シスコン彼女の“二番目彼氏”ですが、結婚まで漕ぎつけました
「好きです! 結婚を前提に付き合ってください!!」
今、目の前にいる会社の後輩は、告白した俺をまっすぐに見据えて、凛々しい姿で相対していた。
『先輩、いつもお昼それだけなんですか? 栄養失調で死にますよ?』
俺にはどうしても買いたい物があって、そのために昼食代を節約していたら、後輩に言われた。
なんと翌日から、彼女は俺のために弁当を作ってくれるようになった。
仕事の残業後、呑みに誘えばいつも彼女は二つ返事だった。
「良いですよ。ただし妹が一番です。貴方が一番になることはあり得ません。それ以下で良ければ、お付き合いしましょう」
「……はい?」
脈ありだと思った後輩は、とんでもないシスコン発言で告白の返事をして来た。
理由を聞けば、俺が倒れて仕事に穴が空けば、その皺寄せで妹との時間が取れない。
妹の弁当を作るついでに、一人分増やすぐらい造作もない。
妹には残業で帰りが遅いとすでに伝えているから、付き合いの呑み程度、誘われれば行く。
要するに、そう言うことらしい。
惚れた彼女の芯の強さは、全て妹中心の生活を守るためだった。
「先輩、本当に私でいいんですか、どうしますか?」
「……絶対に、一位にのしあがってみせる! だから、よろしくお願いします!」
シスコンお断り! とも言えなくて、さらに告白を言い出したのは俺だから、引くに引けなくてそのまま交際を申し込んだ。
遠回しな断り文句なのかと思ったけれど、彼女の次の言葉で違うと気づく。
「はぁ……、絶対に無理だと思いますけど。今までもそういう人は皆、諦めて来たので。私はどっちでも良いですよ」
後輩はそういって苦笑していた。確かにカミングアウトは驚いた。けれど隠しもしないで告げてくれたことは、彼女なりの誠実さを俺は感じた。
少なくとも、妹の次に俺をまだ意識してくれていると思った。
――妹が好きすぎるくらい、別に可愛いものでは?
諦めたような発言は、これまでそういった面を見せて別れてきたからだろうか。
シスコン発言を聞くまで、そんな素振りが無かったほど彼女は普通に可愛い後輩に変わりなかった。
ただそこから俺は、文字通り負け続ける。
ある意味、試練の時間だった。
「あれ? 彼女は?」
「おう、お疲れー。彼女なら早退したぞ」
今思えば付き合う前は、当日のお誘いばかりだった、事前の約束だとこういうことも珍しくない。スマホでメッセージを送ると……。
《すみません、連絡忘れていました。妹が熱を出して呼び出しがあったので、さっき病院から帰宅したところです》
素っ気ない内容が一度だけ送られてくる。翌日から出勤することもあれば、数日欠勤が続くこともあった。体調不良ならば仕方ない。
「君の誕生日、良かったら――」
「すみません。誕生日はいつも妹と過ごす約束をしています」
毎年の誕生日も断られた。恒例行事ならば仕方ない。
「ホワイトデーなんだけどさ」
「あ、すみません。その日はお返しをくれるって先約が……」
相手が誰かなんて、明白だ。それでも俺はめげない、諦めない。
誕生日プレゼントは受け取ってくれる。日々のプレゼントも、だ。
邪険にされてはいない、大切に気遣ってもくれる。ただ、いつも二番目なだけだ。
「くぅ、俺は諦めないぞー!」
「おぅ、兄ちゃん、呑んでるねぇ」
何度目かの食事のドタキャン、俺は一人酒で今日も乗り切る。
仕事は一生懸命取り組んでいて、妹とのこと以外で、俺との時間をないがしろにしたことは無いし、一緒に過ごしている間は誠実だった。
「私の家、両親がすでに他界しているんですよ。親戚もいません。保証人、身元引受人、冠婚葬祭に至るまで、妹には私しかいないんです。だから、貴方が生涯一番になることはありませんよ? それでも本当に良いんですか?」
さらに年月をかけたが、返ってきたプロポーズの返事は、告白した時とほとんど何も変わらなかった。
けれど、付き合いの中で彼女が見せたものもまた、変わらなかった。そして理由を聞いて納得もした。
――なんだ、彼女なりに頑張ってきただけじゃないか。
むしろ、妹を優先しなければいけないことに彼女の方が、俺に申し訳なさそうにしていたくらいだ。
『あ、今日は妹がインフルエンザにかかって休みをいただきました』
『半休で参観日に……』
『今年は、あの子が受験なんです』
『就職が決まって、お祝いを』
『慣れない仕事が大変そうで……』
最初こそ空回ったが、次第に二人の足並みも揃ってきたんだ。
彼女も余裕があれば妹を優先する時に、事前に連絡をくれるようになっていた。ただただ、真面目で一生懸命な良い子だった。
仕事と家庭を両立する母のような彼女は俺より若いのに、弱音を吐かず常に妹を優先していた。それを俺も側でずっとみてきた。
「私は何よりも先ず、妹を優先しますよ、良いんですよね?」
どうやら俺が一番になるには、妹さんにいい人を探すところから始めなければいけないらしい。
前は彼女をまだよく知らなくて、遠回しな断り文句なのかと思っていた。
でも訊ねてくるということは、彼女なりに俺も思われているのだろうと今は思う。
「いいよ。それくらいの甲斐性はあるつもりだし、五年も一緒に過ごしてきたんだ。
俺は一度でも、妹さんを好きな君を疎ましく思ったりしなかった。だから君だってこの関係を続けてくれたんだよな。
一番じゃなくても、俺を見てくれるだけで嬉しいし、俺もシスコンな君ごとこれからも大切にしたいから。
順番なんて、俺はどうでも良いんだ。でもそうだな、俺の一番はずっと君のままで、支えたいと思った。だからさ、俺たち入籍しないか?」
――それに、同率一位って可能性もあるんだよな。
自惚れじゃなければ目の前の彼女は、どちらも大切に思ってくれているはずだ。
この五年、お互いに仕事を変えた。会社恋愛でなくなった。彼女の妹も成人した。
不満があれば後腐れ無く別れられる関係で、それでも結局別れなくて今にいたる。
――彼女の中で一番は妹で、最後尾で後回しなのは彼女自身だ。なら、俺だけは君を一番として優先したい。
「姉を、これからも末長くよろしくお願いします。泣かせたら許しませんから」
「こちらこそ、大切なお姉さんを任せてくれてありがとう。……今度、彼女への誕生日会について話し合わないか?」
結納で初めて会った彼女の妹は可愛くて、彼女が過保護になる理由も頷けた。
こそりと相談すれば、妹は美しい笑みを浮かべながら、机の下からスマホで俺の膝を容赦なく殴ってきた。見せてきた画面に表示されたのはSNSのQRコードだ。
「ほら、お姉ちゃん。これで彼氏さんは旦那さんになるんだから、私に盗られるなんて心配しないでよ。いつも言ってるでしょ?
私の好みは年上じゃなくて、もっとブサメンだから、マイナージャンルなの」
「ちょっと、こんないいお店でなに言ってるの!?」
どうやら彼女の妹は、大切に育てられて逞しく成長したらしい。
顔を真っ赤にする彼女を見ていると、長年会わせてもらえなかった妹と、結納が初対面になった理由は、あながち間違えでもないらしい。
独身を貫くなら、家族として支えていこう。
結婚を選ぶなら、喜んで祝福しよう、彼女と共に。




