Ⅸ:颱風(テューポーン)
次は8月31日を予定してます。
さて、何から述べるべきなのであろうか。それを私などがしていいのか謎なのだが、この本を書かせてもらっていることから、赦してほしい。ここに書いてることは全てではない。推測も混じっているだろう。この戦いの真の結末を知っているのは、当事者であった、ニンゲンであった。玖凱 十三と謳来 宴という、今はもういない過去の彼らしか知りえぬことである。
では、何故過去の彼らしか知りえないこの戦いを書いているのかという問いに対して私はこう答えるしかない。私が彼らの戦いを今を生きる者に知ってほしいと思っているからだ。この戦いは始まりなのだ。これから来る幾つも戦いへの開幕だ。彼らを知ってる人や知らない人に思い出してほしいからだ。
彼ら『キヲテラウ』というのは、そういう存在なのだということを。長くなってしまったが、続きを始めるとしたい。ここから先はノンストップで動くことだろう。とどのつまり、決着がつくということだ。
目を逸らさずに、焼き付けてほしい。まぁ、この本が大勢の者に読まれることなど不可能だが。
侵略者との戦闘~~~嵐龍の章~~~颱風から抜粋
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「では、行こう。葬送だ」
「嵐鎧・螺旋剣舞」
「第二ラウンドを始めよう!」
その言葉は宣告であったのか、はたまた宣言だったのか、どうでもいい。兎に角今はそういうことを考えるのではなくて、あれをどう凌ぐかだ。今まで嵐龍の覆っていた鎧に風に狂う嵐の剣が追加され、舞いを止まることなく、いやむしろ加速するように、速さと鋭さを増してきている。
これでは、宴のビーム砲が使えない。いや最初だけでも上手くいってよかったというところか。それにしても、あの嵐龍を取り巻く剣がさっきから凄い音をあたりに響かせている。おそらくは、あれが空気を切っている。その音が僕らに聞こえているのだろう。風を斬る。音を斬る。というおおよそ不可能に近いことをしてくるとは、流石に嵐龍だけである。それに、この嵐龍の高ぶりに呼応したのか、波の高さが高くになり、天気は雷雲を呼んでいる。あたりはすっかり暗くなってしまった。
これでは、まるで嵐が来るようだ。いや、目の前の嵐龍は嵐を司る龍。それぐらい出来てもおかしいはずはない。相変わらずの規格外ぶりに苦笑いが毀れる。どうする。悩んでた僕を叱咤するように宴が叫ぶ。
「バカ者、前を見ろ! やつがしびれを切らしてこちらに来ているぞ」
「何っ!」
宴の声に咄嗟に反応して、一気に距離をとる。すると、僕らがいた場所に嵐の剣が刺さっていた。瞬間剣が暴風を起こす。嵐龍を見ると、また嵐の剣がこちらに飛んできた。さっきの暴風をくらわないために大きく避ける。それ故に隙ができて、同じことの繰り返しが起きてしまう。すっかり防戦一方を強いられてしまう。
「ふむ。どうやら嵐龍の身に纏っている剣は、遠距離攻撃としても使えるのか。剣を飛ばして、その後は剣事態を嵐として暴発させて吹き飛ばす。厄介な技だ」
「のんびり考察してる場合かよ!?」
「敵の技を詳しく知ることはとても大切なことだよ。十三君?」
「今はそれどころの話じゃないっていってんだよ!」
「焦りは禁物だ。戦い事態を勝てなくするよ。君が私を抱えながら攻撃を避けている分私は攻撃を解析と考察しているのさ。それにこの状況が悪いってのは私でもありありに分かっているさ」
「それなら、いいよ!」
と怒鳴るように宴に対して返事をして、迫り来ていた『嵐気流砲』をガルガンティアで弾く。弾いた先に『螺旋剣舞』の嵐の剣が来て、二つが暴発した。吹き荒れる嵐。思わず、目を閉じたくなるが、閉じたら恰好の隙になる。根性で目を開いて、宴と距離を詰める。
「どうするよ!?」
「私も参ってるのさ、これは洒落にならないよ。毎度のことながら。見てみろ、淡路島があの『螺旋剣舞』のせいでドンドン削れていってる。このままじゃ、陸地がなくなりかねん」
「荒野から更に削られて、なくなるとか、地図から消えるじゃねぇか」
「というより、私達が陸地で攻撃できなくなるから、止めてほしいよ。このままじゃ、空と海での戦いだ」
「僕は何とか空でも戦えるが、宴はきついよな。どうにかしてあの『嵐鎧』を破んなきゃいけねぇな、クソッタレ!」
そんな会話をしている中でも嵐龍の攻撃は終わらない。ほぼノータイムで送り込まれる攻撃の数々。正に荒々しい疾風のように迫りくる状況。さっきから天気は嵐が起こりかねないといったが、遂に雨雲が出て、雨が降り始め、雷が鳴り始めた。波は高波と化して淡路島を襲う。それに加えて、僕らの目の前には螺旋を描く嵐の剣が舞い狂う嵐の『鎧』を持って僕らを攻撃してくる嵐龍。全く持って最悪の状態だ。何か起死回生の一発が欲しい。このままじゃアウトだ。
そんな都合のいいことを考える僕を突き落すように、状況は加速する。『螺旋剣舞』を舞らせている嵐龍が僕らに向かって突進してきた。それは颱風が僕らに向かって体当たりしてくるような感じである。咄嗟に宴を担いで『空渡』で逃げようとするが、そもそも突進事態がフェイクだった。
「風陣波衝撃・解」
それは、一瞬の出来事で、瞬きするような感じで起こった。嵐龍が身に纏っていた『嵐鎧・螺旋剣舞』が『風陣波衝撃・解』の言葉を発した瞬間。解き放たれた。舞い狂う螺旋の剣が、嵐の鎧が、『風陣波衝撃』と供に衝撃となって僕らに牙を剥き、襲い掛かった。その衝撃は天を揺らし、空を響かせ、大地はひび割れ、高波は津波になり、雷は威力を強めて、雨は鋭さを増した。轟々と降りしげる豪雨がその攻撃の悲惨さをよく表していた。僕は、その身を地面に叩きつけられ、血反吐を吐き、宴も同じように地面に叩きつけられていた。
ゴボッ! ゲボッ!
と息をする度に血の塊が僕の口から出てくる。血で濡れた口を腕でこすり拭き、口の中に残った血を唾と一緒に吐き出す。……だいぶ楽になった。少なくとも、さっきよりは呼吸をしやすくなった。これは有難い。自分の体を見ると、体のいたるところが血で染まり、抉れていた。どうしてこの状態で、まだ体や脳が正常な判断が出来ていることに、内心驚くが、嵐龍と戦うためには有難いことなので、考えないことにする。傷が痛むが無視して、宴のところにかける。宴は気を失ってはいなかったので、すぐに会話ができた。(宴自身も血をきちんと吐き出していた)
「大丈夫かよ」
「これが、大丈夫に見えるなら、君は幻覚でも見てるんだよ」
「確認だろうが、毒吐くな」
「これは済まない。というか、あの『螺旋剣舞』って『風陣波衝撃』で広範囲に吹き飛ばせるんだね、完全な初見殺しだよ。あれ」
「対策なんて、初めて見る技にたてれねぇよな」
「まぁ、正確には初めて見る技じゃないけどさ」
「言葉の綾だよ、気にすんな。で、どうするか」
「私に言うなよ。嵐龍がまた『嵐鎧』をしてきたら、遠距離で攻撃するしかないだろう。でも、遠距離じゃ『嵐鎧』に防がれる。何だい、これ?」
「まるで、ポケモ◯のノーマルがゴーストに向かってノーマル技繰り出す感じだな」
「効果がないじゃないか!」
「今の僕らにはぴったりな言葉だ」
「全くやってらんないね!」
僕らのふざけたコント紛いなことをやっていると、天から声が響き渡る。おそらくは、っていうか嵐龍だろう、このパターンは
「ふむ。まだまだ減らず口は叩けるといったところか、汝ら以外としぶといな」
「「うるせぇよ!!」」
嵐龍のぞんざいな言い方に、思わず言い返すと、宴も言っていたらしく、被った。しかも台詞まで。
「相性はばっちりらしいな、その辺は素直に凄いと思うがな。が、そろそろ我も決着をつけたい。さっきからこのことを言っているが、全く持って出来ていないからな。言葉だけでは意味がない。実行に移さなければなぁ。天候も我向きになってきたものだし、一つ面白い手品をしよう。よく見ておけ」
そんな言葉が嵐龍からかけられる。反論したいが、攻撃したいが、僕らはさっきの攻撃で既にボロボロ状態。攻撃したくても、余計な体力を消費したくない。ここは警戒しながら、体力を少し貯めることを選択した。正直言って雀の涙程度にしかならないような気もするが、ないよりはまっしである。宴も同じ考えらしく、動く気配はない。全くこういうところは口に出さなくても、お互いが最善を選び、なおかつそれが同じだから、仲間としては、ばっちりだ。僕がそんなことを思っていると状況が動いた。
嵐龍が荒れ狂う天候の中、真ん中に移動して、何やら魔力らしいものをためている、そして次の瞬間それを放った。
「颱風封鎖領域」
その言葉が嵐龍に述べられてから、天候は一気に猛々しさを増して行く。それはまるで、颱風が今からこの場所に顕現するかのように、嵐がそこに出来上がるかのように、竜巻が発生するかのように、猛烈な風が勢いよく既にある嵐を飲み込んで、ドンドンと巨大になっていく感じ。それの祝福を祝うように、淡路島の周りに、淡路島を覆うように竜巻が数十個も発生した。発生した竜巻を嵐は飲み込み、遂には、淡路島は竜巻を飲み込んだ嵐に覆われていった。そして、巨大な嵐は颱風と化し、淡路島に発生した。遥か高き天に嵐龍がいる。そして、その嵐龍がドンドンと降下して行き、ある程度の空中で止まり、僕らに宣言する。
「どうだ? これが我の一種の手品だ。名を『颱風封鎖領域』という。ここから出る方法は、唯一上のみ。その他は嵐に弾かれる。さっきそこの女が我に傷をつけたビーム砲を使ってもだ。颱風の目だ。中は一応今は安全だぞ。抜けたければ上を通らなければならない。されど、それは我との戦いをも意味する。我のテリトリーで勝てると思うか? 勝てると思うならかかって来い。さぁ、最終戦だ。楽しもう」
あまりにも尊大で傲慢な嵐龍の言い草に悪態をつきかけるが、我慢した。ヤバい、閉じ込められた。ここから出るには、上だけ。上には嵐龍が待ち構えている。しかもやつの広範囲の攻撃をこんな淡路島だけの場所じゃ避けきれるかもわからない。はっきり言って最悪だ。しかも、嵐龍は最終戦と言った。間違いなく切札を使ってくる。あれをこんな狭い所でくらったら今度こそ死だ。どうする!? 考えを加速させている僕に、宴が更なる絶望を告げる。
「悩んでいる所、非常に済まないがとても非情なお知らせだ」
「なんだよ、今」
「この颱風、段々とせまばって来ているぞ! のんびりしてると淡路島自体がこの颱風で狩り取られる。しかも、狭くなればなるほど、嵐龍の攻撃は鋭さを増して、威力も増すぞ」
「何!?」
宴の言う通りに颱風を見ると、少しづつだが地面が颱風によって削られていってる。颱風が明らかに地面を飲み込んでいる証拠だ。このままでは、嵐龍の攻撃に耐えていても、せまばった颱風に飲み込めれてゲームオーバーが確定する。ジリ貧状態でもアウトということだ。とどのつまり僕らは、嵐龍のテリトリーで時間制限有りの戦いを強いられているわけだ。
「制限時間有りとか、マジでふざけんな! 最初のボス戦に時間制限有りとか、どんな鬼畜ゲーだよ!」
「こればかりは、同感だね! しかも私たちは、HP赤領域での戦いだ。中々のひどい仕様だね」
「そんなゲーム売れるかよ、クソッタレ!」
「ゲームじゃなくて、現状ってオチだよ」
僕も宴もふざけた戯言めいたこと言いながらお互い、自身の得物を持って立ち上がる。確かに状況はえぐいが、嵐龍と戦っている時は毎回こんな感じだったと思う。いつだって絶望があった、だが負けやしない。僕らは、僕は負けないと誓った。その誓いを、意志を、思いを、ここで撤回するわけにはいかねぇ。ガルガンティアを構える。宴はパンドグリュエルを早速ぶちかました。バンッバンッと銃弾の音がする。僕も『空渡』を使って空を翔ける。そして、いつの間にか空中でも使えるようになっていた技たちを使う。
「ぶれて刻め 陽炎斬り!」
五連の攻撃、しかしそれは嵐龍は技を使うまでもなくひらりと躱す。宴の銃弾も華麗に躱していた。僕は続けて攻撃する。
「穿って崩せ 十字狩り!」
再びの攻撃。それは少し離れたところでも衝撃波を少しだけ飛ばせる技。その技を嵐龍は己の鱗で弾いた。『嵐鎧』などの防御技を使ってないことから、それほどまでの威力が僕の技にないのか。既に僕の体力は精神力と違って尽きてしまったのか。ここまで攻撃が効かなければ、そう勘ぐってしまう。だが、僕の攻撃は駄目だとしても、宴の攻撃はどうだろうか。後ろから、高エネルギーが準備してあるのだ。僕は『浮転帆』を使って、戦線から離脱する。そして、宴は叫ぶ。
「超凝縮粒子砲 点火!」
放たれる高エネルギーのビーム砲。それは嵐龍に向かって伸びていく。だが嵐龍はもうその技は見切ったといわんばかりに、技を持って対抗する。小さく息を吸って吐き出した。
「竜巻呼応之咆哮」
放たれた咆哮は、宴の『超凝縮粒子砲』と激突するが、数秒の激突の後、殆ど相内だったが、少しだけ勝っていた咆哮が宴目掛けて、迫り来ていた。僕は急いで再び『浮転帆』でさっきの場所に戻り、返し技を使った。
「添って返せ 灯楼流し!」
僕の残りの力を込めて、微力であった咆哮をやつ目掛けて返した。だが、嵐龍はそんな僕らの攻撃を嘲笑うかのように続けて攻撃する。
「暴嵐轟天凱風」
迫りくる暴虐の嵐。僕はさっきの攻撃で残った体力を使い果たしている。迎撃は無理。使えるのは、逸らす技だけ。今の僕じゃどこまで出来るか分からないが、このままじゃ死ぬのは確実だから、悪あがきをする。負けたくないから。
「当てて逸らせ 篝火ずらし」
ないに等しい体力でボロボロの体で、僕はガルガンティアを握って、やつの暴虐の嵐に立ち向かう。体の至る所が悲鳴を上げている。でも、意地と執念だけでガルガンティアを支え続ける。別に打ち勝たなくてもいい、何処か違う場所に逸らせればいいだけなんだ。だけど、それが遠い。難しい。今の僕では、はるかにキツイ行動。そんな抗いも虚しく、均衡は簡単に訪れた。速い話、僕が打ち負けた。僕の体は暴虐の嵐にぶっ飛ばされて、地面に叩きつけられ、嵐は淡路島の地面すら飲み込み、僕は海に沈んだ。
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「十三!?」
私は大声で十三を呼ぶ。私が放った『超凝縮粒子砲』が嵐龍の咆哮に撃ち負けて、嵐の咆哮が私に迫ってた時、十三が『浮転帆』で私の前まで戻り、返し技で反撃したが、嵐龍はそれすら飲み込む暴風を私達に放った。その暴風を十三は逸らそうとしたが、先程の攻撃を返すので全体力を使いきったのか、暴風に飲み込まれた。十三を飲み込んだ暴風はその勢いを止めることなく、地面にぶつかり、そのまま地面を抉りとって、海に消えた。
間違いなく十三はあの攻撃に巻き込まれたはずだ。助けに行かなければならない。しかし、私の目の前にいるこいつがそれを許してくれるはずもなく、私に向かって追加攻撃をしてくる。パンドグリュエルで反撃して薙ぎ払うが、嵐龍は攻撃の手を緩めず、むしろ鋭さを増して攻撃をしてくる。私と距離が離れているせいか使ってくる技は小技である『嵐気流砲』と『鎌鼬』くらい。これなら数発をもらうのを覚悟したら、海に潜れるはず。そう思い実行に移した。
私と十三が落ちた穴は数メートルしか距離がない。この距離なら軽い一発くらいだろうと考えていたことが幸を呪ったのか。私に向かって嵐の一閃が放たれた。その名は『大翼乱風巻嵐刃』。嵐の鋭さで切り裂く風の、嵐の刃。想定外の一撃だった。軽い攻撃が来るだろうと、甘く予想していた私は、反撃するどころか、その攻撃を避けきれるはずもなく、その一撃は私の体に直撃した。
「がはっ!」
本日何回目か忘れた吐血。血の感覚。遠のく意識。靄がかかる頭。白くなる思考。目だけが何とか動かせる状態だ。といっても片目は血で濡れて見えないが、体を見ると、もう駄目だった。それは奇しくも嵐龍が私の攻撃によって斜めに傷を入れられたように、私の体にも、斜めに線が入っていて、いうこともなく、致命傷だった。こんな状態で十三を助けに行こうとすれば、間違いなく、私は十三を助ける前に、傷に大量の水が体を侵食し、痛みで気絶して、二人仲良く御の字は目に見えている。
嵐龍もそれが分かっているから、余計なことをせず、ただ確実にしとめるために降下している。私は、もはや意地でパンドグリュエルを握っている。動かせるかは分かりやしない。だけど使えないとは限らない。私が死んでも代わり(・・・・・・・)はいるが、十三が死んだら変わりはいない。ならば、答えは決まっている。今もなお、海に沈みゆく十三を、私の手で救うべきだろう。火事場の馬鹿力というものなのかは分からないが、私はパンドグリュエルを地面に付けて、最後の力を込めて、放つ。
「……ブッ、……放せ、超凝縮粒子砲……点火」
死にもの狂いで放った一発は、微弱ながらもなんとか嵐龍のせいでボロボロになっていた淡路島の大地を削り、私の体を十三のいる海へと落とした。落ちる瞬間、嵐龍の驚きながらも、どこかワクワクした目を私に向けていたことに関して、舌打ちがしたくなった。
落ちていく体。抗うこともせず落ちゆく体。口の中に体力の水が入ってくるが、私は無視する。そのまま気力だけで、耐えて堪えて絶えずに落ちていく。本来なら、泳いで一刻も早く十三を救いに行くべきなのだが、お生憎様そのようなことは出来ない。腕や足がくっついていることが奇跡なような状態で無茶をしたら、十三を助ける前に死確定だ。今は火事場の馬鹿力、言いようのない不思議な力が働いているみたいな感じなのだから。それに、傷のせいで気を緩めたら気絶しそうなのに、そんな無茶は出来ない。私は流されるままに落ちていった。
海底近くで十三を見つけた。ボロボロの体で横たわっている。よく見ると、ガルガンティアは意地でも話そうとはしなかったようで利き手でキチンと握り占めていた。そんな姿に思わず笑ってしまう。そして、思う。こんな奴だから私はこいつに、命を懸けれるんだと、死んで欲しくないんだと。私は体を引きずって十三の元にたどり着いた。十三の顔は少し安らかに見えた。私を守れて少しだけ満足したのだろうか。そうだったとしたら、ぶん殴ってやりたい気もするが、既に腕は、大きく動かすと取れてしまう状態だ。そんなことは出来ない。
ふと、そんなことを考えた自分に苦笑するが、気を取り直す。彼には嵐龍を倒してもらうのだ。彼が嵐龍を倒すのだ。そうでなければ、散って逝った彼らの意志が意味を無くす。彼に託した者の意志が無駄になる。そうはさせたくない。だから、これが最後だ。今の私が、彼に対して出来る最後の行為だ。これをすれば私は、私と言う存在は消える。それは仕方がないこと。でも消えたくないという私もいて、なんだか欲張りな気もする。でも、彼を死なせたくないのは、私の思いだ。私自身の思いだ。
これ以上彼にこの力を慣れなせるのは危険だが、それも仕方がない。今の彼のままじゃ、間違いなく死んでしまうのだから。これは、私のエゴで我が儘な行為だ。彼に死んでほしくないと思う私の行動だ。どうか私を許してほしい。そう思い、私は最後の気力を振り絞り、彼の口にキスをした。私の生命を燃やし尽くす勢いで、この力を彼に送り込む。送り終えた時、私がどうなるかは、言わなくても分かる気がするが、口には出さない。そんなの意味はないから。私という全ての力を彼に捧げる。それだけでいいのだから。最後の力渡しがキスなのも、私の彼への置き土産だ。彼が気付くかは分からないけど。出来れば気付いてほしくはない。……だって、恥ずかしいから。
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ガホッ! エホッ! ゴボボボッ!
意識が戻ったら、いきなり口の中に水が入ってきてるんだが、どういう状況だよ、これ!? つーか、なんで水の中にいるのに、呼吸が出来てるんだよ、僕は。人間止めたつもりはねーぞ!? 取り合えず、状況の確認だ。確か僕は、どうなったんだっけ? 宴と二人で嵐龍と戦っていたはずだ。そんで、僕は嵐龍に連続攻撃をしたけど、ことごとく意味がなくて、宴の『超凝縮粒子砲』も防がれて、宴に迫ってきた嵐を弾き返す為に戦ったんだけど、役に立たず、海に落とされたんだ。って、ヤバい。宴今一人じゃねぇか。嵐龍とサシで戦うなんて自殺行為だ。何分くらい僕は気絶してたんだ。急いで、陸に上がらねぇと。
そう決めたらまずは、武器であるガルガンティアを回収しなければならない。丸腰で挑んだら、足手まといにも程がある。そう思っていたが、ガルガンティアは思いの他簡単に見つかった。ていうか、僕の危利き手が握っていた。如何やら僕は、自分の得物は離さなかったみたいだ。この場面に関しては、この執念には助かった。と安堵しかけた時、絶望は僕の隣にあった。
ガルガンティアの僅か隣に、宴がいた。最初僕は、安心した。てっきり嵐龍とサシで戦ってなくて、僕と同じように海に落とされたんだと、思っていた。だけど、それは壮絶な思い違いだった。僕が宴に駆けよると、宴の体からは大量の血が出ていた。斜めに傷が入ってある。それは僕らが嵐龍に与えたあのビーム砲と同じような感じで、急いで宴の体に触れるが、もう冷たかった。それは海に使っていたせいで冷たいのか、それとも、宴自身がもう冷たいのかは、今の僕にはわからなかった。
宴を担いで、死ぬ気の勢いで、泳ぐ。陸を目指す。陸で確認しなければいけない。息があるかを。水が詰まっているだけなら、人工呼吸で持ち直せるはずだ。だって一回それで持ち直したんだから。傷付いた体で体力のない体でどうして、かなりのスピードで泳げているなんて、その時の僕には気付きやしなかった。そんなことに集中していなかった。ただ宴を助ける。それだけしか考えていなかったから。
ザバッァ! プハッ!
二人分海から出る音と、僕の呼吸音が鳴った。淡路島は、もう殆ど、終わっていた。淡路島の周りを覆っている嵐は後数メートルで僕らのいる場所に届く。それは淡路島の完全消滅を意味する。そうなる前になんとかしなければならないが、その前に宴の生命の確認だ。脈に手を当てる。……止まっている。慌てて手首の脈を確認する。……やっぱり止まっている。ギリギリ残っている大地に宴を寝かせて、人工呼吸をする。でも、水を噴き出さない。何回もする。一回だけじゃダメなだけだ。大丈夫だ、宴はまだ生きている。何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回もした。でも、宴は水を噴き出さないし、意識も戻さない。体も冷たいままだ。
「どうしてだよっ!!??」
思わず声が漏れる。なんでナンデ何で、宴は意識を取り戻さないんだ。訳がわからない。何か間違ったことをしていたのか、嫌それとも、駄目だ。これ以上は考えちゃ駄目だ。…………そうだ。僕が素人だからだ。澪標さんなら何とかしてくれるに違いない。あの人は、僕と違って医療や回復のスペシャリストなんだから。そうだ、取り合えずここから逃げて、宴を診察させなきゃ。嵐龍の目をかいくぐるために海に潜ろう。宴にはしんどいかもしれないが、我慢してもらおう。そうと決まれば、早速実行に。そんなことを考えていた僕に声がかかる。
「何を妄想している。その女は確実に我が葬った。もう死んでいるよ。何をしても無駄だ。ニンゲンは死んだら生き返らない。それは汝らの方がよく知っているのではないか? まぁ、あの致命傷を受けて、汝を助けるために海に落ちて、汝を回復させたのは、恐れ入るよ。いやはや、これだからニンゲンは素晴らしい。意志在りしモノは不可能を可能に出来るのだからな」
嵐龍が何を言ってるか分からない。分かりたくない、理解したくない。そんな僕の思いを知らず、続けるように言う。
「さぁ、立てよ。ニンゲン。あの女が自らの命を捨ててまで、汝に思いを託し、力を与えたのだ。それをまさか、無駄にすまい。我にその思い、力、意志を強き意思を見せてみろ!」
その言葉を受けて、僕はふらりと立ち上がる。意志だって? 力だって? 思いだって? 死んだら何の意味もないだろ。糸定も宴も皆もどうして、僕に託したんだよ。訳が分からねぇ。僕に何を見たんだよ。何で信じて逝ったんだよ。僕が大層立派に見えたのかよ、僕にはサッパリわかんねぇ。ノイズが耳から響く。誰かの声がする。もう知らねぇよ。……でも嵐龍は、嵐龍だけは赦さねぇよ。赦せねぇよ。僕の仲間を奪っていったんだ。報いを受けろよ。僕は嵐龍を睨み付ける。そんな僕の様子を見て、嵐龍はにやりと笑い。物凄い風を、嵐をその身に纏わりつける。
僕はその技を知っている。嵐龍が嵐龍たらしめる技。嵐龍の最強技だ。嵐龍がその技で来るなら、僕も自分が出せる最大限の最強の技で迎え撃つ。ガルガンティアを両手で持ってきつく握り占める。そのまま真上に持ってくる。後は振り下ろすだけの体制だ。淡路島の周りにある颱風も、もはやあと少しで淡路島を飲み込む。時間的にも最後の衝突。最後の攻撃だ。風が、嵐が一度止む。そこに在るのは、嵐が嵐を冠する技。セカイを喰らう嵐嵐。表すのなら、極ー嵐。それが嵐龍から放たれる。
「飛翔断空暴嵐轟天凱風爆纏覇」
我が身に迫りくる嵐をハッキリと認識しながら、この後の展開を考える。そして、少し笑う。そうして僕はガルガンティアを振るわなかった(・・・・・・・)。
嵐龍の驚く顔が目に浮かぶ。ざまぁ見やがれ、誰がてめぇの思い通りになってやるものか。そんな思いを抱きながら、僕はガルガンティアを定位置に戻し、時を待つ。そうして、セカイを喰らう嵐が淡路島を飲み込んだ。
短編を五日前に出してるんで良かったら其方の方もどうぞ。