Ⅱ:濁流(マッドストリーム)
9/7日文章追加。
駆ける。戦場を駆け抜ける。僕の持てる限りの速さで駆け抜ける。既にやつとの距離は数十メートルを切っている。仕掛けるのならここだろう。僕は自身の得物を手に強く握り占める。
先ほどと同じように斬撃を飛ばす。しかし、その斬撃を、やつは右の爪で弾いた。ヘイトというか、怒りのせいもあってか、やはり攻撃力は通常よりも格段に上がっている気がする。ならば、様子見も兼ねて、もう一度さっきと同じように見える斬撃を放つ。怒りで判断力が落ちている今ならば、今の攻撃をさっきと同じ斬撃だと勘違いするはずだろう。ザンッ!
「GGGGGGGGGGiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiGGGGGGGGGGGGGaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!」
斬撃がやつの体を斬った。やつが痛がって叫びを上げている。予想通り作戦は成功した。あいつはさっきの斬撃を今までと同じ直線方向のものだと勘違いしてくれた。さっき、僕が放ったのは、直前で斜めに曲がる斬撃だった。その斬撃は、やつの右爪を通り越して皮膚に当たり、傷跡を残したのだ。やつが攻撃でひるんでいる今が、追撃のチャンス。
「いけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
僕は大声で叫んだ。この叫びの意味に気付いた討伐者の一部は、早速行動を開始してくれた。他の討伐者達も、先駆者たちが攻めいるのに、気付いたのか、ここで一気に攻めるべきだと判断して、攻撃を始めた。
「斬区!」
僕と同じく剣を持ったやつがまるで、空間を区切るような斬撃を放つ。それは、奴には、避けられるが地面に斬り跡が残っているのを、見るとかなり強烈な斬撃である。もし、生き残れたら彼から、その技を教わってみたい。そんな僕の心中の出来事をほっといて、戦場は加速する。
「一貫抜き!」
僕とは違い、巨大な槍を持ったガタイのいい男が、やつの避けたところに、地面を砕き、鉄をも曲げるような、強烈な突きがやつ目掛けて、放たれた。だが、やつも自身の技で対抗してきた。放たれたのは、何重にも織られた水の槍。差し詰め、『水層波槍』といったところだろうか、その技と、男の『一貫抜き』が激突した。物凄い衝撃が僕らを襲う。その衝撃の合間を、潜って何人かの狩人と前衛覚醒者が攻撃を放つ。
「弐魔狩り!」
「打砕!」
「雷よ、我が拳に纏え 雷頼拳!」
「雷よ、我が脚に纏え 雷脚!」
彼らの攻撃はやつには当たることなかった。鎌を持った女の人が、『弐魔狩り』で『一貫抜き』とぶつかっていた『水層波槍』を狩り取り、その後ろに控えていたこれまた、ガタイのいい大男が、鎚を真正面から振り下ろし、『打砕』を繰り出した。文字通りに、打ち砕いた。そして、畳みかけるように、前衛型、魔法を体に纏わせて戦う型の覚醒者が、二人がかりで、水が苦手そうな電気系統で攻撃しようとしたのだが、そこには、もうやつがいなかった。
後衛の覚醒者が叫ぶ。「後ろだー!!!」その言葉で全員後ろを向くが、時既に遅し。やつは、水の凶器を振るってきた。鋭い水は、攻撃してきた彼らを切り裂こうとしている、そんな時、彼らを吹き飛ばして、攻撃を受けた人がいた。
「真紅之楯!」
そいつは、後衛として、覚醒者を守る役目だった盾使い。そいつは、やつから放たれた強烈な水の凶器、『水流波切断』を防ぎ切ったのだ。そいつの体は光に満ち溢れている。おそらく、後ろの支援型の覚醒者が盾使いに支援魔法を何重にもかけたんだ。だから、無事でいられる。
ただ、自分の攻撃を防がれたのが、腹が立ったのか、やつは水の連弾を放ってきた。『水丸連弾』だろう。その攻撃のせいで、僕らはやつと距離を離されてしまったが、仕方がない。だが、戦えるという事実が証明された。皆で力を合わせれば、可能性は見えてきた。これは、まだ勝機がある。そう確信できた。
先頭を切って狩人がそれぞれの武器で攻撃し、遊撃も兼ねる。覚醒者は半分に分かれ、片方が固有概念魔法を唱えて攻撃に参加し、もう片方は支援魔法で狩人のサポートをしながら、全体のバックアップも兼ねてくれている。
だがしかし、今のままでは、明らかにこっちの方が分が悪い。その理由は覚醒者の魔力が、このままでは切れてしまう可能性が大きいからだ。覚醒者がいるのといないのでは、勝率が大きく変動する。早めにケリをつけなければならない。
いくら覚醒者といえども人間なのだ。戦いで疲労がたまってくれば、当然魔力も使った分だけ減る。狩人が体力を消費するように、このままじゃジリ貧にしかならない。覚醒者が戦線離脱すればこの状況は一気に最悪になる。
だから決めるのはここしかない。それが分かってるからこそ他の討伐者も必死こいて攻撃をしている、だけど、決定打が欠けてしまっている。今の戦力じゃ僕以外に決定打を打てる人がいない。僕が仕掛けるか……?
しかし今、全力で打ってしまって、もし、仕留め損なったらそれこそお終いだ。僕も役立たずにしかならなくなる。だけど、出し惜しみして倒せなかったら元も子もないのも事実。こういう時は現状判断が一番なのだが。
覚悟を決めろ! どちらを選んでも鬼門。それならば、今行動に移すべきだ。幸い覚醒者がかけてくれている『防御特化』、『回避性能UP』、『魔力耐性〈大〉』はまだ続いているし、加えて先ほど追加してくれた『攻撃力UP』、『速度UP』もある。
今のところやつは他の討伐者達が必死こいて攻撃しているのを煩わしそうにあしらっている。やつの注意がこちらに向いていない今が絶好のチャンスだ。そう思い僕は、自分の得物を強く握りしめ行動を開始した。
静かに、静かに走り出す。それも殺気を漏らさないようにだ、殺気が少しでも漏れてしまったら、やつは走ってくる僕に気づくだろう。そうなったら全ておじゃんだ。そうならないためにも、殺気を隠す。
昔から、木を隠すなら森の中と言う。なら、この無法地帯という戦場で僕の攻撃をギリギリまで隠せるのは同じ討伐者の中だ。
走る、走る。やつとの距離はあと数メートル。できるならゼロ距離で打ち込みたいところなのだが……なりふりは構っていられない。余計なことを考えず無心で走る。
五メートル、四メートル、三メートル、二め…………
「GuRaaaaaaaaaaaaa!!!!!」
『クソッタレ!!!』
最悪だ。気付かれた。しかも、後、後二メートルのところで気付かれた。思わず心の中で悪態をついてしまう。
だが、二メートルだ。まだ誤差の範囲で行けるはず。
ぶちかます!!!!!
「喰らえよ! 侵略者!!! 陽炎斬り!!!!!」
ザスッザスッザスッザスッザスッ!!!!!
やつに向かって、五回分の斬撃を繰り出した。その五回分の斬撃は見事やつにクリティカルヒットした。
「GuuuuuuuGaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そんな悲鳴を上げてやつは、後方に吹っ飛んでいった。ドォォォン!! 何かがぶつかる強烈な音が戦場を支配する。
そして、わずかな空白がこの場を支配した。その直後、後ろで支援していた覚醒者達の歓声が上がると、半呼吸遅れて、前線で戦っていた狩人達の歓声も上がる。
今回のボスキャラの立ち位置にいたやつをブッ飛ばしたのだ。盛り上がるのも無理はない。
だけど、喜ぶにはまだ早い。確かに今の一撃はクリティカルヒットしたかもしれないが、それで倒せた保証がない。だから気を抜くなといいたいところなのだが、今の僕は、いかせん体力がヘロヘロで口に出す気力が出てこない。
だが、僕と同じことを考えている人もいるらしく誰かが代表でやつが倒れているか確認しようとしている人がいるらしい。なら、やつが倒れているかの確認はその人に任せて僕はやつが生きててまだ元気だったとき戦えるようにアドレナリンを出し続けよう。
しかし、どうやらその心配は杞憂だったらしい。確認した人が大声で叫んでいる。どうやらあの一撃で仕留めきれたらしい。
とにかく、今回の仕事は久々に骨が折れた。軍勢に戻ったら支部長に今回の報酬をたんまりはずんでもらおう。そう決めた時だった…………
「GGGGGGGGGGGGGGGuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuRRRRRRRRRRRRRRRRRuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
……その咆哮は何を告げるかなんてもうこの場にいる誰一人として分からぬ者などいないが僕を含めて全員分かりたくなかったのは事実だろう。
ふらふらな体で咆哮がした方を向く。そこには怒れる一匹の猛虎の姿があった。
やつは生きていた。その事実が全員再び認識することになった。
そして覚醒者の一人が叫んだ。
「気をつけろ!!!! あいつさっきの水鉄砲を打ってくるぞーーーー!!!!」
その言葉でやつとの戦闘は再び開始された。
先ほどの覚醒者がいった通りやつは水鉄砲を打ってきた、だが、前打ってきた水鉄砲の三倍ぐらいの大きさのものなのだが。
「ぐわぁーーーーー!!」
「うわーーーーーー!!」
そこらじゅうでこちらの悲鳴が上がる。やつは三倍の大きさもする水鉄砲をさっきから何度も何度も連続で打ってきているのだ。
そうこうしているうちにも、こちらにも巨大な水鉄砲が飛んできた。
ふらふらで攻撃を避けることはできそうにないが、何とか流すことならできるかもしれない。そんな一縷の希望を持って、僕はやつの水鉄砲の前に向かい立つ。
「添って返すぜ、侵略者! 灯楼流し!」
僕はやつが放った水鉄砲の軌道に刃に置き、そのまま水鉄砲を刃に乗せて、一回廻りながらやつの方向に水鉄砲を返した。
まさか、やつは自分の攻撃が返されるとは思っていなかったのか、綺麗に命中した。
所々でやったとか言っているが、今ので倒せたら苦労はしない。やはり、決定打が足りない。
もう一度陽炎斬りをする体力は僕には残っていない。このままじゃ負ける。どうする? だが、そんな考えを打ち消すような出来事が発生した。
覚醒者の一人が叫ぶ!
「誰かやつを止めてくれーー!! あの野郎上級魔法を使う気だーーー!!!」
その一言でやつに目を向けると、明らかに高魔力反応がする。感覚で分かる。空気が痛い。大技が来る。既に他の討伐者達は最後の一斉攻撃を仕掛けている。
皆理解しているんだ。やつにあの一撃を打たせたらこちらの負けだということに……
僕も攻撃に参加したいが、体は立ったまま動けない。クソッ!! ここでみてるしかできないのかよ……
しかし、無残にも刻はくる。やつの体が光ったかと思うと、やつの後ろから大いなる濁流が流れてきた。あの技は水の上級魔法『濁流』である。
沢山の討伐者が濁流の餌食となっていく。
そんな姿を見ながら最後の力を振り絞り、濁流が来るのを待つ。返せるかは分からないが最後の悪あがきぐらいはさせてもらう。
「添って返すぞ! 灯楼流し!!!」
ぐっ、おおおおお!!!!
やっべぇ、洒落になんねぇ威力じゃねぇか。ふざけんな!!! こんなのどう返せってんだよ!? 受け流すことすらできやしねぇ・・・。
だけど、ここであきらめるわけにもいかねぇ、踏ん張れよ、僕!
パキッ!!??
「な・・・」
思わずそんな言葉が漏れてしまう。だけど、仕方がないことなのかもしれない。むしろ、よく持った方かもしれない。それでも、
「ここで折れんのはなしだろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!????」
そう叫ばずにはいられなかった。よりにもよって、こんな重大な場面で折れるとは、運がなさすぎといわれても笑えやしねぇよ……。
そんなことを思いながら僕は濁流に飲み込まれ、意識を失った。
今度こそ三話の方は二月末です。