Ⅷ:颫颻(クー・ドゥ・ヴァン)
今回も環境依存文字ですね。見れない方はこちら。今回のタイトルは風遙です。31日にだすっていったけど、早くできたんだからしょうがない。
ボォォォォォォ!!! と、船の汽笛の音がする。いや、正確には船ではなくて、クルーザー。まぁ、どっちも水上を移動する乗り物なんだが。乗客は二名。僕と宴。運転席に一人、断さんだ。目的地は淡路島。狙う敵は型龍、十大龍席が一つ。十大龍席第Ⅴ席、嵐龍 ストームブリンガー。
僕と、いや、僕らとは結構な感覚で戦った相手だ。これから戦うのは三回目。一度は圧倒的差で敗北し、仲間を失い、惨めに敗走した。二回目は真名解放をして充分の状態になった劔『ガルガンティア』と宴とで死ぬ気で挑んだが、未熟故の実力さで敗北し、死にかけたとこを断さんがギリギリで救ってくれた。二回目の時には、嵐龍は確実に僕らを殺そうとした。つまりは、僕らから興味は失せている。なめてかかってこないし、また意志が見たいがために手加減などしてこないだろう。最初から絶対絶命の状況だ。
それは、例えるなら、RPGで勇者が初めて四天王に挑むみたいなもん。勝率は絶無。普通に考えればだ。だが、これは、命を懸けた戦い。何が起きるかは分からないんだ。これ以上は負けれない。負けたら次なんてない。懸けるのは、己の命と、兵庫支部にいる人たちの命。自分だけではない。周りの人の命までかかっている。なればこそ、三度目の正直を見せてやる。
「ずっと黙ってて、どうなんだい?調子」
「やる気はあるさ、皆にあれ程のサポートをしてもらっているんだ。やる気がないわけがないじゃないか」
「そうかい」
そういって僕に話しかけて来た宴は笑った。そのあと、体を寝そべらした。なんか、ここ最近宴のやつがよく笑う気がする。どうしたんだろうか、気になったが、正直、今はどうでもいいことだ。集中しよう。皆の思いに応えるためにも。あのあと、僕らが紘藤支部長の命に返事を返したあと、宣告通り澪標さんが一時間で何やら、物凄いごったがえすような物を沢山持ってきて、人も結構連れてきて、治療をしてくれた。その治療を受けている時に意識が失われるような感じで、眠っていった。気が付けば、翌日で、宴は先に起きてきて、朝御飯を食べていた。僕もそれに続くように朝飯を食べ、着替えて、断さんと合流、そして、今に至るというとこだ。物凄く流れるように、まるで日記を書いているような感じで時間は過ぎていった。
「……もうすぐ着くぞ、……淡路島に」
断さんが、僕らにそう告げる。宴は寝転んでいた体を起こし、ストレッチをしている。それを傍から感じながら、僕は深呼吸をする。大きく息を吸って吐く。とりあえず二回繰り返して、目を開く。……よし、準備は万端だ。なんか、体が冴えている感覚がする。澪標さんの治療のせいかな、まるで、宴が僕に何らかの力をくれた時と似ている感覚がする。そう、体が鋭い刃になったみたいな感じだ。こんな感覚が今の僕の体を占めている。どうしたんだろうか?
「おーい、何を考えてるんだい、十三。もう、島に着くぞ。ここっから襲ってきても、おかしくはないんだぞ」
「ああ、分かってるよ。そんなこと」
「なら、いいんだが……っ、早速来たよ。お早い歓迎で!」
「僕に任せろ!あれ全部返してやるよ!」
「……迎撃を頼んだ。……なるべく早いスピードでお前らを連れていくのが俺の仕事だ」
その言葉通り、断さんは一気にアクセルを踏んだ。ボォォォォ!!!! っと、汽笛の音が増加する。それは、まるで今から、そちらに行くぞと嵐龍に告げるみたいだった。だが、それよりも、僕らを確実に襲ってくるものがある。それは不可視の攻撃。だが、今の僕には、何故だかそれが感覚で分かる。おそらく、『鎌鼬』は後数秒でこっちに来る。それに合わせるように使う。迎撃の技を。
「添って返す 灯楼流し!」
使うのは、迎撃の技。劔の刃に相手の攻撃の軌道を乗せて、そのままの威力に、僕の劔を振り回して加えた遠心力が働いて、技の威力を倍増させる。相手の技の威力+僕の劔の遠心力による、倍増返し。嵐龍が様子見で、放ったと思われる攻撃を弾き返した。衝突の威力で煙が出るが、加速しているクルーザーは無視して、直線する。まるで、攻撃の取りこぼしがないと信頼するように。僕の後ろから宴が何発かの銃弾を放った。おそらくは、様子目を兼ねた、警戒の数発だろう。そう考えていたら、何かが弾かれた音が煙の中でした。
煙を抜けると、クルーザー自体は少しだけ傷付いていた。宴が胡乱げな目で僕を見る。
「早速、取りこぼしがあったんだが、大丈夫かい?」
「大丈夫だ、問題ない」
僕は少し震えながら、言う。気付いていなかった。まさか、まだ残っていたなんて、危ねぇ。宴がいてよかった。そう、確信した。淡路島にあと、数メートルまで来たところで、天空から声が波紋する。
「ふむ、あの一撃は、難なくこなしたか。まぁ、そうでなくては困るなぁ。では、少々本気で、行ってみよう。失望させるなよ? ニンゲン」
そう切り捨てたように言って、言葉は途絶えた。あいつの言葉を反駁する。少々本気でかかると言った。つまりは、最初からトップギアで来る。その事実を認識しなおして、ガルガンティアを強く握りなおした。見れば宴は精神統一を終わらせたかのように、集中している。次の一発も逃がさない気だ。
そして、それは来た。それは、まるで嵐。まるで台風。されど、凝縮している。『鎌鼬』とは明らかに違う。だって、認識できる。不可視ではない、されどその攻撃は深し一撃だろう。目に見えるということは、その技の強大さも同時に見据えることができるからだ。それは例えるなら、一本の選りすぐりの名刀、否、聖剣や魔剣といわれた忌み名を持つ剣が放った一撃。神話に出てくるバケモノを倒すために編み出された一閃。風がその形をコーティングし、中に嵐を含み、周りはまるで台風が吹いているように抉られていく。その攻撃はまるで、翼を得たかのように自由にこちらに向かってくる。されど、疾風のように早い速度で、その斬撃が僕らに襲い掛かる。
「大翼乱風巻嵐刃」
そんな技名を唱えた声がした。風に紛れて、すぐに消えたが。迫りくる、一筋の斬撃が、僕らに狙いを定めるように。流石にあれは、ヤバいと踏んだのか、断さんは少しスピードを下げた。僕らが迎撃しやすいように。既に、宴は迎撃に入っている。何発もの銃弾をあれにたたき込んでいる。だが、あれは一向に止まる気配がしない。残念ながら、僕の技は遠距離系がない。あるといっても、『十字狩り』の衝撃波が少しだけ届くだけだ。残念ながら、あれはまだその距離まで来ていない。それ故に今は、遠距離でも戦える銃剣『パンドグリュエル』を持つ、宴に頼るしかない。こんな時に、断さんの転移魔法があれば、楽だと思うが、おそらく敵はそれが分かっているから、先にそれを封じてきたんだろう。全く腹が立つ。
連発で銃弾を宴は叩き込んでいるが、やはり弾かれている。ここままじゃいけないのに、宴は狙いを変えずに、さっきから同じ場所ばっかにたたき込んでいる。まるで、何かに取りつかれたように。何を考えている?宴なら、僕が考え付くことなんて、すぐにわかるはず、何か違う狙いがあるはず。考えろ、なんで同じ場所ばっか狙う?……そうか、適わないのが分かったから、同じ場所をあえて、狙っているんだ。どんなに強烈な技でも、一点に集中して、攻撃すればそこが弱まる。それを狙っているんだ。
宴の狙いが分かった以上、僕もそれに続くべきだろう。僕は、距離を測って、『十字狩り』が届くギリギリの範囲まで待つ。そして、そのラインを切った瞬間に放てるように準備する。目を閉じる。聞こえるのは、宴が放つ銃弾の音。劔を上に上げて、息を吸って吐く。……今だ! 括目し、放つ。
「穿って崩せ 十字狩り!」
放たれる十字に交差された斬撃。それは天に祈りをささげる神のロザリオを表すように、衝撃と化し、嵐の一閃にぶつかる。狙った場所は、さっきから宴が狙っていた場所。真ん中より下。連発でたたき込まれていた場所に十字の衝撃が襲い掛かる。されど、その一撃はぶつかると同時に霧散した。やはり、全体的威力にかき消された。それは仕方がない。元より、あの一撃で勝てるとは思っちゃいない。そんなに甘いわけがない。そんなこと重々承知している。今のは、あの場所に攻撃を加えただけ、それが分かっているから、宴はあの場所に未だに銃弾をぶち込んでいる。そして、嵐龍の放った嵐の一閃がクルーザーに当たりかける時、即ち、接近攻撃ができるレベルまで来た。
「十三!」
「分かってる!」
宴が確認するように僕に声をかける。断さんもそれが分かっているのか、先ほどまで減速させていたクルーザーのアクセルを踏み込む。加速するクルーザー。僕らとの距離など、ほとんどない。クルーザーの先端に行き、先っちょの上に立つ。そして、今迄繋げてきた攻撃の為にも、あれを破るために、今迄狙ってきた場所を穿つように、槍を構える体制になる。突くのは、槍ではなく劔だが。そう、放つのは、突きに特化した技。一点を穿ち、貫く技!
「螺子って削げ 螺旋通し!!」
捻じれるように、回転させながら劔を穿つ。嵐の一閃とぶつかり合う。真正面にいるから、火花が散りまくる。ぶつかり合う技と技。僕らが狙った場所に突き続ける。それを押し返すように、まるで、全てを飲み込まんといわんばかりに、嵐の一閃は意気揚々と襲い掛かる。されど、今迄ずっと同じ場所ばっか狙ってきた意味がここで生きる。確かに嵐龍の一撃は凄いだろう。僕一人じゃ、すぐに終わってた。だが、僕らは一人じゃない。仲間が最大限にできるようにサポートしてくれている。その証拠に僕の『螺旋通し』は苛烈さを増して、捻じりこんでいく。
「ラッァッァァァ!」
叫び声を上げて、貫きゆく。衝突が終わり、火花が消え、煙が上がる。そして、壊れていないクルーザーが加速し、荒野と化した淡路島に到着する。僕らの勝ちだ。
「……着いたぞ、ここから先は俺は行けない。……必ず勝てとは言わない。……全力を尽くせ。……それで充分だ」
断さんからの言葉を受け取り、僕らは嵐龍の攻撃範囲である、既に障害となる遮蔽物がすべて失われた。地面が風で抉られ、嵐が舞い踊る荒野の上に足を踏み入れた。次の瞬間、戦いの幕が開いた。
「十三!」
「ラッァァ!」
宴の声に応えるよりも早く攻撃が来た。叫び声を上げて、いきなり僕らを襲ってきた攻撃をガルガンティアをで弾く。グワワッッアアアンン!! と鐘が地面から落ちた時に鳴る、とてつもない音が響いた。宴が銃弾を放つが簡単に弾かれてしまう。宴自身も銃弾では、埒が明かないと思ったのか、接近してそれをパンドグリュエルで弾いた。やはり、先ほどと同じ音がする。しかし、何発も正体がつかめないものが連発されると、困る。瞬時に迎撃の技に切り替え、感覚を理解しようと行動する。
「添って返せ 灯楼流し」
正体不明の攻撃をガルガンティアの刃に乗せて、とりあえずどこかへ飛ばす。ドォンと違う方向で爆発音がした。考える、おそらく今の攻撃は刃に乗させた感覚で考えると、球体だと思う。だから、『真空覇』とか、『大気之威風圧』などではない。さしずめ、嵐の気流玉みたいな感じだ。何処からだ? どこから攻撃している。探せ、奴は何処にいる。
目の前では、宴が嵐の気流玉を弾いてる。もっと集中しろ! 神経を研ぎ澄ませろ、無心になれ。…………そこっ! ガルガンティアを一気に振りぬく。
「陽炎斬り!」
一瞬にして、五連の斬撃。ぶれて刻まれる斬撃に気付いたのか、嵐龍はすぐに躱した。だが、その移動をそうみすみすと、見逃す僕らじゃない。宴は、既に追撃に入っていた。僕は宴とスイッチして、今度は嵐の気流玉を弾いている。宴は放つ。追尾弾を。パンドグリュエルから放たれた、その攻撃は、ダメージこそ与えはしなかったが、嵐龍の姿を現せるには充分な攻撃だった。僕らの前に姿を現した嵐龍は、口を開く。
「何というか、汝らは。一人では大した強さではないのに、二人で合わさると、少々面戸臭いなぁ。一応、汝らに使ったさっきのの技は『嵐気流砲』といって、空気からいくつでも生み出せる弾丸みたいな技なのだが、キチンと全て弾きよかったか。まぁ、それくらいしてもらわんと、面白くもなんともないが」
「たいした歓迎の仕方じゃねぇか、嵐龍」
「なに、ちょいとした挨拶変わりみたいなものだ。有難く受け取ればよかったではないか」
「御身の攻撃をくらえば、私たちは戦う前から重症を負ってしまいますが?」
「ふむ、娘よ。されど、それはそちらが力及ばなかったためのせい。我には関係ないよ。むしろ、あの程度の攻撃でやられる様なら、問題外だ。グレイを倒した汝らがこの程度でやられるのは、到底思わなかったからな」
そんな、不遜とした態度で宴の質問に答える嵐龍。ついでに、僕もいう。
「随分と僕らを買ってくれるじゃねぇか、意志の確認は済んだんじゃないのか」
「ふむ、そうだな。あれで終わったと思ったのだが、あの、汝らの言うところでの、転移魔法者だったか、やつがお前らを我から逃がしたとこで、少し興味が戻った。存外、もう見飽きたと思ったのだがな。やはり意志というのは、思いというのは、そう簡単に我を退屈させないものらしい。いやはや、ニンゲンというものは、全く面白い」
「興味が戻ってくれたのは、何よりだよ嵐龍。僕らはお前を狩る。これで最後だ、これが最後だ。最終決戦だよ、意志は嫌というほど見せてやるさ」
「無論、期待はしている。だが、今までの戦いを見たら口だけにしか思えんがな」
「なにっ!」
「十三、挑発だよ。簡単に乗るな、だから、君はバカなんだよ」
「おいっ!」
反論しかけた僕を手で口を覆わせ、宴は嵐龍に質問をした。
「僭越ながら、もう一つ。お情けで聞きたいことがあるのですが、聞いてもよろしいでしょうか?」
「ふむ、申せ」
「此度、私たちがあなたに二度目の敗北を刻んだ後、私たちは転移魔法者に助けられました。しかし、今は何故か、覚醒者の中だけでも転移魔法者だけが魔法を使えないのですが、何かご存じですか?」
「然り。操作したのは我だからな。自分がやったことは覚えているさ」
「御身がですか」
「ああ、我直々にな、汝らに逃げられた後。同じことを繰り返さないためにも、逃げの一手を封じさせてもらったわけだ」
「成程、では御身を倒せば、この現象は終わると?」
「ふははは、よもまさか。我はそこまで教えんよ。知りたければ己で何とかしろ。どちらにせよ、我を倒さなければ、汝らニンゲンは終わりだろう」
「分かりました。御身の情けあがりたく存じ上げます」
「よい、まさか、我にそのような中途半端にかしこまった話し方をしてくるやつがいると思わなかった。興が乗ったまで、さて、おしゃべりは。ここらで止めにしよう」
「ええ、血の気が強いやつが私たちの中にいますから、始めましょう、か」
「そのつもりだ、よ」
宴と嵐龍の話に口を挟まなかった分、やる気だけは蓄積させていた。研ぎ澄ました神経に火をつけるように体が熱くなっている。アドレナリンが最初から出ている。僕は今、一本の鋭い刃と思え。嵐龍に一太刀、否、致命傷を負わせるには、それくらいじゃなきゃダメだ。宴の話が終わって銃剣で銃弾を放った時に駆けだした。
「ぬぅ。速いな」
嵐龍がそんなこと言ってるが知るか、確実に当てる。超低空で、
「飛んで駆けろ 空渡」
イメージするなら、それは水上ではなく、陸の上で動くホバークラフト。風を送り込み、車体を少しだけ浮かして軽やかに移動する。翔けるイメージから弾くイメージへ。少し空を弾いて移動する。最小限の行動で隙を少なくする。また、空を弾く。さっきまでいた場所に『鎌鼬』が来たのだろう。地面が少し抉れていた。今度は大きく弾く。一気に空へと移動した。やはり、さっきまでいたところには、地面が削られ抉られている。おそらくは『真空覇』を使ったと思う。あれなら、広範囲に攻撃で来るから。ぴったりだったろう。だが、そんな簡単には僕だってやられない。
そう確信して、今度は空中を一気に弾いて地面すれすれまで落ちる。地面に当たる瞬間にもう一度、空を弾く。そして、その勢いのまま嵐龍に向かって斬撃を繰り出す。
「ぶれて刻め 陽炎斬り!」
五連の攻撃は、嵐龍に読まれていたのか、躱された。されど、その後ろに宴がスタンバてっいた。銃剣であるパンドグリュエルを嵐龍に向けて、振り下ろす。として、銃弾を繰り出した。斬撃が来ると思っていて、只単に躱そうとした嵐龍は、急いで緊急回避するが、少し遅かった。宴が放った銃弾は、見事に嵐龍に直撃した。
ゾクッ!
体に走る一瞬の怖気。急いで、『空渡』を使用して、宴を回収。全速力で距離をとる。回収したときに少しうるさかった宴も僕の必死の表情を見て、黙った。そして、嵐龍の方を見て、警戒してくれている。こういう時は、言わなくても察してくれる宴は、有難い。僕の予想は、この何とも言えない悪寒は当たった。
「風陣波衝撃」
舞い狂う風の衝撃。あの時、僕が行動に移さなければ、僕らの両方とも、あの竜巻とも言いかねんあれに巻き込まれていた。巻き込まれれば、間違いなくアウト。そんなのがよくわかる攻撃だった。あの攻撃でやつの真下の地面は削れてなくなった。今迄みていた『風陣波衝撃』とは威力が違う。否、元々はあれが本来の攻撃力だった。それを、只嵐龍が手加減していただけ、今のは手加減をしていなかったから、本来の威力に戻っただけだ。
「ふむ。少々舐めすぎていたな、汝らを。まさか猫だましみたいな真似をくらって傷がつくとは、『嵐鎧』を使っていればよかったのだがな。いやはや、油断や慢心はないと思っていたが、やはり我は甘いな。では、こちらから仕掛けるか」
その言葉を聞いた瞬間、僕は宴に視線を向けて、アイコンタクトを決行する。僕の意図を理解したと思われる宴は、僕が手を離したら受け身を取って、地面に転がって、また行動し始めた。僕は、宴と違って空へと行く。『空渡』を使用して、空へと翔ける。『落花散』なら動きを止めれば当てれる。今なら『嵐鎧』でも突き抜けれるはずだ。そう思い、翔けるが、そう上手くはいかなかった。
「いい加減、空にばっか飛ばれるのは邪魔だな、落ちろよ、ニンゲン」
嵐龍のそのつぶやきに冷や汗が出る。まずい。最初からこっちを狙ってきた。宴は銃弾を連発したり、追尾弾を撃っているけど、ガン無視で、僕に攻撃するつもりだ。よけないから、宴の必殺技である『銃弾弾き(ビリヤード)』が出来やしない。『浮転帆』で躱せるか? しかし、そんな僕の想像を超えてくる攻撃で嵐龍は僕らに絶望を味あわせに来た。
「真空覇・天」
襲い掛かるのは、天空をかける真空を極めた波。波状。それを限りなく天へと放った。攻撃範囲は空全域。天を揺らす真空の覇。嵐を司る龍は、埒外の攻撃をしてきた。一瞬、空が死んだ。天が潰えた。真空が空を、天を、覆い尽くした。息をもさせぬ、人間が存在できない領域のレベル。僕程度がこれを避けれるはずもなく、見事に直撃した。世界が一度終わる。
「…………」
声が出ない。悲鳴を出しているのに。音が死んでいるから、響かない。喉を震わしているのに、届きやしない、だって、言葉にならないのだから。体が軋む音が出ない。だって、音が死んでいるのだから。そもそも論として、意味がない。ボロボロになる体。そうして、攻撃が終わり、世界が戻る。血を体から出した状態で僕は落下していた。ヤバい。想定外だった。あの威力。ふざけてやがる、体が維持できているだけまっしだろ、これ。だけど、この程度じゃ死にやしねぇ。まだ、死ねない。空中で耐性をたてなおして、僕は地獄を見た。否、地獄の始まりを感じた。
嵐龍が息を吸ってる。大きく今迄、そんなことは見たことない。あんな隙だらけな姿を見たことはないだけど、体が本能が警鐘を鳴らしまくる。あれは、ヤバい。あれは、駄目だと。さっきから、僕の真下あたりで嵐龍に遠距離攻撃をしている宴もそれが、分かっているようで、何度も攻撃をしながら下がってる。いや、距離を取っている。僕も急いで合流する。
「宴!」
「十三! 私を担いで、距離をとれ! とにかく距離だ。少しでも、奴から離れるぞ。少なくても、淡路島からはなれるのは、絶対だ!」
「分かってる! 早く来い」
「ああ、そして、奥の手も少しだけ使う、我慢してろ、ていうか無視して翔け続けろ!」
「了解!」
とにかく翔ける。死ぬ気で翔ける。やつから距離を置くために、戦略的撤退にもならない、逃げの一手だが、あれはくらうのは論外だ。嵐龍の最強技並が来るのは、間違いないのだがら。そして、首に痛みが走る。おそらくこの前やった時と同じ、なにか不思議な力を僕にくれている。宴が。どうして宴がそんなことできるのかは、今はどうでもいいから。とにかく逃げる。そして、宴が僕の首から口を話したら、また前みたいに体中に不思議な力が僕の体の中を巡っている。少しだけ、空渡の速度がいつもよりも増している。だが、そんなのお構いなしに翔ける。
おそらくは、やつがやろうとしているのは、息吹。龍がやる技としては、定番だ。ゲームでも小説でも、出てくるドラゴンはブレスを使ってくることは一度はあるはずだ。今回はその一回が来る。すべてを滅ぼせるとまで言われる二次元の中で、龍の攻撃の中で、最も有名なブレスが。
「竜巻呼応之咆哮」
それは、やっぱり僕らの想像を超えてきた。もう超越とでもいっていいレベルで、埒外だ。すべてを嘲ることができる龍のブレス。だけど、忘れちゃいけなった。あいつは、嵐龍は。ゲームや小説で出てくるような龍とは格が違うということを。腐ってもあれは、型龍。十大龍席。第Ⅴ席。そこに名を連ねる龍が僕らの想像に収まる方がどうかしていたのだ。
嵐龍が口から放ったブレス。それは、ブレスであって決してブレスではなかった。出てきたのは竜巻。自然災害の一つ。昔から、ああいうのは、どうしようもないと言われていた。傘を凶器に変えるような代物なのだ。それは、凍らし過ぎた、マイナスの領域で液体窒素レベルのモノで凍らしたバナナは、釘を打てるというおおよそだれでも知ってること。それと同じように竜巻に巻き込まれたものはその威力を借りて、ありとあらゆるものを壊しかねないという真実。そんな代物が僕らをくらいにくる。
当然、僕らは竜巻などに勝てるはずもなく、巻き込まれて、海に墜落した。
~~~~~
「ガボボボボゥウ」
息が漏れる。生きてる、生きてる。何とか生きてる。僕の手は握られている。ということは宴はいる。しかし、見ると宴は気絶していた。……不味い、このままじゃ宴が死にかねん。宴を担いで、地上へと出る。
「ぷはぁ!」
はぁはぁ、と息が乱れる。長い間、海に沈みかけてたみたいだ。おそらく宴が助けてくれて、その代わりに僕と変わるように気絶したかもしれない。とりあえず何処か陸地を探す。人工呼吸はこんな海のど真ん中じゃできない。なにか、なにかないのか。そんな僕らを助けてくれるように、一つの大きい木が浮かんでいた。それに宴を上がらせ、僕も上がり、人工呼吸をする。数回やって、宴が水を吐き出して、意識が戻った。
「……ここは?」
「木の上だよ、幸いなのか、大きな木が近くに浮かんでたからな、おそらく、あの攻撃のせいだと思うがな」
「成程。納得したよ」
「そうかい、そいつは良かったよ」
「ところで、もしかして、人工呼吸でもしてくれたのかい、十三くん?」
「ああん? そりゃ、お前。命助けるためだろ、したよ。最初に意識を失ってたのは、僕だしな。意識を失ってた僕を水中の近くまで連れてきて、そこで意識が途切れちまったお前を助けないなんて、僕は最低じゃないか。人工呼吸でもなんどでもやるさ」
「……そうなのかい?」
「……そうだよ」
何か間が開いたせいで変な空気になった。こういうのは慣れないから、止めてほしい。大体なんで疑問形で聞いてくるんだよ。いや、僕も変に間を持って返したのが原因の一つなんだけどさ。僕のそんな感情をほっといて、状況は進む。宴が口を開く。
「さて、十三くん、如何やらヤバいなぁ。この状況」
「ヤバいのは最初からだけどな」
「そんなこと言うなよ、私はあと、一分で起きれるから、それまで待ってくれ。そして、どうするか嵐龍。無策はヤバいなぁ、前とはレベルが違うよ」
「分かってる。空から攻撃しようとしても、『真空覇・天』に撃ち落されるのが関の山になっちまったからなぁ」
「攻撃の一手が封じられるのは痛いなぁ。っ、十三」
「早速、来たかよ!」
僕は、宴を担いで逃げる。使うのは、『空渡』だが、今回も超低空だ。海面すれすれで空を弾く。その振動で水面に波紋がたくさんできる。だが、それすら無視して、僕は逃げる。片手で宴を担ぎ、片手でガルガンティアを持って、迫りくる『嵐気流砲』や『鎌鼬』を躱す。そして、僕らがさっきまでいた大きな木は突然かかる空の重力に沈められていった。
「『大気之威風圧』かよ。クソ、空が重い。風圧がかかってやがる」
「距離はかなりあるのに、ここからでも威力は充分というわけか、何というか、バケモノだな。十大龍席ってのは」
「そんな暢気なことをいってる場合か! 何か策はねぇか!? 宴」
「そう簡単に思いつくわけがないだろう。私は超人じゃないだから」
「奥の手は!?」
「無きにしも非ず」
「だったら、さっさとそれ使え、この秘密主義者!」
「後悔しても知らないよ?」
「お生憎様、後悔なんざ、もうしねぇって決めてんだよ!」
「成程、了解。じゃあ、耳を貸してね、作戦を伝えるよ」
~~~~~
「……っと、こんな感じだよ。では、反撃と行こうか? 十三」
「言われなくても!」
僕は、今迄低空飛行していた、『空渡』の高度を上げて、空へと翔ける。宴から作戦は聞いた。ならば、それを成功させるのが僕の仕事だ。空を弾く回数を上げて、なるべく細かく素早く動けるようにする。方向転換するための『浮転帆』を惜しみなく出すには大切なことだ。嵐龍との距離を縮める。やつはいまだ淡路島にいると思われる。あの嵐のブレス。『竜巻呼応之咆哮』を使ってから一度も動いていない。それなのに、僕らがいる場所にも攻撃を届けているのだから、尋常じゃない。
だが、尋常じゃのは百も承知。元より嵐龍を討伐するとは、理不尽を潰すことに他ならない。いつかも言ったが、無理、無茶、無謀など分かりきっていること。だけど、死なないために生き残るために戦うしかない。なればこそ、目の前の敵は狩るだけ。ただそれだけのこと。覚悟なんざ不要。自分にそう言い聞かせて、嵐龍の攻撃範囲に侵入する。
「懲りずに、同じことを繰り返すか? それとも、策があるのか? どちらでも良い。我を楽しませろよ、ニンゲン。墜ちろ」
嵐龍がそう僕らに向かっていう。結構離れているのに、声が聞こえるのは、おそらく風を使って、僕らに聞こえるようにしている。手の込んだことをしてくる。だけど、その余裕を仇にしてやるよ。人間をなめんな!
迫りくる天を揺らす衝撃。おそらくは、否、間違いなく『真空覇・天』だろう。僕は一度この技をくらったからよくわかる。だけど、宴がいったことを信じる。僕は、関係なしに大きく天へと翔ける。翔けて、駆けて、懸ける。僕らに、空に、天に嵐龍が放った真空が喰らおうとしてくる。その覆い尽くさんとする攻撃は、まるで大きな口。牙を持ち、顎を広げ、飲み込もうする。桁違いの攻撃。……宴を信じよう。
僕は『浮転帆』を使い、大きく方向転換する。それは大きな事故に遭った時、使用者の身の安全を守るために使われるエアバックが出るくらいの速さで、迫りくる『真空覇』の方に体を向けて、突っ込んでいく。
「何!?」
嵐龍が驚いた声を出している。それもその筈、僕が、いや僕らが行おうとしている行為は、傍から見たら自殺行為そのもの。狂人がするみたいな感性を疑うような行為。まともな思想や考えを持つものからしたら、考えもつかない愚行。バカがやる行為と罵られるだろう。それはその通りだろう。僕が第三者なら神経を疑う行動である。だけど、実際やってるのは、僕だという落ちであるが。
『空渡』の速度上げる。後、数秒で僕らと、この『真空覇』は激突するだろう。だけど、僕は僕に担がれている宴を信じている。またギアを上げて踏み込んだ。直後、不思議な音が鳴り、嵐龍が放った『真空覇・天』の一部に変な光が放たれた。その攻防で起きた小さなすぐに消えてしまいそうな隙間に僕は、体をひねるようにして、宴を抱えたまま通り抜ける。
「ぬう!?」
嵐龍の驚愕の声が響く。だけど、ここからが勝負どころだ。今のは、作戦の第一フェイズでしかない。ここから第二フェイズに進行する。
「行くぞ、宴!」
「了解、見様見真似でやってみよう」
僕は担いでいた宴を離して、ガルガンティアを強く握りしめて、全体重をかけて嵐龍に向かってガルガンティアを向ける。また同じように、僕から離れた宴も僕と同じようにパンドグリュエルを強く握り占めてパンドグリュエルを嵐龍に向ける。同じような体制になり、落下していく僕らを、嵐龍は訝しげに見ている。まるで何をするか分からないみたいだ。ならばみせてやる。声を合わせて、使う。
「「落下散!!」」
僕と同じく『落下散』を使う宴。勢いを増して嵐龍目掛けて落ちていく僕ら。二つの『落下散』はまるで二重螺旋を描くように鋭さを増して、空気を切り裂いて落ちていく。ガルガンティアもパンドグリュエルも二つとも刃の先端に火が灯る。それは火を宿して地に落ちようとする。彗星。流れ星。おおよそ、そう表していいような感じになっていった。
急激な速度をつけて、落ちてくる。僕ら。嵐龍はそれを見て、微かに笑う。いや、まるで面白いものを見たかのように笑う。
「ふは、ふははははは。いいな! まさか二人とも『落花散』を使って、落ちてくるとは、いと面白し。その挑戦を受けよう。汝らの刃。我が嵐を、この嵐の鎧を貫くかのなぁ!」
「嵐鎧!」
嵐龍が己に纏うのは嵐の鎧。それは、風が、嵐が、嵐龍を中心に集まりだして、凝縮してより濃い嵐と化す。荒れ狂う風が高々と吹き荒れ、嵐はその名に恥じぬものとなる。それが嵐龍に覆いかぶされる。それを表現するなら、まさに、鉄の鎧。否、鋼鉄の鎧なのだろう。だけど、絶対防御ではない。鎧にだって隙はある。それを狙うだけ。
加速する二つの『落下散』。それは、嵐の鎧を纏った嵐龍と激突する。ギッッッィィィ!!!! ギッッンンンンン!! と激しい衝突音。僕ら二人の『落下散』は嵐龍の『嵐鎧』に阻まれている。されど、僕らの攻撃はまだ弾かれていない。詰まるところの、拮抗状態。火花が散って、苛烈さを増していく。僕らが狙ってるのワンポイントだけ、一点集中。その場所にだけ全力をぶつけている。しかし、やはり嵐龍の嵐の鎧はそう簡単には、破れてはくれない。
勿論、それくらいは分かっている。そんな簡単に敗れたのなら、今苦戦などしてはいないからだ。だけど、負けられない。やつの言うところの意志。それが僕らを突き動かしている。
「オオオオオオオッッッッ!!!!」
叫ぶ。喉から、喉元から。声が枯れるくらいに。譲れないから、戦っている。僕らは、お前に勝つ。唯それだけ。意志を託してくれていった者たちを知っている。仲間の思いを知ってる。期待してくれた人を知っている。一緒に戦ってくれる人を知っている。嵐龍、お前は、僕らの邪魔だぁ!
ギィィィィインンンン!!!
拮抗が終わり、衝撃音が響く。弾かれたのは、僕のガルガンティアだった。宴のパンドグリュエルはまだやつの『嵐鎧』と拮抗している。この事実が示すのは、第三フェイズへの移行。弾かれて、宙に浮かれた体を、叱咤して再び空中移動の『空渡』を使用。そして、宴が拮抗している場所に新たにたたき込む。
「螺子って削げ 螺旋通し!!」
使用するのは、突きに特化した技。宴のパンドグリュエルが拮抗している場所に突き刺す。槍のように、一点突破だ。更に激しい衝突音が響き渡る。僕らが淡路島に到着する際に嵐龍が放った嵐の一閃、つまりは『大翼乱風巻嵐刃』の時のように、一つの場所に何度も攻撃して、そこだけ他とは威力を下げて、そこを一点放火する。どんなに強烈な攻撃も一部だけなら破れる。それを実行している。僕らの思いが通じたのか、嵐龍の『嵐鎧』に一部だけ小さな穴が穿たれた。僕とガルガンティアをその穴を開けたらすぐに弾き飛ばされた。
だが、これでいい。僕の役割は終わりだ。あの小さな銃口しか入らないような穴をあけた時点で、僕らの勝ちだ。いや、僕の役目は終わりだ。第三フェイズの終わりだ。これが宴が思い浮かべた最大のビジョン。勝利への方程式。あの時宴が僕に伝えた作戦を思い出す。
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「とりあえず、隙を作って私の三番目の攻撃をする」
「それは分かったけど、どうやって隙を作るんだ? 僕の空中移動の技は警戒されて出来ないぞ」
「あの技は空を全般に攻撃してくる。なら、他のと違って少しだけ薄いとこが出来るはずだ。そこを狙う。私を担いで君が空へと移動し、嵐龍にその技を出させる」
「そりぁ、間違いなくあいつは、その技を使ってくるかもしれないけどさぁ」
「信用できないかい?」
「……う、そりぁ。絶対はなぁ」
「十三、君の命を私に預けろ、その代わり私の命は君に預けるよ」
「なんだよ、それ。けど、いいじゃねぇか。で、僕がお前を運んでその領域まで行く。そんで、お前が『真空覇・天』を突破した後は?」
「その後は、君と一緒に『落下散』を打つ。そして、あの嵐の一閃と同じようなことをする」
「そうか、あいつは僕らが『落下散』を使ったら『嵐鎧』を使ってくるからな。ってか、お前『落下散』出来んの?」
「やるさ、必ず。でだ、問題はおそらくこの攻撃でも、『嵐鎧』には適わない。弾かれるだろう。だから、君は弾かれた後、私が『落下散』を使っている所に『螺旋通し』をぶち込め」
「『螺旋通し』をか?」
「ああ、そしたら、少しだけ、ほんの少しだけ、『嵐鎧』に穴が開くだろう。そこを私のパンドグリュエルで撃つ」
「了解した」
「ああ、『真空覇・天』を破るのが第一フェイズ、私たち二人で『落下散』を使用し、嵐龍が『嵐鎧』を使って迎撃するのが第二フェイズ、弾かれた君が『螺旋通し』を使って『嵐鎧』に穴をあけるのが第三フェイズ、そして、開いた小さな穴にぶち込むのが、第四、ファイナルフェイズだ」
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宴はさっき落ちていった自分の相棒に笑う。自分が落ちていっているのに、笑ってあとは頼むぜとでも言いそうな顔だ。全く笑っちまう。無条件で私のことを信じる愚か者。少し疑っても、それらしいことをいえば、すぐに信じる。騙しやすいだろう。きっと詐欺に騙されるタイプだと思う。だからこそ、そんな彼に信頼された以上、言いだしっぺである自分は、この攻撃を決めて見せようと、決意した。
謳来 宴の武器である銃剣『パンドグリュエル』には主に三つの攻撃方法が存在する。一つ目は剣での攻撃。つまりは近距離での戦闘が出来る。二つ目は銃撃。つまりは銃での攻撃である。遠距離も中距離も攻撃可能である。これだけでもこの銃剣という武器が優れているか分かる。遠近そのどちらかでも攻撃が出来る。それが意味する所は大きい。これだけで充分に万能だ。
だが、この銃剣には三つ目の攻撃方法が残っている。そして、それがこの銃剣の持ち味でもある。三つ目の攻撃とは、すなわちビーム砲である。あの銃口から濃縮されたビームが出るというわけだ。正に反則くさい武器なのである。
宴は十三が作った小さな穴に自分の武器である銃剣を差し込める。そして、次の瞬間、銃口が火を噴いた。
「超凝縮粒子砲! 点火!!!」
銃剣『パンドグリュエル』から放たれた凝縮された粒子砲。ビームが『嵐鎧』の隙間から襲った。激しい爆発音があたりを占める。その攻撃は宴諸共ブッ飛ばしたのだろう。流石の嵐龍も無事では済まないだろう。確実にクリティカルヒットしたはずだ。そんな期待が持てる。僕は空を弾いて宴を回収する。
「やったな!」
「ああ、流石に今のを防がれたら、もう打つ手がないよ、マジで」
宴が疲れた顔で言う。それは僕も同感である。あれ以上やって無傷なら、もう手のつけようが無い。だけど、嵐龍は最強であっても、無敵ではない。そこが鍵だった。だからさっきの攻撃だって通じるはずなのだ。宴が放った攻撃で周りは煙だらけだったが、その煙がいきなりの突風で霧を払うように霧散した。煙が晴れて現れたのは、痛々しい姿をした嵐龍だった。
嵐龍の姿は体に斜めのラインが入っててそこが焼き焦がれている。おそらくは、宴のビーム砲がやったんだろう。そんな痛々しい姿になった嵐龍は高らかに言う。
「くか、くかかかききくか。ふは、ふははははっはははぁぁぁぁぁぁぁ!!! 最っ高だぁ! 最高だなぁ、ニンゲンよぉ。久しぶりに、ここまでの傷がついた。この我にだ。普段意志、意志いっている我だが、こういうのが知りたかったんだ。思いの強さは時に祖の強さまで凌駕する。良きかな、良きかな。素晴らしいぞ、討伐者 十三! 宴! 汝らはとてつもなく素晴らしいぃ。この手で葬りさろう!!!」
滅茶苦茶ハイになっていた。多分、おそらく、今迄で一番ヤバい感じ。なんか毎回これ言ってる気がする。僕がそんな思いに狩られている中、嵐龍の笑い声が響き渡る。
「では、行こう。葬送だ」
「嵐鎧・螺旋剣舞」
それは、今迄の『嵐鎧』に付き従うように全方位に舞い狂う風の剣。それは、まるで剣が生き物みたいに舞を踊るように螺旋を描く。さっきまでとは違い。うかつに攻撃が出来なくなった。そんな僕らに対して嵐龍は昂ぶって告げる。
「さぁ、第二ラウンドを始めよう!」
次はお盆休みにだすよ。