幼馴染(オルソー・タイ)
遅れて、ごめんね。ちょっとひと段落ついたから投稿します。
その日のことは、今もまだ覚えている。あの幸せだった日の事を、俺は一生忘れることはないだろう。あの幸せはもう戻ってこないからこそ、絶対に忘れる事など出来やしないのだ。呪縛の様に、或いは、過去への陶酔の様に、脳へ刻みこまれている。忘れたくても、必ず、脳裏にリフレインしてくる。もはや、呪いと変わらなくなる。笑えてくる。その映像に映る自分は幸せそうな顔をして、ニッコリ笑ってるのだ。その先に何が待っているかを知らないから。
無知ゆえの安心。無知は罪だというが、知らないということは俺に言わせれば、楽な事である。何も知らなかったら気楽にいられる。素晴らしいことだ。知ってると知っていないの間には、それだけの目に見えない空白がある。溝がある。だから、気付かないということは、無条件に幸せなことだ。幸せになりたいなら、何も知らないことだ。知ってしまえば、戻れなくなるのだ。知恵とは、知識とはそう言う意味だ。
創世でも、禁断の果実があった様に、神は知るということを禁忌と処した。だからこそ、知恵が詰まった林檎は、禁断の果実といわれた。知らない方が圧倒的に幸せだったのだ。でも、人は気付かない。未知に触れて神の怒りをその身に受けた。それこそが罪。知を得ようとする考え自体が無知だったという結末。全く救いようがない話だ。最も、救いようがないのは、今のこの世界も変わらないのだが。
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ジリリリリリリリリ!!!!
どこにでもあるような市販の店で売られている目覚まし時計が、朝七時を知らせるように、己の仕事を全うするように、響き渡る。キングサイズのベットで気持ちよく睡眠を味わっていた俺の精神がその音が響き渡ることでゆっくりと覚醒し始める。ぼやけ目の状態で薄っらと目を開ける。日差しが目に入ってきた。眩しすぎるので、再び目を閉じたくなる気持ちが出てくるが、その気持ちを鬼にして起き上る。ガバリッ! と体を起こす。カーテンは閉めてなかったので、日光が気持ちい位に輝いて見えた。体を伸ばして、少し動かし、ペタペタと裸足で目覚ましを置いているところまで歩く。ベットから数メートル離れたところに置いてある目覚まし時計のスイッチをオフにして、欠伸を一回して俺は起床した。
寝るときは真っ裸で寝ていたので、たたんでいた服を取って、着替えた。寝巻状態で再びベットに移動する。ベットを見ると、もう一人の方は、まだまだ熟睡中だ。あの目覚ましで全然起きないのは、最初の内は少しビックリしたが、今はもう慣れた。起こしては悪いので、今も尚、布団に包まって寝ている彼女を起こさないように、掛布団をかけてやり、リビングに向かう。
リビングはカーテンを閉めていたので、サァーと音をたてて部屋に日光を入れる。台所に向かい朝御飯の支度をする。朝御飯といっても、そんなに作るわけではない。食パンを焼いて、簡単なおかずを作るだけである。定番なので言えば、サラダとウインナーを焼いたやつ、あと目玉焼きくらいだ。この程度なら十分くらいで出来るのである。
台所に行き、換気扇のスイッチを入れガスの元栓を入れる。フライパンはセットしてあるので、ウインナーと卵、そしてレタス、食パンを冷蔵庫から出す。食パンをトースターに入れて、レタスの水洗いして、シャキッとさせ、まな板と包丁を取り出して、ウインナーに切れ目を入れて、焼く。数分くらいして、レタスがスタンバイしている皿に入れる。次は目玉焼きを作るために卵を割って、フライパンの上に落とす。これもいい感じになったら皿に盛りつける。トースターで焼けた食パンを別の皿に乗せれば、完成だ。丁度十分くらいで出来た。我ながら中々出来である。満足したので、あいつを起こす為に再び寝室に向かった。
相も変わらず、寝室ではあいつが爆睡していた。いびきをたててはいないものの、スースーと音がなって幸せそうな顔をしている。出来ればこのまま寝させてやりたいのだが、生憎そういう訳にはいかない。こちとら仕事があるのだ。心を鬼にして、あいつを揺さぶる。ゆさゆさと最初は優しくしていたのだが、余りの起きなさに、イラついて揺さぶるスピードを速くした。そのおかげであいつの体はぶるんぶるんと体全体が揺れている。それなのに、まだ起きない。睡眠の深さに感嘆するが、同時にめんどくさくもあったので、物理に頼ることにした。
パチコンッ! と軽快な音が眠っていたあいつの頭から鳴った。勿論、俺の仕業だ。仕方がないので、頭を叩いたのだ。威力はそれなりにあったのか、悲鳴が寝室を覆った。勿論、悲鳴が出るのは分かっていたので、きちんと耳を手でガードすることは忘れなかった。
「あいたっーー!!!」
「何が開いたんだ?」
「いや、違うよ!? 痛いんだよ! 痛いの! 開いたじゃないよ!?」
「そうか」
「うん、分かって貰えてよかったって、……よかねーよ! あなたが叩いたんでしょーが! 普通に起こしてよ!」
コントのように喋り始めて、いきなり一人でノリ突込みも始めて、やたらとハイテンションのまま、文句を言ってきたので、ここは正論で返させて貰った。
「普通に起こして起きなかったのはお前だぞ、こちとら十分以上揺すってやったのに、起きないから仕方がなく、物理に頼っただけだ。起きたんなら、早く着替えて朝飯を食うぞ。もう作り終わっているんだ。冷めてしまうだろう」
俺がきちんと論理的に事の説明をしたら、きちんと理解して、ションボリとした感じで俺に対して悪いとでも言うように謝ってきた。
「あ、そうなの。ごめんね。私いつも熟睡したらとことん起きないんだったね。ちょっと待ってて、すぐに着替えるよ、なんなら先に食べてくれてて構わなかったのに……」
「却下する。俺とお前は一心同体だ。なるべく同じような行動し同じように生きて同じように在り続ける。それが俺とお前の契約の内容だ。履行を止め、契約を破棄することはしない。お前とて理解るんだろう?」
「……そうだね。愚問だったね。あなたが死ぬ時が私の死ぬ時で」
「お前の死ぬ時が俺の死ぬ時だ。……これ以上は時間の無駄だと判断できる。速く着替えろ。真っ裸のままでは、風邪をひく」
「……うん。って何ナチュラルに裸見続けてるのさ、あんたわ!」
「はぁ」
「溜め息つくなー!!」
取り合えず、起きたら起きたで面倒臭い幼馴染みを起こし、俺はリビングまで向かった。去り際にかなりの罵倒された気がするが、所詮はそんな気がするだけなので、気にしないでおく。
新聞を読んで情報を搾取している時にリビングのドアが開いた。ようやく遅いお出ましで彼女は来たのだ。自分の席についたので、俺も呼んでいた新聞をテーブルの横に置いて、食事を開始するための言葉を言う。
「「いただきます」」
合図しなくてもこのくらいのことは出来るようになってしまったのは、果たして良いことなのか、悪いことなのかは、俺にはさっぱり判断がつかない。あの日から俺たちの関係は、簡単に歪んでしまった。いや、歪んでしまったというべきか。兎に角、歪になったのだけは理解。正しから不。正しくないのだ。まさに、俺達にピッタリな言葉だ。そんなことを考えていたら、彼女から声をかけられる。
「ねぇ、今日はどうするの?」
「いつも通り、出勤だ。どうせ依頼があるだろうから、それをこなすだけだ。要するに、いつもと何も変わらないさ」
「ふぅん。ねぇ、新聞読んでるけどさ。新聞って、もうちゃんと機能しているの? まだあれから数か月しか経ってないんだからさ」
「いいや、もう数か月経っているのさ。人は強いよ。俺達が思っているより、大人は強いのさ。俺達ガキとは全然違うよ。俺達は本来なら高校に通ってる年齢なのさ。理不尽って物に、少し弱いんだ。その点、大人は違うよ。社会は理不尽だらけだ。侵略者が来たのも、天災と変わらない扱いだよ。被害を与え、命を奪うのはどちらも限りなく変わらないのだから」
「でも、天災と違って、殆ど毎日だよ! あいつらは、私たち人間の命なんて、ゴミくらいにしか思ってないよ! だから、簡単に私達の両親のこと……」
「それ以上は、それ以上はいうなよ。言ったところで、何かが帰ってくるわけでもない。命は一つ。死んだらそこまでだ。人間である以上はな」
「……」
どうしようもない空気が場を支配する。俺達二人とも何も言わないまま時間だけが過ぎていく。チクタクと時計の針が刻一刻と時間を進める音だけが聞こえる。お互い食器に音をたたせずに食うから、こんな状態になってしまった。個人的には、今の空気を変えたいと思うが、思うだけだ。どんな行動をしても、この場合マイナスにしかならないのは、身に染みている。解決する方法などない。出来るのは、時が過ぎるのを待つだけだ。時間が傷を癒してくれるように、待つだけだ。『時は金なり』。時間という治療費を払っているのだから、何とかしてほしい物である。
俺のそんな下らない願いが珍しく叶ったのか、俺の携帯電話が鳴りだした。一応、彼女に視線を送るが、無視された。出ろということだろう。言われるがままに携帯電話の通話ボタンをプッシュして、耳にあてた。
「ハロハロー、元気かい? 返事は聞かずに要件いうぜ。……仕事だ、出勤しろ」
有無を言わせずにいきなりの命令が来た。勿論、言いたいことはあるが、上司に逆らう訳にもいかず、兎にも角にも、この言葉だけを返すしかなかった。
「アイ、マム」
「場所は私の執務室だ、30分以内に来い。出来るな?」
「……イエッサー、了解であります」
「そうか、出来る部下を持って嬉しいよ、私は。概梨もどうせ、君と一緒にいるだろう。二人で来い、待っているよ、洛涙君」
プツッ! ツッツッーー!!
通話機能が切れる音がして、会話は終了した。得た情報をまとめると、俺と彼女は今から30分以内に支部長室に着かなければならないということだ。携帯を置いてテーブルを見ると、彼女は既に食べ終わっており、このリビングにはいない。おそらく、洗面所で歯を磨いているのだろう。
「はぁ」
溜め息をついて、やらなきゃいけないことが分かった。一気に朝食を食べ、食器を洗わなければならない。それが終わったら彼女に説明をして、急いで出勤しなければならない。今から起きる面倒事に俺こと、清浄 洛涙は再び溜め息をついたのだった。
~~~~~
「やぁ、丁度30分だ。きりがいいね。狙ってやって来たのかい?」
支部長からの出勤のご命令の後、皿洗いを済ませ、歯を磨くために洗面所に行き、そこで彼女に今回の件を説明した。いきなりだったのか、少しご不満だったけど我慢してもらい、15分で身だしなみを整え、戦闘服に着替え、(とはいったものの殆ど学校の制服か、私服みたいなものだが)戸締りをきちんとして、四国領域(南エリア)の本拠地である徳島支部に出頭し、見事ギリギリで30分以内に支部長室にたどり着いたわけである。しかしながら、急いで入ってきた俺達を迎えた支部長の一言目がこれだというわけである。
「狙ってこんなギリギリに来るわけないですよ。これでも精一杯飛ばして来たんですけどね……」
「右に同じです……」
そんな不満げな俺と彼女の受け答えがどう受けたのかは知らないが、支部長はくつくつと笑う。正直言って、笑われるようなことはしてないと思うのだが、何故支部長は面白そうに笑っているのかが、全く見当がつかなくて困る。彼女の方を見渡しても、どうやら彼女も同じように不思議に思ったらしく小首を傾げる動作をしている。
支部長はそんな反応をする俺達を見てまた笑った。いい加減にしてほしいので、そろそろ言わせてもらう。
「何が、そんなに面白いんですか? 歴木支部長!」
「いやぁ、ごめんごめん。そんなかりかりしないでよ、煽り耐性無さ過ぎやしないかい? 君たち。余裕をもっていこうよ、余裕をさ」
支部長のそんな戯言を受け流し、俺はさっさと要件を尋ねる。やるべきことは早急に終わらすべきだ。そんな俺の内心を見透かしたように支部長はかけていた椅子に再び深く腰を預けるようにして、持たれて俺達に話をしだした。
「なぁに、速い話。階層A相当の型獣が出たわ。貴方たちに狩ってもらいたいの」
「階層Aレヴェルですか? それなら急いで俺等呼び出さなくても、他のやつでも対処できないことないんじゃ……?」
「だよね……?」
俺の返答に彼女も俺と同じように思ったのか賛同する素振りを見せる。でも、俺達のそんな態度もとっくにお見通しだったのか支部長は続けて言う。
「ええ、唯の階層Aなら、貴方たち以外でもうちの連中で狩ることは可能よ。……でもね、場所か問題なのよ」
「「場所ですか?」」
「煉獄業火の滝焔の付近にいるのよ。もし、偶然にでもあそこに辿り着かれたら厄介な事になるのは分かるでしょう?」
歴木支部長が教えてくれたのは、急いでいたのは、そういうことだった。煉獄業火の滝焔。十大龍席が一つ。第Ⅵ席 炎龍 ニーズフレイガの置き土産。自身の影である影である不死鳥が住む焔の滝。元々は徳島県にある王余魚谷と呼ばれている場所で、轟の滝で有名だったのだが、今やこんな名前で呼ばれるようになってしまったわけだ。確かにあれが他の侵略者と接触されるのは、分が悪いというか、間が悪いというか、何というか、出来るだけ、なるべく避けるべきだろう。故に、これ心配は杞憂にはならないと断言できる。そんな確信を持って俺は答える。
「了解しました。確かに侵略者に不用意にあそこには近づいてほしくない。その依頼完遂します」
「私も了解です。不確定要素は切るべきですから……」
俺達の了承の返事を聞いて歴木支部長は満足そうに頷いた。そして、自分の仕事用の机の引き出しを開ける。ガラッ! って音をたてて、引き出しから何かを探している。暫くして、探し物が見つかったのか、引き出しを閉めた。そうして俺達の前までやってくると、それ(・・)を渡してきた。
「…随分前に私が回収したものだ。昨日、ようやく修理を終えたらしくてね、渡そうと思っていたんだよ」
「これは……」
そうやって俺は呟く。これは証だ。かつて俺だったやつが、俺を殺す為に作って誓った物。俺が清浄 洛涙に成る為に切り捨てたもの。あの戦いで燃え尽きたと思っていたのに、残っていたのか……。概梨の方を見ると、同じようだった。彼女もまた、俺と同じことをしていたのだ。何故か感慨深いものが俺の仲を占めるが、切り替える。そして、利き手である右腕の中指に刻んだ指輪を付けた。俺のその様子を見て、歴木支部長は告げる。
「では、討伐者である両名に告げる。只今より、覚醒者である清浄 洛涙と枢楊 概梨は階層Aの型獣の討伐を行ってもらう。最強のチームだ。君達は。最強に恥じぬようにやり給え。速やかに、殲滅しろ!!!」
「「了解!!」」
~~~~~
話を整理すると、今回の依頼で、俺等が討伐を命じられ、標的にされているのは、階層Aの型獣。爆撃犀だ。名が表す通り爆撃の犀である。速い話、通常の攻撃に爆発がついてくるという厄介者である。
歴木支部長から聞いた話によると、この爆撃犀は真っ直ぐ進行しているらしい。立ちふさがるものを爆撃で吹き飛ばしながら。それ故に誰も太刀打ち出来ず進行を許してしまっているらしい。目的地はおそらく、煉獄業火の滝焔。こいつをそこにたどり着かせるわけにはいかない。いわば、時間付きの依頼だったのだ。
ボッンボッンボッンボッン!!!! 連続する爆発音が、この徳島の地に鳴り響く。現在は木が入り混じる樹海を突き進んでいる。やつが進行する地面は爆発の影響により、抉れて凸凹になっている。話に聞いていた通り、唯、愚直なまでに、ひたすらに、真っ直ぐ進んでいる。さっきから概梨と二人で牽制技を何度か放ってはいるが、全く気にも止めずに突き進んでいる。牽制技程度では足止めにもならないというわけだ。本腰を入れて、ぶつかり合わなければならない。木の裏に姿を隠して、機会を窺っていた。概梨に合図を出した。直後、激突が起こった。
ここでもう一度、話を戻そう。この俺、清浄 洛涙と彼女、枢楊 概梨は覚醒者である。覚醒者つまりは、魔力を持ち、固有概念魔法が使える。固有概念魔法は人によって異なるは勿論の事だ。それ故に様々な固有概念魔法が存在する。その中でも枢楊 概梨の固有概念魔法は群を抜いて異常だといえよう。それは、有機物操作だからだ。故に爆撃と有機物操作の二つがぶつかる時、それは激動を生ずるのだろう。
ズサァァァ! 地面が擦れる音が鳴る。先ほどの激突で、樹海をつき進んでいた爆撃犀が、数メートル道を戻された音と、概梨が放った大いなる木の弩が、爆発により拉げて、概梨が後ろに下がらされた音だ。
「BBBUUUUUUUUUUUUUUU!!!!」
爆撃犀が怒り狂ったような鳴き声を出した。その鳴き声が響いてから、爆撃犀の体に異変が出始めた。体のあちこちから爆発が始まり、燃え盛る炎が爆撃犀を包みだしたのだ。そして、その爆発が徐々にある一つの場所へと移動しているのが分かった。燃え盛る炎は依然として爆撃犀を包んでいるが、それでも、ある場所だけは、確実に違うことが分かった。あれ(・・)は何かの攻撃の一手の可能性が高いことが、今の怒り状態から考えて、簡単に予測できた。
「概梨! 下がれぇ!! 俺が出る!」
概梨に命をとばして、俺は概梨と入れ替わるように爆撃犀の前へと出る。爆撃犀はその爆発を、犀角に集めているようだ。その証拠に犀角はカチカチと点滅している。爆発と燃え盛る炎が包む中でも、それだけは綺麗に確実に見えた。この一撃は避けてはならない。この一撃は防ぐか、潰さなければなれない。おそらく、次に爆撃犀が放つ一撃はやつの最強の一手だろう。それを避けるということは、やつに対して俺等が為す術が無いと取られてしまう可能性がある。それはあってはいけない可能性だ。俺等は南の最強コンビ(・・・・・)として、ここにいる以上、やつを調子乗らせてはいけない。それが答えだ。
頭をクリアにして集中する。その間に来る攻撃は概梨が防いでくれると信頼し、無心になる。その状態から一気に魔力を練り出し、創造する。やつの攻撃を防ぐ、潰す攻撃を。
……構築する。
魔力……完全までとは、いかなくとも70%
出力……瞬時最大、完全射出
属性……爆発は炎に準ずるから、水または氷を基準に骨子を
形状……やつが放つ攻撃はおそらく、犀角からだろうから、それに対抗する為にジャベリンで
基本構造、無問題。想像開始。創造顕現。……固有概念魔法を、発動する!
目を見開く。爆撃犀は既に攻撃の動作に入っている。カチカチしていた犀角が紅蓮に染まり、燃え盛る炎までもが犀角に凝縮している。やはり、間違いなくこれから放たれるのは、やつの最大級の技。こっちの発動よりワンテンポ分速い。……間に合うか!? 迷うな、行け!
「氷結晶斜線陣飛投大槍!!!」
「BUUUUUUUUUU!!!!!!!!!!!!!!!」
その鳴き声と共にやつの最強技が放たれた。直後、閃光と激突が起こった。
……それは正に超爆撃だった。犀角から放たれし、爆撃。名付けるなら「超爆撃犀角」と言うところだろうか? だが、それでも、俺の技の方がワンテンポ遅かろうが、威力で、真正面から叩き潰した。
この煉獄業火の滝焔近くでの樹海での攻防は俺の勝ちだ。その証拠に巨大な氷の大槍が、やつの放った『超爆撃犀角』ごと凍らした。辛うじて全身を凍ることは避けれたようだが、犀角は爆発と供に凍ってしまっている。動くことはできない。この勝負は確実に俺の勝ちだった。
とは言ったものの、魔力を完全に詰め込んでの攻撃だったから、少しふらふらする。後は、概梨に任せるとする。後ろで魔力が練られる感じがする。概梨が攻撃の準備をしているのだろう。俺の目の前では、爆撃犀が攻撃から逃れようと、必死に足掻いているのが見える。だが、技ごと凍らせた俺の氷が解けること無く、犀角の中で爆発が繰り返されるだけであった。ふと、上を見上げると、巨大な木で作られた大剣が浮上している。爆撃犀の狩猟の終了を告げる一撃だ。……概梨が宣告した。
「判決を、剣帝樹の審判!」
「BBBBBBUUUUUUU!!!!!」
爆撃犀の最後の足掻きも虚しく、ただ泣き声だけが響く渡るのみで、剣帝樹はヒュンヒュンと回りながら軌道を描き、さながら審判を下すように、爆撃犀の真下へと落ちていき、断罪を決行した。ザクリッ! と一閃の元に爆撃犀は死に墜ちた。俺は犀角ごと凍らしていた技を解き、概梨は再び固有概念魔法である有機物操作を使用して、爆撃犀の亡骸を自然へと返す作業に移っていた。
ここで軽く説明しておく、概梨の有機物操作は非常に便利な能力だ。有機物とは、生物に由来する炭素原子を含む物質の名称であり、有機化合物の意味を持つ。例外が幾つかあるのしろ、概梨は炭素原子を含むものを好きに操作することが出来るのだ。まぁ、極論ではあるのだが。植物を操作して亡骸を地に埋めて自然に返すことぐらいお茶の子さいさいという訳である。
暫く、することがないので、大人しく概梨の作業を見守っていた。如何やら、ひと段落ついたのか、概梨がこちらを向いて、言う。
「終わったよ、これからどうする? 支部長に報告しに行く?」
「そうだな。それもいいが、個人的には煉獄業火の滝焔に向かおうかなと思っている」
「如何して?」
と、概梨が至極不思議そうな顔をして、小首を傾げながら、聞いてくる。無論、その疑問は最もなので、こちらとしても答えはすぐに出せる。
「そうだな、あげられる理由としては、まずは確認だな。今現在、煉獄業火の滝焔がどうなっているのかも気になるし、何より、また爆撃犀みたいなのが、あそこの付近にいるかもしれない。そういった不確定因子をキチンと取り除くためかな」
「ふーん、他には?」
「次に、十大龍席の一つだった炎龍の影だった不死鳥が、どうなっているのかも確認したい。支部長からは刺激するなとお言葉を貰っているが、あれがいつまでもあの滝の中にいるとは、どうしても俺には思えない。もしかしたら、もうあそこにはいない可能性だってあるかも知らないからな。まぁ最初の理由とあんま変わらないが……」
「……そういうことなら、私は洛涙の意見に従うわ。確かにあの不死鳥がいつまでも滝の中にいるなんて保証はどこにもないのよね。もしあの中にいたのは、力を溜めて、全開になるまで待っていたのかもしれないしわ。雌伏の時と自身に言い聞かせて……。そうと決まれば、早く行きましょう。さっさと、確認して判断しなきゃ」
「ああ、そうだな。行く……か……!?」
直後、俺と概梨は咄嗟に後ろを振り返った。いきなり背後に人の気配がしたからである。まずこんな所に、人の気配がするわけがない。ここは煉獄業火の滝焔近くの樹海。侵略者の上位階層がいるこの近くにわざわざ近づくやつなんて、自殺行為に等しいのだから。だからこその、ここで人の気配がするのは、おかしい。俺達は瞬時に判断して、魔力を練り上げる。だが、そこで声がかかった。
「あー、ちょっと、本腰入れて戦おうとするのは、止めて欲しいんやけど、因みにあっしは、敵じゃありませんよ。ちょいと、情報を手に入れようとここまで来ただけですよ。そう喧嘩腰にならないでくださいな。あっしじゃ、貴方様方には、勝てませんがな」
「何……? どういうことだ?」
「どうもこうも、貴方様方は、南の最強を称しているし、何より、あの十大龍席の一つを葬ったんですよ、知らない方がおかしいですがな」
「……なんで俺等が南の最強だと知っている。秘密にしているんだがな」
「やだなぁ、人の噂に戸はたてれませんよ、それにあっしは情報を掴むのは、得意なんですよ。……おおっと、自己紹介を忘れていました。あっしの名は、糸黎と申します。以後、お見知りおきを」
そういって、糸黎という、見た目三十代後半のくたびれた男は、黒い淵眼鏡を暗く輝かせ、つばのついた帽子を手に持って、俺等に向かって深くお辞儀をした。
次は、うまくいけば、12月以内。失敗すれば、1月、2月になりますね。すいません。エタリはしませんので、ご安心を。




