Ⅳ:疾風(ウェントス・アクタンティ)
なんか書けた。6月何気に週一更新っぽいことができた。
水虎を倒した後に玖凱は嵐龍に啖呵を切ろうと目論んだ。しかし、その願いは嵐龍によって叶わなかった。されど、提案された方法が一つ。それは、嵐龍の影であるグレーハウンド犬との勝負だった。勝負内容は簡単。一キロの鬼ごっこ。玖凱はグレーハウンド犬がゴールする前に捕まえれば、嵐龍への挑戦権を得ることができる。しかし、玖凱がグレーハウンド犬を捕まえれず一キロ走られたら玖凱は嵐龍への挑戦権が得られないという単純なルール。そして、その勝負の幕はたった今切られた。
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「陽炎斬り!」
玖凱はすかさず、コインが地面に落ち、音を鳴らすと同時に五連の斬撃を繰り出した。タイミングはばっちり、およそ想像出来る具合の最高の速攻攻撃。されど、その攻撃はグレーハウンド犬には届かなかった。
「真空衝」
グレーハウンド犬が放つのは嵐龍とは違った真空波。それは一方向に解き放つ真空波。空気の振動を許さぬ一撃。玖凱の放った『陽炎斬り』は『真空衝』の前では無残にも霧散した。その一瞬の隙を突き、動き出すグレーハウンド犬。数テンポ遅れて、玖凱は再び行動を開始する。
しかし、追いつけない。そもそも論として人と犬が速さの競争をしたら、勝つのは犬である。それに加えて、怪我を負っているし、何より出遅れた。この事実は二人の差を大きくさせる。しかしそれは、この勝負が一キロではなかったらの話だが。
「飛んで駆けろ! 空渡」
使うのは空中移動の技。空気を踏み、空を翔ける。文字通り空を渡る技。玖凱はグレーハウンド犬に出し抜かれた数テンポ後にこの技を使い、グレーハウンド犬に追いつきかける。しかし、距離はまだ足りない。このままでは、グレーハウンド犬の勝利でこの勝負を決着がついてしまう。それは許されない。否、許したくない。それが故に放つ。
「穿って崩せ 十字狩り!」
繰り出すのは水虎を一撃で葬った技。十字にされた衝撃波がグレーハウンド犬に襲い掛かる。されど、その一撃は当たることはなかった。それどころか、次の一撃でこのゲームに決着がついた。
「加速突風」
その言葉と共にグレーハウンド犬は疾風のように加速し、ゴールに到達した。玖凱が苦し紛れに放った一撃は『真空衝』を使われるまでもなく、ただ加速された速さの前に敗北を記した。
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「ふん、勝負は我が影グレイの勝ちで、汝の負けだ。では約束通り諦めて帰れ。傷を癒してから来い。少なくとも、今の汝では話にならん。見たところ、武器が変わったようだが、それを扱う体がぼろぼろでは宝の持ち腐れだ。分かれ、ニンゲン」
そう、嵐龍に言われても何もいえなかった。水虎を一撃で倒して、調子に乗っていた? 劔が変わって今までよりも強くなりそうだ? ふざけんな! 思い上がりにもほどがあった。結果、やつに挑むどころかその影にさえ敗北した。こんなんじゃ嵐龍に勝つなんて夢のまた夢だ。影との勝負では圧倒的な速さで負けた。…………待てよ、速さで負けたんだ。実力なら負けてはいないはずだ。いや、負けちゃならない。
「さて、シカトか。それとも、納得がいってないか。どちらだろうな? グレイ、まだあやつが諦めてなかったら、正面から叩き潰せ」
嵐龍が何を言ってるか、聞いていなかった。頭を占めるのは嵐龍を倒すことだけ、それ以外は邪魔だ。
「承知した。我が主」
ならば、まずあの速いだけのグレーハウンド犬だ。あいつを倒す。
…………この時の僕は自分が何の影と戦っているのかを忘れていた。嵐龍の影がただただ速いだけではあるまいに、しかも、『真空衝』などという技を使って、僕の技を打ち消したのをすっかり失念していたのだ。
「おおおおお、陽炎斬り!!!」
放たれる五連の斬撃はグレーハウンド犬をかすりもしない。よけられている。寒気がし、咄嗟に劔を掲げる。瞬時、カキンッ! と弾かれる音がした。グレーハウンド犬が爪で攻撃してきたのだ。速い。今の一撃を表すのならこの言葉が一番だろう。実質、虫の知らせみたいなもので防御したのだ。気付かなかったら、あの一撃で終わっていたかもしれない。その現実が玖凱を焦らす。しかし、敵は待ってはくれない。何回かの攻防の後、敵が紡ぐ。
「加速突風」
グレーハウンド犬が使うのは加速の技。攻撃技ではない、加速、速さの技。その言葉が示す通りグレーハウンド犬の速さが増した。突風が吹き荒れる。ギリギリ目で追いつけるぐらいだ。意識を集中しなければ一気に持ってかれる。
「真空衝」
続いて放たれるのは、一方向に放つ真空波。最初に使った時とは違い、技を打ち消すためでなく攻撃で使用している。玖凱はこれまた直観みたいなもので返した。
「灯楼流し!」
流れに沿って返す技。しかし、流れに沿って返しても敵はもうその場所にはいない。速い。ただ速い。それだけの事実がこれだけの差を出している。しかし、敵は手を一向に緩めず、勢いを増す。
「二重加速突風」
二重なる加速。二倍、今までの二倍の速さとなる。もう、玖凱にはグレーハウンド犬を目で追うことはできない。感覚で対処するのでさえ、追いつけなくなる速さ。ならば、もう諦めよう。普通に攻撃は当たらないだろう。グレーハウンド犬が攻撃をするときにカウンターを当てよう。『灯楼流し』のようなタイムロスが出るカウンターではなくて、攻撃技で。そう突く攻撃で。振り下ろすより、突く方が速い。神経を集中させて、直観を働かせろ。虫の知らせを呼べ。でなきゃ、お終いだ。徹底的な敗北だ。あがいた挙句更に醜態を晒す行為だ。ヒュン!目を開く。今だ。この一撃にかける。
「螺子って削げ!!!!! 螺旋d」
「嵐風之回転弾」
グレーハウンド犬のその一撃は、正に嵐の弾丸。己が嵐風を纏い、一発の回転弾の速さで敵を穿つ。感覚で迎え撃った玖凱を技を出させる前にぶっ飛ばした。
「…………が……h……」
もはや、声すらも出せない状態である。そんな玖凱を見下ろすのは嵐龍の影であるグレーハウンド犬のグレイ。哀れむ目でこちらを見ていた。そんな中、嵐龍の呆れた声が響く。
「はてさて、奴らは汝に意志を託してよかったのか? 初歩的じみたことを言うが、勇気と蛮勇を天と地ほど違うぞ。愚か者。我は淡路島にいる。傷を治して、仲間を引き連れてから来い。今の汝は話にもならん。そこで寝ておけ」
「く……そ……」
薄れゆく意識で己の力のなさを嘆いた。
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「まぁ、褒めるべきところは、意識を失っても、己が武器を離さんかったとこだけだな」
嵐龍の言う通り、玖凱は気絶しても、己の武器である劔のガルガンティアだけは離さなかったのである。
「我が主。少々甘いのでわ?」
「まぁ、甘いのは否定せん。我はこやつの意志の強さを見たいからの」
「困ったお方だ」
そういって、グレイは実体化を解いた。そして、嵐龍の声も聞こえなくなり、場にいるのは気絶した玖凱だけとなった。
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「・・・ん・・・」
目が覚めた。真っ白な天井から考えてここは看護室。おそらくあの後気絶した僕を誰かが発見し、ここに連れてきてくれたんだろう。しかし、困った。澪標さんになんて言えばいいんだ。怪我しないって約束して行かせてもらったのに、大怪我して帰ってくるなんてふざけている。あそこで、素直に水虎を倒して帰っていればよかったかもしれないが、糸定たちの敵である嵐龍がいるのに見て見ないふりをするのは出来なかった。まぁ、負けたのが嵐龍でなくその影なんだから、世話のない話だが。
そんなくだらないことを考え、ベットから体を起こすと、嫌なやつがいた。
「やあやあ。気分はどうだい? 十三。聞いたぜ、水虎を倒しに行くといいながら、倒した後に嵐龍に勝負を挑もうとしたが、受けてはもらえず。情けで提案をしてくれ、それに乗るも嵐龍の影に見事に敗北。更に、勝負の後に奇襲をかけるも正面から返り討ちに遭う。なんだいなんだい、今時の子悪党でもここまで見事にはやらないぜ。君いつからお笑い芸人になったんだい?」
そんな僕の見事な醜態を晒した行動を一つも間違わずに、宴のやつは言った。今は笑って、あいつは長い鴉色の髪を揺らしてる。括ってないから、正直不気味だ。貞子さんみたいである。というか、どうして僕の行動を知っているんだ、こいつ? もしかして隠れて見ていたのか? あり得る。宴ならやりかねん。僕を嘲笑するためだけに手助けする場面で何もしなかったことは何回もあった。そのたびにおちょくられた。今思い出しても腹が立つ。
「はぁー、笑った笑った。そうだ、十三。断くんにお礼を言いなよ。彼が気絶している君を助けてくれたらしいぜ。私は帰ってきたら、紘藤支部長から君の醜態を聞いて、腹がよじれるかと思ったよ。長旅で疲れて帰ってきたら笑いを提供してくれるなんてエンターテイメントに秀ているね、全く。そうそう、澪標さんは本気で心配してたから謝っておけよ。今時彼女みたいなのは貴重なんだからさ」
断? おそらくその人が僕をここまで連れてきた人らしい。だが、記憶にはない。どんな人なんだろう? 澪標さんについてはキチンと謝ることにしている。一応、皮肉も混ぜてその旨を伝えておく。
「そんなの、お前に言われなくても分かっているよ。というかお前も女なんだから澪標さんみたいにはとは無理は言わねぇけどさ、もう少しおしとやかになれよ」
「はっはー、そいつは無理な相談だよ。私が彼女みたいになれるわけがないさ、第一なったとしてもキャラ被りがおきちゃうぜ」
「キャラ被りになってもいいから、そうなってほしいよ、僕は」
くだらないやり取りよりも、聞いといた方がいいことを聞こう。
「そうだ、宴。断って人はどんな人なんだ。お礼を言いに行くからさ。教えてくれよ」
僕がそういうと、宴はびっくりしたような顔をして言った。
「おいおい、何を言ってるんだよ、十三。彼は君を二度も助けてくれたらしいのに、なんで顔を覚えてないんだ? 彼は無口だが、いいやつなんだ。忘れるわけがないと思うんだが」
「んなこといわれても、覚えてないんだよ」
僕が再びそういうと、宴は仕方がないやつを見る目でこう言ってきた。
「君って、人を覚えるの下手だよね。まあいい、十三。教えるよ。彼は覚醒者で転移魔法を使うんだ。君の作戦でΣ(シグマ)とやらにいたやつだよ。彼は君のことを高く評価していたぜ」
そういわれて、思い出す。僕らをあの時転移魔法を使って救ってくれた。あまりしゃべらない男を。
「あの人か、そうか、断っていうのか」
「糸定のことも紘藤支部長と彼から聞いた。残念だった。糸定とは十大龍席のことでも、話が合ったから結構親しかったんだが、やはり友がなくなるとは残念だ。だが、同時に彼は希望を残してくれたよ」
糸定のことを懐かしむ宴が突然そんなことを言いだした。
「希望?」
僕のそんな疑問を解消するように宴は僕に説明をした。
「ああ、希望さ! やはり、私たちの仮説は正しかった。これはラブレーの本をなぞるかとができる。証拠は私たちの武器だ。この銃剣『パンドグリュエル』と君の劔『ガルガンティア』がこの戦いを生き抜く鍵になるはずだ!!!」
そういって、宴は自身の銃剣と僕の劔を交互に見て宣言した。しかし、僕には訳が分からない。
「どういうことだよ、宴。仮説とか、ラブレーの本をなぞるとか」
「十三。君は『ガルガンティアとパンダクリュエルの物語』どこまで知っているかい?」
「世界史で出てくることしか知らねぇよ、本のタイトルだろ?」
「そうだ。ガルガンチュアとパンダクリュエルが主人公で語られる物語だ。親であるガルガンチュアと子であるパンダクリュエルの巨人の一族を巡る荒唐無稽な話だ。元々は父子2代の巨人王の誕生から成長期、遍歴修業、超人的武勲という中世伝来の騎士道物語の枠組みを踏襲しながら、その実は人間の尊厳と豊かな可能性、生きる喜びに目覚めたルネサンス人が、旧態依然たる現実の社会・文化との間に巻き起こす軋轢を、喜劇的風刺的筆致で描きつくした話なんだよ」
「へぇ、で、それがどう関係してくるんだよ」
「つまりは、このガルガンチュアとパンダクリュエルはその時の世界を皮肉った話なんだ。そして、ラブレーの本をなぞることはこの停滞した侵略者達がおこした現状をひっくり返すことだ。彼らの行為を皮肉るだけなんて嫌だろう。つまらないだろう。だから、ひっくりかえすのさ。今度は私たちが彼らを狩るのさ。でも、私のパンドグリュエルだけでは無理だった。何故ならパンダクリュエルは二巻のタイトルなんだよ。一巻がないのに二巻があるわけがない。つまりは、この逆転劇ができないわけだ。仮説として、二つ揃えれば、勝てると予想した。だから、私はもう一つの鍵である。ガルガンチュアを探していた。まぁ、灯台元暮らしになったけどさ。そして、君がガルガンチュアを起動させた。そして、二つの所有者である私たちが邂逅したんだ。これで『物語』は始動する。始めようぜ、十三?」
そういって、宴は僕に手を差し出した。その言い方はまるで何かを予言するかのようだった。正直言って、何故宴がそんな結論を導き出したのかは分からない。僕にはさっぱりだ。でも、型龍を、十大龍席を、嵐龍を、倒せるというなら、否、倒すためにこの手は取るべきだと分かる。戦って勝つために、あいつのいう『物語』を始めよう。そう思い、僕は宴の手を取った。
暫くして、宴がいきなり、声を上げる。
「で、いつまで見てるんですか、御三方?」
そう宴がいうと、看護室の扉が開き、紘藤支部長と、澪標さん、断さんがいた。
「いや、別に盗み聞きしようってわけじゃなかったんやで、なぁ」
支部長が澪標さんと断さんに聞く。しかし、澪標さんは僕を睨んで動かない。断さんは首を動かしただけだ。そんな二人の態度に支部長はため息をついた。
「お前らなぁ、まぁええわ。ほんで伝えとくで、四国支部(南エリア)の最強コンビがでてくるらしい。ワイが南エリアの支部長に話を付けた。今出てる、任務が終わり次第、来てくれるそうや」
「本当ですか」
そう聞いてしまう。それが示すのは僕が嵐龍を倒せないということ。それは想像以上に悔しい。唇をかみしめていると、宴が言う。
「支部長ー、その最強コンビが出てくるまでに時間はかかりますよね?それなら彼らが到着するまで私たちに戦わせてくれませんか?『物語』が始めれるかを確認したいんです」
「はぁ!? 何言うとんねん、宴。なんでお前らを行かせなあかんねん。負けるのわかって送り出せるか、それに『物語』ってなんやねん?」
当然のように支部長が却下した。それもそうだ。僕は負けて帰ってきた。そんな奴にもう一度チャンスなんか与えられない。
「違いますよ、十三だけじゃなく私も出るんです。仲間を組んで戦うんですよ。それにガルガンティアとパンドグリュエルが揃ったんです。出来ます。根拠を話します」
そういって、宴は僕に話した時と同じように支部長たちにもさっきの話を話した。
「正直言って、眉唾もんや。そんなん。信じられへん」
それが、宴の話を聞いて支部長が言った言葉だった。やっぱ、だめかと思った時、支部長の電話が鳴る。
プルルルルルル、プルルルルルル。支部長は電話に出た。
「もしもし、ワイや。なんや、歴木。何の用や?」
「はぁ、面白そうな感じがしたからかけた、やと? 何をとち狂ったこといってんねん、あ、こら」
支部長の電話を宴がとって、話をしだした。途中、支部長が電話を取り戻そうとしたけど、宴が睨んで縮こまった。無理もない。僕はビビったし、澪標さんは僕を睨むのを忘れて怯えている。断さんは目を見開いていた。
暫くして、宴は支部長に電話を返した。その時支部長がなんやねん、もう。とか言ってたが割愛する。
「はぁ!? あの二人に時間稼ぎで戦わせてやれ、やと? 何を言うとんねん、お前。今下手に刺激したら、どうなるか分からんやろが!」
「いや、確かに、相手が何もしないという保証はないけどやなぁ。なんで、いきなりそんなこと言うねん? ……はぁ? お前その『物語』を信じるんかいな、正気か?」
「あー、あーもう分かったわ。言う通りにすればええんやろ? そもそも同じ支部長でもお前の方が権限が上やから逆らえへんちゅうねん。せやけど、ええんか。責任がつくで?」
「あー、そうか。分かったわ。ほな、切るで」
そして、長い話をしていた支部長はため息をついて、いう
「討伐者玖凱 十三、謳来 宴この両名に南の討伐者最強コンビが来るまでの時間稼ぎを任務に指定する。尚、この権限は南エリア支部長 歴木から東エリア支部長 紘藤に壌土され、紘藤が決定する」
「出来るもんなら倒してこいや、ほんで『物語』を見せてみろ、証明せえ」
それは、実質嵐龍と戦える最後の機会だった。
「澪標、玖凱の治療に会ったってやれ、お前さんなら一日である程度は回復させることができるやろ」
支部長がそう言っても、澪標さんは不機嫌なまま何もしない。宴が肘で僕をつつく。どうにかしろといいたいらしい。いわれなくても、澪標さんが怒ってるのは僕のせいだ。だから、まずは謝ろう。
「澪標さん、約束を破ってごめん。でも、僕は嵐龍に勝たなきゃならない。いや、勝ちたいんだ。糸定たちの敵を取りたいんだ。無茶で都合がいいことを言ってるのは十分に承知している。だけど、僕は」
「…………はぁー、しょうがないですよねぇ。玖凱さんってぇ。分かりましたよぉ、なら、今もう一回約束してください。玖凱さん。必ず生きて帰って来ること。それと、男の子なんですから宴さんも守ってあげてくださいねぇ?それが約束できるなら治療にあたりますよぉ」
「ああ、勿論だ! 有り難う、澪標さん」
そこで黙っていた宴が言葉を出す。
「じゃあ、十三。私たちは明日の朝。嵐龍がいるといった。無人島である淡路島に行くよ。今から私は支部長と明日の準備のために動く。移動は断くんにやってもらう。だから、断くんにもキチンとお礼をいっておけよ、じゃあな、また明日だ」
そういって、宴は支部長と看護室を出た。残るのは僕と澪標さんと断さんだ。とりあえず、断さんにお礼を言わなくてはならない。
「あの、断さん僕を二度も救ってありがとうございました。それと、明日の件もよろしくお願いします」
そういって僕は頭を下げた。少し間が開いてから断さんが口を開く。
「…………お前は、糸定が期待していた。…………糸定は俺にお前と梁山を頼むといった。……梁山は今、どこにいるのかは分からない。……任務を遂行するといっていた。……故に俺には止めることは出来なかった。……だから、言う。……死ぬな。…………俺が言いたいのはそれだけだ。……礼はキチンと受け取った。……じゃあな」
そういって、断さんは看護室を出ていった。
「凄い方でしたねぇ」
澪標さんは一気にゆっくりと喋った断さんにそんなことを言った。
「いい人だよ」
僕はそう言うことしかできなかった。こんなにも力を貸してくれる人が自分にはいるんだ。勝たなければいけない。否、勝つ。それだけだ。単純解明で分かりやすい。その為には体を回復しなければならない。
「じゃあ、治療をお願いします。澪標さん」
「はい、任されましたぁ」
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翌日、朝九時この場にいるのは、僕と宴、支部長に澪標さん、断さんの五人だ。
支部長が確認するように言う。
「それじゃあ、分かってると思うが一応、補足で言う。今から断が転移魔法で玖凱と謳来を決戦の場、淡路島に連れていく。断は転移魔法が終わり次第、軍勢に帰還。南エリアのコンビが到着次第、彼らを転移魔法で連れていき、そのあと玖凱と謳来を回収する流れだ。質問はないな?」
「はい」
「なんだ、玖凱?」
「別に嵐龍を倒してしまって構いませんよね?」
「できるものならな」
「じゃあ、健闘を祈る!」
断さんが僕らの方に来た。そして、宴が僕に手を伸ばして言った。
「さぁ、私たちの『物語』を始めよう」
最終回っぽいフラグ建ててたけどまだまだ続くよ。っていうか序盤だし。