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命運玉座のキヲテラウ  作者: 古卯木 悠右人
第二章 煉獄業火の煌焔のち??
21/22

死線之道程(デッド・トゥ・ディスタンス)

ギリギリセーフ。うん、ギリギリセーフ。二月以内に出せた。次は三月です。

糸黎しれいだと? それがお前の名のか?」


 俺の礼儀を欠いた言葉遣いにも、糸黎と名乗った三十代後半の黒い淵眼鏡をした男は、気にもせずに答える。まるで、下手したてにでるように。


「ええ、はい。そうです。いとに黎明期のれいで糸黎といいます。以後、お見知りおきを。頭の片隅にでも置いてもらえたら結構です。ええ」


 そういって、ニコニコ顔を崩さず、愛想笑いのような、作り笑いのような、変な笑みを続けている。余りの胡散うさん臭さに、思わず眉をしかめてしまった。概梨がいりに至っては、もはや隠す気など、全然無く露骨なまでに、嫌な顔をしている。気持ちは分かるけど、多少は抑えてほしい。思わずこぼれそうになった溜め息を引っ込ませ、俺は続けて、目の前の男に問う。


「で、どうして、俺達の名前まで知っている。俺等は南の最強チームとしては、知られているが、それはコンビとしてで、各個人の名までは分からんはずだ。どうやってその情報を手に入れた。それについて、教えて貰いたいんだが……?」


「ええ、貴方様方がそう仰るのも、無理はありません。お答えします、勿論ですとも。疑問には理由があるのは、当たり前の事なんですから」


「そうか、じゃあ答えてくれると助かる」


「ええ、お答えしましょう。それは、自分で調べたんです。あっしはこう見えても、情報収集には秀ているんですよ? だからこそ、例え、企業秘密でさえも、知ることが出来るんです。おわかりいただけましたか?」


 とてもじゃないが、信じられない。だが、彼の言うことを真っ向から否定しても、話は始まるわけではない。何処かで、折り合いをつけなければならない。それ故に、今はこう尋ねるしかない。


「……嘘はないな?」


「ええ、勿論。ウソ発見器を持ってきても構わないくらいに! で、疑いの方が晴れたのでしたら、あっしの方の本題に入らせてもらっても構わないですか?」


 そういって、目の前の男は黒い淵眼鏡をくいっ! っと動かして、少し目を見開いて、聞いてくる。どうでもいいが、さっきのその動作で概梨が小さな声でヒッ! と声を漏らしていたのは、気のせいだと思いたい。確かに気持ち悪かったが、声を出すまでではなかった。


「ああ、何だ?」


「今しがた、貴方様方は、かの煉獄業火の滝焔に行くと仰っていましたよね。よければ、あっしも一緒に連れて行ってほしいのです。十大龍席が一つ第Ⅵ席の影である不死鳥の住む焔の滝を見たいのですよ!!!」


「何!?」


 疑問の声を出した後に、数秒考え込む、今こいつは煉獄業火の滝焔について言って居た。確か、こいつは情報収集が得意だといっていた。なれば、煉獄業火の件を掴んでいてもおかしくはないし、不思議でもない。だが、ついていくだと? やつは名前を知っていて、場所は知らないという状況なのか。それを確認しなければなくなった。もし、やつが場所を知らないなら、断る。場所を知っているなら、無理やりでも同行させるのが、最善になる。俺が断った後に、勝手に一人で行かれて、何か不都合が起きたらこっちとしては、たまったもんじゃない。


「動向する云々の前に、一つ問いたい。お前は煉獄業火の場所を知っているのか?」


 俺の質問に少し?(はてな)を浮かべたが、俺の質問の意図が分かったのか、にんまりした笑顔で答えた。


「ええ、勿論。この樹海の近くです。秘境といわれる場所にあるんですよね? 元々は轟の滝だったんですから」


 ビンゴだった。こいつは確実に一緒に動向しなければならない。厄介ごとが起こっても一緒にいる方が対処するときに困らない。そう確信を持った俺は、概梨にアイコンタクトで、こいつの動向を許可することを伝えた。概梨は非常に嫌がっていたが、俺から概梨の好物である桃のパフェを奢ることを約束して、何とか折れて貰った。高い出費になりそうだが、仕方がない。


 こうして、俺達二人と、中年男性一人という異様な仲間チームが結成され、煉獄業火までの臨時の仲間になった。全く予想の出来なかった不安定な感じだが。


~~~~~

 さて、異様な三人組のままで山の中を進軍していると、どこからやってきたのか、野良の、つまりは野生の侵略者アグレションがわらわらと出てきた。だが、恐れることはない。これっぽっちもだ。何故なら、寄ってきた侵略者は全部下級階層。型虫タイプ・イノセントであるからだ。型虫は恐れるに足らず、下級故に、きちんとした装備を整えていたら、一般人でも狩ることが可能なラインの侵略者だからだ。


 戦うことを恐れずに、きちんと対応し、殺す覚悟というものが存在するなら、命のやり取りをする位置に立つということを、本当の意味で理解できたのなら、そのラインに立っている者ならば、容易いことである。そしてそれは、彼ら全員に当てはまる。故に、彼らの進軍の邪魔にはならず、戦闘描写を描くことなく、戦闘内容を語ることなく、その戦いは語るに及ばず、彼らは何事もなかったように、気にせず、さながら、散歩中に蟻でも踏んでしまったことに気付かない象のように、目的地まで進んだ。侵略者の型龍や型獣が彼ら人間を、殺すことに全く気が止めないように。彼らと侵略者は唯、強いか弱いかで同じ運命を辿ることになってしまっているという、皮肉に誰も気付かないまま。


「さて、そろそろ目的地である、煉獄業火の滝焔につくと思うんだが、結構時間をくったか?(そして、途中の型虫の群れ、あれは一体なんだったんだ? 対して強くもないから蹂躙できたけど……)」


 そうして、俺こと清浄 洛涙はここまでのペースを振り返るように、煉獄業火まで臨時仲間を組んでいる二人に声をかける。道中であった、謎の型虫の群れに関しては、一人で疑問の内に考えながら。そんな俺の質問に対して、いの一番に、答えてくれるのが、臨時で仲間を組んだが、戦闘センスがかなり上手くう見えた。この糸黎という三十代後半の男はいきいきして答えてくれた。


「いえいえ、実はそんなに時間は立っていないんですよ、あっしが時計を見たところまだあっしがお二人に会ってから一時間もたっておりませんよ。精々40分くらいが経過したのではないんでしょうか?」


 糸黎の答えに概梨が不思議そうに、いぶしげそうに質問する。


「でも、山の中でしょ、今。その時間確認したのって狂ってないの? ここだったら電波が届くか分からないでしょ?」


「ああ、そういうことなら、心配はありませんよ。あっしのこれは特注でしてね。とある方からいただいたんですけど、特殊な電波を使っているらしく、一般の電波とは違う優れものなんですよ」


 そう今までの作り笑いとは、違う。人の好さそうな笑顔で笑って言ったので、概梨は虚をつかれたようにびっくりした顔をした。勿論、それは僕ももれなくだ。さっきの笑顔は明らかに、彼の本心だ。胡散臭い笑顔ではないことが、きちんと分かった。だから概梨も驚いたんだ。この人がこんな風になるなんて、欠片も思ってもいなかった。だって、見るからに怪しかったから。俺は空気を変える為に彼に質問を送る。


「そう言えば、見たことのない術で戦ってましたね。あれは何て言うんですか?」


 そう、先程、描写しないとハッキリ言ったような、あの場面で彼は型虫との戦闘時に札みたいなものを拳に張り付けて、型虫達を攻撃していた。そして、殴られた型虫は体内が膨らんで爆発するという。R-18G待ったなしの映像が流れたのだ。まぁ、俺も概梨も随分逝かれてしまっているから、なんにもならなかったが。唯、その技を使った時、糸黎が少し申し訳なさそうな感じだったのが、少しだけ気になったのだ、ほんの少しだけだが。


「ああ、あれですか? あれは符術といって、様々な作用を持った札を使う部分に張り付けて、相手にあてて、その効果を最大限に引き出す技です。先程使ったのは、爆術の札です。この札を張って相手を殴ると、殴られた相手は体の中の魔力が暴発的に上がり、制御できなくなって、中から壊れるようになってます」


「「………………………」」


 余りのえぐさに、俺と概梨は黙ってしまう。いや、体内の魔力は強制的に暴発させて、制御不可能状態に追い込んで、体内で爆発させるて、そんなえぐい手が何故まだ出てこなかったんだろう? と不思議に思いつつも、会話を続ける。


「へぇ、そうなんですか。他にはどんな札があるんですか?」


「そうですね、あっしがよく使うのは、〈浄化〉〈爆発〉〈麻痺毒〉〈石化〉〈炎上〉の五つですね。〈浄化〉は不純だった魔力の流れを正常させたり、場を清めたりするのに使いますね。〈爆発〉はさっき説明したから省くとして、〈麻痺毒〉は相手を痺れさして不調状態にさせますし、〈石化〉は相手は封じたり、足止めや、時間稼ぎに持ってこいですね、〈炎上〉はありきたりな攻撃手段です。燃やした方が早く仕留めれますからね」


「ふぅん、結構色んな手段があるから、手札が多くて、組み合わせも自由って感じがする。その符術って札と札同士を混ぜることは可能なの?」


 と、俺らの会話に一定の興味を持ったのか、概梨が糸黎さんに質問をしてきた。概梨が会話に自分から、しかも自分に話を振ってくることに糸黎さんは驚いたらしく、びっくりしていたが、それでも丁寧にきちんと概梨の質問に答えを返した。まぁ、時間云々の時も嫌々そうに聞いてきてたんだから、そんな感じに驚くのは分かる気がする。概梨の質問に呆気にとられていたが、すぐに調子を取り戻し、至極丁寧に答える。


「ええ、枢楊さんの質問に答えるとすれば、札と札同士を混ぜることは可能です。しかし、札にも属性というものがありますので、それの相性が重要となってきます。例えば、〈浄化〉の札は〈爆発〉や〈炎上〉とは相性がいいですが、その分〈麻痺毒〉や〈石化〉の二つとは、相性が極上に悪いんです」


「ああ、〈浄化〉の効果で〈異常状態〉にさせるはずの〈麻痺毒〉や〈石化〉までもが、一緒に浄化してしまうというわけですか?」


 糸黎さんの説明で容量を得た、俺自身も会話に混ざり、糸黎さんがいった相性のことを考えて、〈浄化〉が〈麻痺毒〉と〈石化〉に合わない理由を考えて述べた。俺のその答えに糸黎さんはその通りと言うように頷き、より詳しい注釈をしてくれた。


「はい、清浄さんの言う通りです。〈浄化〉の札は〈麻痺毒〉や〈石化〉の札と共に使うと全く意味をなさなくなります。その理由は単純で、〈麻痺毒〉や〈石化〉の効果を〈浄化〉の札が一緒に浄化してしまうんです。だから、そういう相性の悪い札同士は組み合わす事は滅多にありません。ごくたまにですが、あえて、その相性が悪く、効果を打ち消し合う札を混ぜて使う人もいます。どうしてだか、分かりますか?」


 そう、糸黎さんは黒い淵眼鏡をくいっと上げて、質問してきた。相性の悪い札同士をあえて使う人がいる。それは何故かと、推測する。おそらく、何らかのある一定の意図を持って、それをしているんだろう。では、なんの為に? そのままの効果を狙って使うわけではない。混ぜる理由はなんだ。考えられる理由としては、まずは一つ。


 一つが、そのままの意味で|その効果事態を狙う場合だ(・・・・・・・・・・・・)|。あえて不調の効果を使って、敵にフェイントをかける。囮や見せかけだの場合だ。じゃんけんでグーを出すと見せかけてチョキを出すみたいな。最初まではグーだったのに直前で一気にチョキに変える。相手は、グーで来ると判断をしているから、それに騙されてしまう。その効果を狙った場合、札同士の打ち消し合いは非常にフェイクとして、役に立つ。そんなところだろうか?


「それ自体を囮として、違う攻撃をするためのフェイクとして使う可能性といった所かしら」


 どうやら概梨も俺と同じ考えに至っていたらしく簡潔に一行でスパッ! と答えた。概梨のすんなりとしたそれでいて断言的な言い方に少し笑いながらも、糸黎さんは答える。


「ええ、そうです。囮として本来の効果を関係なしに使う人もいるというわけです。流石にお二人には簡単すぎましたかね? まぁ暇潰しにはもってこいだったと思います。札自体使っている人が殆どいませんしね…… お、もうそろそろですよ、確かこの藪をかき分けた先にあったはずです」


 そういってがさりと糸黎さんは藪をかき分けてくれた。どうやらこの人、さっきの会話ではっきりと分かったが、そんなに悪くない人みたいだ。気遣いができるし、何より痒い所に手が届くようなことをしてくれる。概梨も今ではある程度の警戒を解いている。概梨は人の真偽を見破るのは、上手いから。恐らくこの人のこういった行動は、本人の質みたいだ。変な動作はまるで、警戒してもらうために取ってつけたような感じがする。そんなことを思いながら、俺と概梨はかき分けられた藪を通り、煉獄業火の滝焔にたどり着いた。


「「「おおっ!!!」」」


 その声は三人とも上げた。それもその筈だ。俺も概梨も糸黎さんも圧倒されている。煉獄業火の滝焔に……。本当に焔の瀧だ。しかし、何故かそんなに熱くない。この焔にはあまり熱がないようだ。熱はないのに、その焔の煌めきは燃え盛るように轟々と音を鳴らし、その存在を、この世界そのものに、証明する感じだ。下を流れる川も水ではなく、炎が流れている。滝から炎があふれ出て、それが抑えきれずに、下に川まで作ってしまっている。だけど、この山の、今迄通ってきた道の川は水だった。それなのに何故この滝では炎の川になっている。上流部がこれなら、今迄の川も炎が流れるのが正しいはずだろう。俺のその疑問が解決されるように、概梨が声を出す。


「見て! あそこからは、炎が水に代わっている。炎があの場所を超えると水に代わっている」


 その声に誘われるように、言われた場所に目を向ける。何と、そこには概梨の言う通り、滝からあるい一定の場所を超えたら勝手に炎が水の変わっていたのだ! そのことを考えると、この炎は魔力からできているのだろうか? だとしたら、あの滝の中には十大龍席ドラゴニックイクスが一つ。第Ⅵ席 炎龍ニーズフレイガのオルタナティブである不死鳥フェニックスが本当に未だに存在しているのではないだろうか?


「これは凄い! これが煉獄業火の滝焔。その名の通り焔の滝だ。これだけでも、凄い情報だよ。ここに来たかいがあった!」


 そういって糸黎さんは、目を輝かせながら言った。それには俺も概梨も同意するように、頷いた。糸黎さんは写真でもとるのかカメラをとりだそうとしていた。俺と概梨は炎龍の影である不死鳥が本当に存在するのかを確かめようと思っていたが、焔の滝が、炎の川がある一定のラインを越えたら水になる現象を見て、恐らく、本体は大人しく、滝の中にいるだろうと予想し、糸黎さんが写真をとるのが終えたら、彼と一緒に撤退することに決めた。…………だが、事態は俺の、俺達の予想もしない展開へと流れていく。これが運命さだめだというなら、ふざけた運命だ。とつい言ってしまいたくなるほどに。


~~~~~

 大体五分くらいだろうか、糸黎さんはカメラを取って写真撮影に勤しんでいた。ある程度とり終わったのか、カメラをカバンの中にしまい、こちらを向いた。そして、俺達に向かって言った。


「すいません、お待たせしてしまいまして。ある程度の写真が取れまし、あっしの目的もこれで終わりです。ご迷惑をかけてしまいすいません」


 と、深く深く丁寧にお辞儀をして、こちらに感謝の念を伝えるかのように、おごそかに振舞った。余りの馬鹿丁寧さに少し呆れながら、俺は未だに礼をしている糸黎さんに応える。


「いえ、気にしないでください。貴方が悪い人でなくて良かった。何か企みがあってこの煉獄業火の滝焔に来たのかと思っていたんだが、写真をとるだけだったんだから。その取った写真を悪用しないと誓ってくれるのなら俺からは何も言いませんよ」


「そうですか。それは良かった。ああ、安心してください。貴方方に誓って決して悪用などしませんとも、ええ!」


 そういって糸黎さんは下げていた頭を上げた。そして俺達三人は下山する為に、入ってきた入口から出ることに決めた。一応、何があるのか分からないのでいつでも戦闘は出来るように各自、各々(おのおの)で戦う為の準備はし、下山を開始して、この煉獄業火の滝焔から出ようした。


 だが、それは叶うことはなかった。既に幕は開き、状況は開始されていたのだから……。


~~~~~

 俺が入口から足を一歩踏み出した瞬間、バチンッ! と跳ね返される音が響いた。そして、数秒遅れて、俺の顔に痛みが走った。突然のことでいきなりびっくりするが、ワンテンポ置いて、呼吸を思い出して、冷静に今の状況を判断する。


Q、何が起きた!?

A、弾かれた! 

Q、何に? 

A、何かに!

Q、どうなった?

A、先行していた俺がダメージをくらった。

Q、他の二人は?

A、俺が先行していたため、恐らくはノーダメージ。

Q、状況は?

A、確認必須!


 ガバッ! っと起き上って、瞬時に武器を生成し、手に持ち、状況を確かめる。俺がいきなり何か弾かれたのを見るやいなや概梨は、固有概念魔法である『有機物操作ビーイングマーニューター』を発動させ、俺が地面に倒れないようにしてくれていた。その証拠に後ろの地面から柔らかい木の枝が何重にも重なっている。糸黎さんは両拳に札を張って周りの警戒をしている。さて、俺も何に弾かれたのかを判断しなければならない。そうやって再び近づこうとする俺に概梨が待ったをかけた。


「待って、また何か分からないことが起きるかもしれない。だから、私が能力を使って遠距離で確かめる」


 そういって、概梨は固有概念魔法を発動し、人型の木の人形を作り、それを操って俺の弾かれた場所まで移動させた。そして、こちらを向き、合図を出して、木の人形をあの入口から出そうとした。しかし、その行為も無駄となった。木の人形が後ろから飛んできた火の玉、否、弾丸というべきものに焼き付くされたのだ。


 三人全員が一気に後ろを振り返る。されど、そこには誰もおらず、あるのは煉獄業火の滝焔だけだった。気配を隠しているのかと思うが、数分経っても何も起きない。息をひそめてこちらの隙を窺っているのだろうか? だとしたらこちらは少なくとも何かしらのアクションを起こさなければならない。膠着こうちゃく状態がこっちは一番不味いのだから。現状間違いなく不利なのはこちらだ。どうする……? そんな俺達の焦りを見透かしたように、或いは、利点アドバンテージなどどうでもいいと言いたげな感じで、声が響いた。


【貴様ら、ここに何の用だ? 特に若い男女の二人組、お前たちからは懐かしい気配がする。そう、あの日、我が主を葬った人間の臭いがする。忌々しい!】


 その呪うような声は滝焔の中から、つまりは焔の滝の中から響く。そして、次の瞬間。ゴオッ! と滝の炎が火力を上げて、燃え盛るようにパチパチと空気を鳴らし始めた。

 そして、次の瞬間、

 瞬く間に、

 その形を、

 容貌を、

 火の鳥へと、

 不死鳥フェニックスへと姿を変えた。


 その変貌に、煉獄業火の空気は灼熱を思い出したかのように、轟々と熱を取り戻し、また辺りは煌めきを増して、その威光を周りに証明させる。


 焼け付くように、変わりだした環境に、俺達全員の体から汗が出てくる。急な環境の変化に体がついていけなくなっている。されど、不死鳥が姿を現してからは、その熱は、温度は、刻一刻と、急速に加速し上昇している。空気が焼け、酸素が焦がされ、息をするのもきつくなってくる。


 概梨が咄嗟に有機物操作して二酸化炭素を酸素に還元する行為をしなければ、かなり不味い状態になっていた。俺も氷を出して、周りを冷やすのを試みたが、まるで変化がない。焼け石に水だ。氷が解けて水になっても同じだ。水を出しても変わりはないだろう。この炎の熱さは、もはや不死鳥の主であった炎龍とも負けず劣らずの火力だ。こちらが場の対応に追われているの知らずか、不死鳥は再度口を開く。


【もう一度聞こうか? 何ようだ、忌々しき人間。この不死鳥を討伐しに来たのか、ならば武を持って抵抗させてもらう。行くぞ、人間。丁度いい、我が主への、敵討ちだ!】


 そう言って、不死鳥は己が翼を大きく広げ、その存在を世界に刻み付ける様に、雄々しく翼を羽ばたかせ、大空へと飛翔した。最悪なことに、不死鳥のやつは勝手にこっちの意思を判断して、敵対行動を取ることを選択したのだ。

 

 俺が思うに、この不死鳥の敵対行動はハッキリと言おう、かなり不味い。まず場所が徹底的に駄目だ。相手の本拠地といっていい。やつはここで戦う限り、あの滝焔からある限りの炎を存分に使うことが出来る。影程度の実力ならまだしも、今のこいつは、火力量では、炎龍より少し劣るくらいだ。炎龍と戦った時でも、一つの県は、軽く犠牲にしなければならなかった上に、ギリギリの勝利だ。一歩間違えば、余裕でこちらの敗北だった。何万分の一の奇跡が起こって勝てたのだ、もう二度やりたくはない。とすれば、こちらの勝利条件は不死鳥にこちらに敵対の意思はないと知って貰うことだ! となれば、まずはやつの敵意を鎮める。急いで、概梨に指示を飛ばす。


「徹底抗戦は不味い! 敵対する意思はないと伝える。その為に相手の頭の血を下げなければいけない。概梨は糸黎さんを守りつつ、牽制を入れてくれ! 抑えるのは俺がやる!」


「了解!」


 概梨からの返事を貰った瞬間、俺は不死鳥を抑えるために、魔力を生成する。集中しろ、相手は殺る気できている。こちらもそれくらいではないと、まず抑えきれず、殺される。ならば、殺されずやつを止めろ。炎を恐れるな、思考を止めるな、死ななければ何とかなる、死線を超えろ!!! 


【クラエエエエエエエエエエ、ニンゲンンンンンンンンンン!!!!】


 ドドドドドド!!!! 繰り出される炎の弾丸の数は、十以上。「洛涙!」 咄嗟に概梨が反応してくれたおかげで、弾丸の幾つかは、概梨が出した木々に遮られた。数本の木を焼いたせいで速度が少し落ちている。これならば、全速度、全方位で何発も喰らわずに済む。相棒に心の中でお礼を言って、行動を開始する。


 ……構築する。基本構造、想像イメージ創造クリエイションまで大体省略オールカット固形鎗アイスランス双槍ダブルアクション。右手に氷の槍を一つ。左手に氷の鎗を一つ。これでさばく。迫りくる弾丸は十を越え、二十以下。動け! 右で払い、一つ。左で突く、二つ。そして、回って薙ぐ。三つ、四つ、五つ。左の鎗を投げて潰す。六つ。瞬時に左の鎗を創る。しかし、迎撃が間に合わず、七つ目を、腹に受け、八つ目を、右肩に、九つ目を、左足に着弾。口から血がゴボッ! っと吐いてしまうが、無視して十番目を右の槍で刺す。ジュウゥゥ! と氷が焼ける音がする。どうやら十番目が右の槍が溶解している。咄嗟に左の鎗で突くが左の方も同じ現象が発生している。


【フハハハハハハハハハハ!! 終われェェェェェ!!!!】


 不死鳥が笑って、俺の終わりを暗示している。後ろの方で糸黎さんの慌てている声が聞こえる。されど、概梨の声は聞こえてこない。そう概梨は知っているからだ。俺の固有概念魔法を。通常ならば、二つの氷の鎗と槍が炎に解けていき、それは水に変わり蒸発するはずだった。しかし、今この場においてその未来は消失した。因果は狂う、俺の手によって。


 解けた氷は水ならず、その過程を素っ飛ばし、水蒸気へと変換された。そして、変換された水蒸気は高熱のマグマと変わらない炎弾の中で水蒸気は発生した。ここに、普通に帰結する、物理現象が発生する。その名を、水蒸気爆発。水蒸気は一瞬で熱せられ、爆発する。


 その爆発を強制的に起こさせた俺は、両手に氷の剣を持ち、双剣状態にし、爆発の影響で一気に不死鳥の元へとぶっ飛ぶ! 後ろからの大きな爆発を得て、剣を強く握りしめ、雄叫びを上げる。


【な、無茶苦茶な! ウォォォォ!】


 俺の無茶な特攻の様子に驚きながらも、不死鳥は俺の攻撃に対応してきようとする。だけど、それはさせない。


「概梨ぃぃぃぃぃっぃぃぃぃぃ!!!!!」


 俺の大声で察したのか、すぐに固有概念魔法を発動して、地面から猛スピードで木々が不死鳥の前に立ち塞がって邪魔をする。不死鳥は木々を一瞬で燃やすが、そのワンテンポ分遅れた分、俺の方が速い。双剣を振るう。


 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る!!!!!

 

 炎弾を、不死鳥を、再生しようと、その敵意が尽きるまで、氷の剣が解けて水になろうと、水蒸気になろうと、切り続けた。無限に再生し続けるなら、意志尽きるまで斬り尽くす。俺にはそれができる。俺の固有概念魔法は『三状態トライアングルキューブ』固体、液体、気体の三つを操る能力だ。つまりは、氷と水と水蒸気を扱うことができる。一度に三回分の攻撃が理論上は可能。故に、こちらの怪我を考えなければ、根気の戦いだ。どちらが先に折れるかという。


 俺が不死鳥の再生を上回ったら俺の勝ち。

 不死鳥が俺の攻撃を凌ぎ切ったら俺の負け。


 単純解明、いったて簡単でシンプルな条件。まだ俺は死ぬわけにはいかない。やらなきゃいけないことが沢山残っている。志半ばで死にたくはない。生き残るには、勝つしかない。勝ったものが生き残れる。ならば、勝つしかない。双剣を振るう両腕が引きちぎれる位になるまで、不死の炎を斬り続ける。ここが死線だ。生きるか、死ぬかの。道程は片道だけ。引き返すことなどない。頭によぎるのは、一つの灯火ともしび


 あの焔を覚えている。烈火を知っている。紅蓮を見せつけられた。業火はその身を持って焼き付いた。鮮血に染まりながらも、煌めく炎を俺は刻み付けられたのだから。


 炎龍の、十大龍席が一つ第Ⅵ席 ニーズフレイガの炎はもっと灼熱にて煉獄だったのだから。




                                                                            



 ソシャゲって面白いよね。


次回 「追憶レミニセンス紅蓮クリムゾン~」

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