番外編~記憶は消えない。ただ忘れているだけ~
記憶とは鍵の付いた扉、あるいは引き出し。
決して消せるものではなく、忘れてしまっても、それは扉に鍵をかけてしまっただけ。
その扉の鍵を見つければたとえ忘れていても思い出せますよ。
記憶の扉は人によって違います。顔と同じですよ。
記憶力の良い人はどの扉がどこにあるか鍵はどこの鍵かわかっている人。
普通の人は扉の区別がつかない人。
稀にいる記憶喪失の人は鍵をかけたまま鍵を無くしてしまった人。
さて、このお話はそんな記憶の扉が開きかけたまま転生したものの、肝心な扉の鍵を無くしてしまった彼のお話。
鍵はいつ見つかるかな?
俺には、生まれた時から不思議な記憶がある。
それは、俺が今の姿ではなく、“人間”の姿をして暮らしている記憶。
夢のように虚で、でも確かに俺がそこで生きていた。
そんな記憶をよく夢で見る。
俺は緑が少なく、建物が密集している“人間”の群れで生活していた。
親は居なかった。
死んだ訳じゃない。
捨てられたんだ。
産まれて直ぐに。
別に記憶の中の俺は母親を恨んでいない。
一人で子供を育てるのは苦労するだろ?
悲しかったけど、家族みたいな仲間がいた。だから耐えられたんだ。
それに、俺を引き取ってくれた《孤児院》群れの《院長》長に母親が“てがみ”を置いて行ったらしく俺の“人間”の頃の名前も母親が自ら付けてくれた。
“てがみ”は俺を置いて行く事を心配していた。
何度も、何度も俺をよろしくお願いしますと頼んでいた。
そんな産んでくれた母親を残し、俺は恩も返さず、成長した姿も見せず死んでしまった…。
******
小さい頃、“人間”の俺は恋をした。
もちろん同じ“人間”の女の子に。
その娘は小さかった。歳は俺と同い年、周りの同い年の子供の中でも一番小さかった。
よく年上のいじめっ子達に“ちび”と言われイジメられていた。
でも、その娘は助けに入るヒマも無く、いじめっ子に仕返しして逆に泣かせていた。
俺は感情が薄くあまり群れに馴染めていなかった。
そんな時その娘が俺に話し掛けてくれた。
嬉しかった。
それから色んな馬の話をした。
その娘は、馬が好きで、いつも話は馬関連だった。
だが楽しかった。
俺はその後直ぐに新しい親に引き取られた。
とても優しい人達で、温かく家族に迎えてくれた。
でも、どか寂しかった。
それから、15歳になって、またその娘と再会した。
あの娘は怒るけど、
身長がやっぱり小さかった。
俺の事は覚えていないけど会えて嬉しかった。
あの約束やっぱり覚えてないみたいだな……。
忘れているなら仕方ないと諦めた。
諦めたく無かったが、嫌われなく無かった。
******
「(玉砕してもいい、諦めずに、告白すればよかった。)」
白いしましまの付いた黒っぽい平らな場所で、俺は横たわりながら思った。
「(そういえば***は黒い毛並みの馬が好きだったっ・け‥な…‥)」
辺り一面真っ赤になった場面で記憶はいつも終わってしまう。
最初にこの夢を見た直後、俺はまた親と離れ離れになってしまった。
終わり