうかと思った。ねぇ、〇〇。私は〇〇が死んだらどうすればいいの?」


 彼女の一行にも満たない言葉は俺の心を穿った。俺は彼女を親しいものを全て失ってしまったやつのことを考えていなかった。俺は例え死んでも彼女がいるから怖くはない。でも、それなら彼女は? 周りが全て死んでしまったら、正真正銘の一人だ。そんなことにさせてしまうことだった。それは俺のせいなので、俺は何の返事もできない。ごめんと謝るのは、少し違う。だからこそ俺は、沈黙で返すしかなかった。少し経った後、俺は彼女につぶやく。


「行こうか」


 どこへとはいわなかった。彼女は頷く。俺たちは再び歩き始めた。歩く中で俺と彼女は互いに起きた変化を確かめ合った。まず俺は体から氷、水のたぐいが出せるようになった。彼女は木を、有機物を操れることが判明した。この力は絶大だった。何の力もなかった時とは大違いだ。だが、同時に俺たちは失ったものもあった。俺たちはどうしてここまで来たのか分からないのだ。家がどこにあったのかも。そして、日が経つにして、お互いの名前が分かりにくくなってきた。だから俺たちは、互いをすいもくと呼ぶ合うことにした。不思議とこの名前は忘れなかった。どうやら、俺たちは本当の名前を忘れてしまうらしい。


 もしかしたらこれが謎の声がいっていた代償と犠牲なのかと思った。でも、今となっては、些細ささいなことだった。今の世で本当の名など、たいした意味などないのだから。そんなものは、前の世界と共に死んだ。


 俺と彼女はこの力を使い、化け物を倒し、殺し、潰し、砕き、葬った。それは能動的であり、受動的であった。この手に、体に、魂に宿ったこの力でたくさん殺し続けた。そんなことを続けていたら、俺たちと同じように超能力染みた力を使うやつらにも会ったが、別にそれという感情は浮かばなかった。それは、相手も同じらしく、俺達は化け物を狩り尽くした後、またふらりと化け物がいそうな場所へと歩き続けた。


 俺と彼女の生活だけは余り変わらなかった。歩いて化け物に遭遇したら狩り、また歩く。夜になったらコンビニらしき廃墟に入り、食事をとり、スタッフルームで二人で固まって毛布に包まって寝る。一応、襲撃予防として、彼女の木と、俺の氷と水のセンサーを作り、いつでも交戦できるようにしてはいる。


 そんなことをし続ける生活をして、数日経ったと思われる頃。どうやら世界は俺達みたいに、あの悲劇の後から、超能力染みたことが出来るようになった者を、覚醒者アフィプニスィと呼ぶようになったことを知った。だが、俺にとって、彼女にとっては、どうでもよかったことは確かだ。


 如何やら俺達二人も人の間で噂になっているらしい。いわく、『幽鬼のように化け物を狩り尽くす者』『殲滅者』『最強』など。そんな噂ができたせいか、俺達の周りをうろつく者が現れてきた。俺達に取り入って上手い汁を吸おうとする者。ただおこぼれを貰おうとする者。様々な者が現れたがすぐに、消えていった。ついていけなくなった者。途中で死んだ者。恐怖で逃げた者。多種多様だった。それを気にせず俺と彼女は進んでいった。


 そして、運命さだめ序章はじまりへと向かう。


 それは、当たり障りの無いいつも通りのことだった。化け物を狩り終えた俺と彼女はまた新たな化け物を狩るために移動することを決め、進み始めた時である。後ろからから声をかけられた。


「君たちが『最強』の二人であっているかい?」


 声をかけられ、俺がふと振り返る。そこには、黒いスーツに身を包んだ20代くらいの女性がこちらを見て、微笑んで問うていた。


 

 あ、私情ですが心機一転を兼ねてペンネーム変えました。


追憶レミニセンス烈火フレア

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