第1章
2話目です。誤字脱字等ございましたらどんどん指摘してくださいませ。
その夜のこと。
学校の宿題をものの10分で片付けた俺は明日の予習を颯爽とこなしさっさと床に就いていた。
「おい、起きろ」
『・・・ぬぁ・・・』
「起きろ、こら」
『もう5分だけ・・・・』
「起きないと・・・・・・ぶち殺すぞ」
「うおっ!」
ガバッと上体を起こす。なんだ?今、物騒な単語が聞こえた気がしたぞ?
「やーっと起きたかこの野郎は」
後ろで声がする。俺の安らかな眠りを妨げたのはこの声か。
振り向いて姿を確認しようとすると、
「おーっと振り向こうだなんて考えるな。俺の姿は見ない方がいい」
妙にドスの利いた声で制された。
「・・・なんだ?お前は強盗なのか?」
寝ぼけた意識が徐々にはっきりとしていく。と共に背後にいる男に危険を覚えた。俺の部屋にいるこいつはいったい何者だ。なぜ俺の部屋にいる。どうやって入ってきた?
というか、この状況はまずい。本物の強盗なら命の危険がある。
「えーと、そうだ。強盗ならこの家はお勧めしない。両親が共働きでやっと成り立てているような家だ。預貯金も大した額はない。どうしてもというなら1階の冷凍庫の中だ、通帳がある」
「ふむ・・・なるほどな」
俺はなるべく刺激しないように説得を試みる。
こんなところで死ぬわけにはいかない。まだ運命の女神とも出会っていないし、一緒に海水浴に行って女神の水着が取れるハプニングを体験していない。
だが俺の説得をどう受け取ったのか、背後の男はなんのリアクションも返さない。機嫌を損ねてしまったのだろうか。
「なぁ」
恐る恐る振り返る。
「・・・いない、だと?」
確かにそこにいたはずの声の主は影も形もいなくなっていた。
一体何なんだ。俺は夢でも見てるのか?
「寝るか」
たぶん疲れていたのだろう。それで寝ぼけていたのだ、そうに違いない。
体を布団に預ける。結構衝撃的な目覚めをしたというのに意外に早く眠りにつけた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「・・・・あのぉ」
またか。自分の夢とはいえ同じものを何度も見るのは興が覚めるな。
ここは先ほどと同じリアクションを返すことにする。
『・・・ぬぁ・・・』
「起きてくれませんか?」
なんだか違和感を覚える。さっきはドスの利いたいかにもな声だったが今回はなんだか可愛らしい女の子のようだ。
ここも同じ返事だ。
『あと30分だけ・・・』
さぁ、どう来る。
「起きてくれないと・・・・・・キスしちゃいますよ」
『グゴーーーーッ!』
駄目だ、眠くてかなわない。こりゃあ後1時間は寝続けないといけないなぁ!
しかし、我ながらなんと素晴らしい夢を見ているのだろう。これはまるで新婚ホヤホヤの月曜日の朝、起きない夫にちょっとしたお茶目を試みる新妻とのワンシーンのようではないか。夢を録画できないのが非常に残念でしょうがない。こんど机上空論研究部にかけあって作ってもらうとするか。
さっきの強盗犯はメインディッシュを控えての前菜だったのか。
なるほど、納得だ。
とにかくこのままいけば俺は夢とはいえかなりおいしい思いができるはずだ。ここは待て、待ち続けるんだっ!
「えと、困りました・・・」
かわいらしい声の主は明らかに迷っている。考えるな、感じるんだ!
「じゃあ・・・いきます」
声の主は意を決したようだった。何かの気配が顔に近づいてくる。
よし、来い!
・・・ベチャッ。
キターーーーッ・・・・・?
「は?」
ほほに生暖かいものをぶつけられる。それに生臭い。流石に目を開けて、見た。
「これって」
望み通りのキスだった。・・・魚であることを除けば。
「なんじゃこりゃあー!」
「あの、何ってキスですけど」
そんなんわかっとるわい!キスと魚のキスってベタすぎるだろが。
「そもそもお前は誰なんだ。俺の夢が生み出した幻なら、キスの一つぐらいブチュッとしてくれてもいいだろうが。えぇ?」
そう言って声のする方を初めて姿を見る。
「お、おぅ」
ヤバイ、かわいい。
俺と同い年ぐらいだろうか。俺より背は若干低いぐらいで腰まである烏の濡羽色の黒髪はその見た目に対し軽やかに風に揺れている。ぱっちりとした二重の眼、透き通った白い肌、白魚のような指、控えめだが形のいい胸、すらりと伸びた細い脚。
そして・・・そして!
彼女の美しい目をより一層引き立てているその眼鏡!自己主張に走らずあくまでも彼女にアクセントを与え、それでいて一つのチャームポイントとしての役割を果たしている。
完璧だ、俺の理想のすべてを反映しているといっても過言じゃあない。
「ってそりゃそうだ、夢なんだからな。しかし流石俺の夢だ。こうも完ぺきに俺の嫁を再現して見せるとは」
全く。俺の天才っぷりもここまで来ると恐怖を覚えるね。あぁ怖い怖い。
「いえ、夢じゃないんです」
いい、皆まで言うな。たとえこれが夢だとしても、一時の清涼剤になることは間違いないんだから。少なくとも明日の目覚めはこれ以上ない爽やかなものになるに違いない。
「そんなことより、お茶でも飲みにいきませんか?」
「話を聞いてください!」
「なるほど、名前を聞いてなかったですね。俺の名前は君島遥、あなたは?」
「私は・・・じゃなくてこれは夢じゃないんですってば!」
しつこいな。寝て夢の中で話しかけられているんだぞ。夢に決まってるじゃないか。
「そんなことより、お茶に・・・いや映画のほうがいいですか?」
「もう、これならどうですか?」
ギュッ!
思いっきりほほをつねられる。
「痛っ」
・・・・マジで?
「ね?夢じゃないでしょ」
いやしかし、夢の中でも痛いと感じると何かで聞いたことがある。
「あのですね、夢だったらこんな複雑な会話なんて出来ないでしょ」
言われれば、確かに。夢の中だというのにこんなに思考が冴えているのは初めてだ。夢の中でこれが夢だと自問自答したことも今までに一度もなかった。
「いい加減信じてください。話が先に進まないじゃないですか」
「まぁ百歩譲ってこれが夢じゃないとして・・・おいおい、ここはいったいどこなんだ?」
改めて周りを見渡して驚いた。
彼女を見るのに夢中で自分がどこにいるかなんて考えもしなかったからだ。
どこを見渡しても星空だった。足元には地面が無く星空が広がっている。単身宇宙に放り出された、そう言えるような状況だった。
「宇宙です」
だろうな。じゃあそれこそ夢でないと死んでしまうではないか。なぜ俺は今も生きていられる?体が爆発したり、窒息したり凍りついたりしていないのはなぜだ?
「そこはほら・・・あのお方の力ですよ」
「あのお方って誰だ?というか君はいったい何者なんだ」
と、そこで背後に人の気配を感じるとともに俺の後頭部に冷たい塊を押しつけられた。
「よお、あのお方の登場だ。またあったな、気分はどうだ?」
このドスの利いた声はいつぞやの強盗犯か!
「おいおい、勝手に強盗犯だと決めつけるなよ。この44マグナムが火を噴くぜ?」
カチャリと音が響く。本物の拳銃だと信じるならば、撃鉄が起こされた音だろうか。
というか、強盗犯でなくともそんなものを所持している時点で危険な奴に変わりないだろ。
とにかく、これ以上刺激を与えないようにしなくては。夢だとしても殺されるのは勘弁願いたい。
「悪かった。声で判断した俺のせいだ、許してくれ」
両手をあげ、詫びる。
「わかりゃいいんだ。わかりゃあよ」
頭から冷たい物が離される。ひとまずは命の危機は回避できたようだ。
「しかしだな。声だけで人となりは判断できない。できれば姿を見せてくれないか」
このまま姿が分からないまま会話をするのは気味が悪い。ただでさえ今俺の置かれた状況を判断できていないのに、だ。
「いいだろう。振り返っていいぞ」
割とあっさり許可してくれた。恐る恐る振り返る。声だけで想像するに、相当いかつい人物の姿が脳裏に浮かぶ。
「よぉ。どうした?鳩が豆鉄砲食らったような顔なんぞして」
「いや・・・ちょっと想像と違っただけだ」
子供だった。小学生だろうか、背は俺の胸ぐらいまでしかない。男の子・・・だろうな。これぐらいの年頃はパッと見判断付きにくいがあのドスの利いた声だからな、男の子で間違いないだろう。
「想像と違う?まぁいい、時間があまりないから手短に言うぞ。お前に・・・」
「ちょっ、ちょっと待て。お前はいったい誰なんだ。ここはどこなんだ。彼女は誰なんだ」
小学生の話を遮る。勝手に話を進められても困る。
「ったく、時間が無いって言ってるだろ。質問は一つにしろ、一つに」
「彼女は何者なんだ」
「・・・その質問でいいのか?」
もちろんだ。何をおいても優先させれるのは彼女が一体何者かということだろう。
「まぁ俺もこいつのことで来たからちょうどいいんだが、それなら話は早いな」
よし、やっと彼女の名前から何からが明らかになる。
「用事ってのはな、こいつをお前の彼女にしてほしいんだ」
「よし、分かった」
「お前な・・・ちっとは驚けよ。即答するか普通?訳の分からない場所で見ず知らずの小学生が見ず知らずの女の子を彼女にしてくれって頼んだら、普通驚くなり疑問を抱くなりするだろ」
小学生があきれたようにつぶやく。
そう言われたなら、まぁ聞くのにやぶさかではない。
「じゃあ聞くが、なぜこんな訳の分からない場所で見ず知らずのお前に見ず知らずの女の子を俺に彼女にしてほしいと頼むんだ?」
「そうだな、うーむ何から言ったらいいのか」
小学生は何やら考えているようだ。
いやいや、お前が疑問を抱けというから聴いてやったのに。今さら何を迷っているんだ。
「迷うなよな。俺は大体のことは鵜呑みにする覚悟はできてるよ。安心してすべて打ち明けてくれ」
そうさ、どうせ夢の中の出来事なのだろう。今までにないリアルな夢だけどな。それならそれでいろいろ楽しませてもらおう。
「そうか。そういうことなら・・・まずはこいつのことからか。彼女は俺が創った。お前たちで言う・・・人造人間みたいなものか」
「なるほど、信じよう」
「お、おう。相変わらず驚かねぇな。まぁいい、それで俺はだな。神様だ」
「なっ、なんだってー!」
「おい本気で驚いてないだろ」
当たり前だ。自分を神様だ、と言われてはいそうですかと首を縦に振れるわけないだろ。しかも外見が小学生だぞ。一足早く中二病に罹患してしまったと考えるのが普通だろ。ちなみに俺は教会に通ったり念仏を唱えたことはない。
「こいつのことはあっさり信じたのになんで俺のことは信じないんだよ!」
「あえて理由を言うなら、彼女が可愛いからか」
全く、こんなに可愛い女の子を疑うなんて失礼極まりないだろう。
「あのなぁこいつのこと忘れたわけじゃあるめぇな?」
自称神様が懐の44マグナムをちらつかせる。
「おいおい、神様たるものが人間の創りだしたもので俺を脅そうってのか?」
「ちっ、口だけは達者な奴だな」
「ありがとよ。冗談はさておきここは一体どこなんだ?」
相変わらず周りを見渡しても星空ばかりで殺風景が広がっている。地球も月も見つけることはできない。俺の夢は宇宙までは完全に再現しきれなかったようだ。
「神をここまで侮辱した奴はお前が初めてだよ」
そう言って、再び腕を組んで黙考する自称神様。
顔をあげ、
「ええい、お前がこれを夢と思っているならいるで構わん。最後まで付き合え」
ドスの利いた声にさらに威圧感の加わった声で俺を指さした。
思わず、
「わっわかったよ。お前は神様で、彼女は人造人間みたいなもの。これでいいか」
認めてしまった。
「OKだ」
神様がうなずいた。
「じゃあ、まずは何故お前がここにいるかの理由から説明するぞ」
「あぁ、頼む」
「お前、今日俺に文句垂れてたろ」
「ええと・・・・・・あぁ、そんなことあったなぁ」
あれは朝だったか、幼馴染の空海との会話の中で心の中で毒づいたんだっけか。
「すごいな。俺の思ったことが分かったのか?」
「神。だからな」
しかしそれは大変なことだろう。世界中の人間が一日何回神様に文句を言ってるかを想像して少しげんなりしてしまった。
「それも普段耳を貸してないからな。今日は特別だったんだよ」
「特別、とは?」
「何百年に一度だけ無作為に選んだ人間の願いを叶えてるんだ。それがお前だった」
ということは、もしあの時俺が大金持ちになりたいと願っていたら一勝左うちわの生活が待っていた?
「まぁそうだな。でもお前はこいつのほうがいいだろ?」
そういって神様とやらが彼女を指さす。
「もちろんだ」
金か彼女かと言われたら俺は間違いなく彼女を選ぶ。世界選択選手権があっても多分ぶっちぎりで優勝できるスピードで選ぶことだろう。
「しかし今回は変わった願いだったからな。叶えるのが少し大変だったんだぞ」
「ちなみに今まではどんな奴の願いを叶えてたんだ?」
神様に選ばれたような人間だ。歴史上に名を残す人間ばかりなのだろう。
「最初はエジプトだったか。美しくなりたいと願ってた人間の願いを叶えてやったな。その次は日本で、飼ってた馬の病気を治してやりたいと願ってたやつがいたからその馬を治してやったな。その次はアメリカで空を飛び方の研究をしてたやつに方法を教えてやった。電子レンジも俺が知恵を授けてやったんだぞ」
なんだか願いがピンキリだな。最初の奴はひょっとしてクレオパトラ・・・か?ひょっとして。
「俺の願いが大変だったってのは何故だ?前のと大して変わらないだろ」
「アホか。全然違うわ」
バッサリ切り捨てられた。
「考えてみろ、人だ。いうなれば命だ命。そんなもん簡単に作れるか」
言われてみれば確かにそうだ。今の科学技術ではクローンは作り出せても、大腸菌一つ作り出すことはできない。命というのは尊いものだ。
「まぁそこら辺はほら、神だから。出来ないことは無いんだけどな」
確か新約聖書にはアダムとイブを作りだしたのは神様とあったな。
「おうよ。だが命を作るのは骨が折れてな。今は正直、しんどいんだ」
しんどい、と言われてもその様子をうかがい知ることが出来ないが。
「彼女が創られた存在ってのは分かった。それは置いといて、何故こんなところで、何だ。俺の部屋でも良かっただろ」
こんな何もない宇宙空間でする話でもないんじゃないか。
「万が一、もし万が一誰かに聞かれたら困るからな」
「誰かって誰だよ。聞かれたらまずい話なのか」
「考えてみろ。お前の母親でいい、面倒くさいことになるだろうが」
そりゃあ、こんな深夜に見知らぬ美少女とちっこい小学生が俺の部屋にいたら何事かと問い詰められはするだろうが。
「そこはほら、神様なんだから何とかできるんじゃないか。記憶を消すとか」
「だからさっき言っただろ。しんどいって」
ここに連れてきてお前たちの生命活動を維持するだけでもギリギリなんだ、と神様は続けた。記憶を消すよりそっちの方がしんどくないか?
「とにかく。お前には彼女がいない。神である俺がその願いを叶えた。それでいいだろ、な」
そりゃ、それ以上は願うべくもないが。
「じゃあこの話はこれでしめぇだ」
「ちょっと待て、まだ聞き足りない・・」
「じゃあな」
神様からものすごい光が放たれその瞬間俺は意識を失った。
もうしばらくは2,3日ペースで投稿できると思います。稚拙な文ですがお付き合いいただければこれ幸いです。