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国外追放とか、簡単に言うけれど【連載版】  作者: 逆凪まこと
婚約破棄とか、簡単に言うけれど

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5/10

1.よくぞやらかしてくださいました

2章はヴェリアルデ編です

婚約破棄に至るまでの裏側の物語です


副音声多めでお送りしております


「ヴェリアルデ・ヒーデル侯爵令嬢に告げる!」

 

 その日、マンナーカノ王国宮殿の舞踏会場で行われていた国立貴族学院の卒業記念パーティーの最中。

 卒業生のひとりであり、わたくし、ヴェリアルデ・ヒーデルの婚約者であるトリアンリート・マンナーカノ王子殿下が、華やかな祝いの空気を割った。

 打ち合わせにない突然の状況に、楽団がその手を止める。


「そなたは嫉妬のあまり、ここにいる我が親愛なる友、シェリリエを傷付けたな。平民上がりと嘲笑し、陰湿なる嫌がらせを行い、果てはその権力で学園から排除しようとしたことはわかっている」


 しん、と静まった会場のど真ん中。

 他の生徒たちを割ってわたくしの前に現れたトリアンリート王子殿下は、ご自身の側近であるハンパノ侯爵家とパートセン伯爵家のご子息を背に、そしてアウトナー男爵家の養女シェリリエ嬢を腕に引っ提げて、勝ち誇った笑みを浮かべている。

 

 わざわざシャンデリアの明かりがよく当たる場所に立ち位置を調整された殿下の、絹のような光沢を持つ彼ご自慢の金糸の髪が美しくきらめいた。

 その髪に使われているのは、隣国から仕入れた質の良い植物油に、北方山脈の山頂近くに咲く花を浸けて作る整髪剤だ。

 新鮮さが重要と言うことで、専属の侍女たちがわざわざ毎朝作っているのだとか。それなんて言う苦行ですの?

 しかしその甲斐あって、侍女たちの涙ぐましい努力の結晶は、今日も美しく輝いている。


 心中でその仕事振りを称賛しつつ、そんな面倒な髪の毛なんてお禿げあそばせばよいのに、などと思っていると、ざわざわとわたくしたちを中心にしてさざ波のように会場内に広がった困惑の中を、まだ少年を過ぎて久しい若く張りのある声が高らかに響き渡った。

 

「そなたのような罪深く心根卑しい女、将来の国母とは認められん! そなたとの婚約は今日をもって破棄する!」


 しん、と室内は静まり返り、トリアンリート王子の声の余韻だけが反響する中、わたくしは盛大に吐き出しかけた溜め息をなんとか飲み込んだ。

 

 いつかはやるとは思っていた。

 そのための準備はしていたけれど、よりによって今やるか。


 嘘でしょ、としか思えないタイミングに、王国貴族としてのわたくしは頭を痛めるべきところだ。

 けれど、ひとりの人間としてのわたくしは、よくやってくれたと喝采すらしている。


 想定内で想定外の出来事に、五年間の長い月日を思い返しながらそっと目を細めた。

 

 

 誰にでも向き不向きというものがある。

 

 身体が動かすのは得意でも勉強は苦手であるとか、逆に頭脳明晰であっても運動神経がポンコツであるとか、手先は器用なのに書類整理が壊滅的だったりする。

 

 誰もが自分の向き不向きに合わせて生きられれば幸せであれるのだろうが、世界はそんな個々の事情など忖度してはくれない。

 明らかに向いていない者が、しなければならない場所に放り込まれるなんて良くあることだ。

 

 身体が弱くても、農家に生まれれば力仕事をしなければならない。手先が不器用でも、職人の家に生まれればその技術を受け継がなければならない。

 その不遇をなんとかするには、身体の代わりに知識を生かして道具を導入するとか、手先で再現できない技術を書物として残す、あるいは思い切って家を出るなどして、立場を変えていくしかないが、それすらも許されない人間も確かにいる。

 

 そして――誰にとっても不幸なことに、マンナーカノ王国の第一王子トリアンリート殿下は、替えの効かない王族直系の第一子でありながら、王に向いていない男だった。 


 そんな彼をなんとか王子らしく見せかけるため、本人への注意喚起叱咤激励はもとより、印象操作のためにあらゆる手段を使って根を回し、頭を下げ、駆けずり回った日々が、走馬灯のように流れて行く。



 

 ――そう、もう五年も経つのですわね。

 わたくしとトリアンリート王子殿下がはじめて顔を合わせたのは、新年の祝祭へ参加するために両親と共に王都に滞在していた時の事。

 同じように王都に滞在中だった同い年の貴族子息女が王宮外苑にある美しい庭園に設えられた東屋(ガゼボ)に集められ、お茶会が行われた日のことだった。



 

 ***



 お茶会は、まず主催が口上と共に出された茶にひとくち口をつけてから始まる。

 主賓は王子だが王宮側が主催であったからか、侍従らしき男が挨拶をした、その直後。

  

 ガチャン、とソーサーが音を立てたのに、何人かがビクッと肩を小さく震わせた。


 貴族の子息女は、作法がきちんと出来るようになってはじめて、家族との食卓に同席することができる。お茶会へ参加できるのは、そこで及第点をもらった子供だけだ。

 食器の音を大きく立てないなんて基本中の基本なので、耳慣れない乱暴な音に萎縮してしまうのは致し方ない。 


「なんだ」

 

 わたくしたちが戸惑っていると、音を立てた張本人である王子が、ぎろり、と緑の目が睨むように吊り上がった。


「いいえ、何も」

 

 隣の令嬢が萎縮したようだったが、わたくしはぎゅむと手を握って堪えた。

 いついかなる時も、貴族は動揺を表に出してはならないと両親からは強く言われている。特に、こういった乱暴な態度をする相手に舐められてはいけない、と。

 その教えを守るべく、にっこりとよそ行きの笑みを浮かべ続けるわたくしにすぐに飽きられたのか。

 殿下はふんっと鼻を鳴らして足を組むと、取っ手も使わずに掴んだティーカップをぐいっと傾け、ごくごくと紅茶を飲み干していった。

 ソーサーへ戻すにもガッチャンと盛大に音を鳴らす上品さの欠片もない仕草に、二度目の驚きがお茶会の空気を冷やしていく。


 いえ、これはもう作法とかいうレベルじゃあないのではありませんこと? 食器は楽器ではございませんわよ?


 その後も酷いもので、わたくしたちの自己紹介はほとんど無視。時節の挨拶は意味が伝わらないらしく「知らん」「うるさい」でぶったぎり、並んだお菓子を食べるにもカチャカチャガチャガチャと賑やかで、やってはダメと教わることの見本市のようだ。 


 そんな殿下に対して、みなさまの反応は様々。

 困ったような顔をしつつも「成長速度はそれぞれですものね」みたいな暖かな目をしているのは、下に幼い弟妹のいる方だろう。

 逆に「教育係はなにやってんの?」と言わんばかりの呆れた眼差しをしているのは、しっかりした上の兄姉がいらっしゃるのかもしれない。 

 そして、わたくしのようなひとりっ子長子たちは、自らが幼く拙かった頃を見せられているようで「うわーやめろー」と羞恥心と戦わなくてはならなかった。

 いえ、あこそまで酷くはなかったと思いますし、それが許されるくらい小さな子供だったと思いますけれど、ああもみっともなく見えていたのかと思えば恥ずかしくもなるものですわ。

 

 それでもなんとか礼を失さないように、お茶を飲んだりお菓子を食べたりして、羞恥や呆れを誤魔化しながら過ごしていたのだが、間に間に殿下が披露なさった話はどれもとんでもないものだった。

 

 教育係がやたらうと口うるさいので嫌がらせをして辞めさせてやった、というのはまだ序の口。

 自分を叱ってばかりの官吏から逃げるために窓から飛び出して逃げおおせたのだとか、侍女や従者が気に入らなければ物を投げつけて遠ざけたこと。

 更には邪魔をしたメイドを池に突き落としまでしたというのを、自慢するように口にする。


 これは、相当な暴君(ギャングエイジ)だ。

 

 わたくしたちはチラチラと視線を交わし合い、目配せや頷きでやりとり(ジェスチャー)しながら、気持ちをひとつにしていた。


 (いやー、ないわー) 

 

 自慢ではないが、わたくしたちは、学院入学を前にして保護者に『王城へ伴うのを問題なし』と判断されるだけの礼儀作法を習得済みの子息女である。

 そんなわたくしたちが集められたこのお茶会の意図は、もちろん察していた。

 

(俺たちってさぁ、たぶんこいつの側近候補にあがってんだよな、これ?)

(まあ、相性見るための顔合わせだよね)

(無理~! こいつの側近とか無理~!)

 

 子息たちが表面上にこやかにしながらケーキを切り分けるカトラリーで皿の上にバツを描いた。

 

(側近ならよいではないの。わたくしたちはお妃候補の可能性が高くってよ)

(えっ、でも玉の輿ではあるじゃん)

(無理ですわぁ~! そんな苦労確定案件お断りですわぁ~!)

 

 女子たちの目はだいぶ冷ややかで、笑みだけは崩さないが紅茶のカップを持つ指が、淑女としてはあるまじき形をして(中指を立てて)いる。


 そんな風に、貴族らしく手元言語(ジェスチャー)を送りあってはいたが、わたくしたちもまだ子供で、大人たちのようにさりげなく流暢にとはいかない。

 わたくしたちの不自然な動きを見咎めて、殿下はむっとしたように眉を寄せた。


「コソコソとなにをしている?」


 ご立腹なのがわかりやすすぎる声色に、何人かがぴゃっと体を縮こませた。何せ相手は同い年の子供とは言え王子様である。不興を買うなと親に言われている子もいるでしょうしね。

 誤魔化すにもすでに間が悪い。そんな中、なんとか顔色をとどめていた少年が、にこりと微笑んで口を開いた。

 

「いえ、何もございませんよ」


 そつのない笑顔、そつのない声色。動揺ひとつ混ざらないその態度は、貴族としては合格だ。

 だが、わたくしだったらこんなあからさまに「誤魔化しました」って態度されたらムカつきますわね、なんて思っていた、その時だ。


「殿下……っ」


 侍女のひとりが、トリアンリート王子に駆け寄った。


 

見た目は清楚ですが百合って毒があるんですよね()

ドミトリウス殿下の印象と比較してみていただけると嬉しいです(私が)

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