Ⅹ:颶風(テンペスターズ)
ってなわけで、颶風です。これで一章は終了となります?
次は9月の上旬を予定。ハッキリとした日程は活動報告で出します。
「飛翔断空暴嵐轟天凱風爆纏覇」
その一撃は淡路島をいとも簡単に飲み込んだ。それは、あっという間に、一瞬で無に帰した。そもそも論として淡路島が近畿領域(東エリア)の半分を消滅させたのだから、一つの島がその攻撃に耐えられる訳もなく、ある意味では当然の帰結とも言えよう。
己が放った一撃で先ほどまで戦っていた場所が無くなるのは何とも言えない気分になると、嵐龍は感じる。それ以上に嵐龍を占める感情は呆れ、もしくは諦観だろう。最後の均衡の時、己は出来る限りの全力で技を繰り出した。当然相手も全力でかかってくると踏んでいたのだ。特に相手は、自分がかなり興味を寄せていたのだ。期待値が高かっただけに、あっけない、というか下らない三文芝居を見るよりも、茶番を目の前で見せられるよりも、残念な終わりになった。落胆するのは仕方がないと自分で自己完結する。
しかし、何故相手があの時、己の劔を下げたのかが、納得出来ない。先程自己完結すると言った気もするが、どうしてもそこだけは腑に落ちないのだ。あの時はやつは自分の相棒と言える存在を他でもない自分に殺された、そこからは敵討ちに来るだろう。実質あの最後の均衡までは相手は自分を殺し尽くすと言わんばかりの殺気を放っていたのは、肌で感じられたのだから。
それ故に、何故あそこで、止めたのかが理解出来ない。己の技を見たからか? 自問自答する。否、それは有り得ない。事実、相手はこの技を一度目にしているのだから、最後のぶつかり合いでこの技が出てくるのは、当然とも言える位に確信していただろう。なぜなら、相手は自分が技を放つ前から先に迎撃の構えを取っていた。それは、この技が来ると分かっていたに他ならない。なれば何故? どんな事情、もしくは思惑があって、あそこで攻撃、迎撃を止めた。勝算がなかったからやめたというのは、有り得ない。あの相手ならば、不可逆にするつもりで挑んでくるだろう。やはり、あれは一種のフェイク。己を油断させる行動で罠なのではないか? 今も息を潜めて自分が気を緩めた瞬間に狩りに来るのではないかと、嵐龍は疑心に駆られる。
そんな中、遂に煙が晴れ淡路島が在ったとこに、目を向けると、何も無かった。杞憂だったか? と嵐龍が警戒を一段階下げた時、嵐龍は己の異変、というよりは、己が放った眷属であり、邪魔だった転移魔法者を封じる役目を持っていた型虫(タイプ:イノセント)の気配が無くなっていることに気付いた。しかも、念を入れて三匹放っていたのだが、三匹全部の気配が無い。というより既にやられている。つまりは、この事実が示すことは、そして、嵐龍は遥か大空、天高くから急降下してくる二つの気配に気付いた。この気配を知っている。間違いなく、奴らだ。女の気配はもう自分が殺したので、もうないが男二人分の気配がある。その事実を知って嵐龍は己の口が笑っていることに気付く。つまらない決着など嵐龍は願い下げだったのだから、こればかりは自身の眷属を倒したやつに礼を言わねばならないと密かに思った。
そして、気付く。このままいけば、後一分くらいでこちらと激突する速度で奴らは落ちてきている。だが、奴らとてそのまま落ちる気はそうそうない。おそらく『落花散』とか言った技を繰り出すだろう。なれば、こちらも最大ではないが技を出す為に再び己の力を収束させる。だが、その前にやっておかねばならないことがある。嵐龍は微力の力を使い、小さい型虫を生み出す。そして、この場から逃がす。目的は再びの転移魔法封じ。この決着の間だけでいいから再び封じさせてもらった。嵐龍は笑う。
「ッッッハハハハハハハハハハ!!! 今度こそ決着をつけようじゃないか、終いにしよう!」
~~~~~
自分が浮いている感覚がする。ここはどこなのだろうか? 天国? 地獄? どこでもいいんだが。僕はあの一撃をくらって死んだんだ。もうどうでもいいさ。ふわりふわりとどこかに浮く感覚。浮遊している感じだ。もうどうでもいいや。ぶれぶれだ。落ちぶれた。何も残ってない。残りカスではなくて、絞りカスでもない。唯のカスだ。
そんなくだらないことを考えていると頭を殴れれた気がした。……気のせいか? 例え本当だったとしてももう僕にはどうでもいいし、ガンッ! ガンッガンッ! ……って、痛いな! 誰だよ!? 僕はそんな気持ちで顔を上げる。そして、そこには死んだはずの宴がいた。
「なっ、どうして!?」
「いや、それはこっちの台詞なんだけどね? っつーか、何死にかけてるんだよ、十三君」
「いや、僕はお前に遭えてるんだから、死んだんじゃ」
「いやはや、残念。君はどうして中々しぶといみたいだね、君が浮かんでるのは、かの有名な三途の川なんだぜ」
「は?」
「いやぁ、危ない所だったよ。私が気付かなければ君そのまま流されてお陀仏だったんだぜ。全く勘弁してくれよ。でもまぁ、気付いて良かった。もうこっちに来るんじゃないよ。さっさと敵討ちしてくれよ。君にはその力があるんだ」
そんなことを言って宴は僕を現実へと返そうとする。僕を逆方向に向けて流そうとしている。つまりは宴がいる方が彼岸で僕が今から向かわされるのは此岸なのだろう。
「待ってくれよ。なんでだよ、僕もそっちに逝かしてくれよ、僕は生きたくないよ」
「おいおい、どうしたんだよ。キャラぶれが起きてるぜ、十三君? そんなこと言うなんて君らしくもない、そこはさ『おう、任しとけ!』みたいな感じで行ってくれよ。悲しそうな顔するなよ、私まで悲しくなじゃないか」
「……僕らしくってなんだよ、なんで宴は僕なんかに託すんだよ。もう僕にはわかんねぇよ」
「……本格的にどうしたんだい? 私が死んだことがそんなにショックだったのかい?」
「ショックに決まってるんだろ!!」
「おおう。そんなにくいつくなよ。どうどう」
「なんで」
「ん」
「なんで、なんでお前はそんな風に平気なんだよ。死んだんだぞ、分かってんのかよ!」
「分かってるさ、私だって覚悟はしている。だからあんまりショックじゃない。そもそも討伐者事態がそんなもんだろ、いつ死ぬか分からないんだ、いつ死んでもいい覚悟はしてたさ」
「なんだよ、それ」
「はぁ、仕方がないやつだな。餞別をやるからさっさと戻って、嵐龍を狩れ」
「餞別?」
「ああ、餞別さ。んじゃま、ごめんなさいのチュウ」
「なっ」
チュウされた。宴に。いとも簡単に。宴の顔が僕から離れる、いや唇が離れる。真っ赤になりながら宴は言う。
「ほら、餞別はやったんだから、さっさと行け! きびきび動け、きびきび」
「いや、だって、おま」
僕は上手く口が回らない。だって宴からキスされたんだぞ、どうリアクションとればいいんだよ。僕にはさっぱり訳が分からねぇよ。僕がそんなことを考えてたら宴がぼそぼそと呟いていた。
「……クソ。まずったな。死んだから羞恥心ないかなと思ってやったんだが、あるじゃないか、羞恥心。物凄い恥ずかしい。置き土産だけで良かったんじゃないか、これ」
「どうしたんだよ、宴」
「いいや、何でもない。って早く行けよ、君は! このっこのっ!」
「うわぁ、やめろ。蹴るなよ」
ガンっ!
「「あ」」
その呟きはどちらの者だったのだろうか、多分両方だろう。宴が僕を蹴っていたら、何かレバーみたいなのにあったた。っていうか三途の川にレバーがあるのかは謎なんだが。何かゴゴッって音が聞こえていて、気のせいか水かさが増えてる気がする。宴に文句言おうと宴の方に見たら。既にいなかった。……あの野郎、逃げやがった。おそらく、天国か地獄かは分からないがそのどちらかに退散したらしい。これから起こること巻き込まれないために。因みに僕は、体が動かないので、逃げることができない。動かせるのは首だけ。その首を動かすと、こちらに迫る洪水を見て、あのアマ、僕が死んで再び会ったら、ぶん殴る。それだけを決心して、僕は三途の川の大洪水に飲み込まれた。
~~~~~
ヒュゥゥゥゥゥゥッゥゥ!!!
何かが落下する音に十三は目を覚ます。何というか先程まで味わってしまった浮遊感とは、また違う感覚がする。まるで、急降下するような速さがある感じだ。そしてそれは、自分が落ちてる感覚がする。でも、誰かに抱えられている。というよりは背負われている感じかもしれない。まだぼんやりとする目をこすり、はっきりと目を見開く。そこには、清々しい程の青空があった。雲も綺麗だ。でも、これでハッキリと分かったことが一つある。それは、ただ今絶賛落下中ということだ。
「どう、なってるんだよーーー!!」
思わず叫ぶ声を上げてしまう。だが、その声で自分を抱えていた、背負っていた人物が十三の覚醒に気付く。その人は十三をそのままにして、自身の顔をこちらに向ける。
「……無事で良かった。……済まない」
僕を、玖凱 十三を救った人物は、そう転移魔法者であった断さんだった。玖凱 十三の窮地を救ったのは断さんだったのだ。断さんが放った済まないの台詞はおそらく、遅れて済まないという謝罪ではないだろう。そもそも転移魔法が使えなかったのは断さんのせいではないのだから。だから、この謝罪は僕だけを救った謝罪なのだろう。嵐龍のあの攻撃から僕しか救えなかった。断さんは宴を救えなかったことを悔いているのだ。もう死んでいることが分かっただろうに。そんな断さんに僕は告げる。
「いや、いいですよ。もう宴は死んでしまったんですから。死者を救える程、楽な相手と僕らは戦っていないんです。この戦いが終わったらちゃんと弔えばいいんですから」
「……それでもだな、……死体でもないよりはいい。……ボロボロの死体よりかは、……綺麗な死体の方もあいつも報われるだろう」
「それで、僕らがあの攻撃をくらってたら、お陀仏でした。宴はそんなことをしたら、きっと僕らを盛大に罵りますよ。君たちはバカだろ! って」
僕が宴の声真似をして、そういうと、断さんは少し笑って言う。
「……ふ。……それもそうかもしれんな」
「でしょ。ってなわけで、断さん助けてくれてありがとうございます。これで最後の決戦が出来ます。僕は最後の衝突の時、諦めて劔を下げてしまいました。勝てないって心の奥底で思ってしまったんですかね。上辺は殺してやる。なんて思ってたけど、でも意識を失ってる間。三途の川で宴に怒られましたよ。何こっちに来てるんだよ!って。だから、僕は侵略者を狩って勝します。そして、お前が信じた、僕は凄かったって言わせてやります!」
「……そうか、……じゃあ、……勝たないとな」
「ええ! 勝ちます!」
断さんにそう宣言して、僕は断さんから落としてもらう。そして、自由落下に任して嵐龍のところまで落ちていく。そして、少し経ち、嵐龍の闘気が天空に、つまり遥か上空、空にいる僕たちに向けられた。物凄い闘気。というよりか殺気。殺す気で来ている。兎に角嵐龍を攪乱する。その為には、断さんの転移魔法が必要だ。僕は断さんに呼びかける。
「断さん!」
「……済まないが、……お前が考えていることは出来そうにない」
「え?」
「……また、……転移魔法を封じられた。……こちらの機動を削ぎに来たんだ」
「そんな!」
「……だが、……心配するな。……お前は俺が嵐龍のところまで連れていく」
「え」
「……来るぞ! ……任しておけ。……お前は力をためておけ。……嵐龍を葬れるようにな」
そういって、断さんは僕の前についた。嵐龍から放たれる攻撃。どれも弱くはない。『嵐気流砲』、『鎌鼬』どちらも、何発も連発で撃てて、その上、ある程度の操作が出来るのだ。厄介この上ない。でも断さんは、それらを見事に弾いている。断さんは己の得物をうまく使って、流している。因みに断さんの得物はダガーだった。その短剣を使って凌いでいる。だが、これがそう何度も続くもんじゃない。手を出そうとしたら、断さんが叫ぶ。
「……十三、……止めろ!」
「でも!」
「……いいから!」
強い断さんの言葉に何も言えなくなり、ガルガンティアを元に戻す。そんな中嵐龍が放つ攻撃は苛烈さを増していく。遂には、『大翼乱風巻嵐刃』まで使ってきた。断さんはダガーで応戦するが、力の差が大きすぎたのか、弾いて逸らすことが何とか出来たが、大きな傷を負った。だが、嵐龍の攻撃の手は緩みはせず。またしても強烈な一撃を放った来た。これでは、もう無理だと、僕は確信し、ガルガンティアを抜刀しようとするが、そんな僕の行動を見透かしたように断さんは僕に声をかける。
「……十三」
「……っ!」
弾さんのその一言だけで、分かった。断さんの意図が。……皆馬鹿だ。何で僕にそこまでするんだよ。どうして、そんな顔で笑うんだよ。己の得物であるダガーは、さっきの交戦でボロボロだ。おそらく次に交戦したら、すぐに壊れるだろう。そんなことを承知で断さんは、このまま続けようとしている。このままじゃ己の命すら、危ないかもしれないのに。僕は涙を堪え、一人の男を見る。その生き様を。見逃さないように。
嵐龍から放たれた一撃は『真空覇・天』。天を、空を喰らう嵐の真空覇。その一撃を断さんは己の得物で受け止める。均衡は一瞬だった。パリィン! と綺麗な音が鳴ってダガーが壊れた。しかし、断さんは笑って、そのまま己の体でその一撃を僕のところだけ、受け止めた。その後、断さんは意識を失ったのか、ふわりと吹き飛ばされていく。……助けたい。今すぐにでも、『空渡』を使って、断さんを。でも、それは彼への裏切りの行為だ。己の命を賭してまでここまで連れてきた。一人の男への侮辱行為に他ならない。怒りを力に変え、僕はガルガンティアを構えて、技を使う。そして、全身全霊を込めて、ぶっ放す。
「落ちて散れ! 落花散!!!」
その攻撃は、まるで流れ星のように、速く。剣先に、炎を灯らして、空気を、焼くように、天を、裂くように、空を、焦がすように、流星と化して、嵐龍へと、狙いを、標準する。その一撃は、正に隕石のように、空から降ってくるようだった。
しかも、それだけでは、飽きたらず、その一撃は、より鋭さを、増す為に、螺旋を、描き始める。ぐるり、ぐるりと。次第に、熾烈になり、ドリルのように、天を刳り貫いてゆくのだった。
~~~~~
「ッッッハハハハハハハハハハ!!! 仲間が道を切り開き、そして、その道を己が一撃で貫いてゆくか! 見事、見事天晴! これだから、ニンゲンは面白い!!!」
嵐龍は遥か上空で行われ、現在進行形で己を殺そうとする、討伐者達のやり取りを見て、笑う。嵐龍が牽制で放った『嵐気流砲』、『鎌鼬』は悉く、流れるように躱されたが、次に嵐龍が放った『真空覇・天』は討伐者の内一人を確実に狩り取った。しかし、やられた討伐者はもう片方の討伐者を庇って墜ちたのだから、もう片一方は未だに攻撃をくらってはいない。つまりは、託したのだ。意志を、意思を、思いを。侮ることなかれ。思いは人を強くする。それが故に嵐龍は今迄以上に笑う。
天を抉り、流れ星のように、加速して、空を焦がす、一撃が、嵐龍目掛けて、落ちて来る。その一撃はまともにくらえば、嵐龍ともいえど、簡単にやられてしまいそうな感じがする。その一撃を迎撃するように、嵐龍は思いっきり、風を、嵐を、喰らう。そして、己が名の元に放つ。
「竜巻呼応咆哮!」
放たれた咆哮は、竜巻は、遥か彼方へと、上空へと加速し、その勢いを増し、迫りくる一撃へと、激突する為に、威力を高め、空気を飲み込み、天を喰らう。
螺旋を描き、天を裂く流れ星の一撃と、空を飲み込み、天を喰らう竜巻が、天空で衝突した。
~~~~~
天を喰らう竜巻が迫りくる。それは、轟々と音を鳴らし、空を飲み込んで巨大に、より巨大へと変貌していく。龍の竜巻。嵐の咆哮。目の前に迫りくるのは、そういうものだと本能で理解。されど、この一撃は砕けない。皆の思いが、嵐龍に乗っ取っていうなら、意思は、この攻撃では破れない。それを僕は知ってる。玖凱 十三は胸を張って、勝てると宣言する。その思いに応えるように、螺旋を描き落ちる流れ星は、この『落花散』は負けやしない。
「ッッッッアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!!!」
喉を震わせて、声を出す。そして、その二つの攻撃は衝突を始めた。螺旋は止まらず、竜巻をも裂いていく。否、むしろ竜巻を裂くことで、『落花散』事態に空気の層が纏わり始めた。そのことによって、威力を徐々に増していく。空を飲み込み、天を喰らう竜巻は、その一瞬の攻防で、『落花散』に切り裂かれた。
「何だとッッ!!!」
何処かから聞こえる驚愕の声。だが、もはやこの一撃は止まるまい。空気の層をも味方につけて、加速したこの一撃は、間違いなく嵐龍へと辿り着く。そして、嵐龍に当たるかと思われた時に、嵐龍はそれをも弾き返す反撃を始めた。
「嵐鎧・螺旋剣舞!」
弾き返す嵐の鎧。その勢いは烈火の如く。嵐鎧に纏う風の、嵐の刃が螺旋を描き、周りを廻る。『落花散』との衝突は苛烈を極め、その勢いを強くする。互いに散る火花は終わることは無い。意地と意地のぶつかり合い。勝つのは分からない、均衡は長く続く。されど、十三の放った『落花散』が徐々に、徐々にではあるが、『嵐鎧・螺旋剣舞』の守りを削っていく。されど、嵐龍はその状況を黙って見逃すほど甘くはなく、状況を変えるために、更なる一局を打つ。
「風陣波衝撃・解!」
その言葉を合図に、舞い狂う螺旋の剣が、嵐の鎧が、『風陣波衝撃』と供に衝撃となって僕らに牙を剥き、襲い掛かった。しかも、僕がいる一方向だけに、この前と違って、狙いが集中しているせいか、その攻撃は鋭さを増して、強烈だった。『落花散』は、防御に徹してはずだった技が、いきなりの強烈な攻撃技になったせいで耐えられず、遂に吹き飛ばされた。
吹き飛ばされる中、十三は『空渡』を使用して、体制を立て直す。まだ、負けてはいない。『落花散』が弾かれただけで、僕はまだ負けてないのだ。命ある限り、僕は戦える。ガルガンティアを強く握りしめ、嵐龍目掛けて、技を繰り出す。諦めない限り、勝利は訪れるのだから。
「死ね! 天崩し!」
両手で深く握りしめたガルガンティアを思いっきり嵐龍目掛けてぶっ放す。縦に両断するように、十三は己の得物を振り下ろした。
~~~~~
それを迎え撃つ嵐龍は、先程の攻防に少しの冷汗をかいていた。あのまま行けば、間違いなくこちらの防御が破れていた。それはおそらく間違いもない事実だろう。だが、この我が負けることはない。否、負けやしない。それが、嵐龍なのだから、この嵐を止めることは何人たりとも赦しはせん。ならばこそ、今一度、不屈の精神を持って、己が得物を振り下ろして来た。この討伐者にも、それを分からせる。嵐龍は己が誇る一撃を再び繰り出す。
「飛翔断空暴嵐轟天凱風爆纏覇!」
互いが互いに誇る最強の一撃を持って、再び均衡は始まった。されど、この均衡は先程との均衡とは、重さが違う。重要度が違う。この均衡で繰り出されている技は己が誇る最強の技。それが破れるということは、勝った方が勝利を掴みかけるといっても過言ではないのだ。それ故に、負けれぬ戦い。誇りをかけた戦いといってもいい。己が一撃の戦い。しかし、その均衡もじきに終わりを告げる。火花が加速し、摩擦音がまるで、悲鳴のように大きさを大きくする。
均衡が終わる。勝ったのは、『天崩し』。その一撃は、『飛翔断空暴嵐轟天凱風爆纏覇』を打ち砕いた。だが、『天崩し』は止まりはしない、それもその筈、『天崩し』が止まる時、それは、嵐龍を切り裂いた時なのだがら。
「まだ終わらんわァァァァァァァ!!!」
嵐龍の怒りの声が戦場を響かす。己が攻撃が負けた。それはまだ我慢できる。流石はニンゲン。意志の力は素晴らしいものだと、実感できるからだ。だが、その一撃が己を殺すだと、フザケルナ。まだ自分はニンゲンを魅てみたいのだ。こんな所で終わるわけにはいかん。確かに、ニンゲンに、それもとびっきりの意志を持ったやつに殺されるのも悪くはないと思うが、それはそれだ。まだ勝負は終わってないのだから。
「真空覇!」
嵐龍が放ったのは、真空覇。十三が繰り出した『天崩し』に対しては、少々役不足かもしれないが、それは『天崩し』が本来の威力であったならの話だ。とどのつまり、あの均衡で『天崩し』は『飛翔断空暴嵐轟天凱風爆纏覇』を破ったが、その衝突でほとんどの威力が持ってかれたのだ。その状態なら『真空覇』でも相手をすることは可能だったのだ。
事態は嵐龍の予想通りにいった。嵐龍が放った『真空覇』が『天崩し』を弾き返したのだ。十三は嵐龍の反撃の攻撃に耐えれず、またもや、弾き飛ばされたのである。だが、この攻防はまだ終わらない。嵐龍は空に弾きだれた十三に狙いを定めて追撃をする。息をする暇を与えない。隙をやらない。一気にこのまま持っていく。
「暴嵐轟天凱風!」
~~~~~
グッ! そんな声が僕から漏れた。まただ、また防がれた。やつの最強技を『天崩し』で破ったのはいいが、その後の『真空覇』で弾き返された。しかも、最強技と競り合っていたせいか、利き手である右手が痺れて動かしずらい。両手で持っていたというのに。しかも、右手からガルガンティアが離れてしまった。『空渡』を使えば、何とか取り戻せる距離だから、そこまで焦りはない。しかし、どうすればいい。あの嵐龍に一撃をくらわせるのがここまで困難すぎるとは、流石というべきなのだろうが、生憎今はそういうことは言えそうにない。
そんなことを考えていたが、その余裕は一気に無くなる。風が、嵐が急に強くなった。それは示すのは、すなわち嵐龍の追撃。その追撃は十三の焦りを急かすように放たれた。放たれた技は『暴嵐轟天凱風』。やつの最強技の弱体化したものだ。どうする? 今から『浮転帆』を使ってガルガンティアを拾ってまた『浮転帆』を使っても、この攻撃には、ギリギリで体の何処かが捕まる。何処か一部でも捕まったら、巻き込まれて終了だ。どうする、どうすればいい?これを切り抜けて、やつを倒せる方法を考えろ。
頭をひねれ、知恵を出せ、策を考えろ。……無傷じゃなきゃいけない理由なんて、どこにもないじゃないか? そうだ。肉を斬らせて骨を断てばいい。決心したら、すぐに行動に移す。攻撃は目の前に迫ってるのだから。
「浮転帆!」
体を空に滑らして、ガルガンティアをとる。利き手である右手でとって、左手に渡す。そして、そのまま左手で右手を掻っ切った。ブッシャャャャャャャャャャャャ!!! 右手から大量の血が放出する。それもその筈だ。自分の利き手を掻っ切ったのだ。そのくらいの血は出るに決まってる。嵐龍がまたもや驚愕に顔を染めているが、そんな顔をしてられるのも今の内だ。僕は再び空中移動の技を使う。
「廻って躱せ! 浮転帆!」
迫りくる『暴嵐轟天凱風』を避ける。僕が斬った右腕はそれに飲み込まれていったが、それを無視して、僕は駆ける。空を翔ける『空渡』で嵐龍の元まで近づくと、僕は左手で嵐龍目掛けて振り下ろす。
「死ね! 天崩し!」
~~~~~
嵐龍は焦っていた。それもその筈、さっきまで戦っていた相手が、自分の技を避けるために自身の腕を掻っ切ったのだ。多少は焦る。そしてその隙をついて、相手は自分目掛けて迫ってきた。しかも、利き手ではないが、自身の誇る最強の技を繰り出す気だ。雰囲気で分かる。この相手はそういう事をしてくる奴だと。ギリギリで間に合うかわからないが防御の技を出す。間に合わなかったら自分の負けだ。これは認めるしかない。だが、負けられない。こんなところで死にはしないのだ。自分は。この嵐龍は。
「嵐鎧!」
嵐龍の防御技は、ギリギリ間に合った。薄い膜だったが、風の嵐の鎧をまとうことが出来た。そして、十三の攻撃は利き手ではない。左手で、しかも、利き手である右腕を掻っ切ったのだ。本来の力が出るはずもなく、当然の帰結ともいえよう。
嵐龍は弾き飛ばされたガルガンティアと十三を見る。何とか防いだが、決死の怒涛の攻め。一歩間違えれば自分がやられていたかもしれない。その事実にひやりとする。だが、油断は出来ない。ここからどうするかは分からないが、奴は諦めないだろう。それだけは分かった。殺気がする。一気に目を鋭くした嵐龍は十三に目を向ける。そこには、右手は無く、左手は血で染まりながらも、己の得物を口でくわえて、自分に迫ってくる討伐者の姿があった。
ゾクッ!!! 嵐龍にはあるはずのない鳥肌がする。あれはヤバいと、自身の本能が警鐘を鳴らしている。今すぐにでも葬り去らなければならないと確信した。嵐龍が迎撃しようとした時。
時間が凍結する。
それは、一瞬にして永遠だった。
~~~~~
翔ける。僕はガルガンティアを持って、嵐龍を狩る! 口で己の得物を加えてまるで獣のように、駆け抜けた。そして、何故か止まってる(・・・・・・・・)ような気がする。嵐龍目掛けて、口で振り下ろす。直前、嵐龍に動きが戻った気がするが、気にせず振り下ろす。
「ひへ(死ね)! ははふふひ(天崩し)!!!」
その一撃は、嵐龍の体を斜めに切り裂いた。そこは、宴が『超凝縮粒子砲』で焼き焦がした所。借りは返した。ざまぁみやがれ。僕の勝ちだ。が、僕も嵐龍を倒したことで気力が切れたのか、ふらりとよろめいて、バランスが取れなくなった。それもその筈なのだろう。
だって僕には、もう右腕はないのだから。しかし、右腕を失っただけで、嵐龍を狩れたんだ安い方だ。それに、僕以外は、殆ど死んだんだ。宴も断さんも、いや、断さんはどうか分からないが、あの傷じゃ致命傷を負っているだろう。僕ももう駄目だ。流石に血を失いすぎた。貧血なのか、大量出血かは知らないが、意識が持たない。技を維持する体力と気力も、もう底をつく。そんなことを考えていたら、遂に限界が来て、僕の体は抗うことすら出来ずに自由落下を始めた。そして、意識を失う前に二つの声が聞こえた気がする。
「見事なり、ニンゲン。褒美をやろう」
「お疲れ様、十三」
どうしてか、なんだか憎めない気がして、口元がにやりとしたのを、自覚して、僕は意識を暗転させた。
~~~~~
「……ん」
目を覚ます。そこは、いつも目にするというか、ここ最近かなり見ている所。つまりは、看護室の病室の天井。いつの間にか、この天井にも慣れてきてしまった気がする。結構ひどい発言だが。お決まりの常套句なら『知らない天井だ』なんて、あるけど。どうやら知ってる天井だった。声に出すまではないのだが、形式を乗っ取って言ってみるとしよう。
「知ってる天井だ……」
「いやいや、十三君? 普通そこは、知らない天井だ……。って言うでしょ。何勝手にお約束をぶっちしちゃってるのさ。君は実はひねくれ者だったりするのかい?いやまぁ、別にボクとしては、ひねくれ者でもなんでもいいんだけどさ。そこは、形式美というか、ボクの好きな『物語』上というか、こういうお約束に乗っ取って欲しかったなぁ。残念だよ」
「ああ、悪かったな…………へ」
「ん? どうしたんだい。ハトが豆鉄砲くらったような顔してさ、何か可笑しいことでもあったのかい?」
「いやいやいやいや、え、あれ、え?」
「呂律が回ってないぜ、というより、言葉が出ないような感じだね」
「お、お前、宴か!?」
「ハイ? 何をバカなことを言ってるんだい? ボクは正真正銘、謳来 宴だぜ」
「で、でも、お前死んだんじゃ。三途の川で会ったじゃないか!」
「へ、三途の川? ……--あ、あーー、三途の川ね、確かに会ったね。でもまぁ、いいじゃないか。また会えたんだからさ」
「そ、そうだ。なんでお前生きてるんだよ!? あの傷は致命傷だった。僕もてっきり死んじまったんだと」
「いやまぁ、あれは実際ヤバかったぜ。ボクも本気で死んだかと思ったもん。でもまぁ、悪運強かったんだろうね。保険でかけていた力が死後に発動したんだよ。おかげでなんとか命からがら、いやギリギリ助かったってわけさ。まぁ、救護員の到着が遅かったらお陀仏だったけどさ。っていうかさ、せっかく相棒が助かったんだぜ、もっと喜べよ」
「いや、喜びたいけど、疑問が、っていうか保険でかけてた力ってなんだよ」
「ああ、あれかい。君にも分けてやったことが何回かあるだろう。君のさ体の一部に噛み付いて、力の受け渡し」
「ああ、あれはなんだよ。お前の固有概念魔法なのか?」
「うーうん、違うよ」
「じゃあ、なんだよ」
「ボクさが、ニンゲンじゃないって言ったら、君は信じるかい? 十三」
「へ?」
「ふふ、嘘だよ、嘘。秘密さ。ボクは秘密主義者なんだよ、十三」
「っつーか、一人称変わってないか、お前」
「おや、今頃突っ込むのかい? キャラチェンジだよ。キャラチェンジ。こっちの方が雰囲気出るだろ?」
「何のだよ」
僕が宴の答えにため息を吐くと、三途の川での出来事が思い出してきた。そういえば、一発殴るって決めてたよな、僕。よし、殴ろう。こいつを、思いっきり。僕は起き上り、宴を殴るために、利き手である右腕を握り占めて(・・・・・・)殴った(・・・)。
「イダッ! な、何するんだよ、十三!」
「三途の川での、お返しだ」
「三途の川での?」
宴が三途の川での出来事をとぼけてるので、利き手を顔につけて、溜め息を吐く。
「あのなぁ、……?」
待て、何かが可笑しくなかったか? どうして、僕は利き手で宴を殴れたんだ? 僕は嵐龍との戦いで利き手を失ったはずだ。っていうか、自分で勝つために切り捨てた。なのに、何故? 恐る恐る、僕は自分の利き手である、右手に注意を集める。そこには禍々しく包帯が取り付けられていた。それを、ゆっくりゆっくりと外していくと、そこにあるのは、人間の、人の手などでなく、僕が先程まで戦っていたはずの、龍の腕だった。
「は、はぁああああ!!!???」
僕の驚愕が看護室を駆け巡ったのだった。
~~~~~
『物語』とは、本来ならハッピーエンドで終わるのが好ましい。デットエンドやバットエンドで終わり喜ぶやつなど滅多に見ない。余程捻くれた者でもハッピーエンドを望む。それ以外のエンドを望むものは一種の変人だといえるだろう。だが、勘違いしてほしくないのだが、それはあくまで『物語』上での話だ。現実はそんなに甘くはない。というか厳しいのだ。誰かが救われていたとしても、他の誰かが苦しんでいた。なんてことは多々ある。ここから先は裏の話。言うなれば裏場の話。裏場話だ。優しい嘘はあるけれども、所詮それは、嘘なのだ。
侵略者との戦闘~~~嵐龍の章~~~颶風から抜粋~~~
⇩
⇩
⇩
断章へと移行しますか?
YES☚
NO
次回 断章(一章・続) 裏場話
Who are you?