第5章
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「よう、遅かったじゃねぇか」
「・・・なんでまたこんなところにいるんだ?」
「なんだ、神様がコーヒーすすってちゃいけないってのか」
「そうじゃなくて」
とりあえずと向かった食堂で俺たちを待ち構えていたのは昨夜俺に素晴らしい贈り者を授けてくれた神様だった。
「いや、この神に何か聞いておいた方がいいことがあるんじゃないかと思ってな、こうしてご足労してやったというわけだ」
「そりゃ聞きたいことは山ほどあるぞ。久遠の年齢とか、久遠の好きな食べ物とか、久遠の趣味とか、久遠の身長とか体重とか特技とか血液型とか・・・」
「お前な、隣に本人がいるのに俺に聞くなよ。っつーか、まだ名前しか聞いてないってのはマジか?」
「なっ、何を馬鹿な。おいおい聞いてくつもりなんだよ」
確かに、久遠と出会ってから8時間と23分44秒たってはいるがそれはしょうがないだろう。実際に久遠といた時間はそれよりはるかに短い15分3秒しかないんだからな。
「あのーそれより聞いておいた方がいいことってなんでしょうか?」
さすが久遠。俺の聞きたかったことを的確に聞いてくれた。
「それはこいつが今思ってることだ」
「久遠のスリーサイズか」
「違うわっ!」
「えっえとスリーサイズってなんですか?」
「真面目にしろ。混乱しちまってるだろが」
「すまん。つい」
では、真面目にするか。
「久遠から聞いたんだが彼女に危害が及ぶとやばいことになるらしいな」
「あぁ。そのことだがな」
神様が飲みかけのコーヒーカップを置く。
「今からする話はお前にとって重荷になるかもしれない。その結果お前が彼女と別れることになっても俺は責めん」
「そんなことありえるもんか。久遠と別れるぐらいなら本当に俺は死を選ぶぞ」
今まで彼女のいなかった俺に彼女ができた。目の前を照らしてくれた久遠を手放すことなんざ考えられないね。
「落ち着け、俺の話を聞いてからでも遅くは無い」
「一体何なんだ。その重荷ってのは」
「単刀直入に言おう。彼女は核兵器なんだ」
「それで」
「それでって・・・相変わらず彼女のことは鵜呑みにするんだな」
もしかして神様は彼女が核兵器だから俺が別れると思っているのだろうか。だとしたらとんだ見当違いと言わなければならない。俺は自分を好いてくれるんだったら幽霊でも妖怪でも構わないと常々思っている。
「いやいや核兵器だぞ?爆発したら死んでしまうんだぞ」
「もし久遠が本当に核兵器だとして爆発してしまう可能性があるのか?」
「あると言えばある・・・ないと言えばない」
神様らしからぬ歯切れの悪い答えだな。
「俺に言ったよな、彼女をくれると。それがどうして核兵器なんだ」
「それを説明するにはまずお前に対して一つ謝らなければならん」
「何についてだ」
「お前の願いを叶えるために彼女を作ったと言ったな。ありゃ嘘だ」
俺の願いってのは彼女が欲しいってやつだったな。
「そうだ。俺がお前の願いを聞いたとき、もうすでに別の奴の願いを聞いた後だったんだよ」
「そりゃどういうことだ」
「俺が叶えた本当の願いは『この世から核兵器を無くしてほしい』というものだったんだ」
「そりゃまた高尚な願いだな」
俺なんか彼女が欲しいだぞ。その願いをした奴と比べると悲しくなるな。
「その願いを聞いた俺はとりあえず全世界の核兵器と呼べる代物を集めた」
「ふんふん」
「集めたまでは良かったんだが処理方法でちょっと困ったことが起きてな」
「そんなこと、神様なんだから消滅させたら終わりだろ」
「簡単に言うな。無から有を生み出すのが大変なように有を無に帰すのもまた大変なんだよ」
人間的には無から有なんてどうあがいても無理なんだがな。
「だったら宇宙にでもほっぽり出したらいいんじゃないか?誰も文句言うやつはいないだろう」
「あーそれも考えたんだけどな。許可が下りなかったんだ」
「許可?誰の?」
神様が許可を得るっていったい誰にだ。神様より偉い存在がいるのか?
「語弊が無いよう言っとくが俺は神様でも地球の神様だ。火星には火星の神がいるし他の銀河にはそれぞれ神がいる。彼らに迷惑はかけられんからな」
なんだか途方もない話を聞いている気がする。これらをもとに宗教を作り上げられるんじゃないだろうか。勿論俺はしない。そんなことするぐらいだったら久遠とのデートプランを考える方がはるかに有意義だ。
「それで俺は考えた挙句、これを有機生命体に変えようと思ったんだな」
「それが久遠ってわけか」
「そうだ。流石に核兵器そのものを人間には出来ないから一度エネルギーに変換してそこから人間として変換し直した」
「じゃあ久遠が俺の理想の容姿なのは」
「たまたま俺に文句垂れてなのが聞こえてな。ちょうどいいからお前の思考を読みとって再現したんだよ」
「それで」
「それでって、以上だが」
今の説明は久遠の出生の秘密ってとこだろ、肝心なのは・・・
「それじゃあ久遠に何かあったらやばいってことの説明になってないじゃないか」
「聞きたいか?」
何をもったいぶっているんだろうか。
「あぁ」
「・・・これは俺のミスと言えばミスなんだが、彼女を創った際にエネルギーを余らせちまったんだ」
「だったらどうなるんだ」
「地球上を一掃できるぐらいのエネルギーがまだ彼女の中にある」
「じゃあもしそのエネルギーが久遠から放出されてしまったら・・・」
「地球終了のお知らせってやつだな」
「どうすれば防げる?」
「簡単だ。このまま彼女が天寿を全うできればいい」
久遠が生きている間、久遠自身がそのエネルギーを消費し続けると、神様が付け加える。
「久遠が万が一交通事故や病気によって大事に至ったら?」
「そこんとこは大丈夫だ。彼女は人間と言ってもウイルスや物理ダメージが致命的になるようには創っていないからな」
じゃあ何が問題なんだ。どうなってしまったら久遠から地球を滅ぼすほどのエネルギーが放出されるっていうんだ。
「彼女が自分自身で生きる望みを絶った時だ」
「・・・自殺ってことか」
創られたばかりの彼女にそのような概念があるかは疑問だがそのような状況下に陥ることが無いように気をつけなければいけないってことか。