表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命運玉座のキヲテラウ  作者: 古卯木 悠右人
第一章 吹き荒れし颶風の覇者
14/22

Ⅶ:颸風(ヴィントシュティレ)

今回のタイトルは颸風です。颸が環境依存文字でござんす。見えない方はこちら、弑風しふうです。


嵐嵐ガイルは造語でございます。あんな言葉はありません。

飛翔断空エンド・オブ・暴嵐轟天凱風ストーム・テンペスト・爆纏覇スカイ・エア


嵐龍が嵐龍たらしめる最強の技を使った。その嵐は、まるでセカイを、喰らわんとするばかりに荒れ狂う。間違いなく、嵐が嵐を冠する技。言い表すなら、それはまるで嵐嵐ガイル。台風が直撃するよりも、恐ろしい大嵐。否、きょくーー嵐。


 既に『落花散』でほとんどの体力を使い果たし、ギリギリ回避一回分しかない僕だが、回避も不可能。あれの範囲は淡路島全部だ。聞かなくても、なんとなくわかる。下手したら、僕らの支部があるところにも、当たりかねん。『浮転帆』ではまず、よけきれない。それだけは、分かった。だから抗おう。せめて、僕の真下にいるはずの宴は守ろう。あんなにデカイなら一部だけなら、威力を弱めれるだろう。……多分。


 嵐龍から放たれたのは僕の想像を遥かに超えた。想像力の外側を行く、空想領域の攻撃だった。まず音が死んだ。死ぬというのは大げさかもしれないが、真空。つまりは、振動を消された世界。ありとあらゆるものが一度、無音状態にされた。次に来るのは嵐の塊。それはまるで、自分が消えたかと思った。吹き飛ばされるでもなく、ぶっ飛ばされるでもなく、瞬間移動された感じだった。断さんに転移魔法テレポートされた感覚、何をされたか気付かない。といっていいだろう。そして、最後に衝撃。先ほどまでくらった攻撃のダメージが衝撃と共に、大幅に遅れてやってきた。


 ゴキッ! バキッ! ドゴッ! ガズッ! ザスッ! バキッバキッ! グシャ!


 それは、グレイの時と同じく、人体からはおおよそ、鳴ってはいけない音が響く。いや、違う。グレイの時よりもひどい。音が増えている。確実にダメージの量が違う。抗うことすら許されなかった。いや、気付けなかった。技を放つ暇すら与えてはくれない。正にそんな一撃だ。最強を謳うだけがある。だが、その最強を冠する技をくらって、僕はまだ五体満足でいるのか不思議でたまらない。あの嵐龍が、僕を殺すといって、放った技だぞ?なんで、僕が生きているんだよ。て、それより宴だ。僕が助かったのは運が良かったことにすればいい。宴を、そう思い体を起こした僕は、絶望を見た。


 それはまるで、何もない砂漠のようで、人のいない廃墟に核弾頭をぶち込んだ後のようで、戦争が起きた場所から死人だけを排除した、そんなような場所だった。破壊を色づける強烈な煙の隙間から見えたのはそんな場所だった。


 言葉が出ない。曲がりなりにも、淡路島は昔は、人が住んでいた。それは、無人島となってしまってからも、ありありと分かった。けど、そんなものも一瞬で壊れた。たった一撃。頭ではあの一撃が淡路島だけでなく、近畿領域(東エリア)もヤバいかもなんて思ったが、実際に見ると全然違う。すべてが終わっていた。嵐龍が空中から放った一撃はすべてを無に帰した。周りに障害物は何一つ見えない。見えるのは地平線。360°。どの方向を見ても、もう地平線しか見えない。あそこに住んでいたかもしれない動物。そこにあった、植物や廃墟。すべてが失われた。何も見えない。見えるのは、下にある地面、上に青空。破壊された陸地。しかも、風で嵐で削られ、壊された地面がところどころに見えるから、地面も無事じゃない。それはもう、剥き出しの大地だ。


 宴はどうなったのかも、分からない。周りがすべて壊れているから、確認しようもないが、あの中で生きているなんて、希望的観測もバカらしい。唯一あるのは、あの攻撃で吹き飛ばされて、この島から脱出した可能性。周りに物がすべて、ないのだ。そんな希望にかけてもいい気がする。おそらく、この煙が消えた時が、僕の命の最後。残している力などないし、嵐龍は僕を消せるだけの力が残っている。力の差は勿論だが、抗える体力もないから、それ以前の問題にしかならない。


 諦めて、溜め息をつく。これはどうしようもない。体が後ろに倒れる。もう、一本も手足を動かせない。もう武器は歯や爪ぐらいしかない。相手が近づいてくれれば、噛みつくことくらいはできるだろうか? いや、首を動かす力がない。さっきのを耐えるので、精一杯だ。今なら、意識だけあって、体を動かせない人の気持ちが存分にわかる。動け! と動かしても体は動いてくれやしない。これは、どうにもならん。


 そんな僕を励ますように、声が聞こえる。どこからだと思っていると、手を握られる。そして、告げる。


「おいおい、大丈夫かよ、十三君? 私は瀕死さ。正直体を動かすのが辛すぎる。だけど、君の方がもっとヤバそうだね、体が動かせてないじゃないか。まぁ、私も君もお互い、命からがら生きている。きっと、この武器が守ってくれたんじゃないかな」


 そういって、宴は銃剣『パンドグリュエル』を取り出す。そして、僕に劔『ガルガンティア』を握らせる。


「さて、この煙が消えたら、君も私も、嵐龍に発見されて、見事に敗北ゲームオーバーだ。いや、死亡デットエンドというところかな」


「何暢気にいってるんだよ、せめて、お前だけでも、逃げろよ」


「あはは、言ったじゃないか。私だって体が限界なんだよ。それに、君を置いて、自分だけ生き延びるのは忍びない。っていうか、逃げても嵐龍の攻撃範囲なら、意味ないしさ。それなら、君と一緒にゲームオーバーを選ぶよ」


「……宴」


「っていうのは、嘘で。実は一つだけまだ奥の手があるんだけど、聞く?」


「はぁっ!? あるなら、先にそっちを言えよ!」


「いや、なんというか、その場のノリだよ。ここってそういう台詞を言うべきだろ?」


「ふざけんな! で、奥の手ってなんだよ?」


「うん、まぁ黙って見ててくれよ、すぐにわかるからさ」


 そういって、宴は僕の上に倒れる。


「おい!」


「だから、黙ってろって」


 再び宴はそう言って、僕に近づく。……顔が近い。何をする気だよ、あいつは。宴は僕を見て笑って、僕の顔に近づいて、次の瞬間、僕の首に噛み付いた。直後、冷たいけど何か包み込むようなイメージがする。体に何かが駆け巡っている感じだ。そして、宴が僕から離れると、痛みが襲い掛かる。


「いってぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」


 思わず、叫んで飛び上がる(・・・・・)。そう、飛び上がったのだ。僕の体が、先ほどまでダメージのせいで碌に体を動かすことができなかった、僕が。痛みと驚愕で、何も言えなくなる。頭の中を占めるのは、疑問だけだった。


 その疑問を解消するように、僕は宴に質問するつもりで、宴を見たが、宴はまるで、僕の代わりとでもいうように、倒れていた。急いで近づく。どうやら、気絶してるみたいだ。多分、あれが宴の奥の手なんだろう。どういう理由か知らないが、とにかく、僕に力が戻った。これなら、戦える。逃戦はしない。というかできない。時間稼ぎも、断さんが来ていないから、まだまだしなきゃならないだろうし、このままじゃ、宴が危険だ。速やかに決着をつけなければいけない。そう決意し直した。


 煙が晴れる、その前に宴をできるだけ、戦いに向きこまないように、隅の方で隅過ぎない場所を選んだ。万が一、隅過ぎて、風で海に落とされるかもしれないから。そして、僕は空へとけ上がる。


「飛んで駆けろ 空渡うつほわたり


 煙と共に僕は空へと翔ける。煙を抜けても、僕は翔る。途中で、嵐龍に気付かれたけど、気にせず翔る。僕は高く高く翔け上がる。この一撃でやつとの因縁を終わらせるために。翔けあがり、気付く。やつが僕に対して、攻撃を放っていることに。体が冴えているせいか嵐龍が何を放ったのかわかる気がする。放ったのはおそらく、『鎌鼬デスサイズ』だ。


 僕は精神を集中させる、息を吸い込んで、深呼吸。目を見開く。そして、使う。紙一重の技。空中で使うのは初めてだけど、今はこの状態にかける。


「当てて逸らせ 篝火かがりずらし!」


 僕はガルガンティアを不可視の風の刃に向ける。感覚で分かる気がする。おそらく、こう来るはずだと、その方向にガルガンティアを当てて、違う風の刃にあてさせる。そうして、全部の『鎌鼬』を僕は回避した。


「なんだと!?」


 ここにきて、嵐龍が一番驚いている。おそらく、予想していなかっただろう。ならばこそ、この一瞬こそが、今回最大のチャンス。全てぶつける。今まで使った技は全部防がれたか、避けられた。なら、この場所はこの技で行くしかない。まだ嵐龍には一度も見せたことがない。僕の最強技にして、未完成技。前は、無茶でも使っておけばと後悔したことは一度はあった。なら、今は後悔しないためにも、使う。自由落下のまま、僕はガルガンティアを両手でしっかりと握り占めて、振り落す。


「死ねよ 天崩あまくずし!!!」



 …………はずだった。僕の振り下ろしたはずのガルガンティアは右手の力はなく左手の力だけで振り落したのだ。僕の右肩が上がらなかった。それは、グレイとの戦闘時、僕が『篝火ずらし』で右手を庇った時に受けた傷。その傷が今この絶好の瞬間の攻撃の邪魔となった。


 振り下ろされたガルガンティアを嵐龍は『嵐鎧ウラガン・アルマドゥラ』で弾いて、嵐龍は笑って言う。


「何ともまぁ、面白い幕引きよのぉ、まさか我が影がつけた傷が、我のピンチをチャンスに変えてくれたわ!あやつの忠誠心は見事天晴!でわな、終われ。意志在りし者よ」


真空覇シュトルム・トゥ・ヴォイド


 既に、体の限界を超えて戦って、そして、全力を出したが、こればかりはもう無理だ。宴がくれた力も使い切ったのだ。もうあの攻撃はよけれない。宴に何といえばいいのか。しかし、謝ろうとしても、多分もう会えない。申し訳ないなぁとカッコ悪いなぁ。なんて、思った。そして、その技は僕の意識を刈り取った。



~~~~~

「さて、こやつらとの戦いは面白かったが、これにて幕引きか」


 嵐龍は自分に素晴らしい意志を見せた少年よりも先に、あの少女を殺そうと思った。そして、少年が隠した少女の場所を見ると、既に少女はそこにはいなかった。嵐龍は不思議に思った。いないのなら仕方ない。少年を殺すかと思った時、発砲音がした。すかさず、嵐龍は風を身に纏い、それを弾いた。地面に倒れている少年の方を見ると、青年がその少年を担いでいるではないか。


 この青年ごと殺すかと、技を使いかけた時。青年の姿は消えた。おそらくは転移魔法者テレポーターだろう。だが、嵐龍はその少年を殺せなかったことより、転移する前、青年が口元を歪めていたのを目撃した。やられた。あの青年は、こちらに注意をわずかに一瞬だけ違う方に向ければ、こちらから逃げ切れると確信していたのだ。まったく、舐められたものである。されど、あの転移は厄介だ。並の転移ではない。並なら嵐龍は一瞬で殺せた。それが出来なかったということは超一流級の転移魔法者。思わず口が歪む。


「ふは、ふははははははは、まったくマッタク全く、ニンゲンとは飽きないモノだ! だが、あの転移魔法は少々めんどくさいなぁ。少し、封じさせてもらおうか」


 そう嵐龍は言い残し、その姿を嵐と共に消した。


~~~~~~

「・・・ん、あ」


 僕は重く感じる体を起動させるように、やけに重たい瞼を開く。そこから見える景色は白い。見たことある天井だ。既視感がある。見たことがあるっていうか、ここ三日間くらいかなりの回数で利用している看護室レスキューだった。


 ここにいるということは、うん、負けたのだろう。コテンパンに、っていうか、覚えている。命からがら生きているということから、おそらく、時間稼ぎがギリギリで成功した。というか、本来の任務が成功したわけである。今頃は嵐龍は、四国領域(南エリア)から来ている最強の討伐者エクテレス達と戦っているのだろうか? でも、僕も宴も殆ど瀕死状態だったから、助かったのかもしれない。


 断さんにお礼を言わなければならない。僕らを運んでくれたのは断さんだろう。僕は何回あの人の世話になるのだろうか。それをいうなら、澪標さんもだろう。こんな僕が何度も約束を破っているのに、まだ僕を信じてくれる。情けなさで憤死しそうだ。支部長にだって迷惑をかけている。あの人が僕らの後ろ盾になっているから、僕はこんなにも我が儘を通すことが出来ている。宴だって、僕に力を貸してくれたのに、結局勝てなかった。何より、水虎討伐作戦に参加していた皆に対して、申し訳がない。自己嫌悪で死にたい。こんなにもたくさんの人が僕に力を貸してくれていたのだ。僕は、玖凱 十三はそれを、返すことは出来たか❓ 否、そんなことは出来ていない。迷惑しかかけてこなかっただろうが!


「くそったれ!!」


 あまりの不甲斐無さに涙を堪えることが出来なった。悔しいし、虚しいし、悲しいし、そして何より、弱くて情けない。なんなんだ、、この醜態は!? 生き恥をさらしているだけだ。自分の力じゃ何一つ守れてやしない。大ぼら吹きだ。道化にも劣る。


「くそ、くそっ。クソッ!」

 

 自分の口から何度も流れる。自己罵倒の言葉。僕は弱い!弱すぎて何もできていなかったんだ。無限に陥る自己嫌悪のループだ。そんな僕に声がかかる。


「うるさいなぁ、こっちは病人なんだよ。少しは静かにしてくれよ、君が自己嫌悪するのは、君の勝手だけどさ、せめて、声に出さないでくれよ。私が眠れない」


 そういって、仕切られていたカーテンをシャーっていう音をたてて、開いてきた。開いたのは、僕と同じく嵐龍と戦っていた宴だった。どうやら、宴のベットは僕の隣だったらしい。僕を回復させた後、気絶した宴だったけど、キチンと生きていた。僕は嵐龍の『真空衝』に意識を刈り取られてからは、全く何も認識していなかったから。宴が生きてて良かった。そう安堵すると、僕から何かかが流れてきた。


「おいおい、さっき声に出さないでって言ったけどさ、本当に声を出さず、嗚咽おえつし始めるなよ、君は」


 呆れたように宴は言うが、それすら僕には嬉しかった。宴が生きててくれた、それはまた僕の大事な仲間が生きているという証だった。糸定たちのような目には遭わせない。と心の中で誓っておきながら、僕はまた、仲間を失うところだった。僕から流れる涙は多分、そういう意味での安堵なのだろう。仲間が生きている。それだけのことが心底嬉しかった。だから、守らなきゃいけない。僕は強くならなきゃいけない。仲間を守るためにも、行動を起こさなきゃいけない。これが、本当の、最後の後悔だ。僕が流す涙はこれで、最後にする。僕のベットの隣にかけられていたガルガンティアを見つける。この劔の銘を刻んだ時を思い出せ、僕はこの連なる悲劇の涙を止めるために、この名前にしたんだ。名前負けなんかにさしちゃいけねぇよなぁ!?


 痛む体を無理して動かそうとするが、痛みのせいで上手く動かせない。だが、そんなのは関係ない。無視して、立ち上がる。アドレナリンを出しまくれ、僕は命の危機にあると思え、生存本能を呼び覚ませ、今動かなければ、僕は死ぬ。そう思いこませて、前に進む。


「やれやれ、いったいどこに行こうとしているんだい、十三くん。正かとは思うが、嵐龍のところに行こうとしてるんじゃないんだろうね? もし、そうだとしたら、止めといた方がいい。今は、邪魔になる。とにかく、傷を癒せ。こんなこと、縁起が悪いかもしれないけどさ、言っとくぜ。討伐者最強チームが嵐龍に勝つとは決まってないんだよ、負けるかもしれない。私たちにもまた、機会は廻ってくるかもしれないよ。セカイはいつだって、思い通りにはならないだから」


「悪いが、僕は嵐龍と戦うために、この病室から出るんじゃねぇよ、安心しろ。僕がこの病室を出ていくのは、強くなるためだ。僕は圧倒的に弱い。強くならなきゃいけないんだ」


「ふーん、まぁ私たちの『物語』も始まってばかりだし、最初は負けるのは仕方がないと思うけどねぇ」


「『物語』だと、宴まだ、そんなこといってるのかよ」


「勿論、言うさ。主人公サイドが最初の敵に負けまくるなんて、よくあることだよ。むしろ、奇を衒って、最初から主人公が最強なのが増えているからね、最近のマンガは、さ。だけど、私から言わせてもらえば、最初から勝ちまくる主人公なんて、最初のうちはいいかもしれないけど、飽きるぜ、絶対。詰まんねぇもん。予定調和だよ、そんなん。確定された未来が楽しいかよ、淘汰されるままの人生が面白いか、必ず勝つのが分かる未来が楽しいか? これから先も一分一秒が分かりきってる人生が嬉しいか? そういうのは、約束された勝利じゃなくて、RPGで出てくるラスボスとか黒幕とか裏ボスが、レベル1の最初の村も出てない勇者と戦うようなもんだ。自分はステータスカンストで、相手はステータスが1だけ。勝って得られる経験値は1だけ、自分はカンストしているので、経験値はたまらない。0に1掛けても0にしかならないのが面白いわけあるかよ、クソッタレた、クソゲーにも劣るね、そんなの」


「それに比べたら、負けても、泥臭く仲間と共に勝つ主人公という王道でいいさ。変に奇を衒うなよ。視界が狭くなる。仲間のために戦うでいいじゃないか。って話だ。おおっと、話が脱線してしまったね、すまない。私はこういう話は好きでね、つい語ってしまう」


「お前が『物語』に執着を持ってるのだけがありありと分かったよ、そんじゃ、お前の要望を叶えるためにも、僕はもう行くぞ」


「ああ、ちょっと持ってくれ、十三くん」


「ああ? まだ何かあるのか」


「いやさ、ここだけの話、君水虎からの戦績はどうなんだい?そういうのって、『物語』上じゃ大事だろう?」


「ああん? 戦績だと、えーと、まず水虎に一回負けるだろ。次に、水虎を追いつめるけど、嵐龍にボコボコにされて、負けるだろ。そんで、三回目で水虎を倒して、嵐龍に挑もうとして、その影のグレイに、勝負でも負けて、戦いでも負けるだろ。そして、お前と仲間チームを組んで、グレイと戦って勝つだろ、でも、ハイテンションだった嵐龍にボコボコにされて圧倒的に負けた。で、今だな」


「……負けすぎじゃないかい? 八戦中二勝。って勝ちがなさすぎだね。大丈夫かなぁ」


「うるせぇよ、次は勝つ。三度目の正直を見せてやるよ」


「二度あることは三度あるっていうけどね。……ん? 三回目。三回目って言ったかい、今」


「え、ああ」


「ふむ、今迄の戦績を見ると、それはあながちウソじゃないな。君、水虎にも、グレイにも三回目で勝ってる。嵐龍との戦いも二回負けを刻んでいる。そして、次の戦いは三回目。これは勝ちフラグかもしれないよ、十三くん!」


「なんだよ、嫌だよそんな勝ちフラグ。っていうか僕、本当にあいつらに三回目で勝ってるな。我ながら驚きだ」


「何か面白いものでも働いているのかねぇ?」


「知るか、もういいだろ? 僕は行くぞ」


「はいはい。行ってらしゃい、死ぬのだけは気をつけたまえよ」


「たりめぇーだ」


 そう言い残して、看護室を出ようとすると、目の前にいきなり、手が現れて、頭を締め付けられる。


「あだだだだだだだだだ」


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。アイアンクローされてる。しかも、手加減無しだろ、これ。誰だよ? こんなことするの? 僕は、アイアンクローしている手の隙間から顔を窺う。僕にアイアンクローかましてきたやつの正体は支部長だった。


「おどれは、アホか! 何してるんや、十三。お前はまだ重症なんや、重症。重症の意味を知ってるんか、ああ?」


「し、知ってますよ」


「なら、今どこに行こうとしたんや、うん」


「いや、その……」


「ったく、いいから、今日一日だけは体を休めろや、ワイとしては、心配やが、どうやらまだまだお前らを使わなあかんらしい。まったくやってられんわ」


 そういって、支部長はアイアンクローを止めて、看護室の見舞いの椅子に座る。そして、僕らに続けてこう切り出した。


「さて、ワイがここに来たのは他でもない。これからのことについてや、ワイにとっては、悪い知らせ、お前さんらには、いい知らせかもしれんがな、ある意味では」


「どういうことですか、それ」


「私も詳しくその話を聞きたいですね、支部長」


 僕らのがっつく態度に溜め息を漏らして、支部長は呆れたように告げる。


「安心せいや、そんながっつかんでも、教えるわ。教えとうはなかったけどな」


 支部長は僕らにそう吐き捨てる。続けるように支部長は今の現状を僕らに聞かせるために語っていく。


「まず、断がお前らを転移させた後だが、南の最強チームは来ていない。というか来れんくなった。そんで、急いで、断にお前たちの回収を頼んだ。そしたら、お前さんらはボロボロで、澪標主導の元、治療を行って、今に至っている」


「な、なんで来てないんですか」


「そうだね、何かアクシデントでもあったのかな」


「いや、それ以上だ。誰も想定したくはなかったことが起きた。南エリア、いや、正確には高知県に新たな十大龍席が出現した。同時期に二体目の十大龍席や、南の最強チームは現在、そいつと交戦中とのことや。歴木くぬぎから支部長マスターピース同士の秘匿回線で連絡があった」


「な、二、二体目!?」


「そんな、バカな! この短期間で一気にですか?あいつらにコンビネーションがあったとは思わないんですが」


「いや、どうやら、新たに現れた十大龍席は自身のことを、炎龍の盟友といっているらしく、嵐龍とは無関係やと思われる。厄介な時に、厄介なものが重なりよったんや」


「んな、そんな話ありえるんですか、まるでマンガみたいじゃないですか」


「これには、私も同感だよ」


「そないなこと言うても重なったもんはしゃーない。っちゅーか、これで終わらへんねんな、これが」


「まだ、あるんですか」


「冗談にして欲しいんですが、全く」


「ワイが言いたいちゅーねん、そのセリフ」


 本当に疲れたように重い溜め息をついている。何か一気に老け込んだみたいだ。支部長は確か二十代後半だった気がするが、今は三十代後半見える。


覚醒者アフィプニスィの中で転移魔法者だけが、魔法マギをつかえなくなっとる。正直言って、お手上げや。転移魔法を使えるもんを封じられた。機動力が一気に減る。しかも、この現象は全

領域で起こっとるらしい。四支部の支部長同士だけが使える秘匿回線で連絡を取り合ったが、どこも同じ現象が起きとる。どいつがそんなことしとるんか、特定できへんのや。おそらく、侵略者アグレションどもの行為やと思うねんけどな」


「そんな、それは、他のとこからの援軍も呼べないじゃないですか!」


「厄介どころの話じゃないよね、でも、おかしいですね。なんで、そんなことができるのなら、今の時にやるんですか? 本来なら、機動力を削ぐと言う意味なら、既にそういうやつを何体も呼んでいるはず。数が少ないから?でも、このタイミングで出すということは、ここが好機だと、侵略者達は認識してるのでしょうか」


 宴の疑問に支部長は難しい顔をして答える。


「分からん、何の意図を持って、やってきたんが分からん以上、探っても無駄やとワイは仮定した。そんで、ここからが、一番の悪いニュースや、二人とも。上がワイらに、いや、正確にはこの兵庫エリアを犠牲にするつもりらしい」


「はぁ!? どういうことですか、それ」


「なるほど、上のやつらが考えそうなことだ」


 僕の疑問の声とは違って宴はひどく冷めた声で言った。僕は意味が分からなかったので宴に質問する。


「どういうことだよ、宴」


「簡単なことさ、要は新首都大阪と天皇の本拠地である京都さえ、無事ならいいって考えさ。私たちが囮や犠牲になっている間に、戦力を充分に蓄えるつもりだろうね、上は。そして、私たちがやられた後で、嵐龍を身辺警護などさせている討伐者の本物の精鋭たちで狩るつもりだろうね。意地が悪い」


「なんだよ、それ」


「まぁ、仕方がないことだと思うけどね。それは。私たち一般人よりも、自分たちの命の方が大事なんだよ」


「……」


 僕が黙っていると、支部長が宴に尋ねる。


「というか、宴。どうして、お前。天皇陛下の本拠地が京都にあるって、分かるんだ」


「あ」


 そういえばそうだ。宴は僕と違って、そんなことを知らないはずだろう。そう思って宴を見ると、まるでバカを見る目で見られた。


「君たち、バカだろ。そんなこと考えなくてもわかる。あんな不自然な物、バカではない限り、頭をひねれば、誰でもわかる。しかも、君たちがその質問をすることで、私の仮説があっていると証明しただろう」


「「ああ」」


 僕が支部長と納得の声を上げると宴が言ってきた。


「はぁー。大丈夫か、こいつら」


 宴のバカを見る視線を浴びせられながら、支部長は咳払いして、話す。


「う、ううん。で、だ。お前たちには、引き続き嵐龍と戦ってもらいたい。今、他の動けて強いやつが、嵐龍の相手をしている。無事持てばいいんだが……」


 支部長がそのセリフを言い終わったとき、ドッオオオオンンンンンン!!!!!!!! とひどい衝撃音が響き渡った。


「なんなんだ、いったい!?」


「この衝撃、まさか……」


 僕らが突然の衝撃で驚いていると、焦ったように澪標さんがこちらに駆けてきて、ぜーは-ぜーはーいいながら、衝撃の情報を僕らに伝えた。


「し、支部長ぅ! 支部長ぅ、た、た、大変ですぅ。さっきの一撃で、近畿領域の半分が破壊されましたぁ!!!!!」


「「「な、なにぃ!!!???」」」


 全員、驚きのあまり、声が揃った。急いで、澪標さんに駆けより、その詳しい話を聞きだした。どうやら、澪標さん曰く、さっきの一撃で大阪の半分、和歌山、奈良の二つ半が破壊されたらしい。ものの見事に一瞬だったそうだ。そんな中、宴は言う。


「おそらく、やつの最強技だ。『飛翔断空暴嵐轟天凱風爆纏覇』だろう。あれなら、一瞬で葬れるからな」


「でも、それはおかしいだろ、あいつは、意志を見せた、己が認めたものにしか使わないって」


「君はバカかい?それは対人の話だ。あれほどの破壊技を人にはそう簡単に向けないだけで、広範囲の対物への破壊なら別に使ってもおかしくはないだろう。威力は充分過ぎるさ。事実、一瞬で約三つの県が破壊された」


「……う」


 宴の言葉に反論できない。何かいつもこうなってる気がする。僕がそんな思いをしている中、真剣な顔になって、モードが入ったぽい支部長は告げる。


「これは、急いだ方がいいな。澪標、今すぐ明日やるはずだったことを今からやる。お前の看護技術を見込んでいう。一時間で準備できるか」


「はい、任せてくださいぃ。私はプロですぅ、言われた仕事はキチンとこなしますよぉ」


 そういって、アワアワと急いで出ていった。次に、支部長は何も無い空間に声をかける。


「いるんだろう、断。出てこい」


 支部長の声に応えるように、いきなり、目の前からスッウーって感じで断さんが現れた。


「……なんだ、紘藤支部長?」


「お前はクルーザーを運転できるか?」


「……一応、経験はあるが、……まさか、俺がか?」


「ああ、生憎、俺にはその技術がない。それは、玖凱や謳来にもいえるだろう。そこで、君に頼みたい、やってくれるね」


「……了承した」


 そういって、断さんは看護室から消えた。いきなり、ドンドンと進んでいく展開に置いてけぼり感をくらっていた僕たちに、支部長は告げる。


討伐者エクテレス、玖凱 十三。謳来 宴。お前たち二人には、嵐龍 ストームブリンガーを狩ってもらう。その為の最低限以上のサポートはする。澪標は、お前らは可能な限り、万全な状態まで回復させるように頑張ってもらう。断は、クルーザーを使ってお前らを嵐龍のいる淡路島まで連れて行かせる。だから、お前たちは嵐龍に勝て! それが今回の任務の内容だ。全力を持っていけ。出し惜しみなんてするなよ、この戦いに負けたら近畿領域(東エリア)は終焉ジ・エンドだ。上に、嵐龍に、いや、世界に、我々の力を見せつけてやれ!!! 以上だ!」


 紘藤支部長が僕らに、高らかに宣言した。その言葉は、僕らを信じてくれている言葉で、次は僕らが勝つと信じてくれる言葉で、柄にもなく感動した。僕は恵まれている。これだけの人にサポートしてもらえているんだ。期待を裏切る真似なんて出来ない。否、許さないのだ、自分自身が。


 宴を見る。あいつは笑っている。まるで僕がどういう行動に出るかも分かってくれているような感じだ。あいつは僕に合わせてくれるんだろう。さりげないとこでも、僕は仲間に助けられているんだ。それが分かった以上、僕は負けない。その決意を表すように、僕は応える。これが最後の戦いだ。


「「任務了解!!」」

 環境依存文字を使いまくってるけど、一章だけです。多分。


 次の更新は不明。できれば、31日に一回だけ出せたらいいなと思います。確実ではないですが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ