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プロローグ

多々お見苦しい点があると思いますが、最後まで付き合ってもらえたら光栄至極でございます。

「彼女が欲しい」

「あのね。朝通学途中の幼馴染に出会った第一声がそれってどういう頭してんの?まだ夢の中にいるわけ?」

 あぁ、朝から俺に対するその高圧的な態度は間違いない。現実の俺の幼馴染、町田空海本人だ。

「あんたの夢の中では私はどんな態度取ってんのよ」

「言ってやってもいいが、ピー音ばっかりになってもしらねぇぞ」

「誰が音声加工するってのよ・・・まぁいいわ」

 空海は興味を無くしたのか俺を置いて歩き出した。俺も続く。

 追いついたところで空海が顔だけこっちに向けた。

「ところであんた今日は鞄一つだけだけど、ひょっとして?」

「あぁ、部活辞めてきた」

 盛大にため息をつかれた。

「やっぱり。理由はアレ?」

「あぁ、ソレだ。退部届をたたきつけてやった」

「あんたほどの運動能力を持つのがそんな理由で辞められちゃ部員が泣くわよ」

「いいんだよ。入部するときにちゃんとその旨は伝えてある」

「ってかそんな簡単に辞めたりできたっけ?部活動の規則じゃ最低でも半年は所属しないといけなかったような・・・」

「部長の権限でどうにでもなるんだよ。それを認めさせるほどの貢献は一応しているからな」

「んで、運命の人には出会えなかったと」

「スタンドを一通り見たがいなかったな」

「ちなみにあんたの運命の人ってどんな容姿をしてるのよ」

 そうだな。俺と同い年で、俺より背は若干低いぐらい。腰まである烏の濡羽色の黒髪はその見た目に対し軽やかに風に揺れる。ぱっちりとした二重の眼、透き通った白い肌、白魚のような指、控えめだが形のいい胸、すらりと伸びた細い脚。

「ごめん、幼馴染ってことを考慮してもひくわ」

 それだけじゃない。彼女の美しい目をより一層引き立てる眼鏡!自己主張に走らずあくまでも彼女にアクセントを与え、それでいて一つのチャームポイントとしての役割を果たすのだ。

「もしそんな人がいたなら合掌するわ。あんたに会いませんようにってね」

「そんな言い方するなよ。俺は!運命の女神には!全力を尽くす!」

「うわっ、暑苦しっ」

「どうとでも言え」

 そうだ。

 俺が人生という限られた時間を部活に費やしているのは、体を動かすのが好きなわけでも、青春を感じるためにやっているわけでもない。

 彼女だ!

 俺は彼女が欲しい!年齢=彼女いない歴というもてない男のデフォ設定はもういらん!彼女とすごす学園ライフを満喫するまで卒業できねぇ!

 モテなきゃ屑だ!人間のゴミだ!

「・・・・」

「何か言えよ、空しくなるだろ」

「いや・・・そのエネルギーを少しでも勉強に向けたらと思ったんだけど」

 勉強か。まぁそれでモテるのならしないことでもない。

 だがそれで何になる。せいぜい教師からテストを返されるときに褒められるのをクラスの女子が数名気にかけるぐらいじゃないか。俺を目立たせるのに全然適してない。

「俺はな、自分をアピールするために部活をやってるんだ」

「聞いたわよ。彼女を作るのに手っ取り早いんでしょ」

 そう、手っ取り早いと俺は思っている。

 なぜなら俺は自分で言うのもアレだが天才だからな。

 野球をやらせりゃその日から4番でエース、サッカーさせればエースストライカー。剣道なら2刀流で相手をバッタバッタと薙ぎ払い、水泳なら犬かきで優勝できる。

 他は・・・思い浮かばないが、とにかく何をやらせても俺は完ぺきにこなせるんだよ。これを天才と言わずして何と言う。

 そんな俺をいまだにほおっておいている我が学園の女子たちの見る目の無さには半ば呆れ気味なのが俺の正直なところだ。

「人間のゴミだからみんな見逃してるんじゃないの?」

 嫌味ったらしくけなしやがる。だが事実だった。

「くっ、そうだよっ。それだけが俺の汚点だ」

 なぜだか俺には彼女ができない。運命の女神と呼んでいるのはそれほど彼女を切望しているからだ。

 別に他の野郎に彼女がいるからうらやましいとは決して思っていない。ただ天才のこの俺に彼女がいなくて他の野郎に彼女がいるという事実が許せないんだよ。手をつないで天向坂を一緒に歩いたり、一緒に屋上で彼女の手作り弁当を食べたり、バレンタインデーにチョコを渡されたり、ぜんっぜんうらやましくねぇ。

「あんたね。最初と違ってめちゃくちゃ羨ましがってるじゃないの」

「いや、違う。全然違うぞ。俺は出来るならスクーターで通いたいし、食堂のAランチをこよなく愛してる。バレンタインは妹にもらえればそれでいいと思ってるんだ」

「わかったわよ。あんたは全然羨ましがってない。これでいい?」

「もちろんだ。そう、そうだ。これは神様が俺に課した試練なんだ。モテない状況を楽しんでるに違いない」

「なんで神様があんたに試練を課すのよ」

「俺が天才なのを根に持ってるんだ。そうに決まってる」

 くそっ、神様の奴め。出会ったらガツンと言ってやるぜ!

「・・・もういいわ」

 何か言いたげな空海だったが学校に着いたせいかそれ以上会話を続けようとはしなかった。

「じゃあ俺はこっちだから」

 昇降口で靴を履き替える。

「あっそうだ。あのさぁ・・・」

 空海が言い淀む。

「なんだ。何か言いたいことでもあるのか」

「あっ、あのね・・・」

 うつむき視線をそらす。何を照れてるんだろうか、顔がほんのり赤く見える。

「えと・・・」

「早く言えよ。いまさら言い出しにくいことがある仲でもないだろ」

 幼馴染だと言うのにいきなりしおらしくなってどうしたんだ。

「私が・・・その・・・あんたの・・・・・・運命の女神・・になったげよっか?」

「はあ?」

「いや、だからね・・・」

「・・・・冗談はよせ、守銭奴であるお前とつきあえるわけないだろ」

「・・・ちぇー。ばれたか!」

「当たり前だ。昨日もやられたことを1日で忘れるアホがいるか」

 昨日もここで全く同じことを言われた。ちなみにその前の日もだ。冗談にしてはたちが悪い。こいつと付き合ったら多分俺の全財産は3日で底をつく。

 確実だ。

 なぜならこいつほど守銭奴の言葉が似合うやつはそうはいない。基本的に昼食は知り合いにお弁当のおかずを一品ずつ恵んでもらって豪華な弁当を作るのにいそしんでいる。放課後出会おうものなら当然のようにコンビニに連れて行かれ何かを奢らされる。半径1kmぐらいだったら小銭の音を聴き取り、その種類、枚数まで当てるような奴だ。これだけは天才の俺でも恐れ入る。

「あんたと付き合えたら将来不自由しそうにないんだけどなぁ」

 さっきまでの態度は一体どこに置いてきてしまったのか。頭の上に両手を乗せいかにもがっかりした態度をとる空海をみてため息をついた。

「付き合ってなくてもいろんなもん奢ってやってるだろ。それで勘弁してくれ」

「じゃあ早速今日の放課後だけど・・・」

「俺クラスこっちだからな。さらばだ」

 脱兎のごとくその場を離脱する。これ以上いては何を要求されるか全く想像がつかない。

「・・・あながち・・・だけどな・・・」

 何か空海が言っているような気がしたが他の生徒たちの喧騒でよく聞こえなかった。たぶんアイスの一つでも奢ってくれとかそんなことを言ってたんだろう。

 そんなこんなで放課後。

俺は部活の入部退部の管理をしている入部退部委員会を訪れ次には入る部活を何にしようか吟味し、めぼしい部活を2,3見つけ学校を後にした。



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