第3章
4話目です
どういう話の流れでこうなってしまったのかは分からないが俺たちは学園にいた。ちなみに指示する方指示する方にずんずん進んでいく彼女をしり目にしていたため、天向坂で手を握ることは叶わなかった。帰りには是が非でも決行したい。
「でもすごいですね、この学校。宙に浮いてる?んですか?」
「あぁ、それはうちの学園の自慢というか特徴なんだ」
俺が通っている私立映涼学園は宙に浮いている。学園自体が浮いてるんじゃなく土地ごと、つまり某天空の城みたいな感じになってるってわけだ。
「どういう原理で浮いてるんですか?」
彼女が当然の疑問のように訊いてくる。
いや、それはな・・・
「説明しよう」
うわっと。
「この学園が浮いているのはね、とてつもない重大な秘密があるのよ」
俺の幼馴染にして守銭奴の空海が俺たちの間に割って入るように現われた。
「ふんふん」
「それが何かと言ったら・・・」
「言ったら?」
彼女は眼をランラン輝かせて聞き入ってるが。
「ここからはタダじゃ教えられないわね」
当然のようにてのひらを彼女に差し出す。
「はい」
「なんですか?」
「いやぁね。お金よお金」
「お金ってなんですか」
「冗談言ってるの?それともこれ以上は別に知りたくもないかな」
「え、と」
「おい空海。見知らぬ人間にたかるんじゃない」
軽く空海の頭を小突く。
「イタッ。・・・じゃあ自称天才のあんたが教えてあげればいいじゃない」
「天才にも分からないことはあるんだよ」
この学園がなぜこのような仕様になっているのかは分からない。歴史の一部として組み込まれているぐらい遠い昔からの出来事なのは確からしい。
「何せ世界中の科学者、地質学者、物理学者etc.【自称】がつく怪しい奴らも片っ端からこの島を調べまくったが出てくる結論は皆同じ」
「分からない、ですか」
「そう。誰もこの島が何故浮いているのかを解明することは出来なかった。科学である程度のことはできる時代になってもやっぱり分からないものは分からないものなんだ」
「あっ、でしたら」
ふと、彼女が何かを思いついたように、
「これもひょっとして神様がされたことなのではないでしょうか」
「・・・・」
空海が沈黙する。
まずい。いきなり空海が現れたのに驚いて彼女のことを考えてなかった。
「・・・・・あんたさぁ。聞くのが遅れたけどこの子何者なの?珍しくあんたが私じゃない女の子を連れて登校したと思ったら、神様のおかげって・・」
やばい、警戒の色が目に見えるくらい怪しんでいる。
「いや、彼女はあれだ、ほらあの」
「なにしどろもどろしてんのよ。ひょっとして人に言えないことしてんじゃないでしょうね?」
そうだ、何を戸惑っている。
この娘は俺の彼女だ。一体何を隠す必要があるだろうか。
いいぜ空海、紹介してやるよ。こいつの慌てる様が目に浮かぶぜっ。
俺は目いっぱいふんぞり返りながら、はっきりとした口調で告げる。
「あぁ、紹介が遅れてしまったな。彼女は・・・」
「彼女は、なによ」
「いや、彼女はだな」
「だから、なに!」
・・・しまったーっ!
今までが驚きの連続で今頃とんだ凡ミスに気がついた。俺は、アホか、大馬鹿か。
俺、まだ彼女の名前知らねぇ・・・・
「えと、あのだな」
どうする。彼女の名前も知らないでどうしてこいつに付き合っていると言えるんだ。馬鹿にされるのがオチじゃないか。
とにかくなんとかせねば。俺は名前も知らない彼女に必死にアイコンタクトを送る。頼む、気づいてくれ。
「あ」
彼女は俺のアイコンタクトに気づいてくれたようだ。空海の前に立つ。
「えと、自己紹介が遅れました。私の名前は聖火久遠。彼の彼女です。よろしくお願いします」
「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、そう。あ、私の名前は町田空海。こいつの幼馴染よ。こいつとは幼馴染なの。よろしくね」
何故2回言った。
それよりも、彼女久遠っていうのか。さすが俺の彼女、いい響きの名前だ。
「というわけで、俺の彼女の久遠だ。仲良くしてやってくれ・・・?」
空海の様子がなんだかおかしい。顔はこちらに向けているが視線が俺を越して向こうのほうを見ているような気がする。
「・・・・・・一万円」
は?
「一万円よこしなさいよ」
「ちょ、ちょっと待て。なんで俺がお前に一万円をあげなくちゃいけないんだ?」
「紹介料よ、紹介料。ほら、さっさと渡すっ!」
「おい、制服を引っ張るな。コラッ!」
「うるさい!」
「別にお前の紹介で久遠と付き合うことになったわけじゃないだろ」
「いいから、寄こすっ!」
「あっ、おい!」
財布を取られ、空海が走り去る。
なんちゅう逃げ足だ、もう校舎の中に入って行ってしまった。
「はー・・・お二人とも、仲がいいんですね」
「いや、単なる幼馴染だよ。というか、仲良くみえたのか」
やはり生まれてすぐだからだろうか。普通の人間とは感性が違うようだった。